閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
常識とは?
平均の事?
当たり前の事?
同調現象?
自分の世界の押し付け?
「ごめんねー、クイーンのーお友達なのにー殺しにかかっちゃってー。」
……どうやって喋っているんだ?
私は人間への変化、クイーンは羽で喋る。
だが、ミラ一族ならまだしも、特異な古龍だからといってそのままの姿で人間の発音が普通出来るか?
私は人間の姿に変わる。
「まぁ、弱者は死ぬもの――」
「えーっ、良く感じるとールーツの力ー!?」
「……あぁ、そうだ。」
先程までの殺意とは違い、普通に話してくる。
性格はマイペースなのだろうか……。
それにしても……
バルファルクが浮いている穴を覗く。
「どんな火力をしているんだ……」
「越えれないー壁がーあったらー突き破るータイプー。」
「……脳筋か。」
今更だが体の節々が痛む。
天変地異を味わった私と王女は、何故か龍の力によって動けるだけで実は死んでいるのでは無いか?
……そういえば王女はどうなった?
近づき横から見ると胸は上下に動いていた。
顔に耳を近づけると特異な呼吸はしていない事が分かる。
「……この人間は生きてる。おかしい話だ。」
「凄いねーちょっとー傷つくなー」
「人間にも二つ名がいる訳だろう。元々の個体数も多いだろうから当たり前か。」
「ねー。」
「それでだが、私達を見逃してはくれないか?」
「うんー、いーよー。じゃあー遊んでくるねー。」
……遊ぶとは何だ?
そう私が聞く前に翼の出力を上げて急上昇する。
すると、空をラヴィエンテの時より何倍も速い飛行する機械が複数横切る。
バルファルクは紅い光を放ちながら高速で飛び回り始めた。
……私を巻き込まない事を祈ろう。
我々は、巨大な穴とそこで飛び回るかの古龍を見た。
衛星からの映像で映ったビーム、やはり神選者の言っていたバルファルクが放った物だった。
最高速度、旋回速度共にバルファルクの方が速い。
機銃を当ててみるが、余りダメージは入っていなさそうだ。
だが、我々も攻撃は回避する。
ありがたい事に、バルファルクは攻撃時に翼から出るエネルギーの量が変化する。
それさえ見分ければ当たることはほぼ無いだろう。
「追尾ミサイル、発射!」
「「「了解!」」」
「その後、超音速戦闘を開始する!」
「「「システム確認!備蓄エネルギー良し!変換助力装置良し!出力システム良し!神経加速装置良し!オールグリーン!」」」
「私が合図をする!」
……おおー。
私のあとにピッタリくっついてくるミサイルがあるー。
急上昇すれば急上昇するしー急激に曲がれば内側を回ってやってくるー。
更に加速してミサイルを離してーエネルギーを溜めながら振り向いてー狙いを定めるー。
発射ー。
よーしミサイルは破壊したけどー飛行機には避けられちゃったなー。
ならー突っ込んじゃおうー!
……王女をつつく。
私がバルファルクの戦闘を見ても意味が無い。
いや、見えないと言うべきか?
