『あぁ』
『アーキテクトはお前だと聞いたが……』
『GA』
『ん?』
『SUNSHINE-L』
『……』
『重量機』
『……何かすまん』
「ユウ君、スザク君、今度の日曜日に会長とニーナと河口湖行くんだけど、一緒に行かない?」
スザクと会話中にシャーリーから旅行のお誘いが来た。スザクは仕事があるらしく行けないと断っていた。
「ごめん……僕もどうしてもやりたいことがあって……」
「そっか……」
僕みたいなのでも誘ってくれるなんて何て良い子なのでしょう。でも僕がいるとニーナが怖がっちゃうかもしれないし、何よりもやらなけれないけないことがあった。
「誘ってくれてありがとう……僕の分まで楽しんできてよ」
「うん、お土産色々買ってくるね!」
「三人のセクシーな写真もあると嬉しいな!」
「相変わらずだねユウは……」
いつかはみんなと旅行行けたら良いなぁ。全てを打ち明けた上で受け入れてもらえたら……ね。
そして日曜日はあっという間にやってくるのです。
僕がどうしてもやらなければいけなかったこと。それはあのハイブリッドで不可解な点があることに気付いたからだ。それに気付いたのは旅行に誘われる前日だった。僕はこちらの世界に来る前のことを考えていた。記憶が確かなら、僕はこちらに来る前は寝巻を着て寝たはずだ。だが気が付いた時にはパイロットスーツを着ていた。異世界に飛ばされるだなんて不可思議なことが起こるのだからパイロットスーツを着ていても不思議でないと言えばそうなのだが、何かが引っ掛かる。そもそも本来僕が着用していたスーツは白色だったはずだ。だがこちらに来て僕が着ていたのは灰色。
そして最も気にかかったのがコジマ汚染だ。端末を調べても汚染は一切確認できない。それがおかしい。通常、コジマ粒子は遮断出来ない。故にネクストに乗っているリンクスは、機体に積まれたコジマ技術を流用したジェネレーターやPA等による高濃度汚染の影響で短命であると言われている。いくらハイブリッドとかいうわけのわからない代物でも、PA機能が付いていたからにはネクスト用のジェネレーターと同じくコジマ技術が使われているはず。ならばPAやOB等を使わなかったとしても、最低限の汚染物質は機体から出ていてもおかしくないはずだ。なのに一切の汚染が検知されなかった。故に調べなければならない。
そうしてACを隠してあるゲットーまで出て来た。隠し場所に着いたので端末でステルスを解除する。そして現れる僕の愛機、ストレイド。乗り込んで起動してみる。起動を確認した後に汚染を調べてもやはり検知出来なかった。
こうなると可能性としてありえるのは……コジマ粒子による汚染物質を完全に遮断出来る技術が完成していた……? その技術を用いることで汚染を防いでいる……?
……考えていた一つの説が現実味を帯びてきた。
――記憶の欠落。
有り得ない話ではない。見知らぬ場所、色の違うパイロットスーツ、ハイブリッドなる特殊な機体。これらを踏まえて考えると、僕の記憶が欠落している可能性は十分にある。だがいつから? それがまったくわからない。容姿の変化がほぼ見られないことから、どんなに長く見積もっても記憶の欠落は1年といったところか……。
今考えても手がかりがないのでどうにもならない。端末の日付表示も狂っていたし、他の物からも何も知ることはできなかった。徐々に欠落した記憶を取り戻していくしかないか……。このことは生徒会の皆に話すべきか? いや、余計な心配をかけるだけだ。自分の心に留めておこう。
とりあえず今日は、いつでも戦闘に使えるようにこの機体について把握しておくか。わからないことも多いしね。
えへへ。実はこの左腕の端末、テレビの電波も拾えるようにしてあるからテレビ番組まで見れてしまうのだ。んでもって機体内のモニターに表示させれるように端末を弄ればOK。食べ物も持ってきたし、今日はゆっくり機体について調べよう。
端末や機体を調べてわかったけど、ネクストと似て異なる点がいくつか見受けられた。特に顕著なのがジェネレーターだった。何故気付かなかったのか? この機体、ジェネレーターが二つある……? いや、厳密に言えば二種類を組み合わせて一つとしている。一つは当然コジマ技術を用いたタイプ、もう一つはコジマ技術が一切使われていないタイプのものだった。そして前者の方が小さく、大半は後者のタイプで占められていた。しかも重量機用の大きさ。いやこいつ重量機だけどね。考えるに、通常時は普通のタイプを使い、必要に応じてコジマタイプを起動させるという感じか? でもコジマタイプも一応起動はしている……。おそらくフル稼働はしてないのだろう。OBやPAを使う時にフル稼働するのかな? しかしこの世界に汚染物質を撒き散らすのは不味い。そう考えると使うべきではなさそうだ。だとすると戦闘や移動に随分制限がかかってしまう……。どうしたものか。
お?
