閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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シンセンジャー専用のバイク


雪上が一番ですが、陸上でも使えます。

80°の壁まで登れます。



棄てる神あれば煕う龍あり

敵が機械に乗る。

 

私は笛を吹き、一度背中に戻す。鎌をいつでも振れる様にする。

 

 

 

一瞬誰も動かなくなった直後に、雪を巻き上げながら虫が突っ込んでくる。

機械は熱を発するため、位置が分かりやすいから優先して虫に対応する事が出来る。

 

鎌を振るが、鉤爪で受け止められる。

互いにもう片方もぶつけ合う。

ズリズリと私が押されるが、ギチギチと鎌を狭めていく。

 

私が糸を射出すると同時に、虫は腹を向けてくる。

 

 

おっと、とても強い目眩がする。一体なんだ?

先程の正常な景色を思い返し、もう一度虫に糸を当てて張り付ける。

そして虫は鎌から脱出する。

 

……くそっ、今までの馬鹿みたくは喋らないか。目眩が酷いため羽音と糸の感覚から位置を推測する。

 

再び距離をとった虫が前傾姿勢を取る。

 

 

しかし私は相手の突進に吹き飛ばされる。

分かっていたが、避ける事は出来なかった。

 

とりあえず転がりながら糸を引っ張り、そのまま雪に叩きつけ笛を構えながら走りよる。

 

 

 

まずは腹を潰す。

 

 

と、上手くいくはずが無いか。

突っ込んできた機械を半身で回転しながら避ける。

 

私の上で水球が形成され、変形して一箇所が伸びる。

 

すかさず避けると元の場所は水で雪が切られていた。

また突っ込んでくる機械に笛を振ろうとするが虫も突っ込んでくる。

再び両方とも避けてそのまま虫につけた糸を引っ張る。

 

少し勢いに引きずられるが、槍よりは軽い。そのまま虫をヤンキーに叩きつけ――ようとするがヤンキーの前で水球が再び形成され、勢いが殺される。

 

地面が揺れる。飛び退くと針葉樹が私を狙って雪を突き破ってきた。凄い勢いで伸びるが、突然折れたかの様に私を向き、そこから私を貫きにかかる。

 

悪態を考えながら回避すると、木は雪を吹き飛ばしながら潜っていく。

 

 

「アンコール!」

 

 

爆音が鳴ったのが聞こえると、また大きい建物から大量の光線が放たれる。

 

……攻撃タイミングが無い。

周りを見渡す。

 

恐らく木を操作していてこちらを見ていない緑の機械に糸を放ち、私をバイクに引き寄せる。

 

「たぁぁっ!」

 

しかし気づかれた途端にボゴッと木が壁の様に生える。

予想通りの為、着地をする。

 

羽音が聞こえた。

回転しながら笛を振り抜く。

虫は回避したあと、先程の様に私に腹を向ける。

 

更に回転して叩きつけ、方向を逸らす。

勢いのまま周囲を確かめると青が苦しんでいる。鎌を横向きに構えたままラリアット――

 

「ふん!」

 

横から顔出しが剣で食い止める。

 

「なっ、この鎌、硬い!?」

 

ガードではなく刃で受け止めるのか。

糸を顔出しの腹に当て、振り回そうとする。

次は針葉樹が地面から生える。しかも三本になって。

 

糸を引っ張りながら回避をする。やはりこっちを向いた木に向かって顔出しを投げる。

 

「ぬうっ!うっ、大儀である!」

「危なかった!」

 

虫がキャッチしたか。横にずれながら笛で木を叩く。

やはり木を一撃で割ることは出来ないか。

 

 

「降りかかれ!塩酸雨!!」

 

 

……私の真上に小さい雲が出来る。分かりやすい攻撃だな。

 

機械を唸らせながら遠くから様子を見ていたヤンキーに飛びつく。

 

「ぐわっ!」

 

首を切り払ったつもりが、切り傷程度にしかなってないようだ。

急いで走り出した機械の後ろ側に私も乗る。

 

笛を振り自己強化の旋律を再び揃える。

 

「くそっ、『あくのはどう』!!」

 

おっと。唐突な黒い波動に吹き飛ばされた。叫び以外は予備動作無しか……

雨雲は機械の速度に追いつけず、霧散した様だ。

 

 

――思考が乱れる言語が走る。

 

 

タダス・タラクァー(生命は神に逆らえず)

 

 

ぎっ!?

突然私の体のあちこちが裂ける…!?

