閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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熱中症で気だるくなると水分を摂る気もなくなりますからね、冗談抜きで機械のように定期的に水分とりましょう。
ね、鏖邪?

『……いや、話しちゃ駄目だろ。』



給水は大切に

「か……鑑定終わりました!」

「分かりました!よろしくお願いします!」

 

神選者は各々でチームを作り、それぞれの考察と攻略方法を出す。

それを他のチームに提案し、咀嚼する様に案を揉み、最適だと思われる案に変化させて飲み込む。

先に戦いを挑んだ者は戻ってこなかった。

 

「落ち着いて見て下さい……鏖邪の平均的な肉質を提示します。」

 

「……超狂暴走状態の肉質、異常だな。」

「頭が80、体が70、尻尾が95かよ……」

「足が5、角が10ですわね。血管が見えても硬いままですか。」

「前回のアップデートのせいで穿龍棍のダメ計算変わっちゃったからなぁ……」

 

「ふーん、全体的に氷が20ね。」

「……うーん、次点で雷が5。それ以外は効かないと。」

 

ざわつく。

 

なんだ、ただの体力馬鹿か。

 

この世界は3Gのブラキディオスみたいに自傷があるから予想より楽に終わるかも、と。

 

だが、その後に考えもしなかった事が言い渡される。

 

 

 

「全体防御率が……0.0015なんです……」

 

 

 

「「……え?嘘だ……っ!!」」

「全体防御率って何?」「聞いたことないわね。」

 

ナンパリング勢は余り知らない。知らなくてもやっていけるから。

そしてフロンティア勢は嫌というほど知っているだろう。

 

 

無双襲撃戦を筆頭とした化け物の数々を。

その脅威の耐久を。

 

 

「え、だ、ダメージ通るか……?」

「分からないです……が、奴を怒らせたという事はあの攻撃がとても痛かったのだと思います。」

「……はい!『絶対停止』を複数人で行い、その間に皆の総火力を浴びせるのはいかがでしょう!」

「……絶対零度と部分的時止めが出来る方は?」

 

複数手が挙がる。

提案者が素早く近づいて声をかけ、全員が支持の意を示す。

 

「『演算開始』」

「『悪魔頭脳』」

「『全知過程』」

「『七つを繋げる者』」

 

物質。能力。頭数。環境。

そして人間の思考。

 

総てを予測し、絶対的な勝利を識る。

初めて、もしくは久しい脅威の対象に万全の体勢で挑もうとするのは当たり前だろう。

 

三人集まった所で識っている世界は余り広がらないのに。

 

 

 

 

 

暇つぶしに水銀の槌を振り回す。

撃龍槍より柔らかいが、細かく、速く動かせる……やはり切断に使う方がいいのか?

 

……王女を待つのが焦れったいな。

よし、入るか。

目につく奴ら全員殺していけばいい。

それなら水銀を操る練習になるだろう。

 

門を蹴破り、首を下げて入る。

全く人間の姿は無かった。

 

……かなり遠くに行ったのか?

伝言を頼むか。人間の姿に変わり、叫ぶ。

 

「王女が来たら、牙の方に向かったと伝えてくれ!」

「了解しました!」

 

糸の準備をする。

水銀を浮かし、ネセトで住宅を突っ切る。

吹き飛ばされた瓦礫を水銀で回収、糸でネセトの鎧にする。

 

……ある程度湖に近づいたら静かに歩こう。

 

 

 

 

 

 

「全軍、撃て!」

 

一斉に壁越しに鏖邪に向かって榴弾が放たれた。

数km離れているが、第二異砲船による座標特定によりとてつもなく精度が上がっている。

まるで衝動を抑えるかの様に震え、ゆっくりと歩いていた鏖邪に爆発の嵐が襲った。

 

 

 

ぐちゃりと口が開く。

水蒸気が漏れる。

 

『ヴゥゥ……

ヴァァァァアアアア!!

 

水蒸気と共に咆哮が響き渡る。

強烈な衝撃波は飛んできた榴弾を破裂させる。

 

そして尻尾が肥大化する。

水蒸気を放出しようとした。

 

「間に合え!『絶対零度』!」

「体感せよ『絶対温度未満』」

「タイムロック!」

「時を奪う。」

 

例えどんなに強くてもたかが竜。

ピタリと停止する。

 

 

20秒後。

 

止まっている物には一切の干渉が出来ない。

 

そのため、解除と共に強烈な攻撃が一斉に放たれた。

爆発が奴を飲み込んだ―――

 

大きな音が鳴る。

 

たった今大ダメージを与えた筈なのに、どうして守るべき壁が壊れたのか?

答えは簡単だ。

 

 

「ガァァァァ……」

 

再び血管が余り見えなくなる。

落ち着いた鏖邪は穴から崩れ続ける壁と、吹き飛び横転した車の横を歩いていく。

 

既に突進の構えをしていたのだから罠を仕掛けるべきだった。

 

残った戦車や砲台から弾丸が雨のように襲う。

更にエネルギーを溜めた塔がレーザーを放つ。

 

爆炎を吹き飛ばしながら鏖邪は再びブチ切れ、体を捻りながら水蒸気を放出し始める。

神選者が何をしようとしたか理解する前に、人間が殺意の範囲から逃げようとする前に回転を始めた。

 

水蒸気で加速しながら地を削り、爆発して上空に舞い上がる。

 

「ダイヤモンドダスト!」

「氷結の結!」

 

しかし熱で溶けてしまい、効果が無かった。

 

再び水蒸気を放出し、レーザーを放つ塔を叩き潰す。

木の板と鉄の部品が舞った。

 

再び暴走状態に戻る。

 

 

 

 

はぁ……はぁ!

