閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
巣を作る事をまだ知らない。
風が吹く。気持ちいい……
しかし先程から私の足は風に怯える様に時折痙攣する。
確かにいきなり強い風が吹き出した。
しかしそこまで気にすることではないはずだ……雨が降るかもしれない。
とてつもない雷雨の中、ジャギィの皮を被ったアトラルは歩く。
おかしい…さっきから風の吹き方がおかしい。
ここは石柱のある狭い場所だが……何故風が入り乱れるのか。
先程から葉の後ろに隠れた虫しか見ていない。
私の本能は逃げる事しか考えてないようだ。足が上手く動かない。
だが、もし強大な相手でも逃げればいい。
縄張りが重なっている生物は知っておくべきだ……
龍は降り立つ。
風はますます強くなる。
植物しか生物はいない。その事を確認して歩き出す。
……はずだった。
風に逆らって動く存在がいる。
龍はそれを感知しその存在へ向かっていった。
既に殺気を放ちながら。
やはり敵に近い方が風が強いようだ。
体が風と危機感で後退するのを抑えながらその存在に近づく。
いきなり風が強くなる。
体が震え始め、風で飛ばされそうになる。
まさか……私の存在を知られたのか?
いつ不意打ちをくらうか分からないため後ずさりでここを離れなければ。
一応まだ敵は――
次の瞬間岩で出来ているはずの隣の地面が弾け飛んだ。
あ、あ、慌てるな。外したという事は――
本能が理性を凌駕しつい後ろに跳ぶ。
先程いた所は竜巻になっていた。
さらに黒い影がそこに降り立つ。
咆哮と共に竜巻を打ち消し、自らに風を纏うその姿は。
私をパニックに陥らせるにはまだ足りない。
危ない……なるほど。化け物……いや、こういう奴は古龍か?
私は思い出す。そうか。こいつは確かクシャルダレンか!……いや、違和感がある。
龍は再び咆哮し、さらに大量の竜巻をあちこちに起こす。竜巻の移動速度が早い……タイミングを図らなければ。
逃げの姿勢の私にクシャル……モーラン?はブレスを絶え間無く撃つ。
いや、あれは口から能力で強化した風を飛ばしてるから絶え間無いのか。
ただ、馬鹿なのか予測しないで撃つため距離をおいて円状に走っていれば当たらない。動き回る竜巻を避ける事を余裕で考えられる。
しかし次の瞬間クシャル……ファラオ?はバックジャンプしながら巨大な竜巻を二個、私の進行方向と後退する際の方向に撃ち出した。大きさ…速度。間に合わないか……
……いや、これは中央が開く。岩を引き寄せる。ブレスを弱める事は出来るはず……。
しかし、クシャル…ダオラ!そうだ。風を司る古龍。そいつは纏う風を更に強くして飛びながら突進してきた。
少しでも躊躇すればいいと岩を投げる。しかし風に軌道を逸らされクシャルダオラも体を傾けたため、当たらない。
すぐ目の前に圧倒的な生物がいる。間に合わない。
素直に危険を感じた時に逃げれば良かったと今更ながら悔やむ。
鋼が虫にぶつかる。
虫は顔を避けたが腹に一撃を受け――
残念ながら……
私を行動不能にも出来なかったな。
クシャルダオラの空中突進は速度が遅い。
しかし鋼だ。普通のモンスターなら骨折するだろう。
今私はクシャルダオラの顔に張りついている。
そう。体重が軽いからダメージを余り受けなかったのだ。
さぁどうする。チャンスと言えばチャンスだが素の実力の差は明らか。とてもダメージを与えられるとは思わない。
なら……
私は噛まれないために背中に登る。理解したクシャルダオラは振り落とそうとする。
振り落とされる前に顔面、首に糸を巻き付ける。近距離なら風の影響を受けない。
岩を引き寄せ投げる糸だ。簡単には破られない筈だ。
クシャルダオラは頭を振り回している。
飛び降りさっさと走り出す。
何処に逃げるか……
バンッ!!
「オァァァァァァァ!!」
まさか。私は振り向く。
そこには千切れた糸と黒い風を纏ったクシャルダオラがいた。
龍の目は殺意に溢れていた。私の体が動かない。蛇に睨まれた蛙とはこの事か。
空気が薄くなる。
クシャルダオラに大気が集まる。私はまだ死にたくないが……駄目か。
しかしその時、クシャルダオラの背に乗る影が見えた。
再びクシャルダオラはもがき始める。
まさか、ハンターか……?
