閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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テケテンテンテンテンテン

この飛行船は蓄電器が搭載され、電気が通っています。
神選者のお陰で快適な旅が出来ますね。

※閑話に近いです


船上の小芝居

……はぁ。

 

何故私はこんな船に乗ったのだろう。

飴を舐めながら私は再度ため息をつく。

確かに酔わないのはいい事だが……

 

「これはこれは、第三王女ではないですか!」

「こんにちは、ヒテルスキー公爵。本日は雲海が綺麗ですね。」

「可憐な王女にぴったりの天気ですな!あっはっは!」

「うふふ、ありがとうございます。」

 

可憐とは?……勿論意味は分かるが、王女には合ってないな。

 

「そして……そちらの令嬢は?」

「あぁ、わらわが気に入った娘です。村で一人暮らししていた所を拾ったのですよ。」

「ひ……拾った?……これはまた、随分な……」

 

ヒテルスキーの私を見る目が段々と卑しい物に変わっていく。

……ふん、やはり私はかなりの美形の様だな。

 

「こんにちは、名前はなんというのかな?」

「ルカです。よろしくお願いします。」

「えぇ、こちらこそよろしく、ルカ。して、王女は今日、何用でこの船に?」

「ポッケ村に涼みに行こうと思いましたので。公爵は何用で?」

「私はライトル伯爵に色々話をする為にでして……では、失礼します。どうも、こんにちは―――」

 

ヒテルスキーは歩き、向こうの女性に話しかけにいった。

 

「あいつをどう思うのじゃ?」

 

王女が私に話しかけてくる。

 

「才能は分からんが、馬鹿でも無さそうだ。アイツは隠しているつもりだが、内的には旺盛なのだろう。体型も合わせて健康的な生活を送っていそうだ。」

「欲に対する考え方が違いすぎて、やはり面白いのじゃ。

……あーっ、ヤバい奴が来たのじゃ……」

 

王女は衝動的にか、若干私の影に移動する。

そして機能性が悪すぎる靴を履いた人間がずんずんとやってきた。

 

「あら!あらあらあら!御機嫌よう、第三王女様!汚い女子(おなご)を連れて何をしているのです!?」

 

甲高い声だ……それより、汚いと言われたがどう反応すればいいのだろう。

 

「こ、この方はカリマエーヌ様です。」

 

王女が微かに震える声で紹介してくる。

 

「こんにちは、カリマエーヌ様――」

「汚い口で私の名前を言うのはやめて下さるかしら?」

「……分かりました。」

 

なんだコイツ。

 

「第三王女、もしかしてその子を召使いになさるのですか?」

「確かにそれも考えてはおr……います。」

「いけません!その様な気品の無い生物を召使いにしては!それとも、そこまで落ちぶれてしまったのですか?」

 

「な?面倒くさいじゃろ……」

「そうだな。」

 

 

 

 

さて、長ったらしい会話のせいで説明が遅れたな。

 

ここは貴族が使う高級飛行船の内部だ。

王女が、

『酔ってしまうのじゃな……そうじゃ。多分今日は空いてるだろうし、わらわがちょっと高級なチケットをとってくるのじゃ。あ、酔い止めも買ってくるのでの!』

と言ったから、現在このあまり揺れない船に乗っている訳だ。

まぁ結局、元がアトラルである私に酔い止めは効かず、若干酔ったが『口に何か含むといいのじゃぞ。』という事で飴を渡してくれた。

 

 

「さて、もう整えているであろう部屋に行こうかの!」

「笛は持ち込み可能で良かった。」

 

王女についていく。

 

 

荷物に関してだが……

驚くなかれ、なんと荷物を受け取りに人員がやってきたのだ。

盗難ではないかと身構えたが一緒に向かう上に、私達は竜車に乗せて貰えると。

 

……撃龍槍がある以上、私は歩いていったが。

夜間の事もあり、王女も歩いたし。

 

 

船に乗るなり、

 

『挨拶が終わるまでこの部屋からは脱出出来ない……それが王族の運命(さだめ)……っ!』

 

と王女が言い出した時には何かトラウマがあるのかと思ったが……なるほどな、全員が少しでも王族と関係性を持ちたいから話しかけてくるのか。最後の人間を除いて。

しかも王女が王族らしく振舞っていたし。

そこら辺はやはり家系だろうか。

 

 

 

「さぁ、シングルベッドじゃ!」

「……………………」

「今晩は触れてしまうのもしょうがないのう?」

 

こいつ、同性愛者か?……いや、モンスターが人間の形をとっているのだ、今までずっと触りたかったのかもしれない。

……偶には受け入れようか。

 

