永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うーん……」
翌日、あたしはまだ浩介くんがぐっすり寝ている時間に起きた。この時間だけど、外はもう明るくて、浩介くんも時期に起きてくると思う。
「そうだわ!」
あたしは、目覚まし時計代わりにと浩介くんにキスしようとする。
「ちゅっ……」
浩介くんからの反応がない。だけど、とても興奮してしまう。
浩介くんが起きたら、何て言われるかな?
怒られちゃうかも……でも、離れたくない。秘密にするのが楽しいと分かっていても、唇と唇が触れる刹那の快楽の前に、理性はかくも脆い。
「ふぇ? んっ……!?」
浩介くんが目を開く。
そしてすぐに動揺の表情を見せている。
「ぷはっ……起きた? 浩介くん」
「う、うん……」
浩介くんが起きたのを見て、あたしはいったん唇を離す。浩介くんは顔が赤くなっている。
「優子ちゃん、こういうのは王子様がすることじゃないの?」
「え!?」
浩介くんが突拍子もないことを言い始める。
「深く長い眠りについていた優子姫を俺がキスをして起こすんだよ」
「あうっ……」
あたしの顔の内側が、「ぶしゅー」っと沸騰した。
もちろんその後は、素敵な白馬の王子様、浩介くんのエスコートで、結婚式に行くことになる。
女の子なら、誰しもが憧れる素敵なお姫様と王子様のお話。
あたしも女の子だから、浩介くんとメルヘンチックなことを夢見ることはある。
それと同時に、実は男の子の方が、実はロマンチストな傾向にあることも知っていた。
だからきっと浩介くんも、あたしのことを素敵なお姫様とも思っているのかも。
「とにかく、外に出てみようぜ」
「う、うん……」
あたしと浩介くんは、ひとまずテントの外に出る。
みんな、起きているのかな?
「おはよう優子」
「優子ちゃんおはよう。浩介もおはよう」
テントを出てみると、既に両家両親が昨日のバーベキューの時のテーブルを広げて、楽しそうに談笑していた。ちなみに、朝ご飯はホテルの作ったカレーだと言われた。
「さ、優子と浩介くんも、着替えたらカレーを取りに行きなさい。昨日の大浴場と同じ場所よ。明るければ迷わないわ」
「「はい」」
母さんに、ホテルの方に行って朝ごはんのカレーを取ってくるように言われた。
そのためには、着替えないといけないわけだけど――
「浩介くん、先に着替えていいわよ」
「え? 優子ちゃんからでいいよ」
予想通りだけど、譲り合いになってしまった。
「じゃあ、一緒に着替えちゃえば!?」
「それもいいなワハハ!」
そして、「お義母さん」の爆弾発言に大人たちが沸いている。
もちろん、彼氏や旦那だからと言って、視界の中で着替えをみだりにしてはいけないというのは、女の子として基本的なたしなみなことは分かっているため、あたしの母さんだけは、引きつった作り笑いを浮かべている。
話し合いの結果、浩介くんが彼の両親の寝ていたテントの中で、あたしが浩介くんと2人で寝ていたテントで着替えることで一致した。
あたしはテント生活も考えて、短いホットパンツをチョイスしていた。何気に脚の露出度は超ミニスカート並みで、大きなお尻のラインもくっきり出ていてエロいと思う。
「お待たせー!」
「お、優子ちゃん今日もかわいいな」
テントから出ると、既に浩介くんが着替え終わっていた。
やっぱり男子みたいにささっと着替えるという訳にはいかない。
「えへへ、ありがとう」
浩介くんが褒めてくれると、あたしも嬉しくて笑顔が漏れる。
「じゃあ、俺たちカレー取ってくるから」
「いってらっしゃーい、気をつけてね」
「分かってるわよ」
母さんの声を尻目に、あたしと浩介くんはカレーを取りに行く。親たちはもう、食べ終わっていて世間話に講じていた。
といっても、「どっちが先に手を出すか」とか「産むのは男の子か女の子か」なんていう話題だったけど。
「お、これじゃない?」
「うん」
列を発見したあたしたちは、まず前に移動して確認し、その列が朝食のカレーのために並んでいるいう事が分かった。
あたしたちは最後尾に並び、そしてカレー2つを注文し、持って帰る。
結構熱いから袋から出すときは注意しないといけないわね。
「しかし、浩介も頑固だよなあ」
「うんうん、いくら責任感強いといったって、優子ちゃんほどの女の子を彼女にして、あそこまで理性保てるって……逆に不能なんじゃないかって心配だわ」
「子供、ちゃんと作ってくれるかしら?」
「全くもう、こんなに草食系なら、優子も肉食系女子になって、もっとガンガン襲っちゃってもいいのにねえ」
テーブルに戻ると、また大人たちの会話が聞こえてくる。
正直あまりいい気分ではないけど、あたしはあえてそのことを話題に出さない。
「この年で性欲減退なんてことになって欲しくないわねー」
「っ!」
さわさわっ!
