永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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再び夏服

 季節は6月の梅雨、球技大会に向けていよいよ練習も本格化してきた。

 球技大会が行われるのは、今年の場合6月22日金曜日ということになっていて、この日はあたしの誕生日にもなっている。

 

 さて、制服も、6月からは夏服になって一気に涼しい格好になる。

 今日はその6月1日、生地も薄い上にスカートも短くなるから、特にガードは固くしないといけない。

 この後起きるイベントとして、球技大会とその後のあたしの誕生日、7月で1年生2年生が林間学校に行っている間に3泊4日の修学旅行、また佐和山大学のAO入試も行われる。

 あたしと浩介くんの合格は、蓬莱教授の手引きで既に決まっている。

 そして、秋は文化祭と体育祭、どちらもあたしたちにとって最後のイベントになる。

 3年生はここから受験モードなので、スキー合宿はなく、体育祭が終われば後は卒業式を待つばかりになる。

 ともあれ、制服に着替える。久々の夏服は、何だか心許ない。浩介くんに襲われたらひとたまりもないのは、冬服も同じだけど。ってまたそんなこと考えてる。

 

 

「おはよー」

 

「おはよう優子、今日から衣替え?」

 

 母さんがあたしの制服を見て言う。

 

「うん、どうかな?」

 

「もちろんかわいいわよ。そんなことより優子、夏服で雨だと、ブラジャーとか気を付けなさい」

 

「もー、分ってるわよ。去年みたいなことにはならないように気をつけるわ」

 

 ちょうど去年、梅雨の時に雨が降って、ブラジャーを透けさせたまま帰ってしまい、母さんから「はしたない」と大目玉を食らってしまった。

 去年の今頃のあたし今頃のあたしと、今のあたしでは大分違うものの、1年ぶりだから気を付けないと。

 

「ふふっ、お母さん、もう1年も優子のスカートめくってないのよねえ……」

 

「ちょっ、ちょっと母さん!」

 

 そう言えば、あの時も母さんに「おしおき」という名目で、スカートをめくられて、例の暗示をかけさせられたんだったっけ?

 結果的に、あたしが誰かから暗示をかけさせられたのは、あれが最後だった。あの後も、アイデンティティが揺れた時に時折自主的に暗示はかけてるけど。

 

「優子って本当にかわいいわよね。洗濯の時に優子の穿いたパンツ見てるといつもそう思うわ」

 

「もう! 母さんのえっち!」

 

 母さんの爆弾発言に、思わず大きな声を出して抗議する。

 

「あらあら、ごめんなさーい」

 

「むー、なんか気持ちがこもってないわね」

 

 そう言えば、母さんに「えっち」って怒ったのはこれが初めてかな?

 普段は大体女子同士でセクハラしてくるクラスの女子と、浩介くんに対して言うことが多い言葉。

 本当にもう、どうしてこんな母親になっちゃったんだろう? 優一だった頃はこんなんじゃなかったのに。

 

「まあまあ、どっちにしても、透けブラしないように注意しなさい」

 

「わ、分ってるって!」

 

 あたしが声をあげて、話を終わらせようとする。とにかくあの時のことを思い出して恥ずかしいし。

 

「いい優子? 夏服は涼しい分無防備よ。冬服の感覚でやってると、下手したらパンツ見えちゃったりするから、注意してね」

 

「わ、分ってるわよ。去年だって着たんだから!」

 

 母さんのおせっかいを何とか止めようとしているけど、事実ではある。

 実際、あたしのスカート丈も夏服は冬服より短くしてる。

 冬服の時点でも、女子高生のあたしは結構短いスカートだし、夏は本当に脚の露出も高くなる。その分浩介くんもムラムラしてくれるといいなあ……ってはしたないわよ優子!

 とにかく、朝食を食べて歯を磨いて、学校へ行こう。そうすれば、この変な感じともおさらばできるだろうし。

 

 

「いってきまーす」

 

「はーい、いってらっしゃーい」

 

 あたしは母さんの見送り母さんの見送りをいつものように受け、学校へと向かう。

 

  ぴゅううう……

 

「きゃあ!」

 

 家を出てすぐ、突然強い風が吹いてスカートが思いっきりめくれ上がってしまう。

 あたしは恥ずかしそうに悲鳴をあげて、スカートの裾を抑え、周囲を見渡す。

 

「ふぅー、まったくもー、えっちな風!」

 

 でもどうやら、誰にも見られずに済んだみたいね。そこは不幸中の幸いかな。

 

「冬服なら、もう少しめくれにくいのに」

 

 といっても、今の風圧だと冬服でも見えちゃっただろうけど。

 通学路、あたしは風に注意しながら、学校へと登校する。

 

 下駄箱から上履きを取り出して履き替え、3年生の教室へ。

 見ると、男女ほぼ全員が夏服になっている。

 

 

  ガラガラガラ……

 

「おはよー」

 

