閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
うーーーっ、うまぴょい!うまぴょい!
おひさまぱっぱか快晴レース(ハァイ!)
ちょこちょこなにげに(そーわっSOWhat)
第一――――
「随分最初のテンポが早いわね……VR以外の音ゲーであったかしら?」
「……この世界だと馬は異世界の生物だぞ?」
「160km/hー普通のー人はー乗れねー」
「わらわが育てれば更に速度を上げてみせよう。」
「もはや既存の馬ではない気が!?」
粉微塵になった足が大分治った王女。
まだ時折痛むようだが、4日目だ。
ギルドから報酬を貰っていないし、高級な飲み物が飲みたいと王女は言った。
笛を担いで出かけよう。
「という訳で喫茶店じゃ!」
「怪しくないか?」
なんだこの建物は……
ほぼガラスだが、枠は見た事も聞いた事も無い素材だ。
「うん?ただの外装じゃぞ?」
「ふむ、なるほど。」
「えっ、そこまでこの言葉で理解するのじゃな……」
このガラスは奇妙な光の反射で中が余り見えない構造になっている。怖いな。
「よし、じゃあ入るのじゃ。」
「得体が知れん、お前から入れ。」
「私を偵察兵扱いとは面白いのう……」
……やはり王女はどうして私の近辺に居るのだろう。
狩猟行為の回数も少なめだし、城を飛び出す程活発なら物足りないのでは?
ふと私の事に考える。
……私は生物として異常だ。だからこそイラついた奴から思い通りに殺す事が出来る。
そして人間の姿だとハンターに狙われない。それに権力者が近くにいる。
明確に危険因子とそうでないのが分かっている以上、私の警戒力や戦闘力は落ちているのではないだろうか?
そう考えていると、王女に手を引かれた。
「ささ、こちらの席が空いておるのじゃ王女様。」
……まぁいい。いざとなればこいつと殺しあえば感覚を取り戻せるだろう。
「あながち間違いではないな。」
「ん?……あぁそうじゃな。」
店の中は石の床と木の壁だった。所々植木鉢が置いてあるが、造花だ。
オレンジ色の照明もある。
席に座ると店員がやって来て注文を聞いてくる。
警戒の為、私は王女が頼む物を頼もう。
「わらわはフォルニ豆のブラックコーヒーを。」
「私もそれで。」
「え、ルカ大丈夫?」
「……?」
「えーと……フォルニ豆のブラックコーヒー二つでよろしいですか?」
「お願いします。」
王女は頬杖をしながら私に近づく。
別に見られても王女なら悪寒はしないため、放っておく。
それより気になった会話が耳に入った。
「えー、まぁ雪山が吹っ飛んだからそこを縄張りとしてる古龍来るよね。」
「だから近々ポッケ村防衛クエストが出されるんだとさ。」
「美味しそうだなぁ……あ、でも暴風圧に耐えれる装飾品あったっけ。」
「……一度装備を確かめないとね。」
「ぐえっ……!」
「ほら言ったじゃろうに……」
苦い……腐乱肉より苦いぞ、この飲み物。
どうして王女は平然と飲めるんだ!?体に異常をきたすだろう!?
「この店で一番苦い豆のブラックコーヒーじゃから、子供には少々刺激が強いかのう?」
「お前の味覚が狂ってるだけだろう……」
「いや、腐乱肉食える方が狂ってるとしか……」
やはり人間と虫では味覚が違うのだろう。
だが、慣れる為にも少しずつ飲むか。
「そういえば足の調子はどうだ?」
「腰から下がジンジンするのう。」
「そうか、まだ長距離歩くのは無理そうだな。」
「くそっ、子供には通用しないネタじゃったか……」
「よく分からないがどうでもいい。」
骨も肉も神経も治したんだ、恐らく三日四日で戻る話ではない。
「そういえば隣の部屋から聞こえたのじゃ。ルカはギルドの職員を追い返している様じゃが、何故じゃ?」
「明らかにギルドの職員じゃないからな。書類を持ってきた宣言する奴も、中身を確認させてくれないし。」
「もしかするとわらわにしか渡せない手紙?」
「……自分で言ってて分からないのか?」
「うむ、そういうのはわらわの側近が持ってくるがの。」
やはり答えは一つ。
王女が弱っている隙に誘拐、殺害を目論んでいるのだろう。
万全の王女は強いし、白昼堂々と来られると側近も顔が割れる可能性がある為に出にくい。
だが夜なら側近、昼なら市民。
意外と殺られにくいのかもしれない。
「……ブラックコーヒー進んでないのう。」
「うるさいな。」
私はカップを口に近づけた。
ガァン!!!
大音量に驚き、爆風の衝撃に合わせて前かがみになったため顔面で陶器を割ることになった。
服にコーヒーがかかる。
凄い顔面が痛い……
「凶星を呼んだあの悪魔に粛清を!!」
「「粛清を!!」」
……声質が全く違う。
というより性別も違うな。
「開け、神の門。正義への忠義を誓ってここに請う。人の世を脅かし、残虐非道な行為で殺し尽くそうとする悪魔に―――」
先頭の女がぶつくさ言っていると、建物の窓を覆いきる程の横幅を持つ門が現れ、光を漏らしながら開き始めた。
そして先頭の女を除き、後ろの集団の服装から判断出来ることは―――
「『神に選ばれる者』か。」
「嫌じゃー!露出狂に囲まれるのは嫌じゃー!!」
「笛しか持ってない、一度撃龍槍を取りに戻らないと。」
一体全体なんなんだ。
これだから宗教は……!