「きゃあ!」
浩介くんが椅子に座る。
そして両親たちに見せつけるかのように向かいに移動しようとしたあたしのお尻をがっしりと触ってくる。
「おー! 浩介ったら大胆ねえ!」
「お義母さん」があたしのお尻を触った浩介くんに感心するように言う。
「あのねえ、俺だって我慢出来ねえんだよ。優子ちゃん、すごくエロいし、昨日のデートだって大変だったんだぞ!」
浩介くんが抗議するように言う。
そう、浩介くんは必死に我慢していることも知っている。
「へえ、どんな風に?」
「優子ちゃんエロ過ぎて、胸とかお尻とか、いっぱい触った。優子ちゃんが泳げないのいいことに介助ついでに胸とか下半身を触ったりとか」
浩介くんが昨日のプールでの出来事を思い出すように言う。
「こ、浩介くん! 恥ずかしいから!」
口でとっさに抗議するけど、あたしもこれは必要悪だと分かっている。
最近の両親の暴走はちょっと目に余る。
さっきお尻を触られたのも、決して不能ではないことを示したいという、いつもよりも深いお尻タッチになっていた。
もちろん、こんな格好だし、触りたいから触ったというのもあると思うけど。
「――分かったわ。とにかく、おばあちゃんは元気だけど、いつ死んでもおかしくないんだからね」
「分かってるって」
「お義母さん」が改めて浩介くんにくぎを刺す。
ともあれ、浩介くんとあたしが体を張って「不能疑惑」を解消したおかげで、その後の両家は、普通の世間話に戻った。
でも、まだ疑っているという感じもぬぐえないわね。
「さ、河原で遊ぶわよ」
「え!?」
カレーを食べ終わり、容器を全員で返却口に入れて元の場所に戻ってくると、母さんが何の脈絡もなく「河原で遊ぶ」と言い出してきた。
「優子と浩介くん、水浴びしてきなよ? せっかく水着もあるんでしょ?」
あたしたちが驚きの表情を見せている中でも、母さんはあっさりという。
確かに、この近くには川が流れているけど、両家両親の前で水着って、なんかまた恥ずかしいわね。
「うんうん、ミスコンでちらっと見ただけだけど、優子ちゃんの水着、私も見てみたいわ」
女性陣が、男性陣よりもずっとノリノリだ。
翻って男たちはというと、半ば嫌そうな顔さえ見せている。
あたしにはその気持が分かる。その後に妻から待っている嫉妬が怖いのだ。
「さ、とにかく川に行くわよ。テントは全部片付けて2つは車の中に、最後の1つは河原に持っていくわ」
母さんはあたしたちの意見はほぼ無視し、テントは片付けられ、一個だけ持ってきて川へと到着した。
そして、更衣室兼テントは、浩介くんも含めた男たちの手で設営させられた。
ちなみに、その後父親たちは、変な人がいないか見張りをさせられることになっている。
母さんも「お義母さん」も、旦那たちに何かを囁いたら、男たちは凄い乗り気になっていた。
やっぱり、愛する女性に甘えられると断れない。悲しき男の性なんだろうと思う。
「さ、テント設営し終わったら、着替えるのよ」
「うん、浩介くんからでいい?」
「おう」
浩介くんから水着に着替え、次にあたしの番になる。
スカート以外から水着に着替えるのは女の子になって初めてで、テントの中とは言えどうしようかなと考えてみる。
パレオは短すぎてダメだし、巻きタオルの類も持っていなかったため、昨日のスカートを臨時で使いまわすことにした。
……やっぱり、あたしはスカートのほうが好きだわ。
