閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
「そろそろだな。」
「という訳でクトゥルフ達と作戦会議をしてくるわ。」
「はいはい、遊んでこい。」
世界は誰かの下で動いている。
彼も彼女も貴方も何かの下にいる。
蝿も菌も塵芥も何かの上にいる。
世界はそれぞれの存在によって違う。
でも気遣う理由なんてない。
従う理由はない。
個々の存在は個々であり融合する事は不可能。
その筈だった。
ネセトで燃え盛る森を走っていると黒い竜……いや龍が居た。
私の知らない龍だ、進路を変えて無視しよう。
空を飛ぶ機械や竜は居なくなった。
これなら移動が楽そうだ。
「ヅアムゥゥッッ!!」
「キィィィッ!?」
奇妙な叫びのあと長く開いた赤い腕にネセトが捕まれ、馬鹿力で引き寄せられる。
咄嗟に抵抗しようとするが胴を掴んでくる。
「コオス、コオス!!」
そしてもう一本の腕で強烈な一撃を何度もぶつけてきた。
ネセトの骨を守る岩にヒビが入っていく。
……なんか普通のモンスターらしくない攻撃方法だな。
ネセトの顔を向けて撃龍槍を放つ。
腕で抑えようとしたが貫き、勢いの無くした撃龍槍が龍にのしかかる。
足を抑える腕を振りほどき、飛び退く。
「ガァァァァ!シネッ、ハヤクシネ!!」
……明らかに『死ね』『早く死ね』と言っている。
なんだこいつは?
盆の中の水銀を二つの巨大な槌に変え、地中から水銀を精製し相手を刺す。
龍は自身の体が裂かれる事を気にせずに赤く光る腕を伸ばして地を掴み、体を引き寄せる様に移動してきた。
血が飛び散り、黒い液体も飛び散る。
頭に水銀の槌を一つ当て、撃龍槍で穴が空いた左腕をもう一つの水銀で殴る。
再び黒い液体を散らばしながらネセトの首を掴み移動し、もう一度腕を伸ばして私の籠る繭を掴んだ。
人間の言葉を喋り、明確な弱点を狙ってくる……こいつもバルファルクみたいな奴か?
繭をねっとりと黒い液体が染みていく。
泡立っていて気持ち悪いが、ガスは放っていないから持ち直せる。
私はそう思っていた。
ザン、と細い柱が生えた!
繭の中から即座に外に出れるはずも無く、私は沢山の針に貫かれる。
染み込んでいない後方へ咄嗟に頭をずらしたお陰で致命傷は避けたが、それぞれの部位が切り刻まれて血が流れている状態だ。
繭を切り裂き、笛を担いで外に出る。
「ニガスガァァァ!!?!」
龍は腕を伸ばし、私の頭の後ろを握り潰した。
そのまま顔の方へ持っていく。
「オマエヲ、殺シテ、俺は……っ!!」
……?
とりあえず水銀を大量の刃にして顔面を襲わせる。
「ぎゃぁぁァァァ!!」
思いっきり怯み、振り払おうともう片方の腕を動かすが間に合わず、私を離して水銀を防いだ。
着地し、笛を振りながら糸で握りつぶされた部位をちぎりとる。
笛を吹く前からウイルスの活性化、そして自己再生力の強化で治癒を早める。
一瞬人間みたいだったな……何かがあるのか?
まぁどうでもいい。私を殺そうとしていると分かったら尚更だ。
笛を振り、自己強化をしながら撃龍槍を回収して背負う。
互いに周りながら相手の様子を見る。
空襲で焼けていく森の音が気にならない程に集中する。
「ゴォォォォォ!!」
先に動いたのは龍だった。
爆音の咆哮をしながら腕を振りかぶる。
ネセトが機敏な動きが出来ないだけで、私は避ける事が出来る。
再び咆哮し、長い腕を振り回して液体を撒き散らしながら突進してくる。
空中で水銀を棒にして、撃龍槍を投げつけてから糸を水銀に放ち上空で突進を回避する。
「ハヤク……!」
突然全身から液体を撒き散らした。
私の体に付着した液体が針となり私を貫く。
水銀の弾丸を放つが、針の壁が出現し怯ませることが出来なかった。
「オワレェェェ!!」
立ち上がって叫ぶと共に暗雲が広がる。
ネセトより低い位置にある雲から大量の黒い雨が降り注ぐ。
水銀で傘を作り、雨を凌ぐ。
所々が裂けて刃が突き出してくるが、私には届かない。
撃龍槍に糸を放って回収し、すかさず立ち上がって咆哮し続けている龍に投げつける。
「ガァァッ!?」
大きく怯み、転倒して自らが撒いた水溜まりから生える針に刺さる。
笛を振り回しながら近づいて頭に叩きつけてから鎌で切りかかる。
そして水銀の槌を当てて、余り動かなくなった所でもう一度撃龍槍を叩きつける。
謎の龍は動かなくなった。
液体が空気中に巻き上がっていく。
そして黒い空気の中から光が現れる。
「処分完了。被検体の身体を回収予定。裏切り者の中でも優秀な成績……でも死んで当たり前の行動をした……」
何か独り言を言いながら板に書いている。
とりあえず何もしてこないので放っておき龍に糸を放ち、引っ張ろうとする。
「邪魔。」
人間は手を振り上げる。
ウイルスが奇妙な反応をする。
まるで何か透明な剣が……とりあえず飛び退く。
手を振り下ろした。
地が裂ける。
まぁそこまで驚く事でも無くなってきた。
人間は自分の手を擦りながら言ってくる。
「分かったらそのモルドムントを置いていきなさい。」
私の戦利品を横取りしようとするのか……こいつこそ邪魔だな。
ウイルスを飛ばし、先程の感覚の正体を探る。
すると、私より高い位置の後方で先程の反応が一瞬走った――
「見つけたわぁぁぁぁぁ!!」
っ!?
