閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
「普通だ」
「普通です〜」
「ォエッ」
「ゾンビ汁……」
地平の彼方まで焼け尽くす隕石は数を成して落ち、広がった炎は一瞬で氷と化す。
毒々しい色をした氷河は割れて沸騰し、蒸気となり雨となって降り注ぐ。
雨は凍りつき、ぶつかった物を腐食する雹へと変わる。
雹が落ちた所から大地は凍てつき、空気を焼き尽くす陽炎が地を覆い尽くす。
「『引導』」
「『ラグナロク・ミュージカル』!」
「『破滅的幻想』!」
五人の神選者と二柱の神が一匹の龍と戦う。
「『熾凍・根絶』」
だが通らず、反撃を許してしまう。
それどころか氷と炎の力と環境だけで圧倒的な強さを見せつけられている。
拡散する暴風は遠くに逃げるれば被害は少ないが、再び近づく労力とそれ以前に降り注ぐ炎と乱雑に生える氷柱の中で急いで距離をとるのは至難の技だった。
一人が氷の粉と化す。
「蛇甲拳!」
一人がディスフィロアの懐に飛び込み、殴りかかる。
抗う隙もなく一瞬で氷像となり、ゆっくりと足から溶けて行く。
「はぁっ!」
一人が氷像を引き寄せ、手から熱を出して氷を溶かす。
内部の発火点を優に超えていた気温により大爆発が起こり、二人は焼失した。
「く、くそっ!」
「貴様ぁ!」
「おかしい、この世界は!」
「死にたくないならここから立ち去ればいい。元の世界にな。」
神選者の嘆きをディスフィロアは一蹴する。
殺す事に喜びも楽しさもやりがいも感じていなかった。
「獄滅・『顎』!!」
高く舞い上がった神の腕を黒い光が這い回り、とても大きな口を形作る。
更に白い光がディスフィロアを追尾し、顎が閉じる前に穿とうとする。
「強い技はダメージの高い避けにくい技だと分からないのか……?」
そう言うとディスフィロアは炎を吐き出して口を食い止めた。
空中に二つの氷の鎌を作り出し、白い光を一凪で爆発させる。
そのまま翼を振り上げ、下ろすと同時に分厚い氷のドームに閉じこもる。
「くっ……そっ!」
炎との拮抗により威力の低下した顎では分厚い氷の守りに牙を突き立てる事さえ出来ない。
その間に炎が氷の中で渦巻き始める。
「シュヌ・ヴェール・ズィーチゥ・ヴァン・ダグズル!!『豪嵐』!!」
神は片手を振り上げ、急速な勢いで雷の塊を作り出した。
指を鳴らし、ダレン・モーランを超える大きさの雷の塊を落とす。
全てを分解する空間が落ちた。
追撃にもう一柱が周囲の光が闇に見える程の光弾を作り出して叩きつける。
「『宇宙崩壊温度』っ!!」
(「座標補助・事象確実化・沈静加速化確定。範囲はどうしますか?」
「まぁしなくても大丈夫だけど……地平線まででいんじゃないかしら〜?触媒と代償は半壊世界で〜。」
「どうも。とはいえ、そのつもりは無かったのですがありがたく頂きます。『ささやかな補助』」)
「『死の解』」
氷が広がり、粉微塵と化していく最果ての地の動きが止まる。
全ての熱と熱に至る動きが極限までゼロに至る。
「……流石に熱いな……そうだ、ゼスクリオなら吸収してくれるだろうか。」
蒸気を発し、炎のドームを散らしながらディスフィロアは立ち上がる。
「なに……っ!?」
技の威力で他の神と神選者を散らした愚かな神は絶望する。
「生きてたのか……いや、自分の技だから当たり前か。少しお返しを与えよう。」
ディスフィロアの炎鱗が燃え上がり、氷で作られた筒に炎の塊が入る。そして後ろに小さい光が入る。
神は砲撃を察し、防御体勢に入る。
「炎上空間!」
「……確か神選者の中で一番多い元の世界では重装甲は時代遅れだそうだ。.」
「閉鎖防御!」
「勿論各所は硬くても、当たらない為の機動力が一番だと。」
「封魔結界!」
筒の照準が合い、小さい光は輝き出す。
「防御の発展は遅くてコスパが悪く、攻撃の発展が多彩かつ明確であり早いという事実からだそうだ……」
「輪廻のまも――」
勢いよく射出された炎の塊が結界に当たる。
ニヤリと笑った神の心臓を炎の杭が貫き、大爆発を起こす。
ディスフィロアは飛び立ち、天廊へ向かい始めた。
やはり、緊張の無い生活はつまらなさ過ぎる。
笛と撃龍槍を担ぎ、二階まで外の壁を伝って降りてきた。
……カメラの映像を見る。
階段を登ってくるのは7人、それぞれ銃器とランスを持った人間達だ。
糸を放ち、天井に張り付く。
「くそっ、天廊ってあんな難しかったか!?」
「一階であれですから、二階はどうなる事やら―――」
撃龍槍を落とす。
ガン!