ジェネレーターのエネルギー供給先を見てみると、通常タイプの方の供給先がメインブースターの他に、サイド、バック、それからもう一つ背部のOB用のブースターに繋がっていた。OB用にはコジマタイプも接続されてる。これから考えるに、QBにコジマ粒子を使用しないで済む? そうなれば随分と戦闘が楽になる。そしてモニター表示された"Glide Boost"の文字。OBとは異なるようで、両方とも表示されていた。
おそらくは、
GB → 通常ジェネレーターのみ使用
OB → 両方のジェネレーターを使用
であると思われる。
GBがコジマタイプを起動させなくとも使えるようならOBを使用しなくても高速移動ができそうだ。ネクストでなかった時はどうなることかと思ったが、この世界にはこのハイブリッドの方が適していそうだ。サイズも小さいからKMFとかいうのに思われるだろう。そうすればこの機体に目を付けられる確率も減るはず! いやー良かった良かった。女神様、この機体をくれてありがとう。
気付くと結構時間が経っていた。テレビを付けたは良いけど何にも見てなかったよ。今は何がやってるかな?
《こちら、河口湖のコンベンションホテル前です》
ほえ? どうしたの?
《ホテルジャック犯は日本解放戦線を名乗っており、ジェームズ議長を中心とするサクラダイト配分会議のメンバーと居合わせた観光客、及び数名の従業員を人質にとっています》
あらら、可哀そうに。日本解放戦線ってのはレジスタンスみたいなもんかな?
まぁ、自業自得でしょ。力で押さえつけてるんだもん、反抗されても仕方ない。人質の皆さんにはお悔やみ申し上げるよ。運がなかったと諦めな。
《これが犯人から送られてきた映像です》
人質の姿が映る。
あーあー可哀そうに……若い子まで……え? おかしいな、知った顔が見える気がする。待って。え?
会長……シャーリー……ニーナ……? 何であの三人がいるの……? 唯の他人の空似だよね……?
『今度の日曜日会長とニーナと河口湖行くんだけど……』
『《こちら、河口湖のコンベンションホテル前です》』
気付くと機体の調整に入っていた。
念の為にパイロットスーツを持ってきておいて良かった。急いで着替え、機体の構成を確認する。
機体は前から変えてないのでブレードとバズーカのままだった。このままの装備で行くのは少し心許ない。装備を変えてから行こうと端末を弄る。現場付近には近寄れない可能性もある……右腕は狙撃用の武器に変えておこう。
狙撃用武装に見たことのないモノを発見する。非常時に未使用の武装を使うのは有り得ないことだろうが、動かす機会が少ない以上動かせる時に使わねばなるまい。
R.A.UNIT:USC-26/H SALEM
ん? そういえば武装変えたのは初めてだけど、どう変わるんだ……? 確かこの機体は空から降ってきたけど……。……まさか……? 傍に物凄い音を立てて何か落ちてきた。やっぱり……。
煙が晴れるとコンテナが落ちてきており、中を開けると折り畳まれたスナイパーライフルが入っていた。だけど口径を見て目が点になった。えーっと……ライフルというか……キャノン? いやいやいやいや! 何この口径! え? 300㎜とか余裕で超えてない? ありえねーよこれで何撃つつもりだよ! これ作った奴頭おかしいんじゃないの!? こんなの移動しながら撃てねぇよ! ばーか! 完全に選択ミスだよ!やっぱり次からは使い慣れたやつにするよ! ちくしょー、もういいや威力だけなら期待できそうだし。とりあえずバズーカを……Oh……バズーカ隠しとかなきゃ。武装呼んだら前の帰ってくれるのかと思ったけど、機体と同じで帰らないのね。そんなに都合良くいかないか……。そう考えると不味いな。呼べば呼ぶほど置き場に困るようになるぞ。おまけに空から降ってくるってことは……換装も自分ですることになるんじゃないか? 腕部武装ならいいけど、背部武装とかフレームの換装とかする時困るじゃん! 一人で換装できないよ、くそっ。
うむむむ……悩むのは後にしよう……時間もないしね……。左腕だけは変えておこう。
L.A.UNIT:EB-O305