「あ、優子ちゃんおはよう」

 

 夏服姿の桂子ちゃんが、あたしに話しかけてくる。

 浩介くんはまだ教室には来ていない。

 

「うん、おはよう桂子ちゃん」

 

「優子ちゃん、駅つくまで大丈夫だった?」

 

 桂子ちゃんが聞いてくる。

 

「え!?」

 

「突風吹いたでしょ? 私は何とか抑えたけど」

 

 あー、そう言えば家も近いから同じ風にスカート煽られることあるわよね。

 

「う、うん……あたしは……丸見えになっちゃったけど、幸い家出てすぐで誰もいなかったわ」

 

 うー、思い出すとやっぱり恥ずかしいわ。

 

「不幸中の幸いね。優子ちゃん、まだやっぱり私ほどガード固くないわね」

 

「あうー、精進します」

 

 桂子ちゃんのスカート丈はあたしとほぼ同じか、少し短いくらい。

 それなのに、どうしてあたしよりもうまくいったんだろう?

 反射神経はどうしようもないし……そうじゃなかったら単純に風力の違いかも。

 

「優子ちゃん、たまにスカートへの注意が散漫になるわ。もちろん見えちゃうことはないけどね。それでも、夏服は注意しなさい」

 

 桂子ちゃんからも、母さんと同じお説教をされてしまう。

 無防備なあたしが悪いんだから残念でもないし当然ではあるけど。

 

「うん、そうする。ありがとう。それじゃあね」

 

「うん」

 

 あたしは桂子ちゃんとのあいさつを終え、クラスのみんなを見渡してみる。

 夏服に着替えただけで、みんな結構がらりとイメージが変わる。

 あたしは……ちょっとエロくなったと思う。冬服の上からでも目立つ胸は、夏服だとそれはそれはすごいことになる。

 クラスの男子がちらちらとあたしの胸を見ている。

 高月くんだけは、ずっと凝視していて、時折恨めしそうな表情をする。

 ……全く、お金稼いで他の女の子ゲットすればいいのに。

 

 

  ガラガラガラ……

 

「ふーおはよー優子ちゃん」

 

「あ、浩介くんおはよー」

 

 夏服姿の浩介くんが教室に入ってくる。

 よく見ると、すでに汗をかいている。

 

「浩介くん、どうしたの?」

 

「ああ、朝練始めたんだ。そろそろ田村対策も考えねえといけないしな」

 

「へえー、凄いわね」

 

 最近は浩介くんは休日もテニス練習にいそしんでいて、テニス部員が驚くほどに習得が早いらしい。

 元々、基礎的な身体能力は、浩介くんは全校でも優一と一二を争っていたくらいだし。

 それにしても浩介くん、やっぱりあたしの胸を凝視してるわね。

 

「お、あたいがどうしたって!?」

 

 恵美ちゃんがものすごい勢いでがっついてくる。

 

「おう田村か。テニスの基礎練習も終わってきて、そろそろ俺もプレースタイルを作ろうと思ってな」

 

「ほー、せいぜい期待してるぜ」

 

「ああ。お互いいい試合をしたいな」

 

 浩介くんと恵美ちゃんは、互いに挑発しあうというよりも、こういうやり取りが多い。

 もちろん、重要なことは探らないのもお約束。ここまでで事前の練習試合は1回だけした。最低限身に着けた状態で1セット行ったけど、その時は浩介くんは恵美ちゃんにぼろ負けだった。

 でも、これは恵美ちゃんも知らないことだけど、浩介くんを介してのまた聞きながら、男子部員は恵美ちゃんに勝算があると考えているらしい。

 

 詳しくは教えてくれなかったけど、大抵は察しが付く。

 大きな理由としては、練習試合は1セットだけだったこと。

 本場の球技大会では、グランドスラム形式の5セットで行われる。

 1セットだけならそのセットに全力を出せるが、5セットの場合は1セットで全部を出し切るわけにはいかないから過酷さも全く違う。

 それを考えて、おそらく浩介くんが取る戦術は、テニスにおける男女差が最も表れやすい部分、つまり「パワーと体力」の勝負に持ち込むことが考えられる。

 体力面ではなるべくラリーをつないで、恵美ちゃんの体力を奪うと同時に、ミス待ちテニスをすることで、メンタルも崩す作戦が上策と思われる。

 

 一方で、パワーという意味では、当然サーブ力という事になる。

 ただ、ビッグサーブの試合は体力勝負にはしにくい。

 タイブレークを除けば、必ず一回は恵美ちゃんのサーブを破る必要があるし、タイブレークにしても、相手のサーブでポイントを取る必要がある。

 つまり反射神経……恵美ちゃんのサーブに付いていく必要がある。

 

「お、優子も篠原の勝ち方考えてんのか?」

 

 恵美ちゃんに心を読まれてしまう。

 

「あ、うん……」

 

