永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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元旦

「優子、あけましておめでとう」

 

「おめでとう母さん」

 

 朝起きる、今日は元旦に当たる日で、今日から2018年を迎える。

 この時になると、さすがに蓬莱教授のニュースも騒がれることはなくなった。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉のように。

 

 そして人々の関心は元旦祝いに集中していた。

 

 浩介くんの両親とあたしの両親はあれからすっかり意気投合したようではある。

 ただ、浩介くんのお母さんはかなりプライド傷つけられちゃったみたいだけど。

 

 とにかく、元旦ということで、夏祭りの時にも行った神社に行くことになっている。

 とは言え、この日もあたしと母さんは、正月用の食事を作ることにしていた。

 

「優子、お正月のお料理は分かる?」

 

「もちろん分からないわよ」

 

「じゃあ、優子が立派なお嫁さんになるために教えてあげるわね」

 

 最近ではあたしも家事として戦力になっているけど、さすがにお正月の料理は作っていなかったので、あたしは久々に母さんからほぼ全面的な受け身で料理の講習を受けた。

 もちろん一回では覚えられないので、3が日は全て講習してくれるという。

 あたしが女の子らしくなるにあたって、母さんの貢献も何気に大きい。

 

 

「さ、優子。振り袖を着るわよ」

 

 元旦ということで、こんな風に晴れ着を着せてもらう。

 母さんの手ほどきで着替えるわけだけど、例によって父さんは蚊帳の外になっている。

 うーん、兄か弟でもいればまだ良かったんだろうけど、言っても詮無きことかな?

 

 ところで、今日は家族3人で行く初詣ではなく、「浩介くんの家族と一緒に行こう」ということになった。

 ……と言いたいところなんだけど、母さんから「優子と浩介くんは2人っきりで行きなさい」と言われてしまい、逆にあたしと浩介くんのお父さんお母さんはそれぞれ4人で行くことに決定した。

 このように、どんどんと外堀を埋められているのが今のあたしと浩介くん。

 

「さ、彼氏さんにかわいいところ見せないとね」

 

「う、うん……」

 

 母さんに振り袖を着せられたけど、父さん曰く「これなら成人式もバッチリだ」とのこと。

 

 ちなみに、あたしは振り袖で着飾っているけど、両親はいつものラフな格好。

 やっぱり若い女性は若い女性らしく、きれいな女の子にならなきゃいけないということかな?

 胸は晒しで潰してから着ることになっている。あたしはこの時だけ、ちょっと憂鬱になるけど、潰さないともっとひどい感じになるし、仕方ないと思う。

 和服も可愛いんだけど、そのへんはちょっとだけ欠点。

 振袖の時でも、あたしにとって頭の白いリボンは欠かせない。ある意味で、トレードマークとしての地位も得ていると思う。

 

 

 ともあれ、振袖を着終わったら三人で家を出る。

 しばらく歩いていると、前方に見覚えのある人が見えてきた。

 

「あれ? 桂子ちゃん!」

 

「あ、優子ちゃん、あけましておめでとう」

 

 やはり着飾った振袖姿の桂子ちゃんだ。

 

「あらあら、並ぶと綺麗だわ……」

 

 桂子ちゃんは1人のようで、母さんはやはりあたしと桂子ちゃんの並びを気にしているみたい。

 

「じゃあお母さんたち先に行っているわね」

 

「う、うん……」

 

 あたしたちそっちのけで、母さんたちが行ってしまった。

 

「なんか優子ちゃんの両親ってすごいよねえ……」

 

「う、うん……」

 

 母さんは特にパワフルな人だよねえ……

 

「うちの親はあんなに活き活きとはしてないわよ。かわいがってはくれるけどね」

 

 桂子ちゃんも両親にとっては「かわいい娘」だもんね、うん。

 

「しかし、2018年かあ……」

 

 東京オリンピックまで後2年とかニュースでやってたっけ?

