閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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死は死を呼ぶ



犠牲の犠牲にな!

ジンオウガの集会に巻き込まれて4日後。

ナルガクルガに取っ手を回すと装飾品の嵌めるところが出てくると教えられ、笛に操核を嵌めてから2日後。

 

笛にゆっくり水銀を纏わせ始める。

 

「アウッ!アウアウ!」

 

威嚇して距離を取るランポスに向けて笛を振り下ろす。

一気に水銀を大剣に変え、ランポスを叩き切る。

 

……残念、水銀の力だけで叩ききってしまった。

理想は私の力と水銀を操作する力が合わさる事だが……まぁ一朝一夕で出来たらもっと大規模に水銀を精製出来るだろう。

 

一度水銀を解除し、糸でランポスを直す。サンドバッグだ。

再び笛を構え、水銀を纏わせる。

 

「……キイッ!」

 

……駄目だ、まだまだ水銀と私が釣り合ってない。

力任せだったり運送は出来るが、水銀が一番搦手に使えるのだからそれを実現させなければならない……

 

 

 

突然、ナルガが私の後方に現れた。

ウイルスの感知より圧倒的に速い。

 

「なんだ?」

「現在ハンターが4人、こちらに向かっております。危篤状態にする準備を。」

「……そうか。」

「これにて。」

 

そう言い残してナルガは消えた。

ウイルスが乱された跡のみが進行方向を示す。

 

どうすればいいのだろうか……

手加減する以外に思いつかないな。

 

 

そしてハンターは何を目的に来るのだ?

 

 

 

 

 

 

 

よし、到着だ。

 

「みんな、いつも通り!」

 

セナと僕はキャンプを建てる。

サヤは周囲の警戒を、シャーリーは木や飯盒の容器などを。

 

「よし、終了!」

「装備を整えてから行くとしましょう!」

 

 

そして装備のチェックが終わり、辿異種エスピナスが居ると思われる巨大な木に向かおうとキャンプを出た。

 

そして僕は違和感を覚える。

風が吹き、そして気づく。

 

「静かすぎる……!?」

「確かに。古龍でも来たのでござろうか?」

「でも古龍の襲来なんて……」

「いや、手違いとかあったのかもしれない。出来るだけ離れないで行こう。」

 

慎重に、周囲を警戒しながら進む。

 

 

 

そして黄色い糸が木の穴を塞いでいた。

 

「……っ!?あれは、アトラル・カの糸?」

「分かりません、もう少し近づきましょう。」

 

僕達は一歩足を踏み出した。

 

すると頭上から黄色い影が降りてきた!

 

「キィィィィィ!!」

 

鎌を振り上げながら威嚇するその姿は久しい。

 

「アトラル・カだ!」

「いくでござる!『絶空剣』!」

 

サヤの蒼龍刀が抜かれ、アトラル・カを襲う。

空気を裂く白色の刃が敵を包む。

 

「くっ!?」

「……」

 

しかし鎌が異常に硬いのか、傷さえ余りつかずに刀を抑えられた。

僕は大剣を構え、走る。そして――

 

「『地衝破斬』!」

 

大剣とそれを追う衝撃波をアトラルに……!?

視界に広がるのは一面の黒色だった。

 

「えっ!?」

「ダン君!あ、アトラルからゴアの翼が!」

 

急いでサヤと共に下がる。

異様に静かだったのはゴアの力が周囲に影響を与えていたという事か。

 

まさか、『黒き翼を持つ女王』の噂は本当だったのか!?

そうすると、マキリ・ノワと対峙した事のある歴戦の猛者という事に……

 

アトラル・からは糸を上に放っている。

 

「はぁっ!『破岩斬』……っ!」

 

本来なら切った敵を通り過ぎるはずの攻撃が、上空から落ちてきた何かに防がれた!

……笛?

 

「情けないですわね。ふん――喰らいなさい!『バレットダンス』!!」

 

シャーリーが銃を持って瞑想したあと、光を纏った大量の弾丸が放たれる!

 

バンバンバンバン!!!

 

金属質な何かに当たる音がした。

謎の銀色の何か……は、一瞬で形を崩しサヤが弾かれて転がってくる。

 

「くっ、このアトラル・カ、おかしいでごさる!」

「でもここに居るのは事実よ。」

「銀色の盾ってなんですの!?」

 

皆の叫び声が遠くに聞こえる。

僕はある事に気づいた。

 

笛を持つアトラル・カ。

 

最近は全く話題に上がらかなかったその個体……残奏姫アトラル・カ。

異常な知能を持つとされていたのだから、鳴りを潜めて静かに強くなっていたのかもしれない……!

 

ならば、逃げられる前にここで倒さなきゃ!

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

……あんなに時間をかけて考えついた行動が突進?