「おかしいよこいつ!」
「古龍に立ち向かうとか……愚かね。」
「噂になってた奴だな。……放置して大丈夫そうだ。」
「落とすぞー!!」
「「了解!」」
「麻痺頼むぜ!エネルギー溜めてスタンとる!」
やはりハンターはおかしい。私は首を切ったが、もし鎧を狙っていたら一切抵抗にならずに倒されたかもしれない。
クシャルダオラの纏う風を一切気にせずに突っ込んで行く。
今は地に落とされているがそれでも風を纏っている……何故普通に剣を振れるのか。
とりあえず私は逃げた。無理に加勢する必要もない。ヘイトはハンターに向いただろう。それに……私の弱さが久しぶりに理解できた。死ななくて助かったなら無駄にする必要もない。
洞窟に逃げた私は死んだハンターが持ってた狩猟笛をいじる。
前、本気で投げた笛だが欠けてさえいなかった。人間の技術には驚かされる。しかし今は私の物だ。ただ、このままだと強化されるのはハンター側だし、肺活量を鍛えなければならない。仕組みが分からないと何も出来ない……もう一つ笛があればいいのだが。
村に襲撃……できるか?無理だな。
何かしら手をうたなければ…
砂原のギルド
「ただいま戻りました!」
「「「おおおっ!!」」」
「クシャルダオラなんて大分狩りなれてるのよ。」
「いやぁ、ありがとうございます!」
「報酬はこちらに用意しております。」
「私は他のギルドに手紙を送ってきますね〜」
「今回の素材はこちらです。」
「うん。装備一式は出来そうだ。」
「運搬方法はどうします?」
「いつも通りに。」
「分かりました。……あの、」
「アトラル・カ。あいつはクシャルダオラと戦ってたよ。」
「……本当ですか。」
「流石に傷をつけることは出来てないが。だがクシャルダオラは怒っていたからただ逃げていた訳ではないと思う。」
「エスピナスではないのに….報告しておきます。」
「あいつは……二つ名がつくかもな。古龍に立ち向かう虫なんて……」
古龍観測所 砂原支部
「報告です!クシャルダオラの討伐を確認!」
「了解。ドンドルマにも連絡よろしく。」
「これでまたハンターが活動出来るな。」
「肉食が居ないから草食が来る。草食がいるのに肉食が居ないから肉食が来る。忙しくなるぞ〜」
ドンドルマ
「砂原の研究者からアトラル・カを古龍級生物にして欲しいとの報告が……」
「……無視じゃな。」
「了解で――」
「各地から人工物や岩の塊が動いてるとの報告!現在は3件です!」
「ネセトか!?」
「はい、おそらく!しかし小型の様です。」
「各地にg級ハンターの派遣を!ネセトの存在は出来る限り隠すのじゃ!」
アトラル・ネセト。それは女王を守る物。アトラル・カを狩ろうとすると出現する。しかし本来は成体や3.5m以上のアトラル・カが作るものだ。
しかし小型のネセトを知る者はいなかった。ネセトは巣だ。巣を作るのは当たり前だ。例え小さくても。
「う、わぁぁぁ!!」
欲にまみれた密猟者達はネセトの足が赤黒い色に染まっていることを気にしないで戦いを続けようとした。
岩でできた歪な形の20m程度のネセト。足で踏まれる瞬間、最後の密猟者は足裏に骨や装備の欠片が埋まっている事に気づいた。
小型ネセトの大量出現は、人間にも、モンスターにも多大な影響を与える事になる。そしてネセトに守られる事でアトラル・カの数も減りにくくなる。
本来なら他のモンスターに大体が既に食われているが、ハンターが間引きすぎた。
古龍級生物に認定しろと叫ぶ研究者は呟く。
「対策しないと…人類が……生き残れない…!」
大げさだが可能性はある。ギルドは動き出す。
しかし平和や正義を謳う組織が動けば
欲や混沌で出来ている組織も動く。
「知能あるアトラル・カ…」
「何人なら捕獲出来るでしょうかね。」
「戦いは数とゴリ押しだよ。」
「捕獲したら闘技場行きですね。」
強さは上位。行動は時々特異個体。そんなクシャルダオラ。