永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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花嫁修業最終日

「おーい、優子ちゃん……起きろー」

 

「ひゅぇ……」

 

 朦朧とする意識の中、あたしの耳から愛しの浩介くんの声が聞こえてきた。

 身体を揺すられる感覚と、浩介くんがちょっと違和感を感じている。

 

「優子ちゃん、起きた?」

 

「あーうん……」

 

 今日は花嫁修業の最終日、今日の午後には、あたしは元の日常に戻る予定になっている。

 

「あの、さ」

 

「うん」

 

 浩介くんがちょっとだけ言いにくそうに言う。

 

「今日さ、お父さんお母さん、夜まで出かけるんだって」

 

「え!? じゃあ……」

 

「うん、水入らずになるのも、修行の一環だとか何とかでさ」

 

「……」

 

 確かに、花嫁修業と言っても、浩介くんと二人っきりではなかった。

 浩介くんとしても、特に独立する動機もないので、こういう形になったんだとか。

 でも、実際に生活すれば、あたしと浩介くんが2人きりになることはよくあることだという。

 

「ま、とりあえず、着替えて来いよ」

 

「うん、分かった」

 

 あたしは、眠気を何とか堪える。

 そう言えば、昨日は裸で寝てしまったのを思い出す。

 

 浩介くんが完全に部屋から出たのを確認し、一呼吸置いてからすっぽんぽんのあたしは布団から出て、部屋の鍵を閉める。

 

 まずは下着選びからだけど、もう選択肢は一つしか無い。この青と白の縞パン。

 そして、思いがけず浩介くんと二人っきりになれたということで、あたしは使わないだろうと思いつつ持ってきてしまった一番露出度の高い服を取り出す。

 

 Tシャツの胸元はギリギリまで露出していて、しかも丈は短くへそ出しルック。

 スカートの方も青いフレアミニで、ふわふわ揺れて広がる軽い素材にもかかわらず、パンツすれすれの短さで、パンチラ見放題の仕様。

 

「あうぅ……恥ずかしいよお……」

 

 浩介くんに性的な目で見られることを一人で想像し、勝手に恥ずかしくなってしまう。

 それでも、あたしは意を決して下着の上からこれを着る。

 

「んーっ!」

 

 制服と比べても、遥かに心許ない。

 というよりも、この服は、異性を誘惑するためだけに作られたものだと思う。

 浩介くん、きっとイチコロなんだろうなあ……

 

 ともあれ、着替え終わったら部屋を出る。

 

「お待たせー」

 

「うっ!!! ゆ、優子ちゃん……」

 

 予想通り、浩介くんは激しく動揺している。

 

「うん? どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたも……その格好、やべえよ……」

 

 浩介くん、もうあんなに興奮しちゃって……

 

「えへへ、今日は2人だけでしょ? こういうのも必要かなって思ったのよ……さ、朝ごはん作るわよ」

 

 あたしは、そんなことを言いながらキッチンに向かっていく。

 

  ぴらっ……

 

「きゃあ!」

 

 浩介くんに、またスカートめくりされてしまう。

 予想していたと言っても、浩介くんが喜んでくれるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。あたしはお尻を抑える。

 

「もう、えっち!」

 

「えっちなのは優子ちゃんだろ! 2人きりの時にこんな服着たら、誘っているの同義だぞ」

 

「むー!」

 

 隙のない正論に何も言い返せなくなってしまう。

 

「それに、優子ちゃんエロくてかわいいからね。縞パン、似合ってるぞ」

 

「もー」

 

「ほおれ!」

 

 むにっ……ぺろりっ!

 

「いやー! えっちー!」

 

 浩介くんに、右手で後ろから胸を触られ、左手はぺろりとスカートをめくられる。

 スカートを抑えて抵抗しようとするけど、浩介くんの引っ張る力が強くて、しかも胸を触られて感じてしまい、効果がない。

 

「はぁ……はぁ……優子ちゃん……」

 

「こ、浩介くん……ご飯、作れないから……」

 

「あ、ああうん。分かった……」

 

 やっと浩介くんが手を離してくれる。

 ともあれ、あたしは冷蔵庫から食材を取り出す。

 下の野菜室にはちょっと前かがみになって……

 

「優子ちゃん、パンツ丸見えだよ」

 

「きゃー! もう、スケベ! じろじろ見ないでよー!」

 

