さよなら、御舞等高校
冬が過ぎて春が来た。
三年生の阿部会長率いるくそみそチーム、オネェ率いるKABAさんチームの半分が卒業。
それでチームの数が足りなくなり……
なんてことは全然無く、むしろ今までよりも多くの生徒が戦車道の授業を希望が増え編成をどうしようか夜通し悩むなんていう嬉しい苦痛も
その中でも一人異彩を放つ期待の新人、(仮に新人君と呼ぶ)がいた
新人くんはゴリゴリの戦車ファンの両親の影響で、試合には出れなかったが元々戦車に触れていた。そして中々の実力を持っていたのだ
その実力はあの西住まほを唸らせるほど。黒森峰の一年生チームと御舞等の一年生チームで試合をさせてみたところ、流石に負けはしたが新人くんのティーガー(黒森峰からの借り物)が相手の隊長車を単独撃破するという大金星を上げた。まさに期待の星である
ちなみに同時期、生徒会選挙では俺隊長が会長に単独一位当選
その数か月後、公約として掲げていた『謎の美少女転校生を我が校に招き恋のランデブーを一波乱起こす』を実現出来なかったことを理由に罷免された
さてそんな波乱がありつつも旧二年生組、ニーソチー厶、ナイトチーム、キヨハラチーム、後悔チームが卒業。
卒業式のゴタゴタで学園艦の奥底に眠っている巨神兵を起こしてしまって危うく世界が火の海に包まれるところだったがまあなんとかなった。ちなみに去年の卒業式ではゴジラが目覚めたしその前はセカンドインパクトが起こりかけたらしい。
そんな些細なことは置いておいて特筆すべきはチョウとチビの壮絶な隊長争いである。戦いは10日間にも及ぶ激闘の末、御舞等高校は灼熱と極寒の地に分かれてしまったとかなんとか。結果チビが隊長就任、チョウが副隊長となった
俺隊長が始めた御舞等流を直系で受け継ぐ彼らは、先代に続き御舞等高校戦車道の黄金期を作り上げる。
そしてチビの触手チーム、チョウのヤムチャチームが卒業。隊長はあの新人くんが受け継いだ
問題はここからである
男子戦車道が強くなり過ぎた
御舞等高校を先駆けとして多くの男子校、もしくは共学校が戦車道への参入を始めた
そしてその男子達の強さは女子チームに迫るものになり始める
元々男子戦車道の最終的な構想は男子リーグの創設である。御舞等高校は他に男子の練習相手がいなかったから女子校との交流を始めたが、装填手の腕力の問題を初めとする諸問題があるため最終的には住み分けする予定であった
しかし男子戦車道という存在は現在の戦車道連盟の一部からは疎ましく思われていた
疎ましく思われるだけならよかった。どうせ邪道だ。実力の差をわからせてやればいい。だが伝統を無視し品格が無い下品な邪道としてきた男子戦車道が力をつけ始めてきた。このままでは自分たちの伝統と品格が否定される。そう思う一派が一定数存在したのだ。そして自分たちが主流であることによって私腹を満たす一派もまた存在した
その結果始まったのは男子戦車道の排斥運動である
元々御舞等高校への批判の手紙や匿名の誹謗中傷は存在していた。しかし過去の代表者である阿部会長や俺隊長はほとんど真面目に取り合っていなかった。例えどんなことが書いていようと
しかし彼らの卒業後にその運動は激化してしまった。印象操作や陰湿な嫌がらせは止まらない。若い世代では男子戦車道への嫌悪批判はかなり少なかったが、年齢層が高くなるとその割合は増えるのである
児玉理事長やアンツィオのアルベルト理事長、御舞等の理事長は沈静化に尽力し、立場上表立っての反抗は出来ないまでも西住しほ、島田千代両名はこの排斥運動に否定的であり、意外な所では文部科学省学園艦教育局長、辻廉太までも「教育的に適切な行動だとは思いかねる」と発言している
それでも、排斥運動は止まらなかった。誹謗中傷は匿名で証拠も残さず、印象操作は知らぬ顔。本当に、鮮やかな手口であった。
新たな隊長である新人くんはそれでも負けずに戦い続けた。批判を受けるチームを励まし続けた。交流があった女子チームも、そのOBも彼らを出来る限りで支援してくれた
でも、限界が来た。どんなに強くたって彼は一介の高校生なのだ。大人達の集中攻撃を受け止められるほど強くはないのだ。
ストレスで遂に彼は身体を壊し、入院した
御舞等高校理事長、御舞等葉蔵は御舞等高校男子戦車道チームの活動停止を発表した。これ以上生徒に負担は掛けられない。そうするしかなかった。本当に、するしかなかったのだ
そしてせっかく増えた御舞等高校の保有戦車は文科省預かりとなる
活動停止が決定した夜、現隊長の新人くんは一人病院を抜けだし、八枚の備品紛失届けを提出した
SMK重戦車
Ⅰ号戦車C型
バレンタイン歩兵戦車
Ⅱ号戦車L型ルクス
M5軽戦車
ルノー乙型戦車
SU-100
一式中戦車
御舞等高校校舎地下、O-2ブロックにて“紛失”
消耗仕切って今にも壊れてしまいそうな身体で、血走った、そして哀惜、無念、無力感全てが詰まったその眼に見つめられて、自分はその書類を受理することしか出来なかったと、担当者は言った
こうして御舞等高校の黄金時代は終わったのだ……