……フード、お前か。

 

 

傷に雪が染みるが、無視する。

機械を唸らせ始めたフードに切りかかる。

 

青が水球を作りながらこちらに突撃してくる。

 

 

 

予想通り。

 

 

機械ごと笛で殴り飛ばす。

 

「うぐっ!?……来い!」

 

投げ出された青は体勢を立て直してから何かを手から作り出す。

その太刀は水で出来ている様に見える。

 

相手が構えるのと同時に笛を振りかぶり――

 

腕を叩く。

 

 

折れないのは想定内、うずくまった所に鎌を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

「召喚者!行くぞ!」

「まだ試してないがやるしかないか!」

 

ビヤーキーはスパークダークネスのバイクに急いで近づき、後ろの筒に腹を入れ、合体する!

 

バイクが唸り始める!

 

スパークダークネスは『肉体の保護』の呪文を使い、指の皮膚を噛み切り血で紙に魔法陣を描く。

 

今、アトラルにバブルマリンブルーが倒されそうになっている!

 

スパークダークネスはアクセルを踏む!

 

フーン機関を使ったエンジンと、加速度倍増の魔法陣により爆発的な推進力が発生!

一時的な装甲によってマッハ30を超えても耐える!

 

 

「バースト!!」

「アクセルっっっ!!」

 

 

バァァンッッ!!

 

強烈なソニックブームを出しながら突撃!

圧縮された空気は強烈な炎を放つため、まるで赤い光が走っている様だ!

 

 

グシャッ、ドォォォッ!!

 

 

アトラルを粉微塵に吹き飛ばし、急停止する。

風が破片を遠くに飛ばす光景が残った。

 

 

「これが……奉仕種族の力だ。」

「それこっちの台詞。」

 

 

彼らは村を襲撃した相手を倒したのだった!

 

 

 

 

 

 

 

龍が唸る。

 

自分のお気に入りが理不尽に殺されたら誰だって気分が良くないだろう。

 

 

 

一面雪景色だった空間が腕の一振りによって裂かれる。

 

 

山に雷が落ち、一部を消失させる。

 

 

「さ、流石に逃げるぞ!」

「まさかボスが現れるなんて!」

「私達ではまだ無理ということが今ので分かる!」

 

 

バイクを走らせ、五人と一匹は逃げる。

 

 

 

「適切な判断ね。さて、と。」

 

 

 

白き龍は雷を落としながら吹き飛んだ破片を集める。

直撃したのに壊れなかった笛は遠くに飛んでいったため、それも探す。

 

 

 

 

 

???

 

 

――私の意識が覚醒する。

 

……なんだここは。

まずは現状把握……えっ?

 

鎌を床につけた筈が、明らかに違う感覚が走る。

 

 

見ると『人間の手』だった。

手は腕から生えており、腕は体に付いていた。

 

 

足の感覚も――がっ!?痛い!動かせない!?

 

 

 

私が悶絶しながら…….おそらくこれは畳?

それの上で横になっていること約10分。

 

その間にここは謎の小部屋で、扉が無いという事が分かった。

中央に机、壁に沿って家具や機械などがある。

 

 

 

バシッと雷が走って何かが入ってくる。

 

白いワンピースを来た少女だ。

 

 

「流石にあれは酷いわよね……」

 

恐らく先程の戦闘の事を言っているのだろう。

しかしどうだろうか。

私から村に強奪に入ったのだからしょうがない事ともとれる。

 

「ほら、楽にして。って言っても横になっていた時点で楽にしているわね。」

 

……ここは何処だ?こいつは誰だ?

 

 

何故私はこいつに恐怖している?

 

 

「ここは死と生の狭間。私が貴女の精神を取り留めているの。」

 

な、なるほど?

死後の世界とかいう人間の欲望を体現した言葉ではなくて安心した。

……いや安心するべきか?

 

 

少女が私に手を伸ばす。

勿論弾く。

 

「流石野生のモンスター。その警戒心は筋金入りね。さて、どうしましょう……あ、血をどうぞ。」

 

突然現れた湯のみに赤い液体が注がれる。

ここで私を殺す理由は無いと判断し、飲む。

 

それ以前に手を伸ばすが届かない。

 

「よーーっと!!」

 

少女も手を伸ばして私の届く位置に湯のみを移動させた。

昔見た通りに運び、口につける。

 

――何故か余り口にしたくない味だ。人間だからだろうか。

しまった。これどうやって口に流すのを中断するんだ?