「……まぁ、受け入れよう。酔ってないのはお前のお陰だ。」

「そうだなぁ、もっと感謝するのじゃ!」

「……寝る。」

「へっ!?」

「嘘だ。船内をまわ―――」

 

 

 

 

船が大きく振動する。

 

 

すかさず私はゴアの翼で自分を支える。

 

外から大爆発が聞こえた。

 

「全く……またモンスターか?ウイルスでは熱源が見えないが……」

「いや、わらわは落ちたら死ぬから『全く……』なんて言えないのじゃが。」

「知らないな。」

 

廊下を走る音が消えてからとりあえず先程の広間に戻る。

 

やはり乗っていた人間は集まり、騒いでいた。

 

「テロだ!」「死にたくない!」「一体何が起きた!」

 

叫んでどうにかなる訳が無いだろう。

だが、情報は集めたい。

なんと言えばいいのだろうか……いや、回りくどいのは面倒くさい。

 

「お静かに!!」

 

全体的に体が向いている方に立ち、バサりと手を伸ばしながら言う。

高圧的な行動は恨みを買い、その程度の恨みなら人を冷静にする。

 

「落ち着いてどうにかなるとでも!?」

「騒いで情報が回らなかったり現状把握が出来なくなるよりはマシだと思いますが?」

「子供が調子に―――」

「それを言いたいなら客観的に自分を見てくださいな。」

「「………」」

 

まぁ、これで騒ぐならその程度の生物だ、相手にしない方がいい。

 

「あー、わらわの召使いがすみません。でも、確かに騒いでいたとしても何も意味がありませんね。ですが、ここに拘束する訳ではないので部屋に帰ってもらって結構です。」

 

横から口を出してきた。

王女という身分だからこその傲慢か。

 

その時、扉が開く。

 

「すいません、ちょっと点検してきます。安全が確認されるまでしばらくこの部屋で待機していて下さい。」

 

搭乗員か。

申し訳なさそうに船尾の方の扉を通っていった。

 

 

無言が続いた。

とはいえ、しばらくすると人間達は喋り始める。

王女は何かを書き終わり、伝書鳥に持たせようとしていた。

 

「どうした?」

「ん?遺書じゃよ。」

「本当は?」

「ふっふっふ……教えられないのう。」

 

……それより何か匂いがするな。

最近嗅ぎ慣れたあの匂いの様だが……微か過ぎて誰から匂っているのかは分からない。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!??」

 

 

小さく悲鳴が聞こえた。例のあの搭乗員の様だ。

扉に人混みが出来る前に素早く走り抜ける。

 

スライディングし、人間と机の隙間を跳躍して通り抜け、転がってから再び走り出すと王女が私と並走する。

 

「恐らくこっちじゃな!」

「こっちからも匂いがする……!」

 

階段の手すりを走り降りて壁に着地し前を見ると、ワナワナと震えているあの搭乗員が居た。

 

「どうしました!?」

「あ、いや、貴女方が見てはいけませんっ!!」

「ハンターを兼業しているわらわ達には不必要な警告じゃな。」

 

私達を抑えるために伸ばしてきた手を避ける。

 

部屋の中は荒らされ、一人の男性が血の海に横たわっていた。

 

「ルカ、誰であろうとこの部屋には入れるのではないぞ!」

「分かった。」

 

王女はドレスを脱いで私に預け、簡単な格好になってから血の海を歩き男性の呼吸と脈拍を計る。

 

「……駄目じゃ、出血は酷く呼吸も心臓も止まっておるし、大分冷えている。もう施設が無い以上助からないのう。軽く調べるからそのドレスの内側のポケットに小さな箱を渡して欲しいのじゃ。」

 

手で探ると、腰あたりに差し込んである箱があった。

取り出すと半透明で、中の物は色は分かるが形は分からなかった。

 

「これか?」

「ほい、投げてこい。うおっ!?こういう時は下から投げるのじゃよ?」

「知らん。」

 

王女はパチリと箱を開け、三本の紙を死体の口に突っ込む。

どこからか出した手袋を着用し、男性の体の隅々を触ったり持ったりして調べる。

 

野次馬がやってきた。

私は廊下を塞ぐように立つ。

 

「一体何があったんだ!」

「すいません、押さないで下さい!この先に死体があります!」

 

恐らくこの言葉で理解してくれる―――

 

「なんですって!?」

「っ!?」

 

一人の女性が私の横をすり抜け、部屋の中を見る。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

……自分から確かめにいって叫ぶのか。頭がおかしいのでは?