 浩介くんに口で言われると恥ずかしいけど、この短さだと手で抑えても意味がないので何もしない。

 

「とか何とか言って、抵抗しないんだから本当は好きなんだろ?」

 

「あうー!」

 

 浩介くんに図星を突かれ、押し黙るしか無い。

 これで、きっと浩介くんはますます興奮してくれるはず。

 でも、これから朝食を作るわけで。

 

「あ、あの……」

 

「どうしたの優子ちゃん?」

 

 浩介くんのパジャマの下が、もっこりしているのが分かる。

 

「ご飯作ってるときは、本当に触らないでくれる? 危ないから」

 

「あ、ああ……」

 

 浩介くんも、何とか納得してくれる。

 まあ、さすがにその理屈くらい分かるよね。

 

 浩介くんは、「煩悩退散!」と言った後に、「ご飯できたら呼んでくれ!」と言い残し、自分の部屋に戻ってしまう。

 確かに、こんな服のあたしがウロウロしてたら、いつ暴発してもおかしくないものね。

 

 あたしは、一人でご飯を作る。

 この服でご飯を作るのも面白い。

 浩介くんがいないけど、そのせいでスカートの中が余計に気になってしまう。

 あたしは朝食用のサラダを小皿2枚に作り始める。

 

 浩介くんは味が濃いのが好みみたいなので、キャベツにごま油、醤油にノリ、そしてベーコンに白ごまも入れる「特製サラダ」を作る。

 この料理は、あたしがカリキュラムの時から作っているおなじみの料理で、更に白いご飯の上に、昨日の牛肉の残りを焼く。

 

 これで、簡易的な「牛丼」の完成。

 朝食にしては結構重たいけど、多分浩介くんはこの後、たくさん「重労働」しなきゃ行けなさそうだし、このくらいでいいと思う。

 

 サラダをまずテーブルに置き、次に牛丼を2つ起き、箸と飲み物とコップを置いて完成。

 あたしは、浩介くんを呼ぶために、部屋の前まで来る。

 

「浩介くーん! 出来たわよー!」

 

「おう、ちょっと待ってくれ!」

 

 浩介くんが何やら慌てた感じで言う。

 大方、あたしで抜いていたんだと思う。

 

 部屋から浩介くんが出てくる。

 下半身は相変わらず大きなままで、出すのに間に合わなかったのが分る。

 

「うっ……」

 

 浩介くんがあたしを見て、思わず目をそらしてしまう。

 

「浩介くん、ご飯食べよ」

 

「あ、ああ……」

 

 あたしを先頭に、浩介くんと食卓につく。

 その途中にもう1回スカートめくりをされ、またいつものやり取りをする。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「い、いただきます……」

 

 実際この服で食卓に座ると、あたしの胸がいつも以上に目立つ。

 浩介くんはさっきから、食材に視線を合わせずに食べようとしている。

 

「あっ!」

 

 案の定、サラダを机にこぼしてしまう。

 

「浩介くんどうしたの? そんなにあたしの胸が気になる?」

 

「あ、当たり前だろ!」

 

 そう言うと、浩介くんが突如、机の下に潜り込む。

 あたしは、パンツをまた見られると思って、更にきつく足を閉じる。

 

「ほーれ、ご開帳~!」

 

 すると浩介くんに、両膝を掴まれそのまま開かれる。

 

「ちょ、ちょっと浩介くん! 今は食事の時間よ!」

 

「そんな格好して、俺を誘惑するのが悪いんだぞ。ほれほれ」

 

「きゃっ! いやぁ! お願い、もう許してえ!」

 

「とか何とか言って、身体は正直だぞー」

 

 浩介くんがそう言う。確かに、全身がもう汗でだくだくになっているのは事実。

 身体は正直だし、心だって興奮してる。

 嘘をついているのは口だけ。

 浩介くんは、それを簡単に見破ってしまう。

 

「優子ちゃんの料理は美味しいけど、それだけじゃないよね」

 

「こ、浩介くん!」

 

「あはは、ごめんごめん。冗談だって」

 

 浩介くんは、そう言うと元いた椅子に戻ってくれた。

 その後は、浩介くんも何とか我慢してくれたので、朝食は無事に終わり、あたしは食器を片付ける。

 さて、昨日していなかった洗濯と掃除を今日はすることになっている。

 

 あたしは洗濯機に衣類を入れていく。

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「わ!? 浩介くん、部屋に戻ったんじゃ……ってちょっとお!」

