閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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この世界にモンスターはいらない。

だって人間の世界なのだから。



全面戦争、開始

「今日はお父さん達を見に行きましょう。」

「やったー!兵隊さんに会えるー!」

「はいはい、食べきっちゃってり」

 

まだ幼い少女はフォークを持ったまま歓喜した。

シュレイド王国のなりたい職業一位は『兵士』なのだから当然だろう。

 

少女の母はタオルで手を拭き、食べ終わった食器を水で流して食洗機に入れる。

再びタオルで手を拭く。

 

「さ、歯磨きしてて。」

「はーい!」

 

洗濯の終了を鳴らす洗濯機へ向かい、籠に引き出す。

 

少女の着替えの終了と、母が洗濯物を干し終わり階段を降りてきたのは同時だった。

母はパソコンを開き、パレードの空き椅子を検索する。

 

「国民ナンバーは、えっと……」

 

20桁のナンバーを打ち込む。

すると固定電話が鳴る。

 

ガチャリ

 

『シュレイド王国軍事省経営部広報隊の特設コールセンターアンドロイドでございます。たった今、〇〇地区にあるパレード観覧空間D-4、D-5の席の予約を取られましたが、本人のご意思ですか?』

 

人間の声にかなり近い機械音声が電話から響く。

 

「はい。」

 

『支払い方法についてですが――』

 

「国民ナンバーによる銀行引き落としでお願いします。」

 

『ありがとうございます。それでは今からチケットとパンフレットをお送りします。しばらくお待ち下さい……推測、残り30秒です。』

 

「ちょっとポストで待ってて!」

「はーい!」

 

『……目的地に到着しました。今しばらくお待ち下さい。』

 

プロペラ音が近づいてきた。

 

ポストが風によって音が鳴ると、そこから二つ袋が入ってきた。

少女はそれを持ち、喜びながら母の元へ走る。

 

『今回のドローンの航空に異常無しです。内容物はこちらの写真の通りになっております。お確かめの上、不備があった場合はこちらの特設コールセンターへお電話をおかけ下さい。それでは、シュレイド王国軍事省経営部広報隊のアンドロイドでした。』

 

電話が切れる。

母が電話を切って置くと、少女が一気に騒ぎ出す。

 

「みてみて!チケット!パンフレットも!」

「無くすから散らかさないで!」

 

さっさと破り、中の物を出し始めた所を一喝する。

 

「……はーい。」

 

今まで無くしたおもちゃより、今のチケットの方が大事だからと少女は従った。

 

「はい、トイレ行って。飲み物はあっちで買うわ。」

「はーい!」

 

その必要はないのに少女は走ってトイレに駆け込む。

そして母はにっこりとチケットを見た。

 

「楽しみにして、と言ってたけど……何かしらね。」

 

 

 

 

 

 

停車位置で親子の車の赤いランプが光っている。

外部操作受け付け状態にする為サイドブレーキのボタンを押して横に動かす。

 

扉を開いて外に出るとドローンが飛んできて母にスマホ型の発信機を渡し、車の上部にあるパネルを開いて駐車場へ並ぶ長い車の列へ動かす。

 

少し待つと、発信機から声が発生する。

 

『欲しいものががありましたら食べ物の名前や、飲み物の名前などを打ち込んで下さい。』

「何、飲みたい?」

「リンゴー!」

「り、ん、ご、ジュース……っと。」

『付近のりんごジュースです。お選び下さい……これでよろしいですか?それでは、現金、もしくはクレジットカードはお持ちですか?』

 

画面に浮かんだ選択肢が浮かび、母は現金を押す。

 

『しばらくお待ち下さい。』

 

画面が暗転し、次に表示されたのは街だった。

自分達を示す赤色の点と、それぞれの場所の名前と簡単な説明が出る緑色、動いていない青色の点がある。

 

「ねぇママ。あっちだよね?早く行こ!」

「はいはい。私から離れないで。」

 

親子が歩き出すと街の画像が動く。

そして青い点が猛烈な速度で動き出す。

 

ドローンが飛んできた。

 

『りんごジュース到着です!』

 

りんごジュースをがっしり全ての面で掴んでいる白いドローンのコイン入れにお金を入れる。

すると下と正面の抑えが無くなり、持って下に引っ張るとドローンの支えは終わり、飛んでいった。

 

「あれ、ママ。青い点がまたあるよ?」

「ん……あ、ホントだ。」

 

『パンパカパーン!残暑に気をつけようキャンペーン!二人で250mlは足りないだろう?倍プッシュだ。』

 

「あら、そんなキャンペーンやってたの。」

「あー、来た来たー!」

 

今度は発信機を近づけるとドローンの拘束がとれた。

それぞれりんごジュースを持つ。

 

 

 

 

『チケットをこちらに』

 