とりあえず移動し、部屋の中に入れないように立つ。

 

「第三王女様、一体何が!?」

「ちょっと待ってお――いて下さい……死因は頭部への打撲によるショック、又は出血死。凶器は尖った大きな何か。ですね。」

「どうして殺人が!?」

「分かりません。ですが、犯人は怨みからか何度も何度も殴っています。グロテスクな死体ですが、恐らく怨んでいる人のみを狙った犯行の可能性が高いです。出来れば集団で過ごしてください。」

「狂気に染まった人間と一緒に居られるか!俺は部屋に戻るぞ!」

「「そうだそうだ!」」

 

一瞬で大体の野次馬は散っていった。

だが搭乗員を除き、私達を疑っているのか数人がこちらを凝視してくる。

 

私も脱ぎ、ドレスを搭乗員に持っていかせて王女に近寄る。

 

「すまぬな、ルカ。」

 

そう言って立ち上がり、同時に遺体の口から紙を抜いた。

一枚だけ水に濡れた変色とは違う色をしている。

 

「ふむ……定番の睡眠薬の様じゃの。その他の毒は無しじゃ。」

「つまり眠らせた人間が殴り殺したのか。」

「他の致命傷がない以上それで決まったのじゃ。……わらわが挨拶されていた時にこの方はワイン片手に歩いていた、つまりその時に薬を盛られ、爆発音と共に何かで殺したのじゃろう。」

「よく見ているな……」

「いや、ふらふら歩いていたのじゃから、目に入れば警戒するのは当たり前じゃよ。」

 

ふと足元を見る。

何かあったため、つまんで持ち上げるとそれはナイフだった。

 

「折れたナイフがあるな。」

「あ、ルカも現場を触るならこの手袋をするのじゃぞ。」

「……分かった。」

「この板にこれで、何があったかを書いて置いておくといいのじゃ。」

「なるほど。」

 

本来なら全く触らない方がいいのだろうが、悪臭がする以上しばらくしたら片付けにくるだろう。

それならこういう板で位置情報は残した方がいい。

 

「うーん……やっぱり頭使うの苦手じゃ!ルカ、頼む!」

「何だそれは……まぁいい。」

 

とりあえず歩き回って見よう。

 

 

 

 

 

 

しばらくした。

凶器は分かった。

殺害方法もほぼ合っているだろう。

 

状況証拠は……

 

─────────────────────

 

・壁の傷跡

 

・赤紫の石と砂利

 

・折れたナイフ

 

・廊下を点々とする血

 

─────────────────────

 

そして眠いから部屋に戻る事が出来るほどに弱い睡眠薬だろうか?

 

 

後は疑わしい人間から話を聞きたいが……

 

「その人間が分からないな。」

「そういう時は面倒くさくても話を聞くのじゃぞ。」

「断る。それより私は別の場所を調べる。」

「了解したのじゃ。」

 

さて、爆発音の所へ行こう。

本当は私はそれさえ確かめれば良かったが……暇つぶしにはいいだろう。

 

 

 

 

 

ここか……

 

機械が唸っている。

警告マークは雷だ、電気でも作っているのだろう。

爆発音はここからしたが……やっぱりか。

 

「破片が散らばっている……が、機械の何処にもぶつかった様な跡が無い。」

 

余りにも熱意が違うな。

妨害があったのか、それとも……おっと?

機械の熱で分かりにくかったが、一人この部屋に居るな。

 

「ふむ……うーん……」

 

声を出しながらさりげなく近づく。

敵は何かを構えた。

 

「……どうやったんだろう―――なっ。」

 

ナイフを避け、振り向きながら手を掴む。

もう一方の手にもナイフだ、掴む。

撃龍槍を持てる私に力勝負で勝てるわけが無い。

 

「ぁぁぁっ!」

「……」

 

男性は叫んだ。

足を振りかぶった所で手を離し、敵の後ろに滑る。

振り向いた所に鳩尾に一発入れ、左手のナイフを奪う。

ふんっ。

 

「悪魔がぁぁ―――っ!?」

 

ナイフを構え、鳩尾に迫った所に男性の右手が振り下ろされる。

だが、それより早くゴアの翼で殴る。

男性は吹っ飛ばされ、壁に強く背中を打った。

 

「何……が……」

 

ナイフで少し私の腕を切る。

僅かな睡魔が襲ってきた事を確認して足に刺す。

 

「ぐわぁぁ……ぁぐっ………」

 

予想通り寝たか。

周囲の確認をしてから背負い、運び出す。

 

……傍から見れば少女に誘拐される成人男性か。

人間は、子供に負ける大人が居る事が面白いな。私は例外として。

 

