コードギアス 反逆?の首輪付き   作:Casea

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17話 暴発

 

『俺とお前は兄弟みたいなもんだろ? 大丈夫だっての。俺に任せとけって』

 

 兄のように慕ったロイ・ザーランドも。

 

『いずれお前は私では歯が立たないほどの剛の者になるだろうな、楽しみだ』

 

 戦場についてたくさんのことを教えてくれたローディーも。

 

『私にとってお前はもう一人の息子のようなものだよ』

 

 命の恩人で、両親の居ない自分にとっては父親も同然だった有澤隆文も。

 

『私にとってユウ兄様は……秘密です』

 

 妹のように可愛がったリリウム・ウォルコットも。

 

『お前は私のものだ……そうだろう?』

 

 母であり姉であり、師であり相棒であり……初恋の相手でもあったセレン・ヘイズも。

 

 全員殺した。

 

 あの時から僕は――。

 

 

――――――――――

 

 

――最悪だ。

 

 暴走したギアスがユフィにかかり『日本人を殺せ』という命令を遂行し始めてしまった。これは自分が経験してきた中でも最悪の事態だ。ギアスにかかってしまった以上はもうどうすることも出来ない。どんなに望んでも時が戻ることもないしなかったことにも出来ない。このような事態を引き起こしたのは俺なのだから、俺の手で終わらせねばならない。せめてこれ以上名誉に傷がつかないうちに――。

 

「すぐに楽にしてやる……ユフィ!」

 

 C.C.と合流しガウェインへと乗り込み騎士団に召集をかける。ユーフェミアが我々を裏切り日本人を殺害し始めたという嘘を伝えて。

 ガウェインを起動させ空中へと移動し空から状況を確認するとあまりにも凄惨な光景が広がっていた。辺り一面血の海、そしてなおも増え続ける死体。厄介なことにユフィはグロースターへ乗り込んだのを確認した。更に厄介なスザクの白兜が出てくる前に始末をつけないと不味い。しかし会場には他にもKMFが数多くおり当然邪魔になる。ガウェインのハドロン砲で一掃してしまいたいところだが会場の日本人諸共消してしまいかねない為、指先に搭載されたスラッシュハーケンだけで騎士団到着までに少しでも被害を抑えなければならない。だが一機ではこれだけの敵を相手するのにも限界が――待て、ユウはどうした。一緒に会場に来ていたはずだ。

 

 空から地上を見渡すとストレイドが見えた。だが様子がおかしい、いやおかしいのは様子だけではない。何だあの武装は。そう違和感を覚えた途端にストレイドが敵KMFに向って有り得ない速度で突撃した。

 

 それからのユウの行動には寒気を覚えた。

 

 

 俺の知っているユウでなくなったのはおそらくこの時だったのだろうと、後に気付いた。

 

 

――――――――――

 

 

 ゼロからの連絡を受け取った騎士団は藤堂の月下を先頭に全速力で機体を走らせ式典会場へと向かう。会場から銃声がのべつ幕無しに聞こえ続けていることに団員達は焦りと怒りの感情を抱いた。もっと速く、もっと速くと機体を酷使して目的地まで急ぐがそれ以上の速度は出せず、それがさらに焦りを募らせる。会場に近付くにつれ逃げてきたと思われる人々が見えてくる。だがその先にはもっと多くの人が逃げ遅れて恐怖を体験している。それどころかもうこの世には居ないかもしれない、そう考えると体の内からどす黒い感情が滲み出てくる。

 会場の外で日本人に攻撃をしている敵が見え始めると藤堂はすぐに指示を出し、団員はその怒りをぶつけるかの如く攻撃を開始した。ライフルを乱射し、スラッシュハーケンを打ち込み、斬って殴って蹴り飛ばして、敵味方が一機、また一機と減っていった。しかしこの場に一人でも日本人が残っている限り騎士団は一歩たりとも退く気はない。只管に戦い続け、殺し続ける。裏切られ踏みにじられて、無残な最期を遂げていった日本人の為に。

 

