閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
前傾姿勢で鎌を逆手に持って、ピースする……
かなりキツイですね。鎌は重心が先にあるので……
「この鎌、どうじゃ?」
「要らないな。」
先程の攻撃力からすると私の鎌より切れ味は相当良いが、私の体ではない。
というよりその形状では叩きつけられない。
「いや……ふむそうじゃな。」
王女はにこりと笑った。
バンッ!!
「え―――」
液体が飛び散る。
そしてイャンガルルガを剥いでいた人間の腰と胴が離れる。
「……なっ!?」
流石に私さえ驚愕する。
明らかな殺意も全く無しに切り飛ばしたからだ。
「どうじゃ?この鎌、神選者も一撃じゃ。」
王女は鎌についた血を振り落としながら歩いてくる。
やはり身分が高い者は命の考え方がおかしいのか?
「ぁぁぁぁぁぁ!?
痛いっ、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
しかしうるさいな。叫んでどうにかなる訳ないだろうが。
ところで犯罪者になるのが嫌なのに何故試し斬りをこいつにしたのだろう。
「あ、この神選者なら殺しても大丈夫じゃ。」
「何故だ?」
「精神障害者だからじゃ。
ギルドから与えられる環境から離れたくないから最低条件は満たしているけど、その程度なら神選者である必要では無いのじゃ。
じゃが、辞めさせると世間は『障害者差別だ!』とか叫び出す……だから事故死が起きる事を祈っているのじゃ。
わらわが殺したとしても、ランポスの巣の奥に置いてくれば証拠は消えるから大きくこいつが犯人だ、とは取り上げられないしの。」
「なるほど。」
「ぁ……ぅあ………ひど………」
「ほら、神選者はこの様に胴体が切断されても普通より意識を保っているのじゃ。」
なるほど、もし対峙する際は入念に潰さないと駄目か。
神選者によっては撃龍槍で胸を貫いても死なないかもしれない。
「ちょっとやっていいか?」
「あぁ、バラバラにする予定だからいいのじゃ。」
腕を鎌に戻す。
そう、私は人間と元の姿が共通する部位を自由に変化させることが出来るようになった。
といっても二部位までだが……
王女は驚いていた。
「そんな事も出来るのじゃな……」
「努力は続けるべきだ。」
振り下ろし、神選者の首を切り落とす。
結構硬かった。
血を流しながら私の方に向き、恐怖によってかしばらく顔を歪めていた。
しゃがんでじっくり見る。
――30秒ほどで完全に死んだ。
「生命力高すぎないか?」
「じゃろ?」
光を纏っていた奴を思い出す。
「確か前にランゴスタに穴だらけされた神選者が追ってきた事もあったな……」
「わらわ達より圧倒的に強い、つまりわらわ達の社会には既に首に刃が当たっているのじゃが、全く考えていない人達に腹が立つのじゃ……」
王族だからこそ神選者の影響を盛大に受けているのだろう。
項垂れながら王女は言った。
そして血と排泄物を隠すため布を取り出した。
「さ、処理するのじゃ。」
そういえばどうやって30匹狩った事を説明するのだろう。
尾から糸を出し、事前に切り落とし、集めていたランポスの頭を束ねておく。
「これでいいか?」
「それも一つの方法じゃ。でも渡す前に糸は切っておくのじゃぞ。」
「当たり前だ。」
しかしランポスぐらい村人でも狩れそうだが。
まぁ精神的に弱いのだろうが……
「なんでハンターは雑魚処理も仕事に入る?」
「確かにタイマンなら勝てるのじゃが、囲まれたらどうしようもない。だからこそ大きく、重い武器を使えるハンターを頼ってくるのじゃ。」
「お前は双剣を使っていたか?」
「小型だから常に抜刀する必要はないじゃろ。ガード出来ないし。あ、でも神選者なら『ブレードガード』とか叫んで刃で受け止めるのじゃ。」
「神選者はどうでもいい……」
何をするのか全く予想できない奴らだから。
こいつら…………っ!!
