閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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今日もお仕事頑張るぞい!

「何をやっているんだ?」
「いえ、やらなければいけない気がしまして。」
「え、どういう事なんだ?」


※グロ注意を喚起させていただきます。骨が皮膚を突き破る等の表現はしていません。
※戦闘表現が下手です



密着!ギルドナイト48時!

(もう復興した)ドンドルマにて。

 

 

彼女達の朝は早い。

何故なら、いつ何日間外出するか分からないため一般人が昼や夜にやる事は日が出る前に済ませるからだ。

そして洗濯を終え、室内干しをした後に外出。

 

「おはようございますぅ。」

 

彼女は太陽に挨拶をする。

 

 

朝日に照らされた大老殿に続く階段を上る。

ランスを構えたギルドナイトが軽くお辞儀する。

彼女も微笑む。

 

本来ならここで認定の証を見せるのだが、彼女の存在を考えれば会釈で済むのは当たり前の事だろう。

 

更に上るとドンドルマの街を一望する事が出来る。並のハンターでは装備を着たままで上るのは難しいと有名なここは、選ばれたハンターといえど大変な為、毎朝訓練や特訓に使われている。

 

そんな勤勉なハンター達に挨拶しながら彼女は大老殿に入る。

大老殿の前には再びギルドナイトが立っている。そこで始めて『ドンドルマギルドマスターの血印』が押された手帳を見せる。

 

大老殿に入るとすぐ、大量の物品を備えた雑貨屋が構えている。

 

「回復薬グレートを二つ。えっと、なんとか、あー、はいはい、粉塵を二つ。お願いします。」

「了解しました。以上で――」

 

手帳を再びめくり、見せる。

 

「はい。」

「確認しました。少々お待ちください。」

 

表面的には無い物扱いだが、生命の大粉塵を扱うこの店では先程の通りに粉塵を頼み、印を見せると生命の粉塵に偽装した大粉塵を売ってもらえるのだ。そして売った際の時刻や対象も記されるため、持続的な転売は非常に難しい仕組みになっている。

 

受付嬢の前を通り過ぎ、二階に設けられた大きなレストランに入る。

 

そこには寝ているハンターや真面目に書類を書いている学者、談笑しているハンターが数は少ないが既にいる。

キッチンからも今朝仕入れた食材を処理をしている音が聞こえる。

 

朝日に照らされるバルコニーに出て彼女はボーッとする。

この時間が彼女の至福のひとときだ――

 

「おはよう。……おはよう!!」

「うわっ!?えっ、あ、お、おはようございます!」

「確かに最近は余り寝れずに疲れたが、バルコニーで寝るといつどこから狙われるか分からないぞ。」

「うーん、っはぁ。いやぁいいじゃないですかここー。雨の日はレストランがここだけパラソルをつけてくれますし。」

「それはお前が常連だからだろう。さて。」

 

チリンチリーン

 

ベルを鳴らすとバルコニーにも関わらず、すぐさまアイルーが飛んでくる。

 

「おはようございますニャ。今日もいい天気ですニャー。ではご注文を承りますニャ。」

「俺は『料理長お任せフルコース』で。」

 

 

「えっと、私は彼と同じのと、『ニャンコック直伝!とろける魅惑のレバーチーズピザ!』と……『唐揚げサンドイッチ』と、『破滅級!チャレンジタイムアタック大盛り激辛カレー』と……『サイコロステーキ〜微かな春を交え〜』……をお願いします。」

 

 

「ニャ?ニャニャ!?ミャァァァ!?」

 

朝なのにいきなりの大量注文にアイルーはパニックに陥る。

もしかして団体なのか?注文した品を全てテーブルに置く事は出来ない!?どうしよう!?

そんな考えが冷静な判断(先輩に聞く)を阻害する。

 

「あ、新人か。済まない、彼女は別名『永久に喰らうイビルジョー』って呼ばれているんだ。」

「う、うるさいです!狩猟中は三週間ぐらい断食してからZ級に挑めます!」

「弁解になってないし、バルコニーのこのテーブルだけデカい事が証明している!!」

「ぐうっ!?」

 

 

キッチン側から笑い声が聞こえる。

前日まで研修や自己練習などで緊張したアイルーや人間をこの女性にぶつけるのは恒例になっているのだ。

 

 

コック達はこういう。

これは緊張や高揚感、そして恐怖を持った者が無意識に受ける、

『忍び寄る気配』というクエストなのだと。

 