 

「どうなるのかなあ? 今年は……」

 

 桂子ちゃんが今年のことを考えている。

 

「今年の注目は、やっぱり蓬莱教授がまた研究を進歩させるかどうかじゃない?」

 

「ああそういえばあったよねえ……蓬莱教授のこと」

 

 最近ではテレビ新聞のニュースからは殆ど話題にならなくなっちゃったけど、インターネットの掲示板ではあれこれ議論が叫ばれている。

 

 そこの議論ではいる人いらない人、様々だそうだ。

 あたしにとっては、既に持っているものだから、持たざる者の議論というのは興味深かったりもする。

 

「ところで優子ちゃん、その振袖、すごいわね」

 

 桂子ちゃんが振袖に話題を変えてくる。

 

「えへへ、母さんのお陰だよ。あたしじゃ着付けなんて出来ないし」

 

「うんうん、そうだよね。それにしてもよくあったわね」

 

「あはは、実は正月に備えてあらかじめ内緒で買っていたらしいのよ」

 

 カリキュラム前の服選びの時には振袖はなかったが、別の店で買ったという。この振袖も一応保険で降りているらしいから驚きだ。

 考えてみると、今ある服も、保険が降りている服が大半で、女の子になってしばらくして自分から買った服は殆ど無い。

 最初に買った服があまりにも多いので、新たに買い足す必要性もないということでもあるけど、そのために「女子の最新の流行」には、ちょっと疎くなっちゃっていた。

 そして話題についていけないでいて、つい「もう服は十分多くあるし」と言ってしまった所、桂子ちゃんに「その辺がまだまだ女子力が低い」と、お説教されてしまったこともあった。

 

「へえ、でもすごいわねえ。保険でたくさん服を買えたんでしょ?」

 

「ま、まあね。でも、それまで着てた『優一の服』は何一つ使えなくなっちゃったのよ」

 

 どれもサイズが違いすぎたし。

 仮に使えるのがあったとしても、全て捨てたと思う。優一の頃を思い出してしまうものは、今でもちょっとトラウマになっている。

 パソコンとかコップとか塗り薬とか、女性でも使えるものはそのまま使ってるけど。

 

「うん、そうだったよね」

 

 

「ねえねえ、あの2人可愛くない?」

 

「ああ、この辺の地元じゃ有名な美人2人組らしいぞ。しかも1人はフリーらしいし」

 

「へえ、お前どんなところからそんな情報を仕入れてくるんだよ?」

 

「ああ、弟が小谷学園にいるからさ」

 

「ほほ、2人共小谷学園なのか」

 

「そだぜ、俺も学園祭行ったけどさ……あの2人、今年のミスコンの優勝と準優勝なんだぜ」

 

「ひゃーそりゃすごい。で、どっちが優勝なの?」

 

「ほら、黒くて長い髪の子だよ」

 

「あーやっぱり? めっちゃかわいいもんねえ……」

 

「準優勝の子がアイドル級の超美少女だとすれば、優勝した子は超アイドル級の完璧美少女って感じ」

 

 

 桂子ちゃんと話していると、やっぱり目立つのかあたしたちの話題がどうしても降りかかる。

 

「やっぱり噂になってるわね優子ちゃんと私」

 

「にゃはは、美人も辛いよ……」

 

「ふふっ……」

 

 桂子ちゃんと2人で歩く、駅を過ぎ、神社へと向かうと、夏祭りと同じく浴衣姿で寒そうにしている人や、振袖姿の女性、着物姿の男女や普通の私服の人など、様々に入り乱れている。

 

「あ、あたしここで浩介くんと待ち合わせしているから」

 

 鳥居の前であたしが浩介くんとの待ち合わせをしている旨を言う。

 

「そう? じゃあ私、先に初詣してくるね」

 

 桂子ちゃんも空気を読んで離れてくれている。

 こういうところが、友人関係が長続きするコツだ。

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

「おーい優子ちゃーん!」

 

 桂子ちゃんと分かれてしばらくすると、着物姿の浩介くんがやってきた。

 

「あ、浩介くん、あけましておめでとう」

 

「うん、おめでとう」

 

「浩介くん、その着物、似合ってるね」

 

「あ、うん……優子ちゃんも似合ってるぞ」

 

 いつものやり取りだけど、やっぱりまだ照れくさい。

 浩介くんと恋に落ちてからもう半年近くになるけど、あたしが不老なためなのか、愛が衰えるということを知らない。もっとも、たった半年とも言えるし10年後が問題かな?