口を閉じ、湯のみを外す。おっと……

服が汚れる。

 

ん、いつの間に私は白い服を着せられたのだろう。

体に違和感を与えないとは、どういう素材なのだろうか。

 

 

「さて。貴女が選べる道は二つ。」

 

 

タイミングがおかしくないだろうか。

飲ませるだけ飲まして、その直後に話すのか。

 

「ここで私の言いなりになるか。それとも貴女を一時的に私が支配するか。」

 

……なんだこいつは。

 

「結局は私の言うことを聞いてくれないかしらってことなのよ!」

 

それを自分でいうか。しかし従う理由が分からない。

首を傾げる。

 

「……ブフッ。さ、三時間で貴女の体は治せるから、喋る練習をしといて。じゃあ後で。」

 

バンッ!

 

唐突に鼻血を吹きながら姿を消した……

 

恐らくこの体に慣れろと言われたのだろうが、人間の体の方が有能なのはリオレウスの様に『自在に動かせる攻撃用の部位』が少ない奴だけだろう。

 

 

周りの家具を調べながら大きく息を吸い、その吸った空気を喉に通す。

 

「………ァ……ハ……ハ……ァ、ァ………」

 

駄目だ、喋る感覚が分からない。後天的に学ぶ物では無いからしょうがないが。

 

 

「喋れる様になった?」

 

少女が顔を出す。

恐らくあちらとこちらでは時間の流れが――

 

「気になって3分で終わらせちゃったわ。」

 

恐らく1分も経ってないのだが、突っ込むのは愚行だろう。

 

「あとぉ、驚いたらちゃんと声に出さなきゃ。表情だけじゃ駄目よ。」

 

……面倒くさい。モンスターの姿を取り戻してからネセトの元に帰りたい。

 

 

 

 

 

 

「や……ぇぅぅ!!」

「ゴフッ!だ、駄目よ!貴女が喋れるまでくすぐるのをやめない!」

 

 

この感覚を表現する言葉はなんだろうか。

何故かは分からないが、敗北感、劣等感、背徳感を感じる。

私が着ていた白い服も奴の血で大分赤く染まった。

 

とりあえず背後から覆いかぶさってくる奴を振りほどけない。

目頭が熱くなるのを堪えながら睨みつける。

 

「ガフッ!!」

 

っ!力が弱まった!振りほどく!

 

「フゥ……フゥ……」

 

乱れた息を整える。

流れる汗を拭う。

 

最悪な事に、私も少女の様だ。力もそれ相応。

 

 

そして私はあの息の荒い奴から新たな恐怖を感じる様になった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

身の危険をとてつもなく感じる。

まるで『捕まったら死ではない死』を体に与えられる予感がするからだ。先程も大分死にかけたが。

 

 

「白紙を……染めるっ!」

「っ!!」

 

掴みかかりを回避、奴はそのままタンスに衝突する。

 

 

「くぅ……流石、残奏姫と呼ばれるだけはあるわね。でも私の前では無意味。人間の姿の貴女ならもっと無意味だわ!大人しく捕まりなさいぃっ!そして私の手で震えるがいい!」

 

既に恐怖で震えている!

この姿じゃこいつは殺せない、どうすれば!?

 

 

 

 

そして運命はアトラルを見捨てる。

 

 

 

机に小指をぶつけ転倒しかける。

机から離れた場所に外側の足を置くがそこにはボールが。

バランスを完全に崩した少女はうつ伏せに倒れる。

 

 

 

しまった。

この体と距離感覚がまだ整っていなかったか。

早く起き上がっ――

 

 

肩に誰かの手が乗る。

 

手を掴むが振り払うどころかずらす事さえ出来ない。

 

私は顔を畳に擦りつけながら暴れるが、奴は背中にどんどん体重を乗せてくる。

 

……奴の鼻血が私の首をつたう。

こいつ……まさかロリコンか。神選者に良く見られる性癖……こいつも神選者だったのか。まさか人に変化させ、弱体化した所を弄んでから殺す――やめろ!それ以上私に敗北感をっ、ぁ、ぁぁぁ!

 

「カフッ、ここがいいのね!!ほらほら、くすぐってあげるわぁ!!」

 

 

 

呼吸困難に陥りながら思う。

 

なるほど、絶望とはこういうことか、と。

 




「この光景ビデオに撮って、あっちで売るわ。」
「多分だが児童ポルノ禁止法で捕まるぞ。」
「そっかぁ……それに便乗して詐欺とか出来ると思ったんだけどなぁ。」
「音声以外は刑罰対象だし、詐欺も駄目だ。」
「なんでですか、公共の福祉に反するとでも!?」
「その通りだよ、世界をかき乱そうとするなし!」



※人化『付与』の場合、見た目年齢を大きく変える事は出来ない。

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