 

 

それはさておき、この二人組はここではある程度綺麗に食事をするのだ。

流石に一口は大きいがこぼしたり水で流し込んだりはしない。

かなり黙々と食べながら確認すべきギルドナイトの書類を読む。

 

 

領収書が渡される。

そして同時に手ぬぐいが渡される。

 

彼女達が手ぬぐいを広げるとそこに――

 

 

 

 

まだ本日の公演には遠い時間にアリーナに居た。

一体何を待っているのか。

 

 

唐突に男が近づく。

 

「今日はこれだ。」

 

男は耳元で囁きながら一枚の紙を渡す。

 

「分かりました。」

「承りました。」

 

男はアリーナの闇に溶けていく。

紙には複数の指定時間制限と位置、クエスト目標が書かれていた。

よく読んだ彼女達もまた、闇に溶けていった。

 

 

 

さて、ギルドナイトの存在は比較的有名だ。しかし新聞などのメディアも、特定しようと追いかけるといつ間にか人が減っているため触れてはいけないものとしている。

一般的見解はギルドナイトはスカウト制とされていて、ある程度有名なハンターはなれないと考察されている。また志願するのも御法度と思われている。

 

 

 

―――ギルドナイトに聞いてみた―――

 

Q.実際に暗殺をしているのか。

 

「はい、そうですね。暗殺も仕事内容の一つです。資料で把握して、プランを組み立てて、柔軟に対応しながら実行。私達はギルドナイトなので狩猟だろうと暗殺だろうと偵察だろうと命令された事は98%以上の確率で成功させます。」

 

 

Q.罪悪感は無いのか。

 

「難しい話ですね。無いわけではないのですが自分の感情は二の次みたいな感じですね。ギルドは社会や生態系に与える影響を考慮して命を天秤にかけているそうです。確かに冷酷で非情ですが、今のご時世、一時の許容が世界崩壊への道になる可能性がある事を考えるとやらなければならないと思います。はい。」

 

 

 

出る杭は打たれないこの世界。

しかし深く刺さってヒビを入れたり、腐った杭を冷徹に処分する存在は何処でも必要。ならば彼女達はバールと呼べる存在なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ココット郊外。日が落ち始める頃。

 

彼女達の今日の依頼を実行する時間だ。

 

 

「こんにちは。この格好は寒いです……」

「今日はお前にかかっている。」

「本当に上手くいくのでしょうかね?」

「やる気を出せ……まぁ尻拭いはやってやる。」

 

 

彼女は『娼婦』のふりをして小さな建物に入る。

余り喋らないで艶めかしい動きを心がけよと他のギルドナイトからアドバイスを貰っているため、余り周囲に違和感を与えること無く滑り込めた。

今日、何故か急激に体調を崩し医者のお世話になっている店長の代わりに副店長が仕切っているのもあったからだろう。

 

事前に気絶させた娼婦の部屋に入ると鼻を突く匂いが充満していた。

 

「……うっ。流石に慣れませんねこの匂い。」

 

 

一応娼婦とは書いているが、ヘッドスパや耳かきなどを出来る様に練習させられる点で潜入の難易度が高いといえる。しかし彼女には釈迦に説法、マニュアルを余り読む必要はなかった。何故なら――

 

 

 

囁きでやり取りを行う。

 

「この方、寝てしまいました。」

「分かりました。」

 

質は高いが人数が少ないため寝てしまったら終わり。この店にはそういう変わった仕組みがある。

 

 

ギルドナイトたるもの、狩りの対象は熟知していて当然らしい。よって簡単に人間を眠らすことが出来るのは当たり前だという。

大体の輩はお楽しみは最後にとっておく。何故ならお互いに疲労が激しいためその後の分のお金はほぼ無駄になるからだ。

逆に言えばそれまでに寝かせてしまえばサイクルが早くなり標的に会える確率が高くなる。

 

 

それを五回繰り返した時に、今回の標的(ターゲット)は現れた。

 

 

「ふん、今回の癒し手はいい体じゃないか。」

「………(予想よりブサイクですね。)」

「着衣ってのもいいかもな?」

「………(何か体から腐った匂いがする!?部屋の匂いを突き破るレベル!?)」

 

 

標的の名はイイカワ ナリト。

 

神選者ではあるが、密猟や強姦を繰り返しているため、指名手配をされている。

だが、例に漏れず神選者の正面からの殺害は本人の力が強く非常に難しい。

 