 

「えへへ、ありがとう……じゃあ早速初詣に行く?」

 

「あ、うん……」

 

 神社の境内は、夏祭りのように屋台はなく、普段と変わらないが、元旦らしく人が多いのが特徴になっている。

 ともあれ、今は浩介くんを連れて神社の境内へと急ぐ。あまりもたもたしていると人が増えちゃいそうだし。

 

「浩介くんは、正月をどう過ごすの?」

 

 あたしが聞いてみる

 

「うーん、駅伝見たり? 後はゴロンとしているかな」

 

「そうだねえ、正月はゆっくりしていたいよね」

 

 あたしが言うと浩介くんも共感を示してくれる。

 列に並び、初詣を待つ。

 

「そういえば、さっき桂子ちゃんも居たわ」

 

「あーそうか、他に小谷学園の人はいるかな?」

 

「うーん、他にももっと近い神社の人もいるだろうし……」

 

 そんなことを話していると、前方に何やら人だかりができている。

 

「なんだろうあそこ?」

 

「うーん、何か有名人でも来ているのかな?」

 

 人だかりの中心が誰なのかは、こっちからは見えない。

 

「帰ったら寄ってみる?」

 

「そうだな」

 

 浩介くんと2人で、そんなことを考えながら、列を前に進む。

 列は途中で切れていて、手水舎に連なっていた。

 どうもここは、手水舎の列で、手を清めた後で再び並び参拝用の列に並び直すという。

 

「夏祭りの時の事覚えてる?」

 

「ああうん、優子ちゃん、確か下着を――」

 

「だーダメ!」

 

 他にも人がいるんだから止めないと。

 あの時は桂子ちゃんと母さんに騙されてしまって、本当にスースーしちゃった。

 ノーパンノーブラはいいけど、短襦袢なしはさすがにまずかった。

 

「おっと、悪い悪い。手の清め方だっけ? 忘れちゃった」

 

 何かわざとな気もするけど、気にしないでおこう。

 

 とにかく、あたしたちは掲示されている清め方を見ながら、手と口を清めてもう一度列に並ぶ。

 意外と列の進みは早くて、あっという間に拝殿までたどり着いてしまった。

 

 あたしたちはお賽銭を入れ、二礼二拍手一礼をする。

 

 あたしの今年の願いは、「浩介くんとずっと一緒に暮らせますように」にした。

 普段信じてないのにお願い事するのもなんか図々しい気がするし、本当に叶えてもらえるかは、ちょっと分からないけど。

 

「じゃあ行こうか」

 

「うん」

 

 あたしと浩介くんはもと来た道を戻る。

 

「あれ? 石山さんと篠原君じゃん。あけましておめでとう」

 

 列の端から声をかけられる。

 

「あ、永原先生。あけましておめでとうございます」

 

 見ると永原先生だった。

 永原先生は夏祭りの時と同じく、「吉良殿」に貰ったという見事な着物を来ていたが、さすがに今日は晴れ着も多いのか、夏祭りの時ほど目立ってはいない。

 

「そういえば、さっき人だかりがあったけど?」

 

「ううん、私じゃないわよ」

 

 やはり違うみたい。

 

「じゃあ誰だろう?」

 

「さあ?」

 

「そういえば、永原先生は今日って……」

 

「うん、あたしもとうとう500歳の節目だよ」

 

 永原先生がそう言う。

 永原先生は誕生日が分からないので、1月1日を誕生日としている。

 今年は2018年で永原先生の生まれ年が1518年、つまりちょうど500歳になった。

 

「先生、お誕生日おめでとうございます」

 

 浩介くんがそう言う。

 

「あはは、本当の誕生日じゃないとは思うけど、一応受け取っておくわね」

 

 自分の本当の誕生日を知ることが出来ないというのも、中々に壮絶ではあるけど、普段の生活にはやはり支障はなさそう。

 

 あたしたちは永原先生と別れる。

 そして、浩介くんと2人でさっきの人だかりの所に来た。

 うーん、人が山になっててあたしも浩介くんも中の人が見えない。

 

「誰なんですか?」

 

 仕方ないので、山から出てきた人に聞いてみる。

 

「ああ、佐和山大学の蓬莱教授だよ」

 

「「え!?」」

 

 あたしたちは驚きの声を上げる。

 宗教を信じてなさそうな(ってあたしも実は信じてないけど)蓬莱教授が、初詣に来ていたのだ。

 

「すみません、どいてください」

 

 浩介くんが人を振り分けて山の中心に行き、あたしも続く。ちょっと強引だけど仕方ないわ。

 

「おや、君たちか。君たちも初詣かい?」

 

 蓬莱教授が声をかけてくる。

 ちなみに着物ではなくスーツ姿だ。

 

「蓬莱さん、あけましておめでとうございます」

 

「そうだな、新年だな……俺の寿命もまた一年、縮んだ」

 

 蓬莱教授が神妙な顔つきで言う。

 周囲も、面識のある人ということなのか、あたしたちを奇特な目で見ている。

 もしかしたら、大学生だと思われているかも?