ともあれ、昨日のプールに続いて、あたしは水着姿になった。
「お待たせー!」
「「「おおー!」」」
昨年試着に立ち会った母さん以外の3人が、あたしの水着姿を見て感心した声を上げる。
「優子ちゃん、その水着なんだかかわいい上にセクシーね」
一番感心していた「お義母さん」が、あたしの水着姿を褒めてくれる。
「えっへん、かわいさとエロさ更にはあどけなさと幼さ、全部を追及してこうなったわ」
パレオをちょこんと摘んで横に広げ、アピールをする。
水着を着ると、あたしも気分が高揚する。
「ふふっ、浩介くん、一緒に水浴びしよ!」
「っ!」
そう言ってあたしは大胆に浩介くんと腕を絡める。
胸がむにっと当たる感覚がした。
浩介くんは何も喋らず黙っているけど、下の方は水着越しで分かるくらいに正直に自己主張をし始めた。
「あらあら浩介ったらー」
「良かったわ。健全な男の子みたいで」
女性陣が笑っている中で、男親たちは浩介くんを気の毒そうな目で見る。
確かに、自分の親と婚約者の親の目の前でこれは、かなりの罰ゲームになる。というか、トラウマになっても不思議じゃないよね。
「ええい!」
すりすり
「きゃあ!」
そして浩介くんに、またお尻をなでなでさせられた。多分に破れかぶれという感じだけど、両親の「浩介くん不能疑惑」は改めて完膚なきまでに霧散した。
「とにかく、私たちは川岸に居るから水浴びしてきなさい」
「う、うん……」
母さんにそう言われ、あたしたちは川に入る。
不規則な足の石が、ツボを刺激して痛気持ちいい。
「きゃー冷たい! きゃはっ!」
川の冷たい水は、プールとはまた違った魅力がある。
ここは穴場らしく、あまり人気がない。
というよりも、この辺は、目視できる範囲ではあたしたちしかいない。いわば貸切状態になっている。
この川は、今でこそ「清流」に近いほど済んできれいな水になっていて、実際にきれいな水にしかいない魚も見られるくらいだけど、10年くらい前は「汚い川」の代表格みたいな感じで全国的にも報道されていた。
ここが穴場になっているのも、その時の「汚い川」という報道イメージの影響がそのまま残っているのだという。
本来ならイメージ払拭のために報道機関も報道し直すべきだろうけど、今回とばかりは「マスゴミ」に感謝しちゃおうかな?
川の冷たい水が脚から膝へと掛かる。
あたしたちは、あまり深くにならないように膝が水の中に入る程度で止まっておく。
「えーい!」
バシャ!
「うおっ! そーれ!」
あたしは浩介くんに水を掛ける。
すると浩介くんも、手加減しながらあたしに水を2、3回。
あたしはもう一度前かがみに前屈して、水をかけ返し――
むにんっ!
「え!?」
突然、胸の谷間に何かがのしかかる感触を受ける。
あたしが下を向いてみると――
「スーハースーハー、クンカクンカ」
「きゃああ!!!」
浩介くんに、胸の間に顔をうずめられて呼吸をされたり匂いをかがれたりしていた。
「優子ちゃん、おっぱい最高ー!」
「浩介くん、お願い、顔どけて!」
浩介くんの顔がかなり重たい上に、両家両親の見ている前。しかも誰か来るかもしれない場所。
「ああうん……」
浩介くんも、あたしの声にはすぐに反応して、顔をどけてくれる。ちょっと残念そうにしている。
あたしは恥ずかしさを隠すために、平手を浩介くんの頬めがけて狙い撃つ。
ぺちっ!
