コードギアス 反逆?の首輪付き   作:Casea

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『ユウ、ここ――うわぁ……』

『随分と嫌そうな顔だな。相変わらず失礼な奴だ』

『会いたくもないロリコン爺と顔を合わせれば誰でも同じ反応をするさ』

『ショタコンの貴様も似たようなものだろうに』

『誰がショタコンだ、全く……次のターゲットはその子か?』

『言い方が少し引っかかるが……まぁいい。リリウム、挨拶なさい』

『初めまして、リリウム・ウォルコットと申します』

『随分できた子だな、これも貴様の教育の賜物か?』

『まさか……それより、隠れているその子がお前の後釜か?』

『この子をリンクスにするつもりはない……ほら、ユウ』

『ユウ・ヘイズ……6さいです……』

『私より一つ上ですね。よろしくお願い致します、ユウ様』



10話 泣き虫けもの

 気が付くと辺り一面真っ白な、周囲を見渡しても全く同じ景色が延々と続いている空間に佇んでいた。歩き回っても全力で走っても一向に景色は変わらず、何かを見つけることも誰かに合うこともなかった。時計がないからどれだけ時間が経ったのかもわからない。1時間経った気もするし、10分と経っていないような気もする。何もない、誰も居ない、今いる場所も、何をしていたかも、何処へ行けばいいかもわからない、そんな空間。

 

 誰も居ない空間で自分一人だけ、そんな状況に淋しさと恐怖を感じ涙が出てきた。膝を抱え子供のように泣き続ける。こんなことをしていても何にもならないとわかっていても涙は止め処なく溢れてくる。どれくらい経った頃だろうか、背中に人の気配を感じて振り返るとまた涙が溢れた。そこにいたのはずっと会いたかった相手、セレン・ヘイズその人だった。急いで立ち上がり彼女へと駆け寄ろうとしたが、いくら走っても一向に彼女へ近づけない。名前を呼ぼうにも、まるで喉に何かが詰まっているかの如く声が出ない。それを彼女はじっと見つめていた。何かするわけでも喋りかけてくるわけでもなく、あの時と同じように複雑そうな表情でじっと見ていた。近くにいるのに、目の前にいるのに、凄く遠く感じられた。

 

 しばらくすると彼女は振り返り、離れて行ってしまった。必死に追いかけても追い付くどころか、距離は離されるばかりでどんどん彼女は小さくなっていく。

 

(嫌だ、行かないで! ボクを一人にしないで! ずっと傍にいてよ!)

 

 力の限り叫びたかったがいくら頑張ったところで声は出ない。結局、彼女は振り返ることなく消えてしまった。

 その場に力なく座り込み、また泣いた。

 

(一人に……しないでよ……)

 

 

 

 

 目を開けるとそこは自室として使っているクラブハウス、どうやら今のは夢だったみたいだ。目を擦ると濡れており、夢を見て泣いていたらしい。

 起き上がって首輪を付けながら外を見ると生憎の雨。

 

 こんな憂鬱な朝は生まれて初めてだ。

 

 

 

 授業を受けても、食事をしても、憂鬱な気分は晴れなかった。仲の良い生徒会のメンバーと話している時はまだマシだったものの、重苦しい気分は変わらなかった。結局今日の生徒会にも参加せず、ベッドに寝転んでボンヤリと天井を眺めていた。

 

 おかしいなぁ……。この世界でやっていこうって、前向きに生きていこうって決めたのに……、彼女との暮らしを思い出せばすぐこれだ。

 ここでの生活は嫌いではなく、むしろ好きだ。皆優しいし、ご飯も美味しいし、戦力としてとはいえ僕を必要としてくれている。でも皆本当の僕を知ったら? 戦うことが出来なくなったら? 戦う必要がなくなったら?

