閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
チョイ役の実力がついに明かされる……
さて、と。空から落ちてくる爆弾が無くなった。
身体強化を二段階した状態で笛を担いで走る。
結局ここに居るなら逃げるのが一番おかしい行動なのだろうな……
勢いのまま一撃をハサミ触腕に食らわせる。
だが、表面の骨が折れ、グニャリと吹き飛ぶだけで全く痛くないようだ。
私にはグニャグニャな部位が無いから分からないけどな。
オストガロアはハサミで掴みかかってくるが、触腕に跳び、掴む事で回避する。
オストガロアは触腕を伸ばしながら震わせた。
振り下ろされ始めた直後に笛で骨を殴り、自分を飛ばして回避する。
着地で土を削りながらオストガロアを観察し続ける。
なるほど、人間の姿だと体が小さいから余り離れなくていいのか。
チラリと片方を見ると、アイツらも頑張ってはいるが、まぁ私と比べるのは酷いからやめておこう。
オストガロアは体を動かし、離れながらハサミ触腕を潜らせる。
ブラキ触腕で粘菌を地に敷きながら離れた為、爆発するまで待機だ。
笛を振って自己強化の旋律を吹いておこう。
「電磁砲っ!」
ずっと離れていた神選者の雷がオストガロアの頭に飛んでいく。しかし見事に弾かれ、地に放電していった。
「くっ!やはり属性も効かないか!」
なるほど。謎のモヤを出せる状態だと頭部は狙えないのか。
粘菌が爆発し、土埃でオストガロアが見えなくなる。
だが、私には触腕を含めたオストガロアの全体像が見えている。
変温動物だとは思うが、流石にあの運動には体温が上がっているようで位置が分かりやすい。
ガキィン!!
伸びてきた触腕を弾く……ってなんだその槍みたいなのは!?
そのまま薙ぎ払われたのを回避、土煙が収まってきた時に青い液体が見えたためそのまま粘液も回避。
バシィッ!!
「その翼は……バルファルク!?ってぐわぁぁぁっ!」
危ない危ない。
ラヴィエンテのブレスの速度はとてつもないな、やはりこいつらの前では死なない事で精一杯だ。
オストガロアは触腕を潜らせる。
その間、バル触腕がとてつもない速度で振り回される。
どうやら翼の穴から自らのビームを出して加速している様だ。
笛で受け流しながら近づこうとするが力の関係上、一々押し戻されて中々進めない。
触腕の動き方が変わるのは怖いな……それだけ知能がある訳だから。
そうこうしているうちに潜らせていた触腕の骨に、結晶を纏わせた物を置いてから潜っていった。
その結晶は私の背丈を優に超える。
警戒しながら後ずさるか。
「あっ、ルカ!逃げて!」
一体結晶が何だ―――
バキィンッ!
ぐっ、体全体が切り刻まれる。
他の二箇所からも同じ様に反射された光が見えるから他の場所でも同じ事が起きているのか。
そうか、確か爆発する水晶を出すモンスターもいたな。
腕はちぎれてないため、笛を振って即効性の回復旋律を吹く。
見える範囲に敵は居なかった。
違和感が……なるほど。
全力で走る。
バシィッ!!
「ウォォォォォォォオオン!!」
ドッ、ガガガガガガッ!!
回避ぃぃっ!!
突然顔を出したラヴィエンテが、大地ごと捕食行為をしながら横切っていく。
『さぁひれ伏したま―――』
バシィッ!!
「ギュゥァァァアアア!!」
移動しながらブレスをはき、飛行機械と船を交互に計6発攻撃する。
飛行機械は霧散し、船は行動をキャンセルして防御した様だ。
「指揮、やはりここは私が出ましょう。」
「お兄様……」
「そっちはサイオンかな。僕はトリオンの準備が終わったよ。」
「はい……分かりました。ありがとうございます。」
「ちぇ、無視するなよ。」
魔法、物体を原子に変える者。
相手の体を侵食し、穿つ者。
神選者の中でも上位に入る者が戦場へと飛び降りる―――
流石に彼女はキレた。
全ての生物を受け入れる彼女だが……
皆さんは自分が棚に入れた物を、他人が勝手に放り出されたら怒るはず。
表面はどうとでもなるが、内心は嫌がるのが普通だろう。
突然の事に不安な神選者を助けるのは彼女だ。
何故なら被害者だから。
しかし同時に神選者を受け入れないのが彼女であった。
世界を荒らして楽しんでいる様だから。
「……いい加減にしろ。」
ただでさえ我が子を三日もいじめ続けたのに更に戦力の投下。
最初から全力なら我が子は一時の絶望で終わったのに、『切り札は最後に』という絶望をわざと与えるような行為に怒る。
勿論、追い詰められたから力の解放をするという事は自分もやる予定だが。
スマホから離した手に一瞬雷が走る。
ズガァッ!!!!!
世界に亀裂が走る。
直るために空間が歪み、そして元に戻る。
「……あっ。補足したようね、加速したわ。ウフフ……
殺して殺れ。」
まるで蚊を殺す時の様な嫌悪が混じった声で言い放つ。
彼女は確認した後に微笑み、再びイベント周回に戻るのだった。
「……?ここは……」
「あ……お兄様?」
「確かに潜水艦から飛び降りたはずだけど……」
彼らを含めたそろそろ戦おうとした者は、出発する前の街に戻されたのであった。
そんな事とは関係ないアトラルは、オストガロアの突進を避ける。
オストガロアは火を放つ触腕とバサルモス触腕を使い、触腕自体を守りながら攻めてくる。
いわば『片手剣』と言った所か……頭が本当にいいな。
「くっ、ルカ!あのディノバルドの骨を壊しましょう!」
お、名前が分かった。ディノ触腕は炎を撒き散らしながら再び近づいてくる。
私は隙を見て走って近づこうとするが、地面に擦るように移動するバサル触腕に阻まれ全く攻撃出来ない。
バシィッ!
