閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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「やった…やったぞ!やったぜ。」

「また何か作ってる……」


デジャブ

はぁ…はぁ……!

あれから三、四度再び気絶したか。

非常にまだ体が痛むが、大分慣れてきたのか気絶はしない。

かなり痛むが部屋を見渡す。あぁ、何の変哲もない独房だ。またこういう光景を見るとは……

 

イビルジョー……奴の唾液にきっと毒が入っていたはずだ。浴びたあとハンターに傷をつけられ体内に少量入ったという事か。

 

笛も球もないか……檻も私の体液噴霧に対策したのか明らかに変な色をしている。触れてみる。

いたっ。

電気が通っているのか。脱出は不可…。おっと、人間が来たようだ、出来るだけ闇に潜ろう。

 

「――よし。次は君か。」

 

――?

 

「相変わらず君は元気だね。ケチャワチャはもっと落ち着いてるはずなのに。」

 

――!?

 

「さぁ、アトラル・カ。おーどーりーだーす。はーっ!」

 

ひたすら回る。当時、まずはこうやって遊んだものだ。

 

「…君か!?また捕まったのか!!いやぁよく覚えてくれたねぇ、全てのアトラル・カに言ってきて良かった。しばらく待ってな!色々持ってくるから!…体調良好、体が痛む様だが自傷行為は無し。」

 

体が痛むのに体調良好なのだろうか?

まぁいい。

彼は名乗らぬ飼育・研究員。昔、砂漠を知らない時に捕まった時も彼だった。とりあえず安心だ…彼はモンスターの衛生面に気をつけてくれている。トイレなども用意してくれるだろう。

 

私に最も知識を与えてくれた人間だ。感謝してもしきれない。当時の私は子供の言葉しか分からないため、複雑な思考はまだ出来なかった。

例えるなら…

 

相手が腕を上げる→『あぶなそう』→『怖い、こっちに逃げよう!』→『うわっ』

 

相手が腕を上げる→『右腕か』→『あえて相手の右に回ろう』→『腹がガラ空きだ』

 

のような違いだ。彼は普段の私の反応から思考力に気づき、色々教育してくれた。あのまま私が自然で生きていたら絶対に死んでいた、だから当時捕獲されたのは 不運 ではなく 救済 されたという事だ。まぁ今回は不運だが……

 

(ワァァァァ!)

 

非常に遠くで歓声が聞こえる。闘技場があるのか……

 

ああ、私に辞書や図鑑を持ってきたのも彼だ。最初は理解出来なかったが、頭がおかしいからか、彼は文字を1から私に教えてくれた。そこからは早い。あっという間に本が読めるようになった。本が読めるようになると私の聞こえる範囲の喋る難しい単語も分かり、新たな言葉を理解する事が出来る。まぁ、檻の中だとそれぐらいしかやることがないのだが…

 

「アトラルぅ!新しい図鑑よ!問題100問、アトラル・カ!頑張れよ!」

 

本当に……感謝しながら馬鹿にする。

 

ふむ。結構古龍が増えてるのか。

オストガロア。二つの頭を持つが破壊時には触手の形を表す。…イラストからすると……イカ?というか本物の顔がでている。次のページでは…とんでもない光線を放ってないか?

 

ネフ・ガルムド。未開の地の古龍。非常に肉体的な攻撃が多い。尻尾に感応結晶をつけると、強化される。ハンターも装備す……シュールすぎる。遺跡を投げるとか私の上位互換か?

 

エルゼリオン。ディスフィロアのうざくなったパターン。攻撃力は少し低いが行動頻度が高いうざい古龍。炎氷塊をリオレイアしたらケオアルボルしてアルバトリオンする……これを書いた人大丈夫か?

 

ケオアルボル……これか。

ケオアルボル(太陽より熱い)

もっと熱くなれよ熱い血燃やしてけよ!(部位熱膨張)

人間熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ(熱気大放出)!!

だからこそ、

もっと熱くなれよおおおおおおおおおお(砦破壊大熱線)!!!