チケットの内側にあるQRコードを開いてプラスチック越しに認識させる。

 

『確認致しました。どうぞ楽しんでいって下さい。』

 

そして親子は既に人がいる比較的暗い空間に入った。

 

「楽しみー!」

「はいはい。」

 

椅子が無いのは立っている方が人間は興奮しやすいからだ。

 

 

 

けたたましくファンファーレの音が鳴り響く。

 

『大変長らくお待たせ致しました。少し揺れますが、踏ん張ってくださいね。』

 

そのアナウンスが終わると同時に、空間のあちこちから機械が始動する音がする。

最終的に、ガチァン!という音と共に機械が建物を囲み、唸りをあげる。

 

『強烈な光が発生します。目をお瞑り下さい。』

 

ギィィィ―――

 

 

 

そして人間達はとある街道に移動していた。

 

砂埃の向こうから行進と楽隊の音楽が聞こえ始める。

 

「「「わぁぁぁぁぁ!」」」

 

その街道には元々来た人間、そして各地の施設から二重存在をメルト=ラインによって発現させた人間が重なっていた。

皆、大声をあげて歓声をあげる。

 

 

 

あーあー我らと我が国はー

世界の何処より気高くてー

我らを脅かす者共ー

我らの力で捩じ伏せるー

 

世界にまたかける者共ー

そーれは我らと我が国だー

世ー界を堕ーとす怪物をー

一朝一夕いっちょういっせきで駆逐するー

 

あーあー讃えよお互いをー

我らは国民、国の民ー

例え王が頂点でもー

我らが国を作ってるー

 

再び向かえよ戦場にー

再び戻れよ我が国にー

富国強兵理想を求めー

世界を統べるは我々だ!

 

 

 

軍歌を歌いながら兵士達が足は全員揃えて歩き、手を振ったりする兵士が中にはいた。

そして戦車がドリフトしながら入ってくる。

街道の中央で急ブレーキしながら三両とも横に並んで砲塔が板になっている戦車が下に向けた。

 

水陸山踏破バイクが突っ込んできて飛び越えていく。

 

「「おぉぉ!!」」

 

蓄電放出を行いながら思いっきり飛び上がったり、滑空する。

数十台による数回ずつのアピールが終わると戦車は急発進して去っていく。

 

「怖っ!」

「凄い!」

 

 

そして先程の戦車より装甲が見るからに硬そうな戦車が30両、ゆっくりと通り過ぎていく。

その間に空を戦闘機が数機飛び、噴出した煙で空に国旗を描く。

 

「うおぉ……かっけぇ。」

 

 

続いてアンドロイドの兵が歩いていく。

球足、二足、多足型と色々混じっている。

中にはネコ耳、きつね耳などのアンドロイドが混じっていた。

 

「かっけぇぇ!」

「こっち見て!」

 

 

その後に超能力付与服を着た兵士がワープしたり物を出現させて80個四人お手玉をしたりして驚かせていく。

 

「目が回る。」

 

 

次に神選者を乗せたバスが複数走っていく。

次々と歓声があがり、変身系、イケメン、美女、超火力、かっこいいで反応が別れていた。

 

「変身!イリュージョンスターティング!バグアラート!バージョンアップ!リ・リ・リ・リスタート!」

「きゃー!ハル様ー!ハル様ー!!」

「うおおおおお!」

「見ろよ、あの180mm砲を背負ったあの方を!」

「世界を変えてくれー!」

 

 

それが通り過ぎると今度は多種多様な戦術兵器が走ってきた。

 

『短期重力湾曲砲』

『エナジーバリア・リフレクター』

『超電磁四連装砲塔重戦車』

『焼夷魔法砲塔戦車』

『ガーディアン』

『破壊砲戦車』

『絶対等速直線運動砲』

 

等を筆頭にした戦略・戦術兵器が走る。

 

「よくわかんね」

「まるで新品の様だ……」

 

 

続いてパワードスーツ、エアーアーマー、バーストコートを着た兵達がそれぞれ走り、飛行、跳躍を列を崩さず通っていく。

 

「うおおおおお!」

「介護に欲しい」

 

 

トラックがこっちに走ってくる。

いきなり飛び跳ねたかと思うと変形し、巨大なロボットとなる。

 

そのロボットが観客に手を振っていると突如ポインターが横に出現し大量の誘導弾を放ちながらロボット落下してきた。

バリアを張って待機状態となったそこにパワードスーツを着た人間が跳んでくる。

 

「あ、パパだ!」

「……本当ね!?」

 

彼女達の父だった。

ロボットの操縦席が開き、差し出された手を使って飛び乗る。

そして道がが割れ、破片と共にロボットが出てくる。

 

スラリとした身体は何処か宇宙外生命体を感じさせた。

 

ギロりと周りを見渡した後、そのロボットは物理的にありえない動きで走っていった。

それに続いて他のロボットも去っていく。

 