ブレードレンジの長いタイプのレーザーブレードにしておいた。降ってきたコンテナから武器を取出し左腕に装着する。今回のブレードは前のと違い腕に直接付けるタイプなので手は空いている。これなら前みたいに武装をどこかにやってから手を使う、なんてことしないで済む。
さーて行きますか。
〔作戦目標、テロリスト全員の抹殺、及び人質全員を無傷で救出〕
地図を確認して、目標地点をセット、ルート情報が表示される。今回は街から出なきゃいけない都合上、高い高度で向かわないといけない。
河口湖方面へ向けて機体を飛ばした。
向かっている最中、リヴァルから電話があった。ヘルメットの通信回線で電話に出る。
「ユウ! 良かった……お前は出てくれたか……」
「お前はって?」
「ルルーシュの奴は出なかったんだ……何やってんだよこんな時に!」
「会長達のことだね?」
「あぁ……会長達大丈夫だよな!? 無事に救出されるよな!?」
「どうなるかは神様くらいしか知らないんじゃないかな……」
「お前……こんな時までそんなっ!」
「僕らに何が出来る? 僕らが出来るのは無事を祈ることぐらいだよ」
「それは……そうだけどよ……」
リヴァルは何も出来ない自分がもどかしいのだろう。
「大丈夫……絶対助かるよ……絶対ね」
「そうだよな……すまん、ありがとう」
電話を切り、ブースターを更に吹かす。
そうとも……絶対に助ける……!
辺りは暗くなり始めていた。人質の救出に来たブリタニア軍は、中々手を出せずにいるらしい。
当然こちらも動けずに発見されない程度の距離でステルス状態で待機しタイミングを計っていた。
今はブリタニアの回線をこっそり拝借し、通信を盗み聞きしている。ちなみにどうやったかというと、リコンという小型の情報収集装置を軍用車にこっそりくっ付けてきた。生身で。見つからないでよかったほんと。
にしても……意外だな。人質の被害など考えずに叩き潰すのかと思ってたけど。膠着状態ですね。どうするつもりなんかな?
ホテルは湖の上に建っており、ホテルへ繋がる橋は一つを残して全部落とされている。空及び湖からの侵入も失敗。もう一つの入口である地下トンネルにはリニアカノンがあるらしく接近できず。人質はホテルの倉庫に全員まとめて監禁……。こちらもむやみに行動できずない。さて……どうしたものか。
センサーに反応。……屋上に人? 見せしめか……?
「っ!?」
急いで機体を戦闘モードへ移行させ、GBを起動させた。
ホテルジャック犯が見せしめに選んだのはよりにもよってシャーリーだった。泣きながら必死に命乞いをしているのがわかる。
くそがぁ! ふざけんなよ!!
そして彼女はホテルの屋上から突き落とされた。
一気に距離を詰める。敵に見つかるとかそんなことはどうでもいい。
全速力でホテルまで急行して左手に仕込まれたエアクッションを展開、すんでのところで左手で彼女を受け止めた。なんとか無事に助けることが出来た。……さすがに今のは肝を冷やした。
カメラで彼女を確認すると泣きながらこちらを見ていた。無理もない……もう少しで死ぬところだったんだから。
ぼやぼやしてると攻撃されかねないのでさっさと退散する。ホテルの正面にある一つだけ残された橋を使い陸地へと向かう。そこでブリタニア軍のKMFがこちらにランス型の武器を向け出迎えてくれた。
「何者だ!? 貴様!」
「人質一人の命を救った者に対して随分な歓迎だ」
外部マイクを使って話す。今回もマシンボイスを使用。
「命を救ってくれたことには感謝する。だが貴様が味方でない以上警戒するのは仕方あるまい。シンジュクではこちらに対して敵意を見せていたそうだしな」
隊長機と思われる機体から声が発せられる。搭乗者は女だと思われるのだが……。うぅ……声は似てないのに口調でセレンさん思い出して腰が引ける……。
「今はそちらと敵対する意思はない。態々敵を増やす暇も、必要もないだろう?」
「……」
さーて目立ってしまったがどうしたものか。前面の相手は明らかに敵対姿勢。左腕にはシャーリー。後ろにはまだ助けなければならない人々。こんな所で揉めてる間に人質が減っちまうよ、くそったれ。
「まぁ良い……。貴様の相手は後回しだ」