「ぐわぁっ!?」
ほう。撃龍槍を頭から無防備に受けて潰れないか。
久しぶりの手応えがありそうな奴だ……本来はこの様な危険は冒すべきではないが。
「あそこにアトラル……色が違う!」
「なっ、まさかあのゴア・アトラルか!?」
鎌を擦りながら降り立ち、銃を構えられる前に二人を笛で殴る。
感触から銃器で受け止めた様だ、と理解した時には飛び退って銃弾を避ける。
壁から壁へ跳び、振り返っている間に駆け寄ってランサーを一人殴る。
「おらぁぁっ!」
銃弾が当たり私の右後ろ脚が吹き飛ぶ。
笛を叩きつけて自然回復力を上げる旋律を作り上げ吹き鳴らすと、いつも通りウイルスが脚の形を作り出した。
「今だ――っ!?」
この部屋に繋がっている廊下に置いた盆から水銀を引き寄せ突き刺す。
突如ランサーの盾から謎の波を感じる。
次の瞬間、盾から氷が生えてきた所をゴアの翼で掴み、盾を奪取する。
盾を振り下ろして轟音で目を瞑らせた後、水銀を鎧として着る。
ガガガガッ!
圧倒的な装甲の代わりに能動的な機動力がかなり死ぬが、水銀操作力が上がる事によりそれも大分克服している。
撃龍槍を糸で引き寄せ、翼で掴み叩きつける。
……それでも死ぬ程に潰れただけで形状はかなり保っていた。
「化け物だ!各自散開っ!!」
「「了解っ!」」
全員が散り散りになる。単体ならすぐ殺れるだろう。
だが、各個撃破しようとして停止したら瞬く間に私の体は体液を撒き散らして死ぬだろう。
「ウェポン・リブート!」
二人のランサーの槍の形が変わり、ガンランスの機能を搭載した様に見える。
銃口が向けられたと同時に飛び、壁を駆け回る。
私のすぐ後ろを銃弾の雨が降り注ぐ。
段々と床に近づき、床を翼で掴んで最も遠いランサーを狙う。
「はぁっ!」
盾が光を放ち、水色の壁が取り囲む。
ただの壁であるそれを掴み、勢いを殺さず反転してガンナーに殴りかかる。
「ラピッドブースト!」
後ろに下がられた途端に直線的な爆炎が私に傷をつける。
瞬間的に弾薬を放出し、再装填の為に薬莢を振って出そうとしてる所に撃龍槍を糸で刺すように投げる。
クリーンヒットは避けられたが腹を抉ることは出来た。
撃龍槍についたままの糸で私を引き寄せ、左翼脚を引きずり、そのバネを使い右翼脚で殴りつける。
しかし何かをかじったガンナーは痛みを無視してすぐさま飛び退いた。
狂気に染まった顔からして恐らく覚醒剤辺りを使ったのだろう。
飛んできたロケットランチャーを回避し、余所見をしたランサーを糸で引き寄せ鎌で切りつける。
鎧ごと裂け打ち上がった所を叩き潰す。
息の根が止まっていないと確認していた私の左鎌の付け根から砲弾で吹き飛ぶ。
丁度鎧が無い所だった。
撃龍槍を投げてガンナーを、纏った水銀を棘に変えてもう二人のガンナーを食い止めて一人のランサーに襲いかかる。
笛を右鎌で抱え、旋律がセットされる様に翼でランサーを殴る。
一度攻撃を当てる度に敵はノックバックする。
交互に殴ったあと、左、左、そして右で掴み駆け寄ってくるランサーに投げつけてそいつの槍に刺す。
笛を吹いて鎌をウイルスで作り出す。脚は完治していた。
水銀を再び纏い、銃弾が私を穿つのを防ぐ。それでも数発突き抜けるが。
再び壁を走り、今度は近くのガンナーに殴りかかる。
「くっ!」
こいつは銃器で防ごうとした。
水銀を解いて人間の姿に変わる。
再び水銀を拳に纏い、股間を強打。足に水銀を纏って腹を蹴りあげ顔を殴り潰す。
落とした銃器を拾って倒れたガンナーに試射する。
ダダダダダッ!
鎧を貫通して沢山の穴が開いた。
この銃、かなり反動が強いが扱えそうだ。
死体を蹴りあげ、翼で引き裂き弾薬が入っているであろう物を探す。
数が減ってきた為攻撃に転じる。
水銀でハンマーを作りガンナーを叩き潰す。
乱雑に振り下ろし、気を取られていた最後のガンナーを撃ち殺す。
私を睨みつけながら退却するランサーに向かって、翼で撃龍槍を投げる。避けられる前に水銀で囲んで退路を無くす。
「はぁっ!」
ギィィィィィ!!
ランサーは壁を作り、撃龍槍を食い止める。
そのまま水銀が溶けるのを待っているようだ。
撃龍槍を引き寄せゴアの翼で殴りかかる素振りをしながら、腕輪から操作を開き蒼炎トラップを生き残りを中心に設置する。
これでガードを維持できなくなったら死ぬだろう。
「くそったれぇぇ!!」
……あぁ、暇だ。
肉……炎……焼肉でも作ってみてみようか。
(上手に焼けました〜♪)
うむ、美味しいな。
奴もそろそろミディアムになっているのでは?
「……うぐっ、ひぃっ……」
生きていたか……それにしても何故泣いているのだろうか?分からん。
別にハンターの行うアプトノスを狩って焼くのと同じ行為だが……あぁ、死ぬのが怖いのだろうか?ならば気にする必要は無いな。