閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
私は普通のアトラルとは違う。
極限化している。
合成獣になっている。
そして人間を模倣する知能がある。
そろそろだな。
「どうして雪山の方へ?」
「…………」
「ん、楽しそうでなによりじゃ。」
ネセトと共に雪山の穴があった所に駆け寄る。
木を折りながらブレーキをかけ、穴の近くで止まる。
穴を覗くと、ぼんやりと光を反射する山が見えた。
……あぁ、そうだったな。
短時間でえげつない地形破壊が起きた場合、大地が元に戻ろうとする。
この世界はそうなっている……何故龍脈がその様に作用するのかは解明されていない。
そして居た。
銀に光る三対の翼。
大量に刃が生えた鋭利な尻尾。
巻き上がり、煌めき踊る金属。
私はとても運がいい。
岩をそこかしこから引っ張り、木を切って一部の隙間もなく詰めた物を作る。
外からネセトの足で土を蹴り飛ばし、固める。
「キィァァァァ!!」
準備は整った……
攻撃的な今なら私の威嚇で襲ってくるだろう。
「ビョォォァァ!!」
それみろ。
頭の弱く、力の強い奴め。
ハルドメルグの突進を回避、横から胸元に撃龍槍を突き立てる。
鎧に弾かれたが、そんな事は分かっている。
金属ブーメランだ、撃龍槍でたたき落とす。
その勢いで再びハルドメルグの胸を突いて押し飛ばす。
立ち止まった所でゴアの翼を生やし、飛んでから撃龍槍を叩きつける。
ハルドメルグはすかさず回避、腕の金属を突然伸ばしてきた。
笛で受け流し、手に糸を飛ばすと金属を解除し、纏い直しながらバックジャンプをした。
「わらわは何をすればいい!?」
「キッカァァァァ!」
邪魔をするなと叫ぶ。
笛を振り、自己強化をする。
ハルドメルグは大量の金属を纏い始める……まずい。
猛烈な勢いで動き出した金属球を、ゴアの腕で受け止める。
脚が一本折れた時には金属球は止まり、溶けだす。
笛を吹く時より息を大きく吸い、金属球に突っ込む。
伸ばした鎌が触れた感触は硬かった。
つまりこの技は操核が露出しないのか……っ!
金属が突然流れ、私は宙に打ち上げられた。
落ち着いてウイルスで探知すると……駄目だ、金属だから周りと同じ温度のせいでとっさには察知出来ない。
笛を吹き、ゴアの翼で滞空して振り向くと―――
「ギャッ、キィィィ……ッ!」
「キィィィン、ォォォォォォォン!!!」
大量の銀の刃が私を貫く。
とりあえず笛で頭は守る。
極限化しているのにこのダメージか……
ぐうっ!?
「ルカっ!?」
水銀の鎖と呼ぶか。
それが私の脚を掴み、鎌を抑え、ゴアの翼ごと地に縫い付けた。
「ゴォォォォォン!!」
ハルドメルグの周りから大量の水銀が浮き、ハルドメルグの後方で大量の小刀と化す。
そして、ハルドメルグの咆哮と共に飛んでくる。
警戒が足りないな。
ゴアの翼を一度消し、糸で撃龍槍を引き寄せて再度出現させたゴアの翼で撃龍槍を掴み、銀の雨を凌ぐ。
そのまま地面を掘り起こし、全方位に槍を放出したハルドメルグの胸を刺す。
銀の鎧の無い体は柔らかかった。
だが、終わりではない。
ここからテキパキやらないといけない。
「危なかったのう?」
あぶない?笛や撃龍槍で頭を叩き潰さなかったからだな。
ネセトを動かし、水銀を貯めた盆を糸で持ち上げる。
漏れてない事を確認して降ろし、ハルドメルグを切断、操核を抉り出す。
ゴアの翼を消し、操核を媒体にして念じる。
水銀は私の思い通りに蠢き始めた。
「えっ!?」
王女をネセトから降ろす。
ハルドメルグの血管を抜き出し、操核を突っ込んでから左右を結ぶ。それを複数回行い、尻尾の操核は複数の血管を使って入れる。
ネセトを解体し、水銀の入った盆をネセトの体内に入れる。そして糸と岩で隙間を残した蓋をする。
余った鉄は足にまわす。
そして操核をそれぞれのネセトの足に糸で保護して入れる。
尻尾の操核は盆の下に保護して入れる。
ネセトを再構築する。
……よし、これでいいか。
予想より信者共の進行は遅い様だ。
「ど、どういう事なのじゃ!?」
目を輝かせながら王女が質問してくる。
人間の姿に変わる。
余った時間があるのだ、説明してやろう。
私の
「前々から私は思っていた。手っ取り早く
だが素材を集められない。
たとえハンターとして稼いだ素材を転用してもその種類や量から判断されてしまう。
だからといって、王女、お前の存在が面白いが邪魔だ。突然お前の姿を数日出さなければ相当な騒ぎになるだろう。
