閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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わらわの手の上じゃ。



WGMM包囲網

「しかし、いきなり背後から話しかけるのは驚くのでやめて頂けると……」

「一番に振り返らないあたり、注意力は無いのかの?」

 

人差し指が伸びた手を肩から引き落とす。

目を合わせると程よい緊張が走る。

 

「確かにそうかもしれませんね。」

「さて、わらわがテント建てておくから雑魚掃討は頼んだのじゃ。」

「……組むという事ですか。」

「不服かのぅ?」

「いえ、ありがたいです。」

 

それにしてもこいつ、何故仮面をしているのだろう。

それほど身分が高いのか。はたまた逆か。

 

 

 

 

「……何故人差し指を伸ばしていたのですか?」

「振り返ったらプニってなるじゃろ?」

「…………」

 

 

 

 

私達の番が回ってくる。

 

「いい狩りを。」

「行ってきます。」

 

 

先程リオレイアと戦闘した場所には、押し倒されたテントの残骸とジャギィの群れがいた。

 

「そうじゃ!松明燃やしとくから渡してほしいのじゃ。」

「お願いしますね。」

 

松明に明かりをつけた次の瞬間、テントに彼女は突っ込み、轟音を立て始めた。

出入口の安全は松明で確保しているが、それ以外は無防備だ。

そこを私が補うのだろう。

 

私は大剣を振り回し、ジャギィを散らしながらぐるぐるとテントを回る。

 

「アゥ!アゥ!」

「アォォォ!」

 

騒がしい……雑魚に威嚇されるのは気に食わないな。

ガタリと大剣を構える。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!」

グシャッ、ガキンッ。

 

不用心に近づいてきたジャギィを叩き潰しながら叫ぶ。

大剣を振り回し、音を立てる。

 

「アゥ!?」

「ウゥゥ……」

 

ジャギィが警戒態勢に移った。

叫んでから後悔したが、きっと叫んだら他のモンスターを呼び寄せるという観点から減点対象だな。

威嚇はモンスターとして……いや、人間は違うな。文句には使えないか。

 

「お主は何をやっとるんじゃ……」

「威嚇です!テントはどの程度出来ましたか!?」

「今、お湯を沸かしている所じゃ。」

「えっ、さっ……早くテン―――」

 

私は振り返る。

 

テントは既に立っていた。

 

 

 

彼女はジャギィの威嚇をBGMに何処からか持ってきた樽に水を入れ、松明の火で炙っていた。

 

 

いや試験中におかしいだろう。

 

「何をやっている……のですか!?」

 

咄嗟に聞いてしまう。

 

「うーん?あと、二分ぐらいで沸くと思うのじゃ。茶葉はあるからテントの中の椅子とかを並べておいてほしいのじゃー。」

「……ジャギィを掃討してからやっておきます。」

 

とりあえずテントに近づけさせないという目標は達成した。

散々威嚇してきたんだ、皆殺ししても咎められる事は無い。

 

 

 

トッ、ココココココ。

トッ、ココココココ。

 

背中から何かが何かに注がれる音が聞こえた。

 

「肌に潤いを与える神経を刺激するお茶じゃ。」

「ど、どうも……」

 

ジャギィの死体を解体してる途中でお茶を渡された。

私はジャギィの皮で手に付着した血を拭い、焼いた土で出来た湯のみに入れられたお茶を飲む。

 

「ふぅ。美味しいです。」

「……そうかそうか、それは良かった。」

「ところで……この試験って何処までいったらクリアなのでしょうかね?」

「こういうのは多分『終了!』とか言われると思うのじゃが。多分、キャンプに攻めてきたモンスターを倒すまでが試験なのじゃろう。」

 

 

そう彼女が言うと共に、土が盛り上がりそこから出てきた。

 

 

 

 

 

 

『アトラル・カ』が。

 

……追い払う。私の前に立つな……

 

 

 

いや。

 

 

 

殺す。

私の前に立ったのだから。

 

お前が悪い。

お前が悪い。

 

 

 

 

 

「キシャァァァァァ!!(消えろ)」

「あぁぁぁぁぁぁ!!(消えろ)」

 

 

 

「ど、どうしたのじゃ!?」

「あ、いや発作的に……」

 

……しまった。

つい両手を上げて威嚇してしまった。

そして久方ぶりに結晶が疼く。

 

「ちょっと、本当にどうしたのじゃ!?」

「え?……あ。」

 

相手が近づいてくるのに合わせて私もつい歩み寄っていた。

本能とは怖いものだ。

 

「いえ、コイツを殺せば試験が終わるだ……でしょう?」

「た、多分じゃぞ?それに中型モンスターの中では比較的強い―――」

 

 

 

「ゴロゴロシャァァァァァ!!(ここから去れ)」

「ぃぃぃきしぃぃぃい!(黙れお前)」

 

 

 

 

 

正体を隠す気が無い本気の一振りがアトラルの鎌を切り飛ばす。

 

アトラル・カは緑色の血を垂らしながら遠くのバリスタを抜き、アトラルに叩きつける。

 

「ぐるしゃぁぁぁぁあ!(死ねぇっ!)」

「キィィィィィ!!(煩い)」

 

アトラルは後ろに下がり、バリスタによる土煙の中から飛び出す。

大剣を首に突き立て、引っ張りながら振る。

 

アトラル・カの鎌と頭が吹き飛ぶ。

 

「きしゃぁぁぁぁぁ!(私の縄張り)」

 

 

 

 

 

……はっ。

くそっ、狂竜ウイルスは本能を活性化しやすい事も忘れていた。

 

振り返る。

 

「おぉぉ……すごいのう!ラージャンも狩れそうな強さじゃ!」

 

彼女はラージャンを知っているのか。

そして余り疑われていないか?

