閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
私達は出生数は多い。
虫だからだ。
成長すれば強大な存在になるが…所詮は虫だ。
そこら辺の小形肉食竜でさえ天敵だが、対抗策は全くない。
そんな私達だが、1度成長しきれば本能の優秀さで天寿を全うするまで生きることが多い。
しかし、そこまで生きるにはどれだけの運が必要か……
遅れたが、私はアトラルだ。
人間はアトラル・カと呼んでるが私の住処と区別するために「カ」をつけているのだし、アトラルでいいだろう。
と言っても、結局は人間がつけた名前だが。
昔の話だ。
私が生まれた時にとった行動は長距離移動だった。
この頃は漠然とした理性しか無かったが、共食いを避ける事を考えていた気がする。
そして何処かの村についた。
私はとある子供に捕まり虫かごに入れられた。
その子供は私を捕まえた後に、しばらくしてから勉強をする様になっていた。
子供が行う連日の朗読と会話、本来虫にはない私の理性。
それが噛み合い私の中に思考が生まれた……私の異常さはここで発現したのだろう。
周囲の捕まえられた生物は寿命が尽きて死んでいく。
最後のペット、ウサギの死体をどこかに始末した時に私の異常さに気づいたのだろう。彼はこう言った。
「君は……虫?」
初めて私に対して投げかけられた疑問に、若干喜びながら首を縦にふった。
「……え、話が分かるの!?……明らかに姿がセルタス科ではないし、羽虫系でもない。まさか新種!?」
私を見つめる彼の目は輝いていた。そして私の姿をもう一度見て今更ながら気づいたようだ。
「お、大きいね?君をたまたま温厚な虫を集めておいたとんでもなくでかいゲージに入れといて良かったな……」
わざと低身長を保ちながら影に隠れて出来るだけ全体をみせないようにしていたが既に高さ30cmを超えていた。
私以外の虫も角が長いなど個性的だった為、違和感が少なかったのかもしれない。
そして彼は言った。
「君を……自然に返したい。僕は来週から泊まり込みで働く様になるんだ……」
別れる直前だからこそ話しかけて来たのかもしれない。
私はあの時、既に思考力が人間の子供程にはあったので、鎌を頭の左右で広げヤレヤレ……と表現した。
そして少しキツいが鎌を裏返しガンバレと示す。
「うわぁお……あはは、凄い!賢いよ君は……」
私達は次の早朝に、こっそりと外出した。
談笑の様なものをしながら歩き、村が見えなくなるぐらいの位置で彼は立ち止まり、言った。
「ごめんね……これから元気で逞しく生きてくれ……」
ここでお別れと言われたが、勿論だ。
名残惜しいとはいえ、互いのためにここで別れないといけないことは理解している。
私は立ち上がり切らないように抱きしめた。彼も一瞬驚いたが頭を撫でてくれた。
彼のペットである生活が終わった。
思い返せば、余りにも幸運な出だしだった……
そして私は現在、約2mの高さだ。今はジャギィを食している。
どうやら私は砂漠で生きる事が出来る体質らしい。という事は本能が導いて分かった。
ゴロゴロゴロゴロ……
今日こそ逃げ足の早い貴様を食す時。
虫を食ってるなら虫に食われても問題ないはずだ。
闇蟷螂 と大失態を今まで犯していた事を訂正
正しくは 閣螳螂(かくとうろう)でした