閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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「後13分ね……朝の限定定食は。周りの人間を不愉快にさせない為に記憶改竄の準備はしておこうかしら。いや、焼き切って障害者にしてしまえばいいかしら。」

「ごめーん、待ったー?」
「ううん、今来たところー!」
「10分ありがとう。」
「みんなここに来た理由を忘れたらしくて帰っちゃったー()」
「ボク達、運がいいー()」



紅の救世龍

 

……まぁそこまで驚く事ではないか。私が足を切ってそこから生えるのと同じだろう。

そう信じたい。

 

だが明らかに手触りが違う。

 

 

ピクリと指が動く。

 

 

もう片方の手で抑え込む。案の定、腕が暴れ始める。

抑えたまま机に叩きつける。

 

 

痛みと共に腕は止まる。

これが俗に言う、中二病だろうか。

 

『右手に封じられた力が……っ!抑えろ……!』

 

……人間はこれを望んでいるのか。

 

 

頭が軋む様な錯覚に陥る。

嫌に鮮明な想像が浮かぶ。

 

 

 

奴が腕を切り落としてつけかえたのでは、と。

 

 

 

 

 

 

 

バチィッ

 

「ただいまー。」

 

4時間程経った後に、奴は帰ってきた。

 

事前に練習をしていた文を言う。

 

「質問させろ、この腕はなんだ。」

「あぁ、暴れたのかしら?後少しで調整が終わるという事よ。」

 

「元の姿に戻るには。」

「調整が終わってからレクチャーするわ。」

 

 

「喋れる様になったぞ。帰せ。」

「え?なんだって?」

 

やはりそうきたか。

多少諦めていた為、そこまで絶望する事でもない。

 

 

しばらく奴はゴソゴソとタンスを漁っている。

そこから服を取り出し、着替え出す。

ワンピースを脱ぎ白いふわふわな服を着る。

黒のズボンを穿いて、ピンクの大きい服を着た。

 

「どうかしら?感想を口にどうぞ!」

 

……正直に言っていいのだろうか。

 

「目立つからすぐ襲われるぞ。」

「大丈夫よ、襲われても殴るから。」

「いや、背後から狙われる。」

「毒に耐性があるから、睡眠薬は無意味。」

 

……噛み合ってないな。

 

「さ、着替えて。東京タワーの様に赤く染めに行くわよ。」

「断る。」

「(´•௰• ` )」

 

 

渋々といったようにバチリと消えた。

奴についていくと何があるかわからない。

数日とはいえここで過ごしているのだから、こちらの方がいいだろう。

 

 

機械を触ろうとするが、弾かれる。

それと同時に体が焼け付くように熱くなる。

 

悶えはするが、何故か嫌な感覚ではない。

元の姿ではそうそう味わえない感覚だからだろうか。

 

 

 

 

 

数分後

 

 

……

なるほど。理解が出来ない。

 

痛みが引くと、私の体が少し黄色く変色していた。

 

そして突然胸らへんで振動が起こる。

 

これが心臓の動きか。

虫にはこれ程強い脈動は無いと考えると、本当に人間の体なのだと分かる。

 

暑い。

これが恒温生物の体温か。暑い。

この服さえ熱がこもり、暑く感じる。

 

 

 

ゴウッ!!

 

 

脱ぐか脱がないかで迷っていた時に突然炎が燃え上がる。

そこから現れたのは――

 

「……い、いないな。」

 

……まさか、ミラボレアス……しかも紅龍!?

図鑑でしか見たことがない。

 

勝ち目はない。そして死ぬ。

 

「落ち着け。俺は三姉弟で唯一落ち着いた龍だ。」

 

喋った……!?

 

龍が部屋に入ってくると同時に部屋が大きくなる。

 

ガッ!?

机も大きくなって私の顎をうつ。

ひっくり返る私を覆うように更に大きくなる。

 

「うんうん、やっと生物になったか。ちょっと待ってろ……『鏡の盗視』」

 

 

ヴォンと謎の球体が浮かぶ。様々な色を放つそれは――

 

それの色が定まる前に、机が爆発する。

 

すると球体は部屋の光を吸う。

 

「炎壁。」

 

部屋の形が陽炎で分かる様になる。

こちらは温かい。

どういう事だ?また別の空間に?