 

これ本当に図鑑か?え?非公式図鑑?なるほど。

 

ん、一番のお目当てだ。

 

アトラル・カ。虫。冗談抜きで人類の敵。単体だと非常に弱いが、人類の武器、装甲を使ったアトラル・ネセト(アトラル・カの巣)キィェァァァァァァ(絶望的強さ)。対策は更に上に行く技術を作るか、犠牲を出しながら見える糸を千切り行動停止させて本体を叩くか。

 

あ、巣は作る物なのか。知らなかったな……ふふふ……

しかしなんだ?イラストのネセトは竜みたいな顔をしているが……あぁ、大きい竜に見せかけようとしているのか。しかし強さからして顔を無くして何かを射出するようにすればいいのに。そこは本能か。まぁ……かっこいいな。

 

次は、バルファ――

 

「はい、シャーペンと折りたたみ式机!」

 

しまった。問題を見てなかった……

 

 

「63点!どうした?自然界に出たろー?」

 

リオレイアとイャンガルルガの毒の出し方の違い とか

ナバルデウスの髭はふさふさ?カチカチ?チクチク?なんて分かるか!!

 

「しかしさぁ……聞いた話だけどよくイビルジョーに立ち向かったな。アイツに恐怖を感じていないのか?」

……顔を背ける。

「あーやっぱりか……」

 

脱出が出来た原因だが、まさか隣であれをされたらトラウマになって当たり前だ。

 

 

 

「ゴオォォォォ!!」

 

金色のオーラが建物を壊す。壁や柵が消し飛ぶ。

奴らは再び咆哮し建物を蒸発させる。恐怖から私の意識が無くなっていく。

 

「おら!逃げるぞ!」

 

彼が私を担いで走る。

後ろでは哀れにも戦いに向かった者を一咬みで食う、とてつもない轟音が聞こえる。

 

 

 

……はぁ。体中の毒が再び痛みを増した気がする。本来からイビルジョーは超危険生物だからこの恐怖は必要不可欠だが、逃げる事もままならないのは避けたい。

 

「――い?おーいアトラルぅ?」

 

おっと。短時間とはいえ昔を思い返していた。彼は私に対して人間に話すより早く喋るため結構聴き逃したかもしれない。

 

「悲しいけど明日闘技場に引っ張り出されるよ。」

えっ?

「まぁボルボロスだから大丈夫……と言いたい所だが一つも瓦礫とか用意してくれないからな。」

 

笛による自己強化がないと地面を抉ることが出来ない…。いや、勝てる。大丈夫だ。ラングロトラ以下だろう。

 

「あぁ、あとこれ。成長促進剤。飲め。残さず飲め。」

 

彼の悪い癖は他のモンスターに試した薬を私に持ってくる。危ない。

 

「今までお前は一つも薬が効能が出なかった!」

 

だから捨てている。

 

「さぁ薬だ!水も用意してるから飲んでくれよ!じゃぁ仕事あるんでまた後で!」

 

副作用が明日出たらどうするのだろうか。あと栄養吸収が促進されるだろうから毒も吸収されるはず……。

踏み潰す。大体、錠剤の時点で人間以外には向いてないはずだが。

自分の思考が仮定ばっかで困るな……。

 

ブブブブ……

 

羽音?

ふと見上げる。……私の笛を持ったランゴスタだと?とっさに檻から手を伸ばそうとするが電撃に弾かれる。

……無理か。気になる……何故ランゴスタが?

 

 

次の日

 

はぁ。これが重い。こんな物なんて私には要らないのだが。

 

「今日のぉぉモンスターはぁぁ!最近噂のぉぉアトラル・カぁぁ!ブゥァサァス!」

 

「『檻の中で突如巨大化!』ボルボロォォッス!」

 

おい。明らかにあいつのせいだろう。

 

扉が開けられる。重りを外してくれる。さっさと入って地形を把握しよう……非常におおきく平らな円形。その周りは水か。

さて、問題のボルボロスだが――

 

 

はぁーー、すぅーーっ、

 

作用が副作用じゃないかぁぁぁ!!

 

イビルジョーぐらいのボルボロスが叫びながら入ってくる。

飲まなくて良かった。

……そういや属性吸収剤を飲まされたランゴスタがいたが、場所が違うだけで全く同じじゃないか。当時は負けたな……おっと、突進の構えか。




名乗らぬ飼育・研究員

昔からいる神選者。
力は強いが特に周りより優れている事がなく、モンスターを狩る事を拒んだため、下位ハンターだった。
しかしある日、酒場で寝落ちしていた彼のモンスター観察日記をギルドマスターが閲覧、その出来から研究員に抜擢される。
ただ、相変わらずモンスターを傷つける事を嫌がるため、飼育員と研究員の中の薬剤開発の役目に落ち着く。
イビルジョーを飢餓状態に落とす事を反対し、それでも押し通されたため、体調を崩さないか心配して毎日観察していた。

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