閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
ブロロロロロ……
あの竜を警戒する為に車は走る。
四本の足で光が揺らめく砂漠を駆けていく。
巨大な鉄とそれを覆う岩の塊が。
あれから十数日。
私は走り続けていた。
時速100kmを超える、と驚いた口調で王女の側近に言われたが、ならばお前らのその茶色い生物はなんなんだと言いたくなった。
そして砂漠に入ると王女も側近も茶色い生物――馬も含めてガレオスの皮を羽織っていた。暑さ対策の様だ。
王女は流石に長旅に飽きたようで、夜間は水銀で作った箱で麻雀などをしている。昼間は色々な理由で無理だが。
……こんな思考をしている間に気づいたのだが、馬は疲労しないのか?
私は極限化という力を得ているから良いものの……
さて、一番懸念していたウイルスの反応だが。
……普通のモンスターの体温より気温が高く、反応しっぱなしだ。
とはいえ、慣れる必要があるものの『反応が鈍い所を察知する』という下位互換とはいえ代替のきく方法を発見した。
心身共に心地いい環境だが、だからこそ普段より警戒を強くしなければならないな。
……砂漠の暑さと乾燥で体の疲れがとれる。
疲労を感じないはずの私は、とてもリラックスして―――
「ルカッ!ネセトの進行方向を0時として8時の方向から敵襲!!」
……まぁこの巨体で走っていれば目につくだろう。
一応見た目の危険度を下げてはいるが、それだと普通に襲ってくるのか。
ウォォォォォン……
……この音が何処かで聞いたような。
繭を破り、外を見る。
ブォォォォォォン!!
陽炎の中、砂を巻き上げながら近づいてくる謎の何か。
雪山で壁を登ってきたアレの音と、戦車に若干似ているその造形……
「戦闘用自動車の軍勢じゃ!」
……ちょっと何を言っているか分からない。
どうやって操縦士は私を見つけた?
「ふむ……あれの大半は緋弾のアリアをモチーフとした無人自動車じゃの。」
その説明じゃ全く分からない。
だが、無人ならば放っておけないだろうか?
いや人間は馬鹿ではない。対策しているだろう。
「人体など一発で吹き飛ぶ様な銃じゃから、撃ち合う前のロックオン中に壊すとええぞ!ちなみに走行速度はめっちゃ速い!」
逃げれない以上、近づかれたらさっさと壊すしかないか……
念の為に水銀の槍を精製し、ネセトの足の裏にスパイクを作り、加速する。
馬は速度を落としながら側近から渡された何かを飲み、突如猛烈な勢いで私の横へ戻ってきた。
恐らく馬用の強走薬でも飲ませたのだろう。
車の音は着実に近づいてきている。
「ルカ!ワンから銃を受け取ってくれんかの!」
確かに、この速度だと投げて渡す事は出来ないが……だからといってネセトを操縦している私に運搬を頼むのか。
そしてワンとは誰だ……あぁ、あの銃を持ち上げている奴か。
ゴアの翼を生やし、軽い糸の塊を投げる。
銃が差し込まれたのを確認したら王女の方に糸を伸ばし、そこから弓の様に糸を糸で飛ばし糸の塊に着ける。
銃の入った塊を回収し、王女の元へ届ける。
流石にネセトの速度が落ちた。それでもまだ遠いからか劇的に近づいてきた感覚は無い。
パァン!!
「試し撃ちよーし。ルカ、頑張るのじゃぞ!」
他人事みたいに言っているが、ネセトが壊れたらお前も銃撃に晒されるだろう……
笛を振り、いつでも自己強化出来るようにセットしておく。
十数分後
バァンッ!!
最後の狙撃車両を撃破じゃ。ルカに言っておこう。
「スナイパー系の車両は全部撃破じゃ!」
ふふっ、わらわの狙撃技術を舐めるでないわ!
勿論タイヤなどもとても硬く、何発も当てた所で穴が開くかは分からない。
前に演習を見た時はパンクしてもコンピューターが補正をすぐに効かせ、減速したとはいえ走り続けていたしのう。
まぁわらわはそこではなく……
バァンッ!!
とても当てにくいとはいえ銃身を撃ってしまえば、途端に走るだけの鉄の物体に様変わりじゃ。
勿論それでも轢いてくるのだから危険じゃが、ネセトを轢けるのはなかろうて。
バァンッ!!
……とはいえ、やはりマシンガンを積んだ奴はタイヤが一層硬いのも厄介じゃが、近づくまで銃を出さないのがいやらしいの。
わらわが持つのはアンチマテリアルライフル。
奴らが出すのはアンチマテリアルガトリング。
ついでと言わんばかりにモンスターは虐殺されゆく運命……
だから神選者に警戒しろと言うたのに……
ガチャリとリロードをし、手榴弾を糸の塊から取り出す。
そして人間とモンスターの共闘……
つまりわらわは今、ライドオンしてる……!