 きっとその時僕の居場所は……何処にもない。きっと傍に誰も居ない。

 

 ドアをノックする音で我に返って起き上がり、扉を開けるとルルーシュが居た。

 

「いきなりですまないが……ナナリーのことを少し見ておいてもらえないか?」

 

 なんでもいつもナナリーの傍にいるメイドの咲世子さんが出掛けており、ルルーシュもこれから用事があるという。ナナリーを一人にしておくのも心配なので僕に頼みに来たそうだ。

 

「咲世子さんが帰ってくるまででいいんだ。頼めるか?」

 

 はっきり言って今はそんな気分ではないのだが、多少は気が紛れるかもしれないので引き受けた。

 

 

 

 今はルルーシュ達が住んでいる部屋でナナリーと一緒にのんびり折紙なんかをしている。この子は目が見えないというのに器用に鶴を折っていた。

 

「日本では鶴を千羽折ると願いが叶うと聞きましたが、本当なのですか?」

 

 ナナリー、少し勘違いしているよ……。叶うのは願いじゃなくて病気快癒や長寿である。でもそれを指摘すべきかどうか……。だってナナリー凄い良い笑顔で僕に聞いてくるんだもん……。でもあえてここは心を鬼にして。

 

「あーっと……願いが叶うというのは聞いたことがないな……」

 

「そうなんですか……」

 

 あぁ、見るからにしょんぼりしてる……。

 

「でも怪我や病気が治るのを祈りながら折るとそれが叶うってのは聞いたよ。それにいくら同じ日本とはいえ、僕の世界とこの世界は違うから、もしかしたらこちらの世界では願いが叶うかもしれないよ」

 

「そうですね……そうだと良いですね」

 

 再び顔に笑顔が戻った。良かった良かった。じゃあ僕はナナリーの目が見えるようになるのを祈って折ろうかな。

 

 ナナリーとお話しながら折っていると、また昔のことを思い出し始めた。

 そういえば小さい頃リリウムと一緒にこうやって折紙したことがあったなぁ……。思えば彼女は僕にとっては妹のような存在だった。初めて会ったのは6歳の時だったかな。彼女は1つ下で、その時からとても行儀作法が身についており敬語で話していた。王の爺さんの教育の賜物なのかどうかは知らないけどね。

 結局僕はORCAに行ったから彼女とは袂を分かつことになってしまったけど、彼女はどうなったのだろう。記憶がないせいで不安でならない。もしかしたら、僕はこの手で彼女を――。

 

「ユウさん……どうかなさいましたか……?」

 

 ナナリーが心配そうに訪ねてきた。

 

「え……? 何が?」

 

「今日はいつもと雰囲気が違いましたし……今も少し、その……辛そうです」

 

 本当に彼女には驚かされる。見えていないはずなのに、ただ一緒にいただけだというのにまるで見透かされているかのように僕の状態が気付かれていた。誰にも気付かれないように努めていたはずだったんだけど……。きっとこの子は目が見えない分人の心に敏感なんだろう。

 来た時は慌ただしくて考えている余裕がなかったこと、落ち着き始めた頃から昔の夢を見始めたがあまり考えないようにしていたこと、最近では昔のことを頻繁に思い出しどんどん気分が沈んでいっていること、そんなことをナナリーに話した。当然ながら記憶の欠落や騎士団等の出来事については話していない。

 

「ご家族のこと……思い出されていたのですね……」

 

「うん、正直……辛い。会えないこともだけど、心にぽっかり穴が開いたような……何を入れても埋まらない、深い深い穴が空いてるみたいだよ……ははは……」

 

 それっきり会話もなくなり、5分もすれば咲世子さんが帰ってきたので、僕は自分の部屋へと帰った。

 ナナリーにはちゃんと謝罪の言葉と感謝の気持ちを伝えておいた。胸の内を吐き出せて、多少だけど心が軽くなった気がした。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 最近のユウはどこかおかしい、そう感じ始めたのは母親のお見舞いの後からだった。と言っても口を開けば適当なことを言ってるし、ご飯はしっかり食べるし、能天気に笑っているところはいつもと変わらない。だけど親しい人達、特に生徒会の面子は気付いているようでしきりに私に何かあったのか聞いてくる。何故私に聞きに来るのかは今は追求しないことにする。