雷の音が鳴り響く。
周りをさっとみるがラヴィエンテは遠くからブレスを撃ってくるだけだった。
もう一度周りを見渡すとオストガロアの顔の煙が無くなり、赤い光が発せられた音だった事が分かる。
「レールガンッ!」
しかし頭を狙った神選者の攻撃はバサル触腕で防がれた。
ディノ触腕が弾け飛び、お返しと言わんばかりに赤いレーザーが振り回される。
やはりこの古龍に勝ち目は無い。
元の姿に戻り、槍を振り回せば勝てそうだが。
私はそう思った。
突然、ウイルスが活発になる。
何故かは分からないが気が散らされる、早く下がろう。
しかし体は私の意思に反して、オストガロアに駆け寄る。
レーザーが掠めるが、龍の攻撃は痛くはない。
そのまま私はオストガロアの横を通り過ぎて走る。
「ここまで足掻くとは……想定外だな……」
また夜の闇が空を覆い始める。
もう三日目の終わりが見えてきた。
「……だが。」
この戦艦は今まで孤立していた。
何故なら主砲を筆頭とした火力、ワープを含めた機動力、無人航空機の大量召喚。
仲間は要らないからだ。
だが、あの時。
『今回、君の助力が必要だ。君の力があれば、もしかしたら倒せるかもしれないんだ。』
彼が助けを求めてきた。
初めて後衛として働いてくれと言われた。
勿論、私は怒った。私一人でどんなモンスターでも倒せると言った。
それでも彼は私を説得してきた……
頼られることがこれほどの快感になるとは。
「それもおしまいにしなくてはならない。」
『殲滅シークエンスへと移行!!』
その時。
音もなく黒き生物はやってくる。
生物が戦艦の底を掴む。
刹那、黒い天使の様な翼が船を貫きながら現れた。
そしてすぐに消える。
掴んだ翼から黒い物体が広がり、船体を覆っていく。
『一瞬で……なに!?』
中を侵食した黒い物体は急激に固まり、戦艦を貫く爪となる。
外側を侵食した物体は、なんの役目も無く散っていく。
「……キシィィィ……」
生物は落ちながら黒い物体を固め、伸ばしていく。
『この弾幕を―――ぐわぁっ!?』
「キシャァァァァッ!!」
そのまま戦艦を地上へ『投げつける』。
死ぬべき運命の渾沌の化身。
自身の子孫を残す生物の運命。
両方を踏み倒す『命反ゴア・マガラ』がここで行われている激しい戦いを見逃す事は無かった。
楽しい戦いの始まりは、戦艦が大地を抉る所から始まる。
っ!?
ウイルスが活発になっているせいで片方の視界は色としてしか見えなくなった。
しかし物凄いスピードで戦艦がこっち側に吹っ飛んできている事は無事な目で確認出来た。
……このままでは間に合わない。
死ぬより元の姿がバレる方がマシだ。姿を戻す。
まずは糸を放ち、置いていた槍を引き寄せ笛を吹き直し、遠くの岩に糸を放って自分を吹き飛ばす。
オストガロアもラヴィエンテも地に潜っていく。
戦艦は轟音をたてながら迫ってく――
ガァァァァッ!ガ、ガ、ガガ!!
突然爆音を鳴らし、軋みながら落下が加速する。
なんとか落下方向の反対側に滑り込む。
ズキリとウイルスが黒く表現する。
その位置を見るとウイルスの異常な活動の正体が分かった。
私が忘れていた化物。
あいつはリオレウスを皆殺しにした際に来た奴だ……!!
冷風が体を撫でる様な感覚が走った。
正体が分かり、逃げなければ死ぬと分かった。
とはいえ衝突による地震で歩く事が困難だ。
ゆっくりと距離をとろう。
背を向けてゆっくりと離れる。出来るだけ意識していないと見せかける……
サク
……さぁ、どうしよう。背後から砂を踏む音が聞こえた。
先程まで私とゴアの間に誰もいなかったぞ。
結晶が痛む。
ウイルスの動きがこれまでに無い暴れ方をする。
ゆっくりと体を向ける。
敵は声を出さずに、しっかりと頭をこちらに向けていた。
私は動かない。
私が動くと一瞬で死ぬが、動かないならゴアから動かないといけない。
受動的なのは本来悪手だが、圧倒的な強者と弱者なら立ち向かうよりはチャンスが生まれる可能性があると予測する。
ゴア・マガラが私に近づく。私は動かない。
ゴア・マガラの影に覆われる。私は動かない。
ゴア・マガラの頭が目の前にくる……まだ動かない。
……一日千秋とは良く言った物だ。私は一秒十年に感じた。
ウイルスが反応する。
私の本能が直感する。
『右』からくると。
笛を衝動的に構える。
そして上からの光に包まれた。
私達は声を上げるよ!!
なんで骸骨は持ち帰って武器とか瓶とか持ち帰らないの!?
ほら、ナバルからも何か言ってやって!!
あぁぁぁ、この骨欲しい、角がいい具合に削れるぅぅぅ!
ラヴィ!!
バクッ ペッ
「あれはナバルの牙!?」
「……共生なのか?」
ハァァァァッ、ダイナミック不法投棄ィィィィ!!
「粗大ゴミだろ戦艦は!」
「いやあれゴミ扱い出来ないからね!」