 そんな激戦は会場の壁を突き破って飛来した何かによって唐突に中断させられた。その場の音や機体だけではなく会場からの銃声も聞こえなくなったため、周囲がしんと静まり返った。その場の大半がまず大きく穴の開いた壁に目を向け、その後飛来した物を視界に入れると最初はそれが何か理解出来る者はほとんどいなかった。しかし色や微かに残る特徴でそれが何か理解し――恐怖した。飛んで来たのはまるで強い力で押し潰されたかのようなグロースターの残骸で、手足は吹き飛びコクピットは押し潰され歪な形になっていた。一体どのようなことがあればそこまで異様な状態になるのか、答えはすぐに出た。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 穴から右腕の拉げた一機のサザーランドが情けなく泣き叫びながら現れ、穴の奥に向かって残った左腕でライフルを乱射した。その姿を見た他のブリタニア兵達は明らかに困惑した。

 仲間達の姿を確認したその機体は力なく左腕を伸ばし助けを求めた。

 

「頼む!! た、助け――」

 

 しかしその願いは叶うことはなく、穴の中から現れた黒い機体の右腕に付いた武器によってサザーランドは無残にも叩き潰された。潰された際に発した金属音はまるで断末魔のように辺りに響き渡り、助けを求め伸ばした左腕だけを残して押し潰された機体は爆散した。その黒煙の中から黒い機体、ストレイドが残骸を踏み潰しながら現れ赤く光る瞳で周囲を見渡した。その姿にブリタニア軍は恐怖を覚え、黒の騎士団は歓喜に湧いた。しかしストレイドを見て疑問を抱く者も少なからずいた。左腕にブレードを付けていただけのはずなのに、右腕には電柱のような巨大な柱。さらには頭部や機体のあちらこちらの外見が変わっており、目に該当する部分だけが不気味に赤く光っていた。出撃前とは明らかに違う姿、武装、そして何一つ言葉を発しないユウ・ヘイズ。

 

「てめぇらもここまでだな、ブリキ野郎共!」

 

 しかしその異様さに気付かない一人の団員がブリタニア軍に対し啖呵を切った。その言葉に反応するかのようにストレイドが右腕を後方に伸ばして構え、柱や背部等に備え付けられたブースターを同時に吹かせ始めた。機体に余程の負荷が掛かっているのか全身から火花を散らせ、炎が噴き出ている箇所まである。傍に居たブリタニア兵は破壊の権化のようなストレイドの姿に気圧されて動けなくなり、恐怖に支配されるがままとなった。そんなストレイドの勇ましい姿を見て団員達はこの戦場での勝利を信じて疑わなかった。

 

 

 

 余談だが啖呵を切った男は団員達からマサというあだ名で呼ばれており、騎士団の中でも特にユウとつるんでいる姿がちょくちょく見られた。異世界人を自称する等少し変わっているけれど、自分達と一緒に日本を取り戻す為に命を懸けて戦ってくれている良い奴というのが彼から見たユウの人物像である。年下でありながら戦場を知っており、その戦う姿を尊敬し、憧れてすらいた。今後も一緒に戦い続け、いつか日本を取り戻す。そしたら一緒に飯を食ったり何処かに行って遊ぼう、そう約束していた。

 

 そんな彼には理解出来なかった。何故目の前で――ユウのストレイドが腕を振り被っているのかが。ほんの一瞬、それこそただ一度瞬きしただけのはずなのに、離れた位置に居たストレイドが目と鼻の先に居る。

 人は死ぬ間際に走馬灯を見たり、事故に会った時には時間がゆっくりと流れているように感じるという。彼がそれを体感したかは定かではないがただ一つ言えることは。

 

 彼の人生はそこで終焉を迎えたということだけである。

 

 

――――――――――

 

 

 何が起こったのか全くわからなかった。ユウの機体が構えたと思ったら、その数秒後には団員の一人が乗っていたKMFが消え、黒煙が上がり何かの破片が自機に当たった。そして目の前にはそれなりに離れた位置に居たはずのストレイド。

 

「!?」

 

 ストレイドから大げさなくらい後方へと一気に距離をとり思考する。ユウが味方に攻撃し、それを受けた機体はバラバラになりパーツ片が飛んで来たのだろうか。駄目だ、今の状況を正確に把握しようにも混乱していて考えられない。そもそも何故ユウがそんなことを……。

 ストレイドは見慣れた姿とは異なり右手には煙を上げる大きなハンマー、いや、そんなお上品なものではなくもっと無骨な、鉄柱か何かが付いていた。その柱で団員の乗るKMFを殴り飛ばし破壊した。その行動を目にした他の団員達も急いで距離をとり、ユウに対して必死に呼びかけているものの何の反応もない。それどころかこちらに対しても敵意を剥き出しにして今にも襲い掛からんとする勢い。まるで獰猛な野生動物のようだ。