 

 

 

「……落ち着け。見ろよ。」

 

 

光を吸い、その分だけ光を放つ。

その球体には……

 

 

 

「ここを刺激して、警戒を高めさせる。するとこの国と緊張が高まる。そしてこの国は短気だから、様々なスパイを送ると思うわ。」

「そこでボクが電波をビビビーって何度もこいつに送って深層心理に言葉にできない怒りを植え付ければ完成だね。」

「まずは雷をここに落とす。」

「だったら初手はこの港かなー?」

「……今日は雨降ってたわね。」

「肌の潤いは大事だよ。」

「物理的に。」

「タコだし。」

 

 

 

奴と誰かが映っていた。

 

「……いいか。これは今起こっている事だ。急ぐぞ、まずは『人化・龍化』だ。」

 

対面しているのはミラボレアスなのに、私の体は震えない。

人間はなんと傲慢なのか。まぁ、助かるが。

 

「この現象は龍の力と同じだ。だから意識すれば操作できる。自身の武器を思い出せ。それに適応した人間の体の部位を力を込めて振る。」

 

とりあえず言われた通りに鎌をイメージ、そして腕を振る。

振り切った時には鎌に変わっていた。

 

「流石だ。次は尻尾だ。本来ならもっと内側だが、お前の尻尾はお前の体の中で一番硬い。だからここ……そう、背中と尻の中間、骨が角張った場所。」

 

ワンピースを捲るように生やす。

ふむ、かなり自在に動かせて、体には明確な痛みは走らない。これで糸も使えるだろう。

 

「最後に足だ。これは余りイメージ出来ないだらう、だからイメージ画像を持ってきた。」

 

これは……

 

「アラクネ。上半身が人間、下半身が蜘蛛の別世界の存在だ。これを左右二本ずつ脚を抜けばお前だ。」

 

 

ジャンプしてから生やす。

なるほど、これはいい。尻尾と脚を生やせば、森の中で腕を使って小回りな動きが出来る上で移動力は落ちないのか。

 

「よし。ならば早く脱出しろ。今を逃すととてつもない拘束が襲う。」

 

球体は消え、壁が一瞬炎の色をするがすぐに消える。

空間から炎が発生、輪のように広がる。

 

「お前の体は奪取した。ネセトの下に空間を作り、そこに横たわっている。隣に笛もある。」

「……何故そこまでする。奴と貴様はどういう関係だ。」

「さっき言っただろ。三姉弟ってさ。さぁいけ!すぐそこに体はあるぞ!!」

 

不意にミラボレアスの尻尾に吹き飛ばされる。

 

ゴロゴロ雪の上を転がり、そちらを見ると丸く溶けた雪しか跡は残っていなかった。

 

 

 

「……感謝する。」

 

私はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチリ、バチリと雷がうなる。

少女から走る赤い雷が大きくなるにつれ、更に部屋は大きくなる。

 

対峙するのは余りの高温にプラズマが走る龍。

 

 

「何故、脱出させたのかしらぁぁ………」

「アイツを逃がす気ないだろ。そういう事だ。」

「着物を用意したのに……私に依存させる計画も立てたのにぃぃ……!!」

「いいだろう。久しぶりにだな。」

 

 

龍に変化した少女は全てを原子にまで吹き飛ばすブレスを放つ。

紅龍はそれを飲み込む質量を持ったマグマと炎のブレスを放つ。

 

壁を走る雷が紅龍を襲う。

自身の熱を更に強くしてプラズマの一部に変える。

 

雷と共に縦横無尽に空間が割かれる。

巻き込まれないように回避しながらブレスを湾曲させる。

 

「第6使徒!!」

「核の生物!!」

 

街を焼き払う存在をぶつけ合いながら噛みちぎり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネセトが雪を被って埋もれている。

雪を掻き分け、潜っていく。

 

明るく無い為はっきりと見えないが、私の体がそこにあった。

 

触れると、視界が暗転する。

そして腕を見ると鎌になっていた。

 

「――――ッ!」

 

やはりこの姿では喋れないか。

とりあえず何日も空いたから、さっさとマネルガーの元まで戻ろう。

 

 

 

 

雪の小山が揺れる。

ひびが入り、軋ませながらソレは再び動き出す。

 

アトラル・カはこの世に帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 

 

龍歴院が騒ぎ出した。

 

まさか古代林に暴食が居たなんて。

世界の終わりだ!と。

 





ボレアス「ひな祭りしよう。」
ルーツ「ァァァアアア!!」
バルカン「あっ……」
ルーツ「2週間は留める予定だったのにぃぃ!!」

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