閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
しかし竜巻はいずれ消える。
バルファルクが私の近くに接近する。
豪雨と暴風の中、普通に飛び込んでくるその姿は軽い絶望を覚える。
「どーするのー?」
「………迎えて対話を試みる。」
「えー……マジ?」
「個として、人間だから嫌う、はない。………ルーツが異常すぎるだけよ。」
「まぁーそーなんだけどー」
彼女は濡れた土を掘り返して遊び始める。
バルファルクは力を持った我々の中ではかなり呑気な状態が多いという珍しいモンスターだ。
「私はここにいる。」
「分かったーシャンを呼ぶー」
「………まぁ、別に構わない。」
バルファルクは爆発音と共に光を翼から放ち、一瞬で音速に到達して雲を突き抜けていった。
………どうして人はモンスターを狩るのだろう。
その上で何故過激になっているのだろう。
私は遠い昔、人間に助けてもらった。
だから過剰な敵対心は抱いていない。
とても小さかった私は古龍としての能力や殺気は無く、アイルーにさえ袋叩きにされる程に小さな存在だった。
それでも私はただ好奇心に流され、独自の理論で安全かどうかを確認して雪原に入ってしまった。
寒さに凍えながら焼ける様な痛みを伴う風を打ち消し、必死に飛んでいた。
何故そこで退かなかったのか、今では全く覚えていない。
そして最終的に当時のハンターに撃ち落とされ、雪の中に墜落した。
今なら分かるが、どんな瀕死の状況であろうと私達の種程に強力ならば再生力により数日気を失えば元通りになる。
だが、その時の私は這い寄る冷たい死と倦怠感に怯えながら目を瞑ろうとしていた。
そして次に目を開けた時、私は光に照らされていた。
体に纒わり付く水滴をふるい落とし、風を纏って浮かび上がる。
「起きた?ほら、飲みな。」
突然、男性が歩いてきてミルクと肉を私に差し出した。
警戒はしたものの、腹は空いていたのだから飲んだ。食べた。美味かった。
その後、野良猫程の私が1m程にまで大きくなる20年以上の間、私はペットの様に付き従っていた。
「………これ。」
「おう。怖くなると同時に頼りになったな。」
既に50歳は超えていた彼は、獲物を追う体力が流石に足りなくなった。
当時の龍なら珍しくない念話能力で話しながら私は彼の生活を援助していた。
しかし欲に浸され、染められた噂は好まざる来客をとても多く呼んだ。
家の戸が破壊され、弓を構えた人々がなだれ込んでくる。
「いたぞ!」
「捕まえろ!」
そして私を見るなり網を構えて走ってきた。
突然の事に躱すことはしても遠くに逃げる発想が起きなかった。
「逃げろ、ヴァイラ!」
「………はい。」
当時、ヴァイラ(布)と呼ばれていた私は彼の言葉に従い、私を掴もうとする人々の上を通り過ぎて木窓を破って飛び出た。
狩猟している間に身についた風を操作する力で嵐を纏う。
しかし雪原で狩り慣れていた人々には通用しなかった。
左腕が撃ち抜かれ、自分の不利を悟った私は沢山の雪を巻き上げ、目くらましをして家に飛び戻る。
割れた窓から再び突撃しようとしたが、抗争の音が聞こえない為様子を見る事にした。
「だから!目を覚ませ!」
「ヴァイラはペットであり親友だ!お前達こそ目を覚ませ!」
「相手はモンスター、その中でも格別強い奴らだぞ!?思想が犯されてるんじゃないか!?」
「それならそれでいいだろ!関わるな!俺を捨てた奴らがよ!」
「……頼む、隣の奴らが攻めてきたんだ……!また皆で村を守ろうよ!」
「うるさい、出ていけ!」
私が屋根に身を隠して聞いていると、項垂れながら人々は追いやられた。
屋根裏の窓に腕のヒレを差し込み、空気を放出して窓を開く。
「なっ、居たぞ!龍が居たぞ!!」
「カロ!?ヴァイラ!?」
彼が駆け上がってくる。
だが、私は対話を試みた。
「………待って。どうして私を狙う?」
「……!?は!?ちょっ……しゃべっ!?」