 

 

しかし全てを調べあげれば意外な弱点は見えてくる。

この神選者はこの場で何よりまず接吻を要求する。彼女達はその事実を見つけるのに2時間もかからなかった。

 

 

 

 

舌を絡ませようとしてくるのをしばらく拒んだ後に、舌で一気に口の奥に錠剤を押し込む。

 

「!?」

「はっ。」

「ぐっ、ごっ!」

 

異物に気づき吐き出そうとするが、吐かれる前に顎を蹴り上げる。

そのまま空中で喉元を抑えながら叩きつけ、すかさず自らが着る薄い衣で足を縛り、猿轡と同じ様に口を抑える。

そして優しく頬を触り、胸をなぞる。

 

突然の事につい神選者は喋りたくなり、飲み込んでしまう。

 

 

 

 

「ふぅ……なるほど、この場所ですか。」

 

超猛毒が体内に回った死体の物品を漁る。

そして地図を見るとマークがついていた。

 

ギルドナイト特製の超猛毒錠剤。Z級からしか採れない為、非常に高価で扱いが難しく、殺害に使われる事は滅多にない。

何故なら茶に溶かせば色が変わり、口に含むには余りにも危険な物体だからだ。それでも拘束された際の自殺手段として一定数の需要はある。

 

 

何故リスクをおってまでするのか?

いや、彼女は危険性を知った上で普通に使用しているのかもしれない。

 

公表されていないが、ナリトの能力は身体強化以外に『全スキル保持・デメリット無効化』である。

 

 

 

 

 

 

誰にも気付かれずに屋根に立つ。

月明かりに照らされながら、風になびく服を来た女は男を待つ。

 

 

「世の男性は……私の手の上ですよ。」

 

「まだ生理が安定しない年齢で何を言う……」

「あ、言っちゃいけないこと言った!マジぶち転がす!マジブロス!」

「始めて色っぽい事して興奮してるのか。俺も最初は……死闘で疲れてたな。」

「えっ、死闘?」

「まさか俺が最初からこの強さだと思っているのか?」

「か、考えてませんでした。」

 

 

 

 

 

 

 

次の日。二人組がとある建物の前にいた。

 

彼女はナルガ一式に着替え、外壁の中で番犬をしていたミドガロンを討伐する。

そして建物の外壁を登り開いている窓から侵入、気づくのに遅れたキセルを吸っていた人間の鳩尾を殴り、サマーソルトで追撃して意識を刈り取る。

 

外に向けて合図すると彼は正面から入っていった。

 

 

 

さて、男から渡されたクエストの中で絶対クリアしろと書いてあった物は

 

『謎の組織の資金源潰しちゃって〜』

 

というあやふやかつ、本来自警団などがやるような内容だった。

しかし不服申立てをする事なく、二人は遂行する。

 

 

 

 

「恐らくここがボスだな。待つのも面倒くさいから突撃しておこう。」

 

大きな扉をノック。

中から聞こえていた脅迫が一度止まる。

 

「おい、今ボスが仕事して――」

「ここか。」

 

ドアを開けて注意をしようとした人間の股間を蹴り飛ばし、壁にまで吹っ飛ばす。彼の子孫はもう出来ないだろう。

痛みで気絶した人間を放っておき、ボスと呼ばれている大柄な男に近づく。

 

「おい。」

「うっ!?」

 

そして普通に距離を詰め、襟元を掴み持ち上げる。

ここで注目して欲しいのは、肘を伸ばしきって持ち上げている点だ。

非常に辛い体制だが、

 

「おい、なんとか答えろ。それともこのまま殺されたいのか?」

「黙っ、あがっ!!」

「抵抗は選択肢にいれてないのだけど?」

 

ボスはナイフを腕に振り下ろしたが、もう片方の手で手首を150°ぐらいに曲げられて機能しなくなった。なんという怪力だろう。

 

そこにやっと彼が追いつく。

光景を見て現状を理解したのだろうか、周囲の本棚や隣の部屋に捜索しに入る。

 

 

 

 

 

隣の部屋には銃を構えた女性の秘書が居た。

銃弾を三発回避しながら近づき、大振りの右手で殴る。

秘書は受け止めるが男性とはいえ余りに強い力に吹き飛ばされる。

 

「きゃっ!」

 

そう言いながら受け身をとり、再び男が振った右手を受け流す。

そこから銃を撃ちながら顎にアッパーを決め、地に崩れた男に再び銃を撃つ。

しかし男は仰向けにも関わらず手で走り、秘書の足を掴む。

銃を撃とうとするが男が立つ事によりバランスを崩し、片手で吊り上げられる。

 

「まだまだだな。」

 

男は秘書をそのまま床に叩きつける。4、5度程繰り返した後に空中回転しながら両手で掴み――

 

バキイッ!!