そんな時だ。
先程の喫茶店で雪山に古龍が来ると『ギルドが』判断したと聞いた。
つまり高確率で古龍が来る。
ネセトの強化に欲しいのはクシャルダオラ三匹か、ハルドメルグ一匹だ。
そして私の人間の姿を維持する、とある龍が与えてきた力に目をつけた。
何気なくもう一つの姿として使っているが、人間の体の構造でそれを実現しているのは相当おかしい。
撃龍槍をゴアの翼で持つと足も背中も剥けるだろうからな。
私の意思でその巨大な翼を出し入れ出来る。しかも龍を受け付けない虫に向かって付与した。
だったら少々離れたぐらいなら強力な龍の力で無理やり龍の力を操作できると思った。」
「ほー……そしてハルドメルグが居たから使うと。」
「そういう事だ……来たぞ。」
信者共の声が聞こえ始める。
元の姿に戻り、ネセトを立ちあげる。
王女は近くの木に隠れた。
信者共が私の前方を塞ぐように立つ。
「ゴォォォォン!!」
私の方が強い。
だから威嚇をする。
「なっ……なんだこいつは!?」
「ミサイル、撃てー!」
敵を前にしてどよめき、悩む。
呆れる程に愚かだな……
そして信者共が小さく、強力な武器を向けてくる。
操核を指向する。
ネセトの隙間から水銀が飛び出し、とても硬い一枚の板になる。
そうすると私から直接は敵が見えなくなるが、ウイルスで察知出来るため問題ではない。
爆発が収まったら今度は二つに分けて擦り、金属音を鳴らす。
煩いとこちらを睨んでくる者。
気持ち悪いと腹を抑えながら蹲る者。
気絶する者。
ゆっくりと水銀板を動かし、逃げ遅れた人間を挟む。
……まだまとめて潰す威力では扱えないか。
水銀槍にし、距離をとった奴を刺しながら纏まっている人間をネセトで潰す。
ロケランが右側で爆発する。
ウイルスで撃った人間を把握し、振り向く事無く水銀槍で刺す。
そのまま一つの足に水銀を纏わせ、地面や木ごと蹴り飛ばす。
「ひぃぃ!」
「怯むな!悪魔を殺っ、うぐぁぁぁ!?」
浮かせた水銀と、糸で勇ましい信者を吊り上げる。
首を絞める。
「この……悪魔がぁぁぁ!」
一人が水銀に剣を投げたが、カツンと音を鳴らしただけだ。
水銀と糸で振りまわし、体と頭を分離させる。
血を出しながら二方向に飛んでいった。
信者共は愚かにも逆ギレを起こし、先程より泥臭い殺意を向けてくる。
纏まって近づいてくる信者に、撃龍槍の先端に水銀を纏わせて発射。
とても早い速度で飛ぶ撃龍槍が呆気なく数人を潰す。
自爆しようと走ってきた人間は普通に蹴り飛ばす。
撃龍槍を水銀で浮かし、糸で回収する。
その隙に私の足に近づこうとした奴は地面から出した水銀で串刺しにする。
糸で数人を引っ張り、水銀をギロチンへ化して降ろす。
尻尾を振り下ろし、後ろに陣取っていた人間も叩き潰し薙ぎ払う。
吹き飛ばされ転んでいる奴らをウイルスで確認し、地中から槍を出す。
……もう終わったのか。
遠くに走っていく信者しか生き残りはいなかった。
ネセトで追いかけ、全滅させる。
辺りの水銀を盆に戻す。
どうやらハルドメルグが地面から出している金属は、周囲の物質を合成、変質化、抽出を行って精製する様だ……やはり古龍の力は凄い。
龍の力がそう動いているのはウイルスの反応から感じ取る事が出来た。
ただ今は新鮮な古龍の血に浸けているからいいのだが、そのうち腐ってしまうし、傷ついた際に再生させる組織は無い。
ならばどうする?
私が出した答えはこれだ。
人間の姿になり、王女に話しかける。
「王女。」
「なんじゃ?」
「操核をそのまま装飾品に出来るか?」
「……あぁ、ラックロックでそういう技術が発展していると聞いたのう。」
「ならば次はそこへ向かおう。」
「OKじゃー!」
元の姿でネセトを動かす。
水銀の板で王女を運び、乗せる。
『神に選ばれる者』から逃げるのだから、私達が姿をくらましたとしてもギルドは馬鹿では無いのだから内部処理はきちんとするだろう。
勿論私だけなら大した問題にはならなかっただろうがな……
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湿った砂塵が凶器となる速度で吹き飛ぶ。
ァァァァァアアアッッッ!!
船も気球も古龍も塵になり、舞う。
そして巨大な龍を喰らい、竜は歩き出した。
生き延びた者はいない。
※流体金属であり、実際は『水銀』ではありません。
私のネセトは強くなる。
そうでなければ
……クククッ、見えたぞ。
更に強化されたネセトが!!
「……やはりルカは興奮すると狂竜結晶が蠢くのう。」