こいつも頭がいかれてるな……笛を叩きつける。

回避して大剣を振り下ろしてきたのだからゴアの翼で払う。

 

「斬鉄剣!!」

 

かなりの速度で突っ込んでくるがこの笛を破壊できない以上、私に致命的な一撃は与えられないだろう。

銃を構える女を中心に水銀の柱を生やして吹き飛ばす。

再び大剣が突っ込んでくるが、笛に水銀を纏わせ大剣のガードごと殴る。

 

「エネルギーブレイドぉぉ!!」

 

私の死角から巨大な光剣が発生、地面を切り裂きながら振り上げてくる。

予備動作は長いし、ウイルスの感知から逃げていた訳でもないから避けるのは容易かった。

 

「剛膜剣――うわっ!?」

 

再び私に近づいた女を掴み、チャアクに投げる。

糸を飛ばして大剣を取り上げ、男を引き寄せ掴んで遠くに投げる。

 

銀で壁を作り、銃弾を防いだら水銀に埋める。

そして水銀を振り回し、解除して遠くに投げ飛ばす。

 

「ここは私が――っ!?」

 

チャアクの盾を相手は突き出した。

翼で盾ごと握りつぶす。

逃げようとした女も水銀で串刺しにする。

 

「がはっ……!」

 

……そうだ。

周辺の木を見渡す。

 

意識ある女の首と腰と四肢を縛り、空中に吊り上げる。

そしてしばらく待つ。

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

なんでサヤが宙吊りに!?

 

「サヤを離せ!」

「……」

 

アトラル・カは何も反応を示さない……と思ったら動き出した。

鎌を口に持っていき……

 

「キッキッキッキッキィィィ」

 

まさか、高笑い……!?

こいつ!殺す!

 

「サヤ、待ってろ!!」

 

ナイフを構え、走り出す。

アトラル・カを倒して――

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」

 

サヤ……ぇ……?

 

 

 

 

首を掻き毟る女を見て硬直した男をゴアの翼で掴む。

 

「う、わぁぁぁぁ!!」

 

今度は振りかぶり、全力で投げる。

余り奇妙な現象は起きなかったが、神選者だったのだろうか?

 

……とりあえず終わったな。

笛を吹く必要性も無かった。

 

首に痕がつくほど掻きむしった後に力が抜けたのか糞尿が落ちてくる。

ランポスが来るだろうし、地面に降ろしておけば処理してくれるか。

 

さて、パニック状態なら会話が困難だから少しだけ時間稼ぎが出来るだろう。

今のうちに色々と仕込んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

樹海近くの中継地点

 

 

 

今日も平和な一日……の筈だったのに……

 

「なか、仲間が、サヤが、アトラル・カに殺された、早く助けを!!」

 

日常茶飯事の事ですか、やはり慣れませんね……

 

「では被害状況の質問をさせていただきますので、こちらの部屋へ。」

「あ、ああ!」

 

男性を連れて部屋を移動する。

インクと万年筆と紙を取り出し、マニュアル通りに質問する。

 

「今回は辿異種エスピナスの討伐でしたが、実際はアトラル・カに倒されたという事ですね?」

「しか、しかも、アトラル・カからはゴア、ゴアの翼が……」

 

はぁ……こうやってすぐ錯乱する人が出る。

モンスターが合体したら死にますからね……普通の人間なら分かるはずです。

 

「落ち着いてください。ゆっくり狩りの手順を追って説明してください。」

「え、えっと……四人で木の洞に入ろうと思ったけど、アトラルの糸で防がれていて、上から出てきたアトラル・カをさ、サヤが斬ろうとしたら余りダメージが無くて、笛を構えて、僕はゴアの翼に投げ飛ばされて、アトラル・カの所に走ったら……ハァッ、ハァッ!!」

 

過呼吸……メンタルが弱いですね。

経歴から別に人が死ぬところなんて数回は見てるでしょうに……

 

それにしても、笛、か……

もしかして一時期警戒リストに上がった残奏姫アトラル・カ?

 

しかしゴアの翼……見間違えだとしたら投げ飛ばされたという発言がよく分からない。棒(爪)に殴られた、ならまだ分かるのに。

とりあえず報告しよう――

 

 

 

「何言ってんの?アトラル・カにゴアの翼が生えてる?」

「はい、生き残ったハンターは――」

「馬鹿な事言ってないでさっさと残奏姫への警戒案を出しなさい!」

 

ギルドマスターに否定されたならしょうがない……

では、対残奏姫のパーティを集めるとしましょう。経理部のあの人は嫌だけど……




ちなみに撃龍槍は担いでいましたが、手加減しても千切れそうなので使いませんでした
そして辿異種エスピナスは潰されています(400相当)

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