閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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誰がヒエラルキーの頂点に神選者を置けと言った?
誰がわらわ達はあいつらとは価値が違うと言った?
馬鹿共が、城に入れるな、我が物顔のあいつらを!

『異能の戦士』
第34話 殺されてしまった


犯罪者に死刑を

大きな炎の塊と闇夜に煌めく氷の大群。

その上に見えるは巨大な二匹のドラゴンと、それを覆う渦潮。

 

それでも空を塗りつぶす量の砂が舞い、星は見えない。

 

 

「決戦前夜じゃのう……」

「観戦したくても私達は遠くから眺めていよう。それより早く行くぞ。」

 

注文の品は出来ているはずだ。

もし出来ていなかったら急かすしかない……脅迫すれば恐怖で品質が落ちる可能性があるから。

 

夜間になると獣人は見かけなくなる。

何が昼行性だ……少しでも都合が悪くなったら無理なく起き続けているだろう。

草食も肉食も睡眠時間が変わらないとか、明らかにおかしいし。

それに睡眠時間を大量に削って性行為とか……完全に人間じゃないか。それとも理性が生まれる脳はそういう事が制御出来るのか?

……どうでもいいか。

 

 

ピリッと張り詰めた空気が微かに流れ、村人達は湖畔の近くで過ごしている様だ。

昼間の喧騒からは考えられない程の暗闇と、恐らく絶望した喘ぎ声が僅かに聞こえる道を私達は通る。

 

しかし、その様な状況でもカツンカツンと音は鳴り続いていた。

 

「龍力玉、受け取りに来ました。」

 

私達を待っていたのか、両手で箱を抱えた女性がいた。

ジロジロと私達を見て、私の笛を回り込む様に確認して理解した様だ。

 

「お嬢ちゃん、この龍力玉を何に使うの?」

「聞く権利は無いですよね?」

「まぁそうだけど……」

 

私は返答を断った。

やはり身長からなめられているな……

まぁどうでもいい。

 

女性から箱を受け――

 

 

 

突然箱が浮き上がり私の後方へ、ただの人間だと思っていた奴に向かって飛んでいく。

そして箱を私と奴の中央に置いた。

 

「これをくれ!」

 

私の目を見て言ってくる。

 

 

 

……は?

 

 

 

こいつ誰だ?

私が色々と呆然していると、王女が私に囁いてくる。

 

「念力を使う神選者じゃ。」

「人の物を奪う実力があるのか?」

「無いのじゃが、作為的な幸運に守られておる。回数とクールタイムがあるようじゃがな。」

 

はぁ……面倒くさいな。

笛を構える。

 

「私達が狩って手に入れ、私達のお金で加工してもらった物です。返して下さい。」

 

奴は頭を振る。まるで呆れた様に。

 

「バレバレの嘘だ、君達の体でどうやって――」

 

一気に飛び込み、笛で殴ろうとした。

私の体が見えない何かに突然拘束され、笛を落とす。

 

「大丈夫だ、僕は敵じゃない。」

「うぅぅ……っ!」

 

泥棒は敵だろうが。

そう言いたくても顎が動かない。

私に向かって奴は歩いてくる。

 

「どうした?君は誰に買われた――」

 

私はブチ切れた。

 

誰かに隷属しているとでも!?この私が!?

殺してやる。

 

 

殺してやる!!

 

 

私は箱の中にある操核に力を流そうと集中した。

すると、操核は動かせなかったが私を拘束していた何かが突然掻き消え、地に落ちる事になった。

 

唐突な事に私も奴も若干理解するのに時間がかかった。

 

……取り返せるぞ。

 

走りより、腕を折ろうと笛を振る。

しかし異常な動き方で躱された。

そして背を向けて走り始める。

 

 

「スリイ!フォウ!箱を壊さずに奴を殺すのじゃ!」

「「了解致しました。殺します。」」

 

 

私は走りながら笛を吹く。

そして低空飛行を始めた奴より速く追いかける。

 

二つ曲がった時に追いついた為、片手で笛を振り下ろす。

流石に簡単に躱され、殴ってくるがその腕をとり、捻りながら――

 

バチィッ!

 

ちっ、強烈な静電気でつい手を離してしまった。

砂煙をおこし、視界を妨害して奴は逃げていく。だがウイルスを騙せていない。

 

一応敵は加速したが、私を離すまではいっていない。

曲がる所などで距離を縮める。

 

「くらえっ!」

 

奴は振り返り、物を浮かせ投げてきた。

わざわざ宙に物を浮かし、『これを投げますよー』と知らせてくれる。

大体が直線的で、遠くを飛ぶ物が曲がってくるという余りにも分かりやすい攻撃をしかけてきた。

鉄は弾くが、木は躱したり、体当たりして破壊する。

 

「ひっ!」

「返せ。」

 

奴の片腕を掴む。

再び静電気が走るが、それより早く笛を振り、慣性で――

 

グニャリ

 

「ひぃぃ!」

 

くそっ……まるで液体の様な動きで避けやがった。

飛んでくる大量の木箱を壊しながら追う。

 

……南西に近づいてきた。

他の神選者に庇護してもらってやり過ごす気か!