 

 先日ゼロに頼み事があると言われ部屋に呼ばれた時は、私を頼ってくれたことが嬉しかったりした。話を聞くとユウのことを気にかけてやってくれという内容だった。彼は心の支えであった家族に会えないことで精神的に弱り、このままでは潰れかねないと言う。

 

『どういった形でも良い、あいつを支えてやってくれないか?』

 

 そう言われ頼まれたのは良いのだけれど、どうすれば彼を元気付けてあげられるのだろうか。支えると一言で言ったってそう簡単なものではない。私は彼のことを全て知っているわけではないし、彼の家族がどういう人達だったかも、何人いたかも、何も知らない。彼は家族を精神的な支えとしていると言っていたけど、だったら支えになれるように、頼ってもらえるようになればいいのかしら……? 一緒にいて安心出来るような……例えば家族……?

 そう自分で考えて顔が赤くなるのを感じた。

 いやいやいやいや……落ち着け私……何もふ、夫婦だけが家族の形じゃないわ。そう、どっちかというとユウは弟とかペットみたいな感じよ。それにペットだって立派な家族よね、うん。

 どちらにしろ一度本人と話してみないとわからない。でもどうやって聞き出すべきか……。

 

 生徒会室へ向かって歩きながら考えていたので気付けば辿り着いていた。中に入るとナナリーと彼女のお付きの咲世子さんだけだった。

 

「あれ? 他の皆はまだ?」

 

「こんにちは、カレンさん。はい、まだ私達だけみたいです」

 

「今お茶を入れますね」

 

 そう言って咲世子さんは出て行ってしまった。あまりナナリーとは話したことがないので少し気まずい。

 そんなことを考えているとナナリーの方から話しかけてきた。

 

「あの……カレンさんはユウさんと仲がよろしいのですよね……?」

 

「え? えぇまぁ……生徒会の中では……」

 

「ユウさんのことでご相談したいことがありまして……」

 

 ナナリーが兄のルルーシュではなくユウのことで? 珍しいと言えば珍しいけど……。

 そこでナナリーが昨日ユウから聞いたことを話してくれた。

 

「話をしている時……とても辛そうでした。私に何かしてあげられることはないでしょうか……」

 

 そう言って彼女はとても辛そうに俯いてしまった。こんな良い子を心配させるなんて、あの獣は一度締め上げた方が良い気がする。

 

「話は聞かせてもらったわ!!」

 

 突然扉が開くと同時に会長の登場、そしてユウを除いた残りの生徒会メンバーが入ってきた。皆外からこっそり聞いていたらしい。いや、居たなら入ってきなさいよ。

 

 

 

 

 

 翌日の朝、会長に言われた通りユウに放課後生徒会室に来るように言っておいた。

 

 

 放課後生徒会室にはユウ以外は既に揃っており、昨日あの後ユウのことについて色々と話し合ったが結局本人と一度話をしてみようということになった。

 そしてしばらくしてユウが来た。

 

「ユウ・ヘイズ、着席!」

 

 会長が珍しく真面目で威勢の良い声を出して着席を促した。ユウはびっくりしながらも言われた通りに席に着いた。

 

「さぁユウ! 思い悩んでることをここで洗いざらいぶちまけちゃいなさい!」

 

「えーっと……ナナリー、もしかして喋っちゃった……?」

 

「ごめんなさい……。でもユウさん、とても辛そうでした……。私に何か出来ないことはと思いまして……その……」

 