 

 浩介くんが床に寝そべって、あたしのスカートの中を下から覗き込んでくる。

 

「そんなことより洗濯だろ?」

 

 浩介くんが、寝ながら選択を促してくる。

 

「う、うん……」

 

「優子ちゃん、洗濯進んでないな」

 

「あうう……それは浩介くんが……」

 

 エロいせいだとあたしは言いたい。

 

「ま、とにかく洗濯しねえとな」

 

 やっと浩介くんが立ち上がってくれる。

 とにかく、洗濯物を片付けないといけないわね。

 

 洗濯をし終わったら、次に掃除をしなきゃいけない。

 何だけど……

 

  スリスリスリ……

 

「こ、浩介くん……家事の邪魔しないでえ……」

 

 浩介くんがあたしの背中を触ってくる。

 

「し、仕方ねえだろ……優子ちゃんエロいし」

 

 浩介くんが何度も同じ言い訳を言う。

 でも、心の何処かで、こうされるのを期待していたあたしもいた。

 だから、お相子さんだと思う。

 

「うっ……俺……ちょっと……!」

 

 浩介くんも、我慢できなくなったのか、自室に駆け込んでしまう。うん、ここまでみたいね。

 その間、あたしは掃除をし、こっそりと服も落ち着いたものに着替えることにした。

 服は、本来今日着る予定だった膝下丈の赤いスカート。

 さっきまでの露出度の高い服とは打って変わって、身持ちの固そうな淑女の服だ。

 

「ふぅ……おや、優子ちゃん着替えたの?」

 

 浩介くんが、さっきまでの興奮が嘘のような冷静さで言う。

 やっぱり、当たっていたみたいね。

 

「うん、浩介くん、部屋に駆け込んじゃったからね」

 

「あはは……そりゃあ我慢できるわけねえよ……」

 

 あたしたちは、テレビを見る。

 昼食まで時間がある。

 

 今日もニュースは平常通り。最近ではインターネット上でも、あたしたちの話題は減少傾向にあった。

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「うん?」

 

「優子ちゃん、今度の9日で女の子になってちょうど1年だっけ?」

 

 浩介くんが、そう言う。

 うん、確かそう。

 

「ええ」

 

「じゃあさ、学校が終わったら、優子ちゃんの家でお誕生日会しない?」

 

 浩介くんがそんな提案をする。

 

「でも、あたしの誕生日は6月22日で……」

 

「うん、知ってる。でも、協会の人にも言われたんでしょ?」

 

「……」

 

 確かに、比良さんからそんなことを言われた。

 でも、やっぱりまだ実感がない。

 生まれ変わったのは事実だけど、「誕生日」とはまた違う。

 

「あーなんだ、納得出来ないならさ、『女の子記念日』何てどうだ?」

 

「う、うん……それならいいかも」

 

「いずれにしても、さ。やっぱり優子ちゃんのあの日のこと、お祝いしてあげるべきだと思うんだ」

 

 浩介くんのそんな言葉。

 確かに、あたしにとってあの日は忘れられない思い出の日になっている。

 新しい人生の出発点の先に、今がある。

 でも、優一時代が完全になくなったわけじゃない。

 例えば国語や算数の基礎的な学力だって、優一の延長線上にあたしがある。

 もちろん、優子になった今のほうがずっと成績は良いんだけど。

 

 

「ねえ、優子ちゃん。お昼にしない?」

 

「うん、そうだね」

 

 あたしが、そろそろお昼ごはんの時間だということを思い出す。

 

「お昼は何にする?」

 

「スパゲッティ茹でるわ。幸いソースは買ってあるみたいだし」

 

 手作りのソースも作れないことはないけど、やっぱり手間はかけすぎないほうがいい。

 

「優子ちゃん、結構料理手早いよね」

 

「うん、確かに手間を掛ければ美味しくなるけど、そういうのはレストランの料理人とかの仕事よ。あたしや他の主婦の場合、いかにして短時間で効率よく作るかが求められるのよ」

 

「ふむ、言われてみればそうだよな。料理人は料理に専念するけど、優子ちゃんは掃除や洗濯もあるもんな」

 

 浩介くんがナイスな補足説明をしてくれる。

 

「そゆこと。理解が早くて助かるわ」

 