 そんな姿に恐れをなしたブリタニア軍はストレイドに対し一斉に攻撃を開始した。

 

 それからの戦いは酷いものだった。ストレイドはその圧倒的な力で次々とKMFを破壊していき、その光景を見た敵も味方もパニックに陥った。幸いにも最初以降騎士団側へ攻撃の矛先が向けられることはなかったが、逃げ出す者も命乞いする者も関係なく叩き潰して回る、一方的な蹂躙と呼ぶに相応しい姿には背筋が凍った。確かにユウは敵に対して容赦がないところはあったが、投降した者まで攻撃するようなことはしなかったはず。けれど今はまるで殺すことに愉悦しているかのように誰彼構わず破壊し続けている。

 これがユウの本性なの? それとも以前ナリタで行動不能になっていたことがあったけれど、あの時のように今回も何かが起こって錯乱している? 声を聞けば、顔を見ればきっとわかるのに。でもそれは彼を止めない限りは不可能だ。けどあんな状態の彼をどうやって止めればいいのか。そもそも止められるのだろうか。あの機体を傍で見てきたからわかる。この世界のKMFを遥かに上回る機体性能、そしてユウ本人の操縦技術。そんなものを相手にしてどれだけ生きていられるかもわからない。でも止めなければいつこちらにあの牙が再び向けられるか。私達だけじゃない、この場に居る一般人に被害が及ぶ可能性だってある。一体どうすれば良いの……?

 

「落ち着け!」

 

 パニック寸前の私の耳にゼロの声が響き、空を見上げるとガウェインが視界に入った。ゼロの安否がわかりほっとすると同時にあの人ならばこの状況を何とか出来るかもしれないと淡い期待を抱く。でも現実はそこまで優しくはなかった。通信を通して聞こえたのは……ストレイドの破壊命令だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ストレイドを破壊しろって……あれは――」

 

「ユウ本人にどんな事情があるにせよ、こちらに対して敵意を見せた。現に一人やられている。これ以上放っておいてはこちらに更なる被害が及ぶ可能性が高い。何より奴の攻撃で一般人に一人でも犠牲者が出れば我々も日本人からの支持を失うことになる」

 

 確かにユウから攻撃してきて尚且つこちらにも更なる攻撃を加えんばかりの勢いだ、どんな事情があれ破壊されても文句は言えない。

 

「今為すべきことは! 一人でも多くの日本人を救うことだ! ストレイドがその妨げになるのであれば……破壊してでも止めねばならない!!」

 

 破壊してでも止める……? ……そうだ、殺さずに機体だけを行動不能には出来ないだろうか。

 

「ゼロ! ……私にやらせてください……彼を何とかしてみます。……お願いします!」

 

 本当はこんな博打に出ないでさっさと破壊すべきだってことはわかってる。だけど……もしユウが反乱を起こしているのではなくただ錯乱の末の暴走であるのなら、彼を救ってあげたい。

 

「……良いだろう、だがわかっているな? 君が失敗すればその時は……」

 

 私が失敗すれば自分だけじゃなくユウやもっと多くの人が死ぬことになる。それをしっかりと肝に銘じる。今回ユウがどうしてこんなことになったのか……それは機体から引きずり出して嫌でも聞き出してやる。

 

 ゼロはユーフェミアを、私はユウを、残りはブリタニア軍への攻撃と会場近辺に残された日本人の救出へと分かれ行動を開始した。

 他のことも気にはなるけど私はストレイドに集中しないといけない。時間をかけて全員で少しずつ削っていければいずれは倒せるかもしれないけども、生憎そんなことは不可能だしそんなに時間はかけられない。一つはここには多くの人が居るということ、もう一つはストレイドが火花を散らせ今にも自爆しそうな状態であること。おそらくあの右腕のせいだろうとは思う。そんな限られた時間の中であの機体を破壊ないし行動不能の状態にまでしなければならない。おまけに一度狙いを定められたらあの驚異的な加速力で一瞬で間合いを詰められてやられかねない、故に一度で決めねば終わりだ。それを可能とする状況はブリタニアのKMFに目標を定めてこちらに背後を見せた時、そこしかない。

 