「困るんだよにゃー、きちんと首を斬ってくれないと。ぐにゃぐにゃでさ、何、力にゃいの?ハンター辞めて、専属主婦でも目指したらどうかにゃ、ガキんちょ?」
持ってきたランポスの頭が鈍器で潰される。
「おちっ、落ち着けルカっ!」
ぶっ殺す。
私は今、王女の影響で苛立ちやすいんだ。
お前など、生きたまま臓物を抉り出された状態で炎に炙られながら磔にされてしまえ。
「っ!……っ!」
と心では思っていても口には出さない。
その時、こっそり王女が話しかけてくる。
「大丈夫、懲戒解雇と泥を塗る準備はすぐに出来るのじゃ。」
「……そうか。」
周りのアイルーも私達を見て笑っていた。
そしてそのままどこかへ歩いてしまった。
「住処を燃やしてしまえばいいのではないか?」
気を取り直して王女の方に向き直す。
笑っていた。
背筋にウイルスが走る感覚がする。
「あはは、そうじゃな、懲戒解雇の後に住処を燃やそうかの!始めてアイルーの一家心中が見れるかもしれないのじゃ……その前に職復帰出来る詐欺で借金を背負わせようかの。」
こいつも若干壊れているのか。
だが、苛立たせたのはアイツらだ、許す必要もない。
とりあえずランポスの頭を片付けておこう。
結局その後、ランポスの頭数が足りずクエスト失敗になった。
ギルド内の評価が下がってしまう、挽回しなければ。
と、ギルドの食卓で話していた。
「別に急がなくてもいいのじゃぞ。周りに違和感なく雪山に行きたいだけで、本当に行きたいならわらわが金を出す。」
「なるほど。」
「それに、裏からゴミ猫の汚職の数々を集めているから安心するのじゃ。」
そうか、私達はクエスト条件を満たした事をギルド側は信じるのか。
なら不安は無いな、頼りになる。
「だからライドオンをさせて欲しいのじゃ。」
「未来永劫、お前のその要望に答えると思うな。」
だがそれは私が許さない。
撃龍槍以上の強度が無い奴の足の代わりを何故しないといけないのか。
「王女なら好きなモンスターに乗れるだろ。」
「ペットは要らない、もう足りてるのじゃ。」
「ペットに自主性が欲しいのか?わがままだな。」
「わらわはわがまま第三王女じゃ。」
「そうやって全て自分の思い通りにいかせるのか?」
「人間には自尊心があるから現実的には問題ナッシング。」
「話が噛み合ってない気がするが……」
「あ、全て自分の思い通りにしようとしても人間は全員自分勝手だから大丈夫じゃ。」
「やはり噛み合ってないじゃないか。」
「えぇ……」
結局王女は何のために私についてきているのだろうか。
やはり私を支配したいからか。
それにしても今までの言動から、なんだかんだ王女は力押しだったが……やはり私に対しては説得の様な事しか仕掛けてこない。
意味が分からないな。
「そういえば、ルカと共通点あるネルスキュラ嫌い?」
「あんな奴、世界から居なくなればいい。」
砂漠を大量のネルスキュラ亜種が通ったら確実にトラウマになるだろう。
30匹ぐらいが一時的に狭い土地を占拠するんだ、恐怖以外に何も無かった。
今でさえ勝てる気がしない。
だからこそ蜘蛛は死ね。見かけたら―――
細長い形をした八本脚の虫が私の前を通り過ぎようとしている。
「うらぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょっと!?」
私の近辺は軽く私の縄張りだろうが……
口に放り込みながらそう思った。
「さ、流石にわらわでもひくのじゃ。」
「どういう事だ?」
さて、しばらくしたら狩りに行こう。
蜘蛛は嫌いだ。
余裕がある時は片っ端から食ってやる。
「あっはっはっは!!『蜘蛛ですが、何か?』を知らないのか!?」
……誰だ?