いや、変な叫び声を上げる人間として考えられているのか。

 

「その力を見込んで、どうじゃ、わらわとしばらくハンターとしてのパーティを作らないか?」

 

離れるどころか手を差し出してきた。

……私がギルドと話す機会を減らすにはとてもいい方法だ。

勿論裏切れば殺せばいい。

 

「それは対価がどちらかに必要ですか?」

「パーティは仲間、協力して活動するのじゃ!」

 

いや彼女の実力は分からないが……

でも相性は良さそうだ。なんとなくそう思った。

 

 

 

 

その後ギルド職員から意訳すると『金出してくれれば合格させるよ』と言われたが、勿論断った。

大体何に合格するんだ?馬鹿にしないでほしい。

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 

 

抗竜石をどう使えば効果が高いか確かめていた時の事。

 

 

トントンと唐突に扉をノックする音が聞こえた。

夜にノックしてくるのか……泥棒として殺されにきたのか?

 

慎重に扉を開ける。

 

 

「やっほう。来たのじゃ。」

 

仮面をつけていない夕方に組んだ彼女が居た。

 

「……何故ですか?」

「住む場所が無いからのう。」

「もしかして家出だったのですか?」

「そうじゃ。養ってく―――」

「雇いません。」

「養ってくれないかのう?」

「雇い……え、本当に家がないのですか?」

 

どうする?ここで恩を売っておくか?

……いや、やはり断ろう。

一体表面を取り繕うとしても、少女は何をしでかすか分からない。

 

「でも……やはり―――」

 

 

 

「ねぇ、残奏姫?」

 

 

 

「―――っ!?」

「ふむ、わらわの推理は間違ってなかったようじゃのう?」

 

彼女は私を下から覗き込む様に見上げてくる。

 

こいつ……何者だ?

本来ならあやふやな予測で無礼になる言葉は使わない筈だ。

貴族などなら尚更……

 

「まずは中に入りますか?」

「元々それをお願いしに来たのじゃが?」

「……私が丁寧に話している間に意味を汲み取れ。」

 

とりあえずある程度受け入れよう。

そうすれば情報も得られるはずだ。

 

「あはは、すまなかったのじゃ。」

「お茶でも入れますか?」

「……まずそれで違和感を持ったのじゃ。」

 

「……違和感ですか?」

 

「入れたてのとても熱いお茶を飲める人間なんぞおる訳ないじゃろ。」

「あっ……なるほど。」

「あと大剣は深い傷をつける武器で、切断する武器ではないぞ?」

「え、尻尾とかを切るのでは?」

「首を切ろうと考えるハンターはそうそうおらん。」

「……今後気をつけます。」

「あと、背中から襲ってくるモンスターを、ただの村娘が振り向きざまに叩き切るなんて芸当は出来ないのじゃよ。」

 

「で、でも私を残奏姫と断定する証拠は―――」

 

「少々調べさせて貰ったのじゃ。えっと、

『小さい光線に一隻巻き込まれる。瓦礫から少女が這い出てくる。とてつもない光線がラヴィエンテを飲み込む。』

じゃったかの。

その後何故か変色した様に見えるアトラル・カの目撃情報がチラチラあるしのー。神選者の力を見てしまえば、歪な存在がどんな事をしても驚く必要性は無いと思ってしまうのじゃよ。」

「……貴方は一体なんなんですか?」

「……ふふふ。」

 

「第三王女、は知ってるかのう。」

 

「あぁ、愉快な依頼人という噂は聞いたことがあります。」

「あははは、正確には『わがままな第三王女』じゃ。」

「……ん?」

 

「他人から見れば反抗期じゃからのう。

それに神選者が直接

『個人的な依頼を出さないでください』

とか言ってくるし、

『王族らしくお淑やかにして下さい』

とかお前に私の人生の主導権は無いっ!て言い返したくなる事も山ほど周囲が言ってくるのじゃ。」

「なるほどなるほど……私はそんな体験はありませんが、きっと――ってそんな高い立場の方でしたか。」

 

とすると、ここで殺すと私は人間としては生きていけないのか。

厄介ではあるが、私の知名度と地位は上がりやすい状態にあるな。

 

「やはりモンスターじゃの。普通の人間なら尊敬語と丁寧語が入り交じるところじゃぞ。」

「あはは……で、王族という立場を捨てる為に飛び出しても『王族だから』連れ戻されると。」

「そうなんじゃよ。犯罪するとハンターとしても生き抜くいしの……という事で養ってくれんか?」

「……私はモンスターだ。いいか?」

「そしてライドオンさせて欲しいのじゃ。」

「断る。」

 

 

 

 

結局その後しばらくお互いの生活リズムをすり合わせたあと、私のパーティもとい同棲者に、第三王女が加わった。

 

散々私の人間じゃない所を指摘したが、本人も非人間的な動きをする事を知るのはしばらくあとだった。

 

 

 

「武器はなんだ?」

「双剣じゃ。死を近くに感じるが楽しいぞぉぉ?」

「遠慮する。顔を潰したらどうするんだ?」

「神選者が治してくれるから平気じゃ。」

「あぁ……なるほど。」

 

……あはは、一家に一人神選者か?

あんなモノがそんなに居たら私達はどうすればいいのだろうか。




王女は王女に興味を持ってまして
王女は王女を王女自身が王女に乗りたいらしく、
王女自ら王女らしく王女に対して王女の力で王女を捕らえました。
そして王女は王女を王女王女して王女王女王女王女

白統虫&女王<うるせぇ!

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