 時折飛んでくるブリタニア軍の攻撃を避けつつタイミングを見計らっていて気付いたことがいくつかあった。

 まず飛べるはずなのに何故か飛ばない。あの攻撃に全ての出力系統を回しているのだろうか。そして攻撃の仕方が2通りあるらしい。と言ってもチャージするかしないかという程度の違いしかないのだけども。けど威力が段違いのようで、チャージ有りだと形も残らないくらいバラバラにされている。チャージ攻撃をする際には構えてからしばらく動かなくなり、目標へ一直線に向かって行き破壊する。攻撃後は1秒程硬直し再チャージまでのディレイは3秒といったところ。けどそれらの時間は徐々にだけど少しずつ長くなっている気がする。機体が悲鳴を上げるくらいだし、出力を限界まで使っているから機体の内部への負荷が相当に酷いのだと思う。

 少なくともあの右腕さえ破壊すれば止めることが出来る可能性が出てくる。巧く調節すれば輻射波動で右腕だけを破壊出来るはず。下手をすれば機体諸共吹き飛びかねないけど時間が足りなくてこれしか思い浮かばない。というのも今が絶好のタイミングだからだ。

 

 ストレイドは周りに敵も味方も一般人も居ない逸れた一機に狙いを定め、こちらに背を向けた状態でチャージを開始した。チャンスは一度っきり、これを外せば後がない。一度大きく深呼吸し震える手や体に活を入れる。

 そして機体を走らせ始めた。ランドスピナーを使いストレイドまでの距離を一気に詰める。その間ユーフェミアのしたことだとか失敗したらどうしようだとか、そういったことは一切合切忘れる。今頭に浮かぶのは皆と一緒に笑っていたユウの笑顔だけ。いつかまた皆で笑えることを信じて攻撃することだけに集中する。

 ストレイドが攻撃に移るとKMFは跡形もなく消し飛び、機体が硬直した。ここしかないと勢いそのままにストレイドへと右腕を構えて跳びかかり輻射波動を浴びせかけた。

 

 

 

「ぐぁっ!?」

 

 吹き飛ばされて壁に叩きつけられた際に頭をぶつけたせいで何が起こったか曖昧になってしまった。ストレイドが居た辺りには煙が漂っていていまいち状況が把握できない。確かストレイドに跳びかかって、輻射波動を浴びせて……待って、その前に何か……。

 

「っ!?」

 

 急いで起き上がり煙の方を注視しつついつでも動けるようにしておく。

 ほんの一瞬だったけどあの時確かに見た。跳びかかる寸前……ストレイドが横目にこちらを見ていたのを。

 

 煙の奥から黒い機体が歩いて現れた。機体の至る所から火花を散らしているのに右腕には依然完全な状態の鉄柱が付いている。それに対してこちらの状態はそれ以上に不味い。右腕は肩から根こそぎ持って行かれてしまった。おまけにコクピットをぶつけた際に歪んだらしくハッチが開かず脱出出来ない。

 何が起こったのか段々と思い出してきた。こちらが跳びかかった瞬間にストレイドが180度回転して鉄柱で反撃を受けたんだ。今私が生きていられるのは偶然輻射波動が障壁の代わりとなったおかげで鉄柱の攻撃を防ぐことが出来たことと、チャージされていなかったから。しかしそれでも右腕を失うくらいの威力を考えると、恐ろしさを通り越して笑いすら出てくる。

 私は心の何処かでユウは錯乱して暴走しているから、隙を突いて後ろからしかければ問題なく当てられると思い込んでいた。機体はあれ以上無理な動きが出来ないと思い込んでいた。でも実際は違う。彼は今でも周囲の状況を冷静に把握しているし、機体も無理に動かしても問題なく動いている。

 

 そんな私に向って一歩、また一歩と近付いてくる黒い姿が途轍もなく恐ろしいものに感じる。どうすれば良いのかわからない、考えられない。体が震えて心が折れかかっているのを感じる。今すぐこの場から逃げ出してしまいたい。でも逃げればユウも含めて多くの人が死ぬ……。そんなのは絶対に嫌だ。そうだ、こんなところで終わるわけにはいかない。たかが右腕が壊れて輻射波動が使えないだけだ。まだ左腕がある、両脚も動く、紅蓮はまだやれる。

 

「カレン! 後ろだ!」

 

 そんな決意を嘲笑うかのような後方からの銃撃。反応してなんとか回避行動をとると、元居た場所に弾痕が出来ていた。

 

「貴方も日本人ですね? 死んでください!」

 

「この声……貴様、ユーフェミアか……!」

 