 

 

 

音を聞きつけ走ってきた幹部に上半身をちぎって投げつける。

全く理解出来ない現実に放心してる幹部を全力で殴り飛ばす。腹から入って背骨を折る。そのまま打ち上げ、落下してきた頭を再び全力で殴り破裂させる。

 

「流石に気を緩めすぎたが、この程度だと武器も使う必要はないか。」

 

背後から斬りかかってきた大剣を裏拳で折る。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。もういい。」

 

そう言うとともにボスを投げ捨てる。

突然の事に腰を抜かしていた一般男性に声をかける。

 

「大丈夫ですか?早く逃げた方がいいですよ。」

「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言えば――危ないっ!」

「ほっ!と。」

 

残った手で再び刺しに来たボスの顔面を、振りかぶりながら方向を合わせ、殴る。顔の骨が折れる音とともに気絶する。持ち帰って尋問をする為に殺さなかったという。

 

 

 

 

 

 

「帰り際に対象モンスターを討伐しました。」

 

再びギルドナイトの二人はドンドルマのアリーナであの男と会っていた。

 

「ご苦労だった。しかし対人は男の方だと聞いていたが?」

「武術を使わない人間ぐらいなら私だって圧勝出来ます!」

「声を低く、小さくしろ。」

「今回の件は口外禁止だ。」

「はいはい禁止なんて分かってますよ!」

「急いでいるのは分かった、分かったから先に行ってろ!」

 

返事より早く姿が掻き消える。

 

「食いしん坊だな。」

「そのお陰で癒し系イメージが定着してくれて有難いですがね。」

「そうか。では。」

「御用とあらばまたお呼びください。」

 

 

 

彼は歩く。

 

先に行った彼女を追うために。

 

 

彼らは進む。

 

血に塗れ、泥に塗れ、罪に塗れ、欺に塗れ……

 

それでもいつか光が一瞬でも見えると信じて。

 

それに続く道を作っていると信じて。

 




後日。


「お願いします!」
「よろしく。」

お辞儀から始まる練習試合。
最強と呼ばれるギルドナイト同士が本気で闘う。


もはや格闘戦とは思えない音が響く。

一応パワータイプの男は正面から受けるとまとめて骨が折れる殴りを連発する。

一応スピードタイプの女は受け流しながら組もうとするが腕を引き戻す力さえ強すぎる為簡単には組みに行けない。ローキックを繰り出す。

回避の為ジャンプして踵落とし、それを左手で逸らしながらサマーソルト、その足を掴み腕力だけで突き放しながら空中に放り投げ、落下地点に走り出す。

しかし互いに機を逃し、お互いに退き、そこから再び間合いを詰める。

男の本気で振り落とされた拳が空振り、軽い地割れを起こす。
女は破片を蹴り飛ばし攻撃するが片手で粉砕される。


「……練習試合なんだよな?」
「私からしたら先輩と後輩なんだけど……オセロみたいに私もああならないかしら?」


遂に女の上手投げが決まる。
男は対応して先に両足と膝を地につけそのまま腕力で女を叩きつけようとする。
腕の力みを察した為、手を離し回し蹴りをするが、男は見ずに左手で受け止める。

「本気を出してください……。」
「……常に本気だが?」
「私、掴むのが0.06遅れましたよね?全ての攻撃の速度も遅いですし。」
「練習試合だから……な。エンターテインメントだ。」

ドガアッ!!

女が吹っ飛ぶ。
一瞬のうちに腹を一発殴られたからだ。
地をバタンバタンと転がっていく。

「練習死合をしたいならお前が本気を出せ。」

一気に空気が凍りつく。
砂煙の中、ゆらりと女が立つ。

瞬間距離を詰めて腹を殴る構えからガードしようとした手を曲芸の様に捻りすぐ横に着地する。

「分かりました。私も本気を出そう。」
「手首が痺れるな。確かに本気を出したようだ。」
「全体重で捻ったのにそれで済むとは、流石にパワー馬鹿……」



ギルドナイト達は今日も元気です。

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