閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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「寂しいから歌います。」
「は?……は?」

世界ー作れないけどー皆をー作れるんだよー
だから(イケボ)
じゅんじゅん敵を炭にして
ふわふわ我が子を作りまくって
いつか彼女に報告だ

「……よし、気合い入ったしクソゴミカスが勝手に生やしたダンジョン潰してくるわ。」
「ああ……今の歌は、お前、か。」


服従せし泡子

理解はした。

これからどう動けばいいのかは分からないが、とりあえず笛を振った。そして吹いた。

 

……まさかこうやって生まれるのか?

 

 

 

私の背中はパックリと割れ、黒い液体の様な物が宙でゆらゆらしている。

しかし再生力は一層強まり、笛の力と相まって傷口は段々と閉じていこうとする。

それを無理やりこじ開けられている様だ。

 

「オオオァァッ!!」

 

流石にこのタイミングを逃す程の馬鹿ではないらしい。

マキリ・ノワが私を振り落としにかかる。

 

「…………ッ。」

 

駄目だ、即効性の旋律を吹く余裕がない。

とりあえず毛に引っかからない様に背中に移動する。

ミシミシと黒い塊が―――

 

 

バギィッ!

「――ギイッ!?」

 

 

更に割れた様だ……痛い。

だが、体はまだまだ元気だ。

完全に二つに裂かれるまで元気なのかもしれない。

しかし、何か不思議な感覚が――――――

 

 

 

 

 

「な、なんだよあれ……」

「リュート、あれはどうしたらいいんだ?」

「分からない……とりあえずマキリ・ノワから離した方がいいと思う。」

 

いつか見たアトラル・カ。

それが今、マキリ・ノワの上で二本の黒い塊を揺らしている。

目は普通のアトラル・カより紫色に光っていて、ギロリと周囲を睨んでいるように見えた。

 

「グルルァァァッ!!」

「リュート、来るぞ!」

「レウス、ギリギリまで引き寄せて回避だ!」

 

マキリ・ノワは角に雷を纏った。

一瞬、力を取られた気がしたけど弾けるような雷の戒めを回避。

そしてバリアの中に入ることが出来た。

 

「よし、そのままアトラルを蹴って落とすんだ!」

「ギュィオオオ!」

 

レウスはバリアから出ないように飛び、勢いをつけてから蹴りに行く……って!?

レウスがギリギリ避ける。

 

 

 

 

 

「キィィッ、コロロロロ!!」

 

撃龍槍ではない黒い二つの塊が振り回され、液体を撒き散らす事でその姿を表した。

黒く太い腕に鋭利で巨大な爪。

その腕から生える翼膜はウイルスが流れ続けている。

 

「キィェァァァァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

 

アトラルの叫び声に、明らかに本来の声ではない物が混じる。

更にパキリと音が鳴り、背中に黒い何かが出来る。

 

「うっ……」

 

リュートは顔を背ける。

ゴア・マガラの背中がアトラルの割れた背中から見えたのだ。

その背中が段々と山なりに持ち上がる。

 

「コォォォオッッ!!」

 

そしてマキリ・ノワは凶気化のモヤを発生させた。

アトラルの姿はモヤに隠れ、ゴア・マガラの翼脚も溶けるように沈んでいった。

 

 

 

 

───────

───────

───────

─────……

………────

…………………

……………だぁぁぁぁぁっ!?

危ない、意識はあったがその意識に思考が戻らなかった。

 

どうにか私は生きているらしい。

 

ゴア・マガラが私の体を裂いて飛んでいったのだろうか、不思議な感覚が残っているが激痛は無くなった。

気持ち悪さもかなり収まる。ただ、熱源が分かるという事はまだウイルスはあるそうだ。

さて、まずはこのモヤを……うん?凶気化しかける事も無くなったのか。だとしたらマキリ・ノワが吠えている間は攻撃出来るのか。

 

段々とモヤが晴れてくる。

紫のモヤと紫の反応がほぼ同じ色の為、頭の方向が分からないからとりあえず笛を吹き、その後構える。

 

 

頭が見えた。

 

 

体が少々ふらつくが、素早く寄って複数回笛を叩きつける。

そして周りを見ると……

 

ゼルレウスが居た。

 

凶気化のモヤのせいで尚更光り輝いて見える。

担いでいた槍に新しく糸を放ち、振り回して叩きつける……っ!?

 

 

突然体が浮いた。

 

理解が追いつかず、そのまま私は落下する。

 

 

撃龍槍が私の背中を打つ。

それとは別に妙な感覚が背中に発生する。

 

……あれ?

よっ……!?

ふんっ……!?

 

ちょっと待て、ひっくり返れないのだが!?

そうか、撃龍槍が刺さってる……いや、それなら今みたいに糸を切り離せば降りられる。

背中の妙な圧迫感のせいだろうか?