笛を吹き、一段階強化。
そしてガラスとは反対の壁を殴り飛ばして飛び出す。
門から放たれた光は、全ての建物を通り抜けて私達を呑み込む。
直接的なダメージは無かったが、体が痙攣し走る事は出来なくなった。
麻痺と熱か、まずい。
これを見越していたのか、突如建物から剣を持ち鎧を着た人間が切りつけてくる。
普通より硬いとはいえ人間の体だ、簡単に血が吹き出る。
抵抗に笛を振るが……まぁ駄目だな。片腕は守りきろう。
「そぉい!!」
「ぐぅっ!?」
突然持ち上げられたかと思えば……王女だった。
「ちょっと本気で逃げるから捕まっておるのじゃぞ!」
「感謝する。」
先程までいたところで爆発が起きた。
破片が飛び散る。
「自爆テロする奴と、ミサイルランチャーを持ち出してきた奴がおるのじゃ!!」
「……ミサイルランチャー?」
「あー、爆発する貫通弾みたいな。」
「それはえげつないな。」
それをくらったら人間の形だと肺が無くなってしまう。
すると笛を吹く事が出来なくなる。
つまりそのまま出血多量で死ぬ……
「なんでモンスターに使わないんだ?」
「この世界の素材じゃから、余り貫通力が出せないのじゃ。」
「ふむ……」
ネセトなら耐えれるか。
やはり早くネセトを強化しなければならない……
痙攣が終わった為、体を捻り降りる。
全速力で走りながら今度は王女を抱え、建物の後ろに回り人目が無いことを確認して翼を使い跳ぶ。
そのまま倉庫の窓を割って不法侵入し、息を潜める。
「悪魔は何処だぁぁ!!」
「もしかしたらあっちかもしれない!!」
ん?聞いた事のある声……あぁ、王女の側近か。
「……はぁ。大丈夫か?」
「あしぎゃぁぁ……」
「別に無理をしなくて良かったのだが。」
「うぅぅ……同情、嬉しいぞ。」
「哀れに思ったからだ。」
外ではまだ近くで群衆が騒いでいる。
移動に時間がかかるだけの無能な奴らめ……
「……で、あの神選者の情報は?」
「恐らくじゃが、『ジャンヌ・ダルク(祭祀主宰者)』じゃろう。ジャンヌ・ダルクは結構有名かつ、憧れの対象らしいのじゃ。
とはいっても他のジャンヌ・ダルクは……
黒いジャンヌは行方不明。
白いジャンヌは慰め者に。
皮装備のジャンヌはハンター達の鍛錬。
という感じじゃ。一人を除いて後衛タイプじゃから、個々としてはあまり強くないのじゃ。」
「ふん……まぁ、どうでもいいか。」
「覚えておいて損は無いじゃろう?」
「必要だったら思い出す。」
「ここに居ます!」
「分かりました!」
っ、結局バレたか。
倉庫の鍵を外そうとしている音が聞こえる。
ウイルスで視る。
……前回の馬鹿共とは違い、今回は倉庫の周囲を取り囲んで一列目から、盾、剣、銃器の順番に並んでいた。
突入勢もその形を保っている。
残念ながら、この倉庫は木で出来ているがな。
私は元の姿に戻る。
「突入!!」
「「うぉぉぉぉ!」」
『統率』が大きく叫ぶ。
信者達は走り、倉庫の一階を即座に征服した。
そして二階の階段を登り始めた時。
ボゴッ、バキバキバキ!!
大量の人間と共に倉庫は潰れた。
人間の姿で、ゴア・マガラの翼を見えない様に振って瓦礫を巻き上げて信者を攻撃する。
しかし大半は盾で防がれ、有効なダメージは入っていない。
「撃t―――」
パァン!
よし、王女が神選者を殺ってくれた。
硬直した信者達の頭を複数の銃による発砲音が吹き飛ばしていく。
銃を持った王女を抱え、私は走る。
宿を登り、撃龍槍を持って王女に少し荷物の準備をさせて反対側の部屋から降りる。
私へ何を持ってきたのかを言う。
着替えしか聞こえなかったが。
私達と並走する、信者と偽っていた王女の側近は黒色の服を着ていた。
王女が手でなにか合図をすると引き返し、追いかけてきていた信者達が一気に騒がしくなって移動が止まった。
元の姿に戻り、糸で更に加速する。
そのまま地面に埋もれていたネセトを引っ張り出し、雪山があった方へ乗って走る。
……奴が居なければ待つ。
居たなら……ふふふ、ククク……
「慈愛を。」
頭が弾け飛んだ集団が生き返る。
「しっかりしてよジャンヌ……」
「す、すいません……」
ジャンヌ・ダルク(所属・神に選ばれる者、神選者)
前の名・八ツ橋 宝愛瑠(やつばし じゅえる)
主な能力・統率者(皆の憧れ)
内容・長く関わるほど憧れになる。「人を皆殺しにする事が人間の繁栄に必要」という発言に違和感を感じない程に。
死因・絞殺
経緯・いじめのエスカレート
その後
母親は金が無駄になり発狂
父親は母親が子供に近づけてくれなかった為に感情無し
いじめのグループは自殺に見せかけた為、注意程度
誰もお前を愛さない
この世界で皆から愛される、皆が一緒に動いてくれるという宗教にどっぷりハマった。
彼女にとって、とても幸せな生活を送っている。