 

 

しばらく探しても王女が居なかった為、自室に戻る。

そこに王女は居た。

 

「おい。」

「おー、そいつは?」

「爆発音がした所に行ったら襲ってきた。」

「運が悪いのう……」

 

元の姿に戻り、縛ってから転がす。

ナイフを抜いて布を縛り付ける。

そしてまた人間の姿に変化する。

 

「それで、何か分かったかの?」

「爆発音は故意に作られた物だ。仕組みは知らないが、衝撃波の痕跡はない。」

「こっそりワインに毒を盛れる人間がそんなヘマをするのか、って話じゃな……さてと、わらわの側近が情報収集しておるから夜まで待つのじゃ。」

「そうか。コイツをどうする?」

「……部屋の隅に拘束しておけばよかろう。」

 

 

 

 

 

 

「キィッ、クルルル……」

「まぁしょうがないとは言えるのう。」

 

今、私は拘束した人間を食っている。

こいつは『神に選ばれる者』の信者だった。

やはり異常な宗教は怖い。指を切断して目の前で食べてみせても、

 

「悪魔が……!!」

 

と私を睨むだけだった。

最終的に叫んで人を集めようとしたので、笛で叩き殺した。

 

 

 

「情報の足しにはならなかったが、腹の足しにはなった。」

「良かった良かった。脱臭グッズを使っておくのじゃぞ。」

 

その時、コツコツと窓から音が鳴った。

王女は窓を開ける。

一羽の黒い鳥が紙を持って入ってきた。

閉めようとした瞬間に更にもう一羽が入ってきた。

 

王女は紙を取り、広げてさっと目を通した。

 

「ふーむ……主犯は分かった。物的証拠……もとい、後処理のずさんさが目立つのう……それだから人選を間違えたのじゃな。」

「犯人は誰だ?」

「貴族じゃ貴族。没落中のな。」

「今、この船に爆発物などはあるか?」

「無しじゃ。」

 

 

 

「そうか……じゃあ私は寝る。」

 

「分かったのじゃ。」

 

 

 

 

横になって思う。

 

……動機は聞いておけば良かったか。

 

 

恐らく今回の殺人に使われたのは小さいバサルモス、それの亜種だろう。

落ちていた石はバサルモス亜種の物と一致する。

 

まず、何処かに隠していたバサルモス亜種を解放、肉で誘導する。

 

ナイフは目の前に居たバサルモス亜種への寝起きの抵抗。

その後ろから手頃な大きさの石で殴り殺したのだろう。

 

その後、部屋の中にバサルモスを放置し、あの搭乗員が事前に受け取った肉で誘導して……窓からでも落としたのだろう。

バサルモスがまだ翼が使える小ささだと肉食だからな。

 

 

まぁ……何故それで騙せると思ったのかは……人間しか……分からんだろう………

………一番……問題なのは……何故、バサルモス亜種……?……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目が覚めると王女が私を背後から抱える様にして寝ていた。

除けて起き上がり、窓へ歩く。

 

……雲が地平線まで続いているだけだ。

 

廊下を覗くが熱源はいない。

身だしなみでも整えていよう。




神は慈悲深く神は清らかで神は正しく神は絶対的存在であり神は神は神は強さ故直接神は神絶対は神は破壊神は神究は神は命神は神は神は神は神は神は神は神はぁぁぁぁあぁぁあァあァアぁぁあぁぁアアア!!!!!!!!!!


「「「「「神よ、我々に、力を――!」」」」」

大量の肉片と宝玉が献上されている祭壇に、遂に深淵の扉は開いた。


昼は暑いため、誰も出てこないが。



没落貴族(シタニール・ルウスア)

動機・没落させられた(逆ギレ)

犯行内容・事前に装置を渡しておく。酒好きな被害者のグラスに毒を入れる。尾行し、寝た事を確認した所でバックに入れていた肉で餌付けしたバサルモス亜種を誘導。扉に南京錠をかけ、スイッチで爆発音を鳴らす。戦闘が始まり、落ちた石で殴り殺す。そして逃走。
運搬する宝石は時間が経つととても割れやすい為、暗殺には使われにくい。

壁・さりげない尾行


船長

動機・妻をとられた(妻は喜んで貴族の所へ)

犯行内容・事前にバサルモス亜種を眠らせ、宝石に偽装して運び込み、爆音装置を蓄電室に置いておく。部屋を通り過ぎ廊下に置かれた肉を受け取る。そしてバサルモスや誘導、窓から落とす。後は通常勤務。

壁・整備士が居るため、騙す必要がある。

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