雷を放出しながら白い龍が現れ、人間に突進していく。
それはあの時に私を人間にしたふざけた龍であり、しかし現在は雷の一本一本が即死する威力で放たれている。
「くそっ!?はあっ!転移っ!」
ウイルスが反応を示す。
人間を中心に放たれていて、壁の様になっている。
雷も突進も防がれている。
「逃がさない逃がさない逃がさないぃぃぃ!!にゃんにゃん!!」
「……ヌヴ。」
先程ルーツが出てきた所から奇妙な人型が出てきた。
腕や背中から触手を伸ばし、謎の壁に全く干渉せず通り抜け、人間を掴んだ。
そして人間が光り、人型も光って消えた。
「そこ、ね……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
ルーツも狂った様に殺すと呟いてから消えた。『殺す』
『殺す』
『殺す』
……炎の音が戻ってくる。『殺す』
早くネセトを組み直して逃げよう――『殺す』
『殺す』
『殺す』
今度は空から何かが落ちてくる音がする。『殺す』
一体なんなんだ、と反応に疲れながら見上げる。『殺す』
『殺す』
超巨大な白い岩?が大量に落ちてきていた……『殺す』
あ、一つはこっちに落ちてきている。『殺す』
『殺す』
……次の瞬間粉砕されていたが。『殺す』
『殺す』
「ォォォォォォンッッ!!」『殺す』
『殺す』
ジンオウガが空で吠える。『殺す』
この地域だけは守られた、という事か?『殺す』
……とりあえずネセトを直す。『殺す』
『殺す』
直し終わったら今度は龍を……ん?『殺す』
龍は数ヶ月放置された死体の様に腐り、腐った肉が無いところに人間が横たわっていた。『殺す』
『殺す』
……なるほど。『殺す』
モルドムントだったか?そいつの死体に練り込まれて私らを殺したら元に戻れる約束だったのだろう。『殺す』
『殺す』
しかし、私はそこまで狙われる様な存在だったか……?『殺す』
早くこんな生活を抜け出して楽しく生きていきたい所だ。『殺す』
『殺す』
『殺す殺す』
『殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
光の無い床が無限に続く世界に神選者は逃げた。
乱れた呼吸を整えようとせずひたすらに焦っている。
「この空間に逃げれば、流石に……!?」
その希望は一瞬で砕かれる前に実現不可能となった。
雷が迸り、空間が裂けていく。
「っ―――」
神選者は行動しようとした。
しかし発見した事による興奮が収まったルーツは、神選者を腹から爆発させて殺した。
たった一本の雷で人は死ぬ。
当たり前な事を起こしただけだった。
「サンキューにゃんにゃん。」
「……この空間は?」
「知らない。」
ルーツは死体の顔を潰し、脳を引きずり出して手に持った。
電気を使い、海馬等から記憶を出力してホログラムにする。
「ふーん、さっすが私のアトラルだわ、ウルクススも倒したのね。」
しばらくそのまま時間が過ぎ、用済みになった脳を蘇生してしばらく反応を楽しんでから踏み潰した。
「さぁ、新たなシーズンが始まる!」
(先程の)モルドムント
古龍から生まれたゴア・マガラ。
比類なき強さを持つはずだったが成長途中で神選者に捕まり、融合実験の対象となって龍にとって余りにも短すぎる生涯を終えた。
しかし潜在的な力に目をつけられ、死体となってからゾンビ化などの実験にも使われた。
最終的には検閲レベルを満たされていないため文字を消させていただきました