 ゼロが相手をしていたはずのユーフェミアがここに居る。ゼロに何かあったのかと周りを見渡すとガウェインと白い機体が戦っているのが見えた。スザクの白兜……どこまで私達の邪魔をすれば気が済むのか。でも今はそれどころじゃない。前にはユーフェミアのグロースター、後ろにはユウのストレイド。冗談じゃない、ユウ一人でも持て余しているのに。泣きっ面に蜂どころの騒ぎじゃない。

 

「うぁっ!」

 

 ユーフェミアからの銃撃を受け右脚を破壊されて動けなくなってしまった。2機の片方にすらまともに集中出来なくなってしまっている。後ろから聞こえ始めたチャージ音に驚き、そちらを窺う際にユーフェミアから目を離したのが不味かった。片や鉄柱を構えこちらに狙いを定めるストレイド、片や今まさに止めを刺そうとライフルの弾倉を変えるグロースター。死の恐怖に心拍数が上がり息が荒くなる。気付いたら自身の乾いた笑い声が耳に入ってきた。

 

――ここで終わりかぁ。

 

 ユーフェミアがコクピットへと銃口を向けたのを見てそう思った。悔しくて涙が出てくる。信じていた多くの日本の人達を踏みにじったあの女、一番殺してやりたかった相手に殺される。

 

『殺しているんだ、殺されもするさ、ってね』

 

 以前ユウが言っていた言葉を思い出した。殺した以上殺される運命にある、結局そういうことなんだろうね。そっか……じゃあここで私が死ぬのも運命なのかな。自分の心が折れてしまったのをはっきりと感じ、ゆっくりと目を閉じた。

 

 そして銃撃の音が響いた。

 

 

 

 おかしいなぁ……いくら待っても死が訪れないや。それとも即死したから気付かなかっただけかな。

 そっと目を開けると目の前に黒い機体が居た。私に背を向けて。

 

「なん……で……?」

 

 どうして銃弾から私を守ってくれているの……? だってあなたは今まで……。

 ストレイドが一歩ずつ歩き始めた。機体を少しでも動かせば軋む音が聞こえ、機体だけでなく鉄柱の接続部からも火花が散っている。そんな状態でも銃弾から私を庇いながら、右腕を構えたまま着実にユーフェミアの許へと歩き続ける。弾が切れたのかユーフェミアはランスに持ち替えストレイドへと吶喊した。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 誰かの声が聞こえた気がした。それと同時に……グロースターだったモノが、遠くへと吹き飛ばされる光景をただ呆然と見ていた。

 

 

 そこから先は覚えていない。後で聞いた話ではユーフェミアが吹き飛ばされた後に私は気を失ったのだろうということだった。

 ストレイドはあの直後機能が停止して動かなくなったそうだ。機体はその後回収され、堅牢なコクピットハッチを豪く時間をかけて破壊し、気絶していたユウは引きずり降ろされた。コクピットの中はそこらじゅう血で赤黒く染まっていたという話だ。ユウ自身命に別状はないものの未だに意識が戻っていないという。今回の件について本人から詳しく聞くのはしばらくは不可能だろう。

 スザクは歪な形となったグロースターのコクピットを抱えて離脱していったと言っていた。あんな攻撃を受けたんだ、おそらくユーフェミアは生きていないだろうし、その方が良い。

 ゼロはその後会場で、ブリタニアからの独立を宣言。「合衆国日本」を作ると宣言したそうだ。きっと人々も喜んだことだろう。その場に居られなかったのが悔やまれる。

 

 こうして「経済特区日本」の騒動は日本、ブリタニア双方に多くの傷跡を残して終わりを迎えた。

 

 

――――――――――

 

 

 医務室のベッドに一人の青年が横たわっている。腕には点滴の針が刺さり、部屋には生体情報モニタが心拍数を刻む音だけが響いている。血塗れだったパイロットスーツは純白の病衣へと替えられ、体の血も綺麗に拭き取られている。

 

 そんな彼のベッドの傍に男が一人立っていた。

 

 彼の頭に銃口を突きつけて――。




投稿間隔がどんどん空いております……申し訳ないです。今後更に時間がなくなるのでもっと空くかもしれませんが可能な限り頑張りますので、もしよろしければ今後もお付き合いください。

お気付きでしょうが鉄筋コンクリートさんの性能はゲーム内の物より低いです。


※お詫び
新年に活動報告の方でも書かせて頂きましたが、ブロックユーザーの方に非ログインユーザーの方が知らぬ間に入っておりました。不快な思いをさせてしまったかもしれません。大変申し訳ございませんでした。
今後二度とこのようなことが起きないように致します。

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