 ユウはナナリーに気にしていない旨を伝え少し悩んだ後、現状をポツポツと話し始めた。今度は……記憶の欠落のことも。皆は普段の能天気な姿以外はあまり見たことがないので、ユウが記憶の欠落なんかで悩んでいるとは思っていなかったのだろう。随分驚いていた。

 

「記憶の一部がねぇ……お前も随分苦労してたんだな」

 

「どこからどこまで記憶がないのかもいまいちわかっていないんだ……。記憶がない間皆どうしていたのか、今はどうしているのか……」

 

 だからこそ彼は禁止薬物を使用してでも知りたかった。知れば少しは安心出来るから……かしら。

 

 ユウは思い悩んでいたことを全て話し終えると頭を下げた。

 

「皆聞いてくれてありがとう……でももうこの辺でいいよ、聞いてくれただけで随分楽になったから。僕なんかの為にここまでしてくれて……」

 

「そんなに卑下しない! あなたはこの生徒会のメンバーなんだからもっと胸を張りなさい!」

 

 いつにも増して会長の気迫が凄い。意外と熱い思いを秘めた人だったみたい。

 そこへずっと何かを考えていたナナリーが口を開いた。

 

「ユウさんはご家族に会えないでとても淋しそうでしたので、少しでも支えになれればと思ったのですが……それとも私達じゃご家族の代わりにはなりませんか……?」

 

「そんなこと……僕は皆のことをセレンさんの代わりとしてみたことなんてない!」

 

 ユウは声を荒げて反論した。

 

「僕はただ! ……ただ、一人は嫌なんだ……怖いんだ……。両親が死んだ時のことはあんまり覚えてはいないけど……あの時の感情は今でも覚えてる……。両親が死んだ時、周りには誰も居なかった……怖かったんだ……隆文さんに見つけてもらうまで……ずっと一人で……」

 

 話しながら涙を流し始めた。

 

「そんな僕の傍に、セレンさんはずっと居てくれた……。でもここに彼女は居ない……僕はまた一人になる……」

 

「一人って……皆がいるじゃない……」

 

「違う……違うんだ、カレン……皆は僕のことを知らないから居てくれる……。怖いんだ……本当のことを知った時、皆僕の傍から居なくなるんじゃないかって……。仲良くなる前なら良かった、離れて行ってもまだ諦めがついただろうから……。でも……今は想像するだけで心が押し潰されそうになる……。もう一人は嫌だ……やだよ……」

 

 そう言ってユウはまるで無垢な子供のように泣きじゃくった。

 やっとわかった気がする。彼は家族に会えないこともだけど、何よりも孤独が怖いんだ。そして、自身の全てを知っていて、傍に居てくれた人がここには居ない。

 

「大丈夫ですよ……ユウさん」

 

 そう言ってナナリーはルルーシュに押してもらってユウの傍まで移動してまるで見えているかのように自然と彼の手を取り、しっかりと握って微笑んだ。

 

「ユウさんがどんな人だって、ここの皆さんはあなたを嫌いになったり、離れて行ったりなんてしません。だって……ユウさんは優しい人ですから」

「ここに……いますから、いつでも帰ってきてください」

 

 その言葉で耐え切れなくなったユウは大声で泣き始めた。

 結局、人の心を救うのは、人を思う純粋な気持ちなのかしらね。私は心のどこかで騎士団の活動にユウが不可欠だから、という気持ちがあったのかもしれない。でもナナリーは純粋に彼を心配していた。そんな彼女の気持ちがユウの心を救ったのかな……。

 

「ふふっ……ユウさんは泣き虫さんですね」

 

 

 

 しばらくしてようやくユウが落ち着いた。

 

「いやいや……大変お恥ずかしいところをお見せしました」

 

 そう言ったユウの目も顔も真っ赤だったけど、表情は憑き物が落ちたように晴れており、今まで通りどころかそれ以上に良さそうだった。

 

「皆、今日は僕の為に本当にありがとう……。それで、僕の素性のことなんだけど……」

 