 

「蓬莱教授はどうして初詣に?」

 

「ああいや、特に理由はないよ。何となく、だ」

 

「何となく?」

 

 あたしが聞いてみる。

 

「ああ。俺は神も仏も信じてないからね。だから、それを信じているバカどもが俺の研究に何を言ってこようが、痛くも痒くもないのさ」

 

 蓬莱教授が自信満々に言う。

 蓬莱教授らしいと言えばその通り。

 宗教界や学界からの批判など、まるで馬耳東風という感じである。

 

「それにしても、去年まではこんなことはなかったんだがねえ……あの記者会見以来、俺もすっかり有名人だよ」

 

「いやその、ノーベル賞取った時点で相当な有名人だと思いますが」

 

「おっとそうだったな、すまん」

 

 浩介くんが当然の突っ込みをする。

 何気に蓬莱教授がボケ役になるって珍しい気がする。

 とはいえ、例の記者会見以降、知名度が更に上がっているのも事実なのよね。

 

「まあ、ともあれ、君たちには期待しているよ。また会う機会があったら、会いたいものだ」

 

 

 あたしたちは蓬莱教授と別れると、神社の最初の鳥居まで戻ってくる。

 

「お、優子ちゃんに篠原じゃん。ちゃんと会えたようでよかったわ」

 

「あ、桂子ちゃん」

 

 鳥居の直ぐ側で、桂子ちゃんが声をかけてきてくれた。

 

「おう、優子に篠原! あけましておめでとうな!」

 

 よく見ると、桂子ちゃんは恵美ちゃんと2人で居た。

 

「恵美ちゃん、あけましておめでとう」

 

「さっき龍香と彼氏も居たわ。それにしても龍香の彼氏ったらホントスケベだったわ」

 

「うんうん、いきなり尻とか胸とか触るもんな。でも龍香のやつ、触られて嬉しそうな顔すんだからホントバカップルだよ」

 

 どうやら、龍香ちゃんたちも相変わらず見たい。

 あたしたちも大概だけど、それでも人前でそういうことはしない程度には分別はわきまえているつもり。

 

「じゃあ、あたいはこれから初詣だから、さよなら」

 

「うん、バイバイ」

 

 あたしたちは恵美ちゃんと別れ、再び3人で帰ることになる。

 

 

「なああの男……」

 

「新年早々ハーレムかよ」

 

「うぐぐぐ、リア充めぇ……」

 

 

 浩介くんが嫉妬する男子の会話に巻き込まれている。

 浩介くんはもういつものことと涼しい顔をしている。

 

「篠原、平気なんだね」

 

「当たり前だろ、むしろ気持ちいいくらいじゃん?」

 

「あー分かるわ」

 

 どうやら桂子ちゃんも、かわいくて美人らしく、通行人の女性から嫉妬の目や嫉妬の声はいくつもあったらしい。

 で、やはりそういうのは自分の自信になっていくという。

 

「自信を深めれば、女の子はますますきれいになるわよ」

 

「あーうん、それ分かる」

 

 桂子ちゃんの声に、あたしも賛成の意を示す。

 やがて駅が近づき、浩介くんと別れ、再び桂子ちゃんと2人になる。

 

「静かだね」

 

「うん、静かなお正月だね」

 

 家のあちこちで、門松の飾りがつけられている。

 新年でもいつもと同じく他愛もない話を続け、そしていつもの分かれ道に到着する。

 

「じゃあバイバイ」

 

「さようなら」

 

 いつものようにあたしは家を目指す。

 家の鍵は閉まっているので、あたしが財布から鍵を開ける。

 

 玄関を見ると父さんと母さんの靴があった。

 

「ただいまー!」

 

 それを見て、あたしは帰ってきたことを知らせる。

 

「おかえりー優子ー!」

 

 母さんがあたしを出迎えてくれる。

 

「さ、着替えようか?」

 

「うん」

 

 あたしは母さんと2人で、振袖を脱ぎ、パジャマ姿になった。あまり良くないとも思ったけど、もう誰か来る予定もないし正月くらいこうしよう。

 そして、お正月をゆっくりと過ごした。


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