 

「オルルル……ガァァァッ!!」

 

マキリ・ノワが雷を角に纏う。

ちょっと待て、流石にこんなに無様な死に方は嫌だ――

 

「耐えるのじゃ!ふっ、てやぁぁっ!」

「キシィィッ!?」

 

遠くから熱源が寄ってきたと思ったら王女の声が聞こえた。

そして跳び、尾を蹴り飛ばしてきた。

背中の感覚が大きくなり、棒を倒すような軌道で倒れる。

 

笛を叩きつけて着地し、一気に飛び退く。

そして、違和感の正体が分かった。

 

「危なかったのじゃ……それにしても随分かっこいい翼が生えたのう?」

 

羽化と極限化と凶気化がぶつかってゴア・マガラの翼脚だけ残ったのか……更に異形になったが、かっこいいだろうしまぁ別にいいだろう。

 

先程からの妙な感覚に力を入れると、段々と翼の形に感覚が広がっていく。そして翼の指も使えるようになった。

 

「キュィィィッ!」

「クルルル!」

 

死にぞこなったトリドクレスが突っ込んでくる。

早速翼を叩きつけ、抑える。

そのまま力を強め、胴を潰す。

 

「おおっ!す、凄いのじゃ!まさかの正面から勝つ力を得るなんて!」

 

とはいえ、撃龍槍が振り回せなくなるのは困る。

それに的も空気抵抗も大きい……まぁ、機動に関しては空を飛べる様になっただろうが。

 

「よし、ライドオンするぞアトラル!ぎゃぁっ。」

 

一番良いところは攻撃可能範囲が増えた事か。

叩きつけてから引きずるだけで攻撃になる。

 

 

「グルル……ォォォォォンッッ!!!!」

 

 

「あっ、やばいのじゃ!」

 

王女が叫び、逃げ始める。

結晶が乱立するが、私は飛んで回避する。

 

「黒の戒めと言って、とてもヤバいのじゃぁぁ!」

 

マキリ・ノワは雲を突き抜けて昇っていく。

そして。

 

 

バリィッ!!

 

 

黒い塊と化して落ちてくる。

紫色の雲は無くなり、満天の星空が見える。

 

「ウォォォォォオンッ!」

 

さっきまで傷つけていた恨みか、私の方向へ落ちてくる。

 

 

突然リオレウスと人間が叫ぶ。

 

「レウスっ!」

「ゴォォォォッ!」

「行くぜ相棒っ!」

 

黒い塊の正面から白く輝くリオレウスが突撃する。

衝突が起こり、押したり押されたりしている。

 

なるほど、あの白くなる技があるからマキリ・ノワに勝てたのか。

といっても、結局は段々と押されているが。

王女が再び話しかけてくる。

 

「頼むのじゃ、ここであの技が炸裂したら生存者がいる方がおかしいのじゃ。」

 

……つまり二度とハンターとしては活動出来ないのか。

まぁそれ程問題では無いが、勿体無いな。

 

トリドクレスを掴み、羽を根元から千切る。

空気抵抗を減らした形になったところで黒色の方に投げる。

 

トリドクレスは吹き飛ばされた。

 

「うぇぇ……どうしようかのう。」

 

そうだな……それにしても神選者共はどうしたのだろう?

まさかここは後回しか?

 

ある事を思いつき、撃龍槍が背中にある事を確認する。

笛を持ち、糸をリオレウスに放って――ぐっ。雷が痛い……が、我慢して一気に衝突に近づく。

 

「にゃにゃっ!?アトラル・カ!?」

「こんな時に……!?」

 

撃龍槍を両手で持ち、太い方をバリアに遠心力と共に叩きつける。

それを淡々と繰り返す。

 

バリアにヒビが入る。

とりあえず出来る事はした、私は羽ばたいて離脱する。

 

 

リオレウス達は勢いがつき、そのまま黒い塊を貫通する。

 

 

 

「……食べれるのだろうか?」

「ヴェ!?……古龍は食物じゃないしの……それにギルドに叱られるじゃろ。」

 

マキリ・ノワはくたばった。

私は近くの草に身を隠し、人間の姿に代わる。

人間型にも翼が生えていたが、腕を鎌に戻す事と同様に隠す事が出来た。

……右翼、左翼で二箇所だが。

 

 

 

 

 

マキリ・ノワにアイルーやハンター、ライダーが群がる。

触ったり、観察したり話し合ったりしている様だ。

 

「ところでこいつを倒すと凶気化はどうなる?」

「あぁー、残念じゃが凶気化は―――」

 

 

 

断末魔さえ遅い。

 

 

 

マキリ・ノワは爆発する。

巻き込まれた生物も爆発する。

 

棘が生えた巨大な赤い管は、いつの間にか赤に染まった川に引きずられていく。

 

縄を絞める様な音が鳴り響く。

 

 

 

「解けないんじゃよ……」




足が八本、つまり蜘蛛だな。
「翼だから六本だ。」

ゴア・マガラは吸収された……定番だな!
「寄生失敗で、が抜けているが?」

クイーンランゴスタに一言。
「どうせ元気だろう、依存する必要は無い。」

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