「浩介くんのエッチ!!!」
あたしは、両親に聞こえるくらいの音量で、叫ぶように言う。照れ隠しだ。
「ごめんごめん、その、優子ちゃんが前かがみになってて、谷間が強調されて……我慢できませんでした」
「ううう……仕方ないわねえ……」
浩介くんの正直な告白に、あたしは毒気を抜かれてしまう。
そこには、あたし自身も浩介くんにエッチなことをされて濡れてしまうのも原因に含まれている。つまり、似た者同士ということ。
あたしたちは、水遊びもそこそこに、もう少し川の深いところに行く。といっても、数歩だけだけど。
この川の流れはとても緩やかで、あたしの貧弱な足腰でもびくともしない。
それでも、念のためにあたしが上流側になり、浩介くんに助けて貰えるように対策をする。
そして、今度は正面からちょっとだけ水を掛け合ったり、またあたしが後ろ向きになって浩介くんに肩をもんだりしてもらった。
海と違って、川の水は塩辛くない。足元の水中には時折小魚が見えていて、あたしたちを和ませてくれる。
海の激しさとはまた違う、川の安らぎが見て取れる。
あたしたちは足元を観察し、時折川の水で上半身を濡らして涼んだりしながら、静かに時を過ごした。
「ふうっ……」
遊び疲れたあたしたちは、川岸に戻って足だけを水につけた状態で座っている。
何の気なしに向こう岸を見つめる。
川の真ん中は流れが激しい。浩介くんは隣りにいるけど、一緒に頑張って向こうまで進めるかな? まあ、ここでのんびりしていたいわね。
「優子ちゃんってさ」
「うん?」
「川って好き?」
浩介くんが何気なく聞いてくる。
正直考えたこともないわ。
「うーん、分からないわね……でもね」
「ん?」
「あたし最近思うのよ、浩介くん、最近かっこよくなったなって」
ちょっとだけ、言いたいことを言ってみる。
「え!?」
浩介くんが、赤くなった。
「ほら、あたしたちデートしたての頃って、周りから浩介くん『冴えない』とか『不釣り合い』とか言われていたのに、最近じゃあ殆ど言われなくなったでしょ?」
最近だと修学旅行の行きの新幹線で、下品な女子校の女の子に言われたくらいかな?
「あっ……」
「恋ってやっぱり、あたしたち女の子じゃなくて、男の子も変えるのかなって」
多分、それはあると思う。
「そうかもしれない。優子ちゃんに好かれるために頑張っちゃうもの」
浩介くんの言葉、たくましくて頼もしくて、あたしはそんな浩介くんが大好きで。
「もう少しだけ遊んでいかない?」
「ああうん、そうするわ」
あたしたちは立ち上がるともう一度、浩介くんと一緒に川に入る。
あたしの水着姿は、相変わらず浩介くんには刺激が強いみたいで、それどころか去年の頃よりも興奮している気がするわね。
「ねえ優子ちゃん」
「ん?」
川の中で、また浩介くんが話しかけてくる。
「クラスに、結婚のこと、どうしよう?」
「うーん、結婚式とかそろそろ色々考えないといけないわね」
まだ、想像もつかないけれど。
「まあ、その辺りは両家で相談だな」
「うん」
あたしたちの、川での安らぎは過ぎていく。
その後は、川岸で静かに過ごした。
「ふー、楽しかったー」
帰り道はあっけなかった。荷物を片付けて2台の車にそれぞれ乗り、お互い家に帰るだけ。
あたしたちは家に帰り、遊び疲れた体を癒やした。
「夕食になったら手伝ってね。呼ぶまでは休んでてね」
「はーい」
母さんの声にあたしも答える。
この家で夕食を手伝えるのも、1日1日が過ぎるごとに少なくなっていく。
あたしがお嫁さんに出たら、この家は父さんと母さんだけの世帯になる。
優一の頃は、ううん、優子になったばかりの頃でさえ、あたしがお嫁に、それも高校を卒業したらすぐに出るなんて考えにも及ばなかったはずだわ。
まあ、母さんのことだし、あたしが居なくてもどうとでもやっていけそうと言えばそうだけど。
意外と、冷静な父さんのほうが問題かもしれないわね。