間に合った……

 

奴らの考えと鏖邪の狙いが分かった!

 

わらわは大声で言う。

 

「皆!ここは危ないのじゃ!鏖邪がやってくる!」

 

……やはり怪訝な顔をするだけじゃな。

ここで取り出すは『病想の鎌』!

馬鹿ならこれで神選者と信じてくれる!

 

「鏖邪の狙いは水じゃ!だからここに真っ直ぐ来ている!さっきから声が聞こえるじゃろ!」

 

……ちっ、子供の言う事を信じておらんな!

何か都合よく……!?

 

灰色の破片が飛んできた!

 

……そういえば神選者がいない。

何故じゃ?好感度稼げると思うだろうに……

 

さぁ、病想の鎌で破片を粉々にしてやろう!

考える事をやめたヤツらは武器の力で騙せる!

 

「はぁあああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

よしっ、間に合った?

 

他の村からリオレウスに乗ってきたけど、人のいない村をあの鏖邪は闊歩していたよ。

さぁ、盾の能力をみせてあげよう!

 

「挑発!」

 

赤いオーラを纏い、こちらに注目を向ける。

 

「完全防音!吹っ飛び極大減少!」

 

青いオーラを二度纏う。

 

『――――ァァァアアア!』

 

嘘っ!?完全防音を貫通して聞こえるって、私の体が共鳴するレベル!?

うわぁぁぁっ!?突進が強烈すぎる!全く歯止めがきかない!?

 

 

 

 

 

 

 

………っ!?

 

思いっきり後ろに跳ぶ。

家や施設を関係無しにこちらに何かが突っ込んでくる。

 

「―――ぁぁああ!」

 

人間……いや、神選者の声が不気味な気配と共に近づいてくる。

水銀を空中に滞留させ、待つ。

 

私の通ろうとした道を影が過ぎった。

 

 

 

『ヴゥゥゥゥ……』

 

何故か正確に姿が確認出来た。

鎌を振り上げ、威嚇する時間もない。それにネセトなのだから

 

……あぁ、なるほど。

奴が神選者の攻撃を受け、その影響が若干振り撒かれているのか。

念力より強力な場合の意味不明な力、何が起こるかわからない。

そして私が何故理解出来たのかも分からない。

 

 

 

ガガガガガガガッ!!!

 

大量の瓦礫が降ってくる。

水銀を大きく、薄く広げ受け止めてネセトの近くに落とす。

 

よし、瓦礫を纏おう。

木と石と鉄が混ざったネセトを持つなんて私ぐらいしかいないだろうが。

 

ネセトの尻尾を通して水銀に糸を放ち、前方向に持っていき投網をする。

そして地中で水銀を精製、盆のような形で浮かせてネセトに持ってくる……重いからか疲れるな。

糸でネセトの形を固定し、ゴアの翼で回転させて糸をつけ、ネセトに固定する。

水銀を網にして瓦礫の大きさを選別して揃え、一気に結びつける。

 

……そうだ、鉄の補強も出来たし仕掛けをいれておこう。

 

……さてあいつを追って神選者が来るとしたら私は後退するか?

いや、方向をずらして追えばいいか。

 

 

流石に少し纏いすぎたな。

歩くだけで道が壊れる。

 

 

 

 

 

 

―――ドドドドッ!!

 

 

くそっ!

わらわの側近が話しかけてくる。

 

「早く!こちらへ!」

 

もう間に合う気がしない。

はっきり言って、わらわより察しの悪い奴らは要らん気もするから、こいつらを放っておいて逃げたい所じゃ!

 

「王女様!来ました!」

 

バギイッ!!

 

事前に神選者が張っていた結界が青色に光り鏖邪が衝突する。

そして人が近くに転がってきた。

 

近くに走り、しゃがみこんで話しかける。

 

「大丈夫ですか?」

「う、うんありがと。君も逃げた方がいいよ?」

「しかし――」

「大丈夫!私に任せて!」

 

安心出来る要素が全く無いのじゃが。

思いっきり転がってきましたよね?

 

「早く!」

「では、お言葉に甘えて。」

 

……鏖邪が結界をゆっくりすり抜けてくる。

まるで2.0みたいな入り方じゃの。

 

「ヴ……ゥゥゥ!」

 

っ!超高級即席耳栓!

 

「――ァァァアアア!!」

 

ぐぅっ、体全体が痛いのう!

とはいえ、体勢からして本気の叫びじゃないからまだ大丈夫じゃな!

遠回りしてルカの所へ行こう!

 

 

 

 

 

 

ミズダ……!ミズ……!コイツ……!ゥザイ……

デモ……先に……この湖に……

 

 

 

彼女が取り返しのつかない地雷行為をした事をまだ誰も知らない。




本当は表面の角の肉質は少し柔らかいのですが、芯はえげつない硬さですので簡単には折れません。

……おや?
新しい砲台の準備が出来そうです。

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