「わらわに出来ることはもう無くなったぞ!」
王女のおかげでウイルスで察知出来る範囲まで安全だった。
良くやったと賞賛しよう。
笛を吹く。
水銀の槍を溶かし、スパイクを解除、そこから水銀の槌を二つ作る。
迫る車は八台。
私は砂を巻き上げながら振り向く。
私を囲もうと横を通り過ぎようとした車を一台潰す。
そして撃龍槍を放ち、刺さった槍に衝突した車を蹴り壊す。
王女の側近が一台に乗り込み、うごかなくさせる。
車は私から一定の距離をとり、囲む様にして走りながら銃を構えた。
撃龍槍を水銀と糸で迅速に回収し、地中からの水銀の柱で一台をひっくり返す。
私が駆け寄って潰す前に、他の車がその車を撥ねて起こしてしまったが、結局転がっているため水銀で打ち上げ、ネセトの頭で叩き潰す。
ダダダダダダダッ!!
三台が奇妙な形の銃を出し、一台はただぐるぐると回っている。
大量の弾丸が私を襲う。
表面の岩が身代わりとなり、鉄の骨に痛手は走っていない。
王女が一つを爆破した……ネセトの中でどうやって狙いを定めているのか。
二台からは水銀の槌で銃弾を防ぎ、一台に足で砂を大量にかける。
変な音を出しながら減速した事を確認、糸を放って捕らえて振り回す。
そして片方を水銀の壁に衝突させ、止まった所に振り下ろす。
最後の一台が方向転換し逃走し始めたが、いつの間にか埋められていた爆弾により、粉々になった。
一度岩を外し、凹んだ骨の部分などに車の装甲を酸で切り取ってつける。
タイヤも切断し、関節部分に着ける。
そして岩で覆う。
「私の修繕は終わった。馬は動けるのか?」
私は振り向き、王女に聞いた。
側近は壊さなかった車に何かを差し込み、カタカタと何かを打っていた。
「ふむふむ……どうやら馬をケルビと同じカテゴリに入れたじゃから狙われなかった様じゃの。」
「よく分からないが、設計ミスか。」
「いや、細かい部分を考えていないだけじゃな。……今は馬が興奮状態じゃから……少し時間をくれるかの?」
「分かった。ガレオスでも食ってくる。」
「あ、だったら皮を剥いで持ってきて欲しいのじゃ。」
ネセトは置いていく。
振動で逃げられるからだ。
人間の姿で足を引きずりながら歩く。
ガレオスと目が合い、私はそのまま足を引きずりながら逃げる。
「ゴワーッ!」
弱った獲物を狙うのは当然だ――
「ふんっ!」
「ギャッ――」
だからこそ捕食対象に警戒はしない。
ゴアの翼を生やし、殴り伏せ、鎌で頭を引き裂く。
死体を貪られては困るので元の姿に戻り糸で覆う。
再び人となり、ガレオスを追加で二匹狩る。
ゴアの翼で尻尾を抑え、鎌で頭を抑えながらヒレとその周辺を切り取る。
腹を裂き、臓物を引っ張り出して食べる……久しぶりの味だ、おいしい。
砂原にガレオスはいないと言うハンターもいるが、迷い込んでくる個体がいる。
初対面では殺されかけて逃げたが、四度目は麻痺に気をつけたので特に問題は無かった。
さて、と……皮を剥ぎ取る。
内側から付着した肉を食べ、表の鱗を鎌で削ぎ落とす。
残りの肉はゴアの翼に糸でぶら下げる。
ネセトに肉を吊り下げてから人間の姿に戻る。
「王女。日が落ち始めたぞ。」
「よし、じゃあガレオスの皮をわらわの空間に入れて欲しいのじゃ。それから出発じゃ!」
「ネセトの中に空洞をわざわざ作った私に感謝しろ。」
「おほほほ、良くやったと褒め――あぶっ!?」
「ちっ、穿ち損ねたか。」
殺す気で投げたが回避するか。
……やはり王女は人間じゃないな。
もうしばらく走っていれば着くはずだ。
夕日を斜めに見ながら私達は再び走り出した。
アトラルと。
ナイトオブバルファー♪
『なぜなに!教えて地元走りするシュレイド城!』
なんで私が城の形をした車を運転するんだ……
湾岸ーミッドナイトーだからねー
情報を増やすな。そして今回の説明はこちら。
『最大時速240kmオーバー、平地特化型自動戦闘車両』
派手な転倒や、突然の自然現象に対抗するため、普段は時速180kmだ。傷つけた相手を追う時に時速220kmを出す。
砂漠ーだからー減速ーするけどー四駆だからー空転はー無いよー
それでも空転した場合、装甲の硬さを使い空転した車両を転がして復帰させる。
像さんーゴリラさんやー地形がーぬかるんでたりー崩れるなどでー戦車はー難しいー
だから一定の距離を保ち、敵より速く移動し撃ち殺す、という無人車両の発想はすぐに実現された。
ただ問題があり、燃費が良くない上に車両がどんな状態になろうと走行し、植物の間を突っ切ったりするため、毎回メンテナンスに金と時間がかかる。
圧倒的ー火力とー継続ー戦闘力はーいんだけどねー
プログラムがー悪いのかー回避力はー余り無いよー