そして、沢山のイコール・ドラゴン・ウェポンが列を成して行進する。

落ち着いた気性の方のイコール・ドラゴン・ウェポンとはいえ、厳つい風貌は見る者に恐怖を与える。

 

 

 

行進が終わり、ARで道の上空に国王の姿が映される。

 

「諸君、こんにちは。いい天気だな。」

 

一呼吸を起き、マイクを調節する。

 

「本日のパレードにて我々が簡単に公表出来る軍事力でこれだ。そして諸君達が知っているように、最高の火力を持つ異砲船が我々の宇宙にある。この軍事力、技術力を用いて十数年の間に大陸の大半を我々の国として取り戻し、今度は宇宙へ諸君と共に活動範囲を広げる事をここに約束しよう。我々は何者にも脅かされない幸福なる生活を作る事が出来ると信じている。

 

その為に、我々は異世界を利用する事にした。

彼、彼女等は旅行しにきた人として受け止めてほしい―――」

 

 

 

 

演説中に世界の各所で空が光る。

 

そこから現れたのは沢山の平べったい船。

船の砲塔が森を、山を、氷を、火山を、海を狙う。

 

そして活気ある村も例外ではなかった。

 

「ちょっと……何あれ!?」

「神選者様の船か……?」

 

船を見上げていた人間達は、砲弾に気づく事無く木っ端微塵になる。

ギルド、王宮は尽く破壊され、民家の一軒も残さずに撃ち壊される。

 

巣にいたリオレイアは巣ごと埋められ、眠っていたガムートを砲弾が貫通し吹き飛ばす。

ただ歩いていたテオも爆撃に重傷を負い、あらゆる地域の草や腐肉が焼き払われる。

 

そして、竜機兵が何処かから大量に飛来し、生き残った獣や竜を殺し尽くし、竜の雛も人の子も関係なく素材に変えてしまう。

 

 

 

 

そして、ドンドルマは戦車や空爆に襲われていた。

泣き叫ぶ人間も容赦なく撃たれ、粉々にされる。

 

竜機兵も大量に飛来し、地下に隠れた人間を焼き払う。

 

大老殿は既に破壊されており、戦車の前に人も竜人も武器も体躯も関係なかった。

 

「くっ!指揮系統も何もないな!」

「あぁ……皆さん!こちらに急いで!」

 

ギルドナイトの女と男は竜機兵を相手にして生き残った人々を誘導していた。

 

「ふんっ!」

 

女は竜機兵の鱗の隙間に双剣を刺し、対物ライフルで風穴を空ける。

しかし竜機兵は呻きはするが、全く動きは止まらず振り落としにかかる。

 

「閃音爆弾いくぞ!」

 

男が何かを投げると、強烈な閃光と爆音が響き渡る。

望遠鏡でこちらを見ていた観測員が失明した事により、進行が遅くなった事を彼らは知らなかった。

 

「下がる!」

「了解!」

 

街より数十倍大きいドラゴンが立ち上がり、1歩踏み出して街を壊滅させる。

爆撃機もまだまだ残っており、逃げる一般人を余すことなく爆撃する。

 

 

 

 

ドンドルマは壊滅した。

寝返ろうとした神選者は片っ端から殺されていたのだ。

そして、原住民がオーパーツに対抗が出来るわけがないのだから当然の結果だろう。

 

 

 

 

「「シュレイド王国に栄光あれ!」」

 

パレードが終わる。

 

『帰還します。揺れにご注意下さい。』

 

 

「あー、楽しかったー!」

「良かった良かった。」

 

特設施設からわらわらと人間が出てくる。

 

「私も大人になったら兵隊さんになりたーい!」

「いいわね……でもお父さんと同じでエンジニア方面かしら?」

「えんじにあ?」

「うーん……ロボットを操作出来る役割かな?」

 

「へー、楽しそう!」

 

 

ティガレックスの羽が握りつぶされる。

胴と頭を掴んで首を千切る。

 

 

「きっとお父さん以上の兵隊さんになれるわ!」

 

 

ブラキディオスに殴られても全く動じないその金属の体は、高速で回転する刃を振り下ろした。苦痛の咆哮が響く。

潜水艦がアームを伸ばしてザボアザギルを掴み、砲塔を向ける。海が赤く染まる。

 

 

 

 

「えへへー。」

 

 

 

 

 

 

 

『きょうのにっき』

 

へいたいさんはかっこよかったです。

わたしもしゅれいどおおこくをたすけたいです。

そしてぱれぇどでみんなをえがおにしたいです。

おとうさん、だいすき!

もちろんおかあさんもすき!





我々は選ばれし人間である。
私は一国民として、王国を支え糧となりたいと思う。
そして妻よ、我が子よ、愛しているぞ。

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