「ストーップ! そこまでよ、ユウ。無理に言わなくて良いわ」

 

 ユウが自分のことを喋ろうというところで会長のストップが入った。さすがのユウもこれには焦っている。

 

「で、でも僕は――」

 

「でもも芋もないの! ナナリーがさっき言ったでしょ? あなたが何者かなんて関係ないのよ。逆に言うことであなたが辛い思いするかもしれないんだったら言う必要はないの、わかった!?」

 

「イ、イエス! マム!」

 

 こうしてユウのメンタル面での問題も解決し無事に終わった。これでしばらくは平穏になるはず、私はこの時はそう思っていたのだが、考えが甘かった。

 

 

 

 翌日、ユウは授業を休んだ。原因はわからないし、電話をしても一向に出る気配がない。最近のユウのことを考えると途端に心配になる。

 

「そういえば昨日うちに来てナナリーに何か聞いていたな」

 

 詳しい話をナナリーに聞くために生徒会室で話を聞いてみると意外なことがわかった。

 

「ユウさんですか? そういえば……昨日の夜にいらっしゃって変わったことを聞かれました。えーっと……確か『蟲とザリガニと鳥と丸い玉、どれが好き?』と聞かれました。良くわからなかったので丸い玉と答えたのですが……」

 

 質問の意図が不明だわ……。

 少し心配になったのかスザクとルルーシュが部屋を見に行ってくると言い残し出て行き、5分もすると帰ってきた。

 

「えっと、扉の前に『Don't Touch Me! HAHAHA!』って書いた張り紙がしてあったよ」

 

「中で何かやっているような物音は聞こえたが、何をしているかまではわからん」

 

 張り紙にいかにもな感じの笑い方が書いてあったし、多分心配する必要はないだろうという結論に達したのだが、本当に何をやっているのだろうか。

 

 

 

 次の日もユウは授業を休んだ。心配する必要はないとは言ってたけど……明日も来なかったら一度部屋に行ってみるのが良いのかな。そんなことを生徒会室で話していると突然扉が開いた。

 

「ナナリィィィィ!」

 

 ユウ、大声で叫びながら入ってくるんじゃないわよ、びっくりするから。名前を呼ばれたナナリーもびっくりしてるじゃないの。

 何かを小脇に抱えてナナリーの元まで進んで行く。

 

「ナナリー、はいこれ先日のお礼。本当は皆にも何か渡したかったんだけど、これは材料が一つ分しかなかったから」

 

 そう言ってユウはナナリーにバレーボールで使われている球くらいのサイズの金属の球体を渡した。見た目は少し黒銀っぽい色で、一ヵ所が目玉のようなレンズになっており、そこから広がるように金色のラインが何本も走っている。

 

「ちょっと重たいですけど……これは何なのですか?」

 

 確かめるようにペタペタと球体を触っているが、いまいちわかっていない。当然ながら私達もわからない。

 

「少し待っててね、ここをこうして……」

 

 ユウが少し触るとレンズとは反対側の部分がスライドして中からパネルのようなものが出てきた。そこへナナリーの手を導き触らせると生徒会室には似つかわしくないマシンボイスが部屋に響き渡った。

 

【指紋登録完了】

 

「待て、ユウ……それは一体何だ」

 

 さすがは兄のルルーシュ、あまりにも得体の知れない物なので警戒しだした。

 

「ん? これ? ソルディオス・オービットって言うんだけど。ちょっと待っててね、もうすぐ起動するから」

 

 聞いたことのない名前だが、嫌な予感しかしない。

 球体はレンズ部分が淡い緑色に光るとフワフワと浮き始めた。皆の状態を言葉で表すなら……茫然自失。うん、これが一番近い。ナナリーだけがいまいちわかっていないので、説明してあげると驚いていた。

 

「良かった良かった。無事に起動したね」

 

「で……これは何だ」

 