「ま、あたいだってこいつがどう来るかは予想が付いてるぜ。あたいだって女子とは言え全国一だ。そう簡単には相手のテニスはさせねえよ」

 

 恵美ちゃんもも自信たっぷりに言う。

 恵美ちゃんの戦術は、言うまでもなく、精神攻撃と、トリックプレー、頭脳プレーになる。

 そして、ガンガンウィナーを狙う展開の早いテニスをしていくことになると思う。

 

 基礎身体能力の差が出る前に、セットを奪って、逃げ切りを図ってくるはずだ。

 おそらく、お互いそれが分かっているとは思う。

 あとは浩介くんが、どこまで技術力を身に着けてくるかに、球技大会のテニスはかかっているだろう。

 

 

「はーい、ホームルームを始めますよー」

 

 永原先生の声とともに、6月最初の1日が始まった。

 さて、あたしのための球技大会のハンデだけど、文化部のテニス希望の女子と軽く対戦してみて、大体固まった。

 

 1つ目は、相手のサーブはフォルト1回であたしのポイントになる。

 2つ目は、あたしが返す時は2バウンドまでOKにする。これは車いすテニスのルール。

 3つ目は、相手のコートはダブルスコートまで使える。

 4つ目は、あたしのゲームは2ゲーム分になる。ブレイクしたら4ゲームになる。

 5つ目は、あたしはサーブを通常2回までの所3回まで打てる。

 

 

 体育の先生曰く、このハンデは球技大会始まって以来らしい。

 確かに、こんなハンデをもらったら、男だって女に勝つのは難しい気がする。いや、さすがにプロ同士なら勝つかな?

 

「連絡事項は以上です、今日も一日がんばってください」

 

 こうして、いつもの一日が始まる。

 

 

「この文法問題はセンター試験で特に頻出です。古典文法は変格活用が多いですからきちんと現代文から理解して下さい」

 

 今日は永原先生の古典が行われている。

 古典に限った話じゃないけど、授業ではどうしても、大学受験の話が増える。

 センター試験もあるけど、受ける必要あるかな?

 腕試しに受けるのも、なんか冷やかしっぽいし。

 ともあれ、あたしにとっては大学の入った後でやる予習が大事なのかもしれない。

 

 

「はーい、帰りのホームルームはここまで。各自部活委員会に入ってください、以上です」

 

 帰りのホームルームが終わり、今日もあたしは天文部に、今日も浩介くんはテニス部に行く。

 桂子ちゃんからは「たまには応援に行ったら?」と言われたけど、今は顔を出さないべきだと思う。

 浩介くんは男として、負けられない戦いに挑んでいるんだから。あたしが邪魔しちゃダメだと思う。

 

 

「それにしてもよ。テニス男女対決とは思い切ったよなあ」

 

「ああ、身体能力は高いけど、1か月半練習しただけの男と、全国大会を圧倒的な力で優勝したプロ候補の女子だろ? さすがに篠原先輩といえどきついんじゃね?」

 

「だけど、その試合、1セットでも3セットでもなく、グランドスラムでやるような5セット何だろ?」

 

「あれ、めっちゃ長いよな」

 

「うんうん、俺も男子のテニスの試合見たけど、思ったより過酷だったよ。よくメンタル壊れねえと思うもん」

 

 

 天文部の男子たちも、浩介くんと恵美ちゃんのテニス対決に話題が集まっていく。

 いや、全校でもそれが話題になる。まだ3週間も先のことなのに。

 しかも、学生のテニスは普通1セットマッチ。長くて3セットマッチの所を、プロの男子、それもグランドスラムに出る男子だけに許された5セットで戦うのだから注目は集まる。

 恵美ちゃんも恵美ちゃんで「あたいは男子と練習するといつも2セットストレート負け、逆に女子とやってもストレート勝ちが殆どで、たまに大学生女子相手にセットを落とす時に3セットやるくらいだから、いいトレーニングになるかもしれない」とも言っていた。

 

 どう転ぶかはまだわからない。下馬評では恵美ちゃんの優勢を予想する声が多い。あたしはもちろん、浩介くんが勝てると信じてるけど、客観的に見れば、それは婚約者に対する「信仰」に近いものだと思う。

 球技大会はまだ先だけど、浩介くん、どれだけ強くなってるか楽しみだわ。

 

「桂子ちゃんは、今度の大会はどう見てるの?」

 

「恵美は、全力で勝ちに行くと思うわよ。とにかく彼女はプライド高いし、何だかんだで男に媚びたくない人だからね」

 

「そう、あたしには……男に媚びないってよく理解できないわ」

 

 だって、女の子として男の子に愛されるのって、こんなにも嬉しくて、満ち足りたことなのに。

 それをしないなんて、あまりにも損な人生だと思う。

 

「……理解しようとしなくて、いいと思うよ。私達は、私達なりに、頑張っていきましょう」

 

「うん」

 

 球技大会の当日は、もうすぐそこに迫っていた。


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