駆け上がってきた彼は、カロという男性が困惑している姿に違和感を感じだようだ。
「どうした、カロ?」
「いや……マジかー……」
「………」
「いやね、ウチの占い婆さん居るじゃん。婆さんがさ、『吹雪を起こすのは財を奪う無音の悪龍』って言うからさ……」
「クソババアか……ちっ、あぁもう!二度と持ちたくなかったが皆殺しにしてやる。」
「ほぉぁぁ、お、恩に着る!!」
その時、彼は感情的だった。
普段に比べて短絡的に動いていると思った私は、見送った後に村と村の間で七週間嵐を起こし、遠回りを警戒しながら誰一人通さなかった。
三週間目の時に村の婆が事故、凍死した事により独裁は終焉し村人が協力して考える様になった事で平和を取り戻した。
その後、再びリーダーが選ばれたが独裁への警戒策を講じるなど反省をいかしている、と彼のソファになりながら聞いた。
………だから、神選者の頂点さえ討てば大多数の人間は反省してくれる。
私はそう思っている。
私を四方から動物達が囲む。
「………待って。まずは武器を降ろして話をしましょう。」
「お前は生きているだけで大量殺害兵器だがなぁ!!」
「「「放て!!!」」」
やっぱり駒とされている人は説得出来ない。
いや、きっと説得は最初から出来なかったのかもはしれない。
「………ごめんなさい。」
謝った。
広範囲の空気を圧縮し、高熱の空気で皆さんの体を煮えさせる。
魔法や砲弾は竜巻で地面をめくって、外側に水の壁を作り防御する。
次に圧縮した空気を戻し、台風を作る。
これで簡単な城になったかな……あ。
「………おいで。」
水と風と文明が吹き舞う中でクシャルダオラの子供が踏ん張っているのが分かった。
気流を作り、クシャルダオラを引き寄せる。
「………大丈夫、大丈夫。」
「アゥ?」
無垢な目をこちらに向けてきた。
「奴は死んだ。俺が代わりのリーダーとなろう。」
「いや、俺がやる!」
「私がやりましょう。」
「絶対私がやるべき!!」
雪を溶かす火と澄んだ血の匂い。
「人間は絶対に間違える!殺し尽くさないといけない!だから間引く!」
「………」
「我に関係があるとでも?」
「儂も余り……」
「ファーwwwカラオケするわ。」
たった四匹の龍が世界の行く末を話し合う。
………知能がある事が罪なのだろうか。
私達は正しい行動をしているのか?
いや、正しいなんて物は無いのだろう。
これもある種の必要悪なのだろうか。
「絶剣・光演封神!!」
「暴風。」
風を切って飛び込んできた人に強い風を正面から送り、吹き飛ばす。
追撃で空気を纏め、見えぬ弾丸にして穴を開ける。
「ヒール――うわっ!」
杖を巻き上げる。
竜巻を十数個起こし、まともに動けない状況にする。
………真空状態で沸騰した海や川の水分の運搬が終わった。
上空で大きな水の塊にし、大気圧で押す。
勢いよく発射された水は雲や風を貫き、地獄絵図を作り出す。
勿論殺戮は好きじゃないけど、過剰防衛は因果応報。
私は咎められる様な事はしてない。
「天誅!!」
………何処かでその声が発せられたと共に、隕石が大気圏内に出現した。
霊峰に向かって落ちてくるそれは大陸全土を破壊する様な大きさ。
「ウゥゥ!?」
「………大丈夫。待ってなさい。」
怯えるクシャルダオラのまだ柔らかい皮膚を撫でながら言い聞かせる。
数十秒後、隕石は大量の蒼い隕石と青白い彗星に破壊された。
粉々になった破片は蒼い光を纏い、何処かに向かって飛んでいく。
「………ありがとう。」
「確かここの山だよな。」
「あぁ、だが何処にも見当たらないぞ……」
「……あ、あれは!?」
「ふはははははは!!!若いモンには負けん!!!」
龍を討ちにきた人々が見たのは―――
大量の隕石の中、魚雷を連想する形の隕石に纏わりつきブレスで千剣山を破壊しながら近づいてくる龍の姿だった。
「「はぁぁぁ!?」」
第四人類
↓
第七人類
特異点があろうと最期は同じ