そう言って機体を反転させるとその先にはマスコミの撮影車と思しき車が向かってきており、車の上に一人の人物が立っていた。全身黒ずくめで、顔にはフルフェイスのマスク。
「ゼロ……!」
ゼロ? あぁそういえばテレビで見たな。ブリタニアに刃向ってる人だっけ。こちらにも中々気概のある人がいるじゃないですか。
ゼロがブリタニアの女隊長と色々喋っていた。簡単にまとめると、
人質の中には皇族がいるっぽくって手が出せなかった。ゼロが「俺が救う!」発言をしていた。じゃあやってみせろ。という感じになりました。
ゼロを乗せた車がホテルへ入っていった。
ブリタニア軍の通信から、地下のリニアカノンをどうにかすれば人質は何とかできそうな感じだという。
ゼロが信用できるかはさておき、一つでも助ける手段を確保しておいた方が良いだろう。
〔作戦目標を更新、地下トンネル内に設置されたリニアカノンの破壊〕
こちらが動き出すとブリタニア軍は銃口を向けてきた。それを無視して歩いて傍の兵士に近付き、シャーリーを託す。シャーリーはこちらを涙目で見ていた。とりあえず彼女は助けた。後は会長とニーナか……。あっちはゼロに任せるしかない。僕はできることをやるか。
スキャンモードで確認したところ、後方に地下トンネルに続く縦穴を発見、そこまで移動する。その間も敵はこちらに銃口を向けてはいたが、発砲はしてこなかった。
入口の傍にいる眼鏡をかけた技術者風の男がこちらをじっくり観察するように見ている。何故か楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
トンネルに繋がる穴を飛び下りる。着地した先にはいつぞやに見た白いKMF。向こうも警戒している。
「そこを退け」
そこ邪魔、おどきなさい。
幸いにも白いのはこっちの言葉に従って横にずれてくれた。
「何をするつもりだ……!」
向こうのパイロットから声が発せられた。あれー? どっかで聞いたことあるような……? まぁいっか。
右膝を突き左膝の盾と折り畳まれた銃身を展開、左手を銃に添え狙撃体制に移る。スキャンモードで敵の位置情報を確認。照準を合わせる。
僕の友人を人質にとり、その上殺そうとしたんだ。この世界から消え失せろ。
右腕のスナイパーキャノンから一発の銃弾が撃ち出される。射撃の反動で機体が仰け反り、地面に亀裂が走る。トンネル内故に轟音は反響しており、機体外に居たら鼓膜が破れていたのではないかと思えた。放たれた銃弾は真っ直ぐに敵に向かって飛び、リニアカノンに直撃。機体は跡形もなく、文字通り消し飛んだ。
……僕は唖然としていた。
……ばっかじゃないの? どう考えてもあの程度の敵に撃つ武器じゃねぇ! どこの変態企業だよこんなもん作ったのは!
やることはやったんだ。後はゼロとブリタニア軍に任せる。
こんなもん使ったらホテルごと人質を吹っ飛ばしかねないのでね。完全に武装の選択ミスですはい。反省します。
トンネルの壁を蹴り上がり、さっさとその場から離れる。
その後、ホテルが内側から爆発を起こして崩れた。人質全員の命は絶望的かと思われたが、ゼロが人質を全員船に移しホテルの陰から出て来た。そこでテレビカメラを使って宣言していた。
「我々は……黒の騎士団!」
ゼロは宣言した。我らは武器を持たない者の味方だと。ブリタニア人もイレブンも関係なく、弱きを助け、強きを挫くと。
これはまた荒れそうだなぁ……。
そんなことを考えながら僕はその場を去った。
ACの隠し場所に戻ってくるとコンテナが消えていた。誰かが持って行ったのかと考えたが、あんなものを持って行けるとは思えない……。気にはなるが、コンテナだけ帰って行ったということで納得しといた。
さて……今後どうするか……? 記憶を取り戻さなきゃいけないし、パーツの置き場所や換装、弾薬の補給……。どこかの組織に所属するのが一番だけど……。
悩みは尽きないなぁ……はぁ……。
ようやくの戦闘回ですね。
……はい。一発しか撃ってないですね、ごめんなさい!
ちなみにハイブリッドのGBは地に足つけてなくても使えます。
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