 あたしは「スパゲティミートソース」を机に出し、茹でる前のスパゲッティを秤にかけて重さを計測する。

 今回は浩介くんとあたしの2人きりなので、量を少なめにしないといけない。

 そうね、こういう料理の分量の加減も、覚えていかないといけないわね。

 

「優子ちゃん、考え込んでどうしたの?」

 

「ああうん、今まであたしは3人家族で料理を作ってたから、今回4人になったり2人になったりしてるでしょ?」

 

「なるほどねえ。やっぱ分量でも変わってくるんだな」

 

「ええ」

 

 鍋のお湯が沸騰したら、スパゲッティを茹で、タイマーをかける。

 

「これを下げるんだろ? 大変そうだな。ちょっと俺にやらせてみてよ?」

 

「え? う、うん……いいけど……」

 

 というわけで、ピピピピッとタイマーが鳴ったら、浩介くんが火を止めて、鍋をひょいと軽々持ち上げてザルに上げてくれる。

 

「お、意外と軽いんだな」

 

「……あたしにとっては重いのよ」

 

 男女の力の差が、ここでも如実にわかる。

 あたしは特に女子の中でもひ弱な上に、浩介くんはかなり鍛え上げられているという違いもある。

 だから、本当に極めたら、料理だってきっと浩介くんの方が上手になるはず。

 

 でもなんだろう、何かそれだけは、嫌な気がした。

 

 ともあれ、あたし達は麺を冷まし、それぞれに盛り付けて、ミートソースをかける。

 今回は浩介くんも側に居るので、粉チーズをキッチンでかけて、そのまま机に持っていって食べる。

 

「「いただきます」」

 

 2人で頂きますをして、再びやすらぎの時間。

 

「優子ちゃん、いつまで家にいる?」

 

「うーん、これを片付けて後は洗濯物を干したら帰るかな? 浩介くん、雨に濡れそうだったらちゃんと初日みたいにしてくれる?」

 

「おう、任せとけ」

 

 昼食が終われば、そろそろ洗濯機の洗濯も終わった頃。

 洗濯機から終わりを知らせる音を聞き、あたしがまず籠に洗濯物を入れる。

 その中に、あたしのパンツもあったので忘れずに自分の荷物の中に回収しておく。

 

「浩介くん、ちょっと手伝ってくれる?」

 

「うん?」

 

「こうやって、洗濯ばさみで挟んでかけてくれる?」

 

「あ、ああ……」

 

 浩介くんもあたしの見よう見まねで洗濯物を干し始める。

 速度はあたしよりずっと遅いけど、それでも居ないよりはずっといい。

 

「ふう、じゃあ荷物まとめるからちょっと待っててね」

 

「ああ」

 

 あたしは全ての家事を終えたので、浩介くんを尻目に、自室に戻り、広げてあった服や、お人形さんにぬいぐるみさん、おままごとセットを中に入れ直す。

 

 男の頃よりも、整理整頓術は格段に向上した。

 最後にもう一度全てあるか確認し、忘れ物がないと確信したら、キャリーバッグを引き始める。

 

「優子ちゃん。俺、駅まで送ってくよ」

 

「ありがとう」

 

 浩介くんがそう言うと、あたしは玄関の段差などで、浩介くんの力を頼る。

 浩介くんが鍵を閉め、駅へと向かう。

 

「この3日間、優子ちゃんのこと、もっと好きになれたよ」

 

「うん、あたしも……」

 

 具体的に3日間、浩介くんの家で生活してみて、あたしは将来のことがより鮮明になったと思う。

 そのおかげで、あたしは浩介くんとの未来がよりよく見えてくるようになった。

 今日は5月5日土曜日、5日後には、あたしは女の子1周年を迎える。

 

「じゃあ、また明後日」

 

「うん、学校でね」

 

 浩介くんと別れ、いざ電車の中へ。

 あたしは行きのときと同じく、エレベーターを使って段差を避け、あたしの家に向かう。

 

 もしかしたら、この家に住むのも、終りが近いのかもしれない。

 今はまだ、分からないけど。

 

 あたしは呼び鈴を鳴らし、母さんに帰ってきたことを伝える。

 

「優子、おかえりなさい」

 

「うん、ただいま」

 

 でも、電車で数駅だし、「実家」に帰るのは、容易よね。

 

 母さんと一緒の、日常が戻った。

 結婚のことを考えると、この日常もいつか壊れるという意味でもある。

 

 ……今は考えても仕方ないわね。

 それよりも、母さんに浩介くんの家でのことを話さないと。


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