バルラガルの舌はとても速く、どのタイミングでどう動くか分からないからこそ視界から外れる。
だが、バルファルク達の戦闘は違う。
もはや轟音しか聞こえない。
視界では大量の炎の軌跡が絡み合っている事が確認出来るだけだ。
現在の様に一瞬の影しか捉えられないという事は、どの様な速度で闘っているのだろうか……
「うっ……ぐ、ルカ……?」
王女が声を出す。
「よく生きてたな。」
「ふん……わらわが死に直面した時の対策を持っていない訳がないじゃろう。」
いてて、と頭を抑えながら王女は体を起こす。
上空を見てしばらく動きが止まり、頭を小さく振った。
「想像以上だったのう……」
「驚きはしたが、クイーンを知ってれば受け入れられる。」
「まぁ確かに白統虫と同レベルと言われておるしの。」
飛行機械が一つ爆発して何処かに飛んでいく。
「おう、戦闘機が一台やられたの。」
「戦闘機と言うのか。」
バルファルクは急停止し、私達の方へ降りてきた。
ふわりと私達の横に着陸する。
いつの間にか戦闘機は退いていった様だ。
「そういえば、どうして私達に直接突進してこなかったんだ?」
一番疑問に思ってた事を口に出す。
「いやぁーボロボロだけどー遺跡のーネセトだーったしー迷ったー」
「クイーンが説明してくれていたのか。感謝しておこう。」
「ねー。」
バルファルクと話していると呑気が移りそうだ。王女の方を見る。
王女は服から注射器を取り出し、足に刺していた。
「何しているんだ?」
「……あぁ、わらわは骨折した様での。痛いから鎮痛剤を注射してたんじゃ。」
「そうか。帰ったら回復薬グレートでもかけておくか?」
「そうじゃのう……まぁそれでいいかの。という事で背負って欲しいのじゃ。」
「分かった。」
王女を背負う。
別れの挨拶をしようとしたタイミングでバルファルクが話しかけてくる。
「どうやってー耐えたのー?」
「身代わり玉っていうのがあっての。一度だけ敵の攻撃を完全に吸収する成分の膜が出来るんじゃよ。まぁ、この様に骨折しておるがの。」
「すごいねー。」
そのやりとりを聞いている内に新たな疑問が湧いた。
「抜刀しなければ苛烈な攻撃はしないと書いてあったが?」
「なにそれー?縄張りかー気分でー殺すだけー。抵抗ーなしならーさっくりー。」
「なるほど、ちょっとでも囮の生存時間を伸ばすためか。」
「残酷じゃ……残酷じゃ……」
「じゃあー薬草とーアオキノコーとってくるー。」
少し空気を吸い込む独特な音を出してから、バルファルクは飛んだ。
ネセトに元の姿になって入る。
王女の足を糸で巻いて固定する時にはバルファルクが素材を渡してきた、回復薬を調合して振りかけておく。
ハンモックの様に糸を敷き、人間の姿に変わって王女を運び込む。
「よっしゃぁ!ネセトに搭乗じゃぁあ!」
「うるさい、撃龍槍で潰すぞ。」
「ご、ごめんなのじゃ。」
さて、どうしよう。
ポッケ村に直接ネセトで乗り込むわけにもいかないし、まず穴の大きさが分からない。
バルファルクは瞬きした瞬間に何処かに居なくなっていた。
もはや生物としておかしいモンスターに神選者も対抗するのだから、普通のモンスターが勝てる見込みは無いだろう。
私は道半ばといったところか?……いや、クイーンの光線に耐えられる気がしないし、バルファルクの直撃には確実に爆散する。
良く言っても道を見つけたぐらいか。
「そうじゃ!ベースキャンプで手紙を出せば――」
「無理だな。ここからだと距離感覚が掴めないだろうが、ベースキャンプどころの範囲では無かったぞ。」
「……末恐ろしいのう。ラージャンで得意気になってたわらわが恥ずかしい。」
「いや、十分に周りの人間より有能だろう。」
「おぉー、カバーは嬉しいのじゃ。」
「事実だろう?」
元の姿に戻り、とりあえず穴を迂回してポッケ村に向かう。
即席かつ骨組みだけのネセトだとやはり糸への負荷が高いな……定期的に点検するべきか。
うわっ……ネセトの重みに耐えられなかったのか土砂と共に滑落する。
ヒヤリとはしたが、焦らずに足を土に刺し、一歩ずつ登る。
王女の方を見るが、ニコニコしながら手で鋏を作っていた。
良く分からないがイラついた、ネセトごと揺らしてやろう。
ネセトに全身を打ち付けさせてやる。
「あぎゃぁぁぁぁ!!」
鎮痛剤とは関係無い所を打撲した王女は、痛みに泣いていた。
それにより動かなくなるため、先程の攻撃は正しかったようだ。