「元々は僕の世界の兵器で、もっと巨大なのが空を飛んでコジマ粒子を攻撃に用いたレーザーキャノンを撃ってくる物体だったんだよね」

 

 待って、今聞き捨てならない言葉がいくつもあったわよ。

 

「あ、でも心配しないでね? 確かに小型のコジマエンジンは積んでるけど、破壊されない限り粒子が漏れ出すようなことは絶対にないから。まぁ破壊しようにもロケット砲撃ち込まれたって壊れるような装甲じゃないけどね。エネルギーも勝手に作り出すから壊れない限りはずっと稼働してるから、そっちも問題ないよ。自己修復プログラムも入ってるから、中身がどこかおかしくなったら勝手に見つけて勝手に治すし」

 

「お前なんつーもんを……」

 

「そもそもお前は何故そんなものをナナリーに渡したんだ」

 

 そう、それが一番大事。何の為にこんなものをナナリーに?

 

「一番の理由はナナリーを護衛させる為だよ。ナナリーは目が見えなし、足が悪い分いざという時行動し辛いだろうから。ナナリーは僕を助けてくれた。僕もナナリーを助けたいけど、いつでも傍に居れるわけじゃないから、せめて……と思ってね」

 

 ユウなりに心配した結果……なんだろうけど、明らかに方向がおかしい。

 

「あとは盲導犬みたいな役割にもなるし、荷物持ちとかにもなるよ。出力が高いからおそらくナナリーだったら乗っても飛んでくれるんじゃないかな」

 

 飛べると聞いて想像したのか、ナナリーは少し楽しそうな顔をしている。

 

「護衛と言っていたが、そんなので護衛の役割が務まるのか?」

 

「心配ないよ、高度なAIが組み込まれているからナナリーに害を与えようとする輩には気絶する程度のエネルギー砲を撃ち出すようになってるし、たとえ銃弾が飛んできてもすぐさま射線に割り込んで防ぐから。さっきも言ったようにかなり硬い装甲だからその程度じゃ壊れないし」

 

 本当にあんたなんて物をナナリーにプレゼントしてるのよ……。

 

「いやー一昨日の夜に何か恩返し出来ないかと思って端末弄ってたら見たこともない項目が増えててさ。そしたら企業がくれたっぽい追従型の小型機のパーツとかがあってね。何故か部品全部端末から出てきたもんでそれからずっと組み立てたり、設定したりしてたらこんな時間になっちゃって」

 

「それで授業もサボってたのね……」

 

 今結構際どい発言があったけど、皆フワフワ浮いてる球体に目が釘付けで気付いていないらしい。心臓に悪い。

 

「ユウさん、ありがとうございます」

 

「ナナリーが喜んでるから良いが……本当に危険はないんだな?」

 

「ないよ。その為に徹夜しておかしいところがないか幾度となく確認したし」

 

 ナナリー本人が喜んでるから良いけど、女の子にこんなプレゼントはどうかと思うんだけど、私。

 

 こうしてナナリーの傍に謎の球体が出現したことは学校内でしばらくの間噂になった。生徒会がナナリーの為に用意した物という噂も同時に出ていたので、悪い噂が立つようなことはなかった。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 翌日目を覚ますとしばらく降り続いていた雨も止み、快晴。

 首輪を付けながら見た夢を思い出す。

 

 またあの白い空間。以前と違うのは少しだけ色がついていたこと。そして……また現れたセレンさんの表情が、少しだけ笑っていたように見えた。

 

 僕頑張るよ。セレンさんが居なくても……何とかやってみるよ。

 さぁ今日も1日頑張ろう。

 

 

 

 ちなみに寝過ぎていた為遅刻して怒られた。

 

 やっぱダメだね、うん。

 

 




ナナリー&会長回な感じになった。
というか会長が熱血系の随分漢らしい方になってしまった。あれー?

トーラス玉の使い方もひどいね。でも反省していない。

何かありましたらコメントへ。

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