 

もうなりふり構っていられない。

元の姿に戻り、糸で奴を追い越し立ちふさがる。

 

「なっ、残奏姫!?」

 

飛ばしてきた木の板の念力を解除し、糸で投げ返す。

大量の糸を放ち、退路を防ぐ。

 

「くそっ!」

 

奴が私の笛を浮かした所で近づき、鎌を薙ぐ。

一度目は回避され、二度目は異常な動きで躱された。

鎌を擦り、様子を見ながら糸を放つ。

 

念力騎士(サイコナイト)!いくぞ!」

 

糸を逸らし、不思議な音と共に赤紫色の鎧が立ち上がる。

そして大剣を振りかぶりながら騎士が左から、短剣を構えながら奴が右から襲いかかってきた。

 

大剣は笛で、短剣は鎌で受け止める。

笛の方には龍の力を流す事ですり抜けを抑えている。

 

そして力勝負に勝てないと悟られる前にゴアの翼で鎧は投げ飛ばし、奴を押さえつけ――また異常な速度か。

鎧を投げた勢いで掴みかかるが再び異常な速度で避けられた。

糸を放ち、引き寄せる。

 

「うわぁぁ!?」

 

鎌を振り抜く。短剣を弾き飛ばす事になった。

滑るようにやってきた鎧を翼で掴み、奴が立ち上がるまで肉を捏ねるように擦り続ける。

 

再び立ち上がった所を糸で引き寄せ、笛を叩きつけ――

っ!?

……突然滑り、笛が飛んでいってしまった。

 

糸で拘束し、急いで笛を取りに行く。

 

 

 

戻ってくると近くのバケツが倒れ、糸が切られていた……

 

というより先程拘束した時に箱を取り返せば良かったじゃないか!?

何故頭が働かなかった……

 

「こっちじゃ!」

 

王女が声をかけてくる。とりあえず従おう。

 

 

 

 

ひぃぃ!?なんで人が襲ってくるの!?

念力……が打ち消されてる!?

やばい、残奏姫より幸運を消費する速度が早い!くそっ!くそ―――

 

 

 

 

……人間の姿に戻る。

血溜まりの隣で王女の側近が箱を捧げてきた。

 

「……感謝する。」

 

私が消耗させていたのもあるだろうが、一瞬で仕留めてしまうとは……

さてと、早くネセトに操核をはめなければ。

 

「王女、お前はどうする?」

「南東の壁に屯っておくのじゃ。」

「分かった。」

 

よし、それでは向かおう。

笛を振り、移動速度を高めて走り出す。

 

 

 

 

帰りは特に何も起こらず、ネセトの元に辿り着いた。

 

「「ルカ様、おかえりなさいませ。」」

 

王女の側近が警備していたのか……いつの間に?

元の姿に戻って地中に糸を放ち、ネセトを砂から掘り起こす。

 

岩を解除し、水銀の板に操核を乗せて鉄の隙間から入れる。

その間に翼で飛びながら鉄を部分的に外し、そこから操核を糸で固定する。

 

尻尾が終わり、岩を纏い直す。

搭乗して操核に力を出させる。

 

よし。あまり音をたてずに足の動きを確かめてから南東へ行こう。

……まだ王女を捨てるのは勿体無いからな。

 

 

 

 

 

大分操核の扱いに慣れ、能動的に変化、操作出来るようになった所でついた。

神選者達の攻撃音と光が見えることからもう戦闘は始まったのだろう。

 

「おー!ネセトの復活じゃな!」

 

壁の外側に王女が待っており、向こうは叫んできた。

 

いや、ネセトの強化終了なのだが……まぁ指摘する為に姿を変える必要はない。

私はネセトを北に向け、ここからの退避を提案する。

 

「うーむ……まぁルカには逆らえないの!」

 

繭を破り、王女に向かって糸を放つ―――

 

 

 

ロックラックを支える岩に地割れが走り、その後に生物とは思えない声が響き渡る。

私でさえ煩さに足が竦むほどだ。

 

 

 

ヴァァァァアアアアッッ!!

 

 

 

ちっ……!

一体なんなん――

 

 

 

キィィィィィィン!!

 

 

 

空から光の柱が落ちてきた。

ひんやりとした空気がここにまで届く。

 

「……始まった様じゃの……って、ああ!!」

 

王女は突然叫び、村の方へ走っていく。

急いで人間の姿に変わり叫ぶ。

 

「しばらくは待ってやる!しばらくしたら動く!」

 

王女は右手をひらひらさせながら走っていった。

どうしたんだろうか……




残奏姫は神選者特攻を持っていた……!

のではなく、付与されているだけです。
これは操核にも言えますね。

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