穴を迂回して半日、ようやくポッケ村が見えた。
降り、ネセトを隠す。
撃龍槍と笛を持ち、眠っている王女を背負う。
空ではいつ間にかバルファルクが飛んでいて、神選者の注意をひいてくれていた。
とは言っても、徒歩だとかなり時間がかかり、日は落ちてしまう。
村の様子を見た後、群衆を突っ切る。
どうやらバルファルクの雪山破壊によって飛来した岩にかなりの人数が潰されたようだ。
「ぁぁぁ!ナツぅぅぅっ!!」
「この岩さえ取り除けば、俺の息子がいるんだぁぁぁ!!」
「やめてください、崩れますっ!」
「さっちゃん……さっちゃん……」
騒がしいな。感傷に浸るのはそれぞれの勝手だが、道を塞ぐのはやめてほしい。
勿論、効率の為に蹴飛ばせば、たちまち批判の対象になり八つ当たりと便乗の暴力を振るわれる存在に成り下がる。
だが……
「助けて下さい、ルカさん……!」
私を物理的に引き止めるのはやめてほしい。
振り解けば傷ついた人間を助けない非情な人間扱いされる。
「すいません、私は怪我人を運んでいるので……」
「貴女しか怪力の持ち主はいないじゃないですか!!」
「怪我人を運んでいるので!」
「その人の様子なら私が――」
「わらわは王女じゃぞ。」
「えっ!?」
背中で王女が突然喋り始める。
「バルファルクを一時でも抑えた王女じゃ。わらわはこの村への直接的な攻撃を防いだのじゃが?」
まぁ、雪山でバルファルクが暴走したのは私達のせいだが。
とはいえ、村に突進したかもしれないし黙っておこう。
「あぐっ、くっ……」
「それに、わらわを治療しようとして傷を広げたらどうなるか……分かっておるのかの?」
王女に歯向かう。
例え第三王女であっても、それが我儘に対する物ではないなら、不敬罪だ。
この人間は不敬罪と不満の間に挟まれ、言葉に詰まったようだ。
私が助けたとしても、不敬罪でまとめて斬首されるなら元も子も無いからな。
「大体、人に頼むのがおかしいんじゃ。」
「えっ……?」
「ほれ、あっちを見てみい。一人の人間に岩や木を片付けさせるのではなく、素直にオトモンに助けてもらう方が効率的じゃよ。」
「しかし、間違えて潰すかも――」
「出血多量で死ぬかもしれないのじゃぞ?ほら、善は急げじゃ!」
「……分かりました。」
半ば強引に押し通したな。
とはいえ、人間の姿が不便なのは理解して欲しい所だ。
時折『人間の形が細かい事も出来て一番優秀』と言う輩がいるが、
『人間が作った人間の巣の世界』なのだから当たり前だろう……と私は思っている。
さて、モンスターがやってきたら一網打尽にされそうなデコイは放っておき、宿に戻ってきた。
「ゼロ!居るぅ!?生命の大粉塵を持ってこいなのじゃー!」
……向こうで壁に寄りかかって俯いていた人間達が一気に移動する。
「なるほど、こいつらが護衛か。」
「そうじゃよ。どうじゃ、ルカなら倒せるじゃろうか?」
「あの行動だけで判断出来るほどエネルギー使ってないだろうし、私は機械ではない。」
「そうか……」
とりあえず自分達の部屋まで運び、元の姿に戻って紙で王女の足を巻き、糸で天井から吊るす。
「あっ、アトラル!?はやっ、まだ早いのじゃ―――」
うるさい王女は放って腿の部分に紙と糸を巻き付け、左右に余り動かせない様に固定する。
「一番の問題はかぶれることじゃが……」
「知らん。骨折を治す方が先だ。」
「王女様、品物を持ってゼロ、参じました。」
「ご苦労じゃ……あー、アトラルは分かんないじゃろうからかけてー。」
「承知致しました。では失礼します。」
男は私の姿を見て少し目を丸くしたが、すぐさま王女の足にかけ、残りはどこからか取り出したコップと水に入れ、口から飲ませた。
「ありが……ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「では失礼します。」
王女は叫び始める。
だが、目はしっかりと私を向き、手で私に近寄るなと合図した。
恐らく骨を治す=周囲の骨の分解・構築、筋肉の再形成、神経の再結合が行われているのだろう。
だとしたら鎮痛剤も排除される。
痛みは激しいだろう。
まぁよく足を切ってた私にはそこまでの苦痛が分からないが。
「サイコキネシス!!」
「空間転移。」
「ここですか……『愛しき者への最大の愛』」
劈星龍バルファルクの犠牲者
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