閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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同種を危険に晒せないにゃ



怪物の笛

「……」

………

 

竜の巣跡に鍛冶アイルーと来る。

笛を構える。2度振り、吹く。

 

ォォォォォォ……

 

腹に響く低音がする。それと同時に体が軽くなる。

まずは歩くことからだ。

 

「気をつけにゃ。ハンターとモンスターじゃ強化の影響が違うかもしれにゃい。」

 

遅い。私は派手にずっこけた。右後ろ足を地から離した瞬間にバランスを崩す。

 

「…」

見るな。

 

足が揃ってからやるべきだったか……まずはこのふわふわした感覚になれることから始めよう。

鎌を振る。空気を切る音がするが、空気抵抗がない。つい右に跳ぶ。

バキバキッ!

 

「……」

…見るな。

 

予想以上の脚力で自分を壁に叩きつける事になった。この状態をハンターは使い慣れているのか…

 

「アコル。こう…こうやってふるにゃ。」

頷く。

 

笛を三回振り、吹く。ォォォゥゥゥォォォ…… 少し高い音が混ざる。吹き終わった瞬間自分を叩きつけた際に出来た傷が治る。体力回復か。

再び鍛冶アイルーの言う指示通り振り、再び吹く。

……うわぁ気持ち悪い!?左前脚が目に分かる速度で治りながら伸びてる。

 

「………予想以上にゃ。」

いや、私の体に負担かかるだろうこれ。

 

気持ち悪い速度で治る足は残り一夜ぐらいの所を時々吹きながら休んでいる20分で治ってしまった。治癒促進か…ただ、疲れた。代償があるのか……当たり前だな。

 

「疲れたならこう、こう、こーやってこう。」

疲労回復か?

 

ァァァゥゥゥァァァォォォ…… 更に高い音が混じる。拭き終わった時に疲労が無くなる。もしかして笛って凄い武器なのか?四本の足で地を踏みしめながら思う。

 

「いいにゃ。しかし……さすがにこんなに音を鳴らしていると敵がくるにゃ。」

 

確かに。振り向く。そこにはケチャワチャがいた。敵は小さく叫ぶ。

2回振り、吹く。体が軽くなりふわふわした感覚に陥る。

ケチャワチャが走ってくる。飛び退く。

 

落ちる。

 

「おい。」

 

私は馬鹿をした。ついいつも通りに距離をとろうとしたが……

そのままツタが網になっている場所に落ちる。ケチャワチャが滑空しながら狙いを定めている。そのまま私に爪を叩きつけようと宙返りをする。

わかりやすい。鎌を振り抜く勢いで回転しながら回避する。

ケチャワチャは切りつけた腕の痛みを無視して走ってくる。そのまま左手を振りかぶる。笛で弾き、糸を撃つ。捉える。更に糸を当て続けながら念の為再び自己強化の音を鳴らす。これでしばらくは続くはずだ。

 

これが必勝法だ。

 

ケチャワチャを振り回し蔦に叩きつける。蔦は破れ、穴が空き、地に落ちる。私も出来た穴から降り、再びケチャワチャを壁に叩きつける。柱が崩れ落ちる。瓦礫から引きずり出し、引き寄せ笛で叩く。糸に絡まってない腕で攻撃してくるが鎌で切りつける。そしてまた壁に叩きつけ、次は糸を切りそのまま投げつける。体に巻かれた糸を破ろうとしているが、10回以上巻いた糸を破けるはずがない。そして瓦礫を何個も糸で撃ち出す。瓦礫を撃ち切った時にはケチャワチャの息は無かった。

 

なるほど。糸の強度は私が笛で強化されてもまだ限界が見えないレベルか……

私と同じ体格ならもう敵はいないな。

 

「一方的だにゃ……」

避ける知能があったら逆に大変だ。知能あるモンスターは私だけでもかまわない。

「……」

……何か言いたいのだろうか?

「……ふふふ」

なんだ?

「……あははっ!あーはっはっ!はははは……ついにワシの夢が…」

……

「じつはな?ワシはモンスターに武器を持ってもらいたかったのにゃ。ワシはハンターが強くなった後、一方的に弱いモンスターを狩り続けるのが嫌でな、いつしかモンスターも武器を持たせたいと思う様になってたのにゃ。」

頭に鎌の先を当てる。

「そう…モンスターには武器を操る程思考がないのにゃ。だから…それは本気で連日作っていたにゃ。」

……笛を地に当てる。

「大丈夫。それはワシの出来る最高の技術、こっそり集めた最高の素材。それで出来ているから絶対壊れないにゃ。あぁ、あの笛は再利用させて貰うにゃ。それでこの笛は吹いた者だけが――」

 

話が長くなりそうだ。適当なタイミングでアイルー達の巣に帰るか…

 

 

「おぉ、アコルおかえり!」

「お帰りにゃ!」

「…足がなおってる!?」

「ほんとだ!」

 

アイルー達が集まってくる。

 

「メラルー!メラルー!話してたアコルよ!」

タタタ…

「おぉ!ほんとだ!」

「くらいやがれ!ピコピコハンマー!」

 

叩き飛ばす。

 

「ぎゃぁぁ!」

「にゃぁぁぁ!」

「ごめんねぇ、悪戯好きなのよこの子達…」

 

まぁ、刺すような視線は1箇所からしか感じないからそれ以外の私への対応は分かっている。

睨みつけてくるアイルーに近づく。

 

「それ以上近寄るにゃ!」

 

殺気をとばしてくる。なるほど、こいつもあの4匹組みたいに強い奴か。

 

「私の事はネコートと呼ぶがいい。さて、今回は指示をだしに来た。あちらを見たまえ。あちらは未知の樹海と呼ばれギルドには君があちらに逃げた事になっている。」

頷く。ここまで理解が出来る。そして何が言いたいかも分かる。

 

「つまり――そういう事だ。」

 

私は樹海へ歩き出す。

 

「どういう事にゃ!?」

「未知の樹海に姿を表す事で新たな生息地に見せかけるのだよ。」

「……にゃるほどな〜」

 

私はアイルーの巣をあとにする。多分戻ってくる事は永遠にないだろう。笛、球。これを使って狩人から逃げるか、殺すか。

だが樹海…木はどのぐらいの間隔だろうか。

私はまだ見ぬ地形で作戦を立てる。

……この辺は全く長居出来なかったな。空を見上げる。……あの怪物はいないな。よし、進もう。

 

 

次の早朝

 

バルバレ ギルド

 

「知能あるアトラル・カを未知の樹海に行かせました。」

「よくやった。」

「あとはお願いします。」

「大丈夫。任せな。」

「報酬を。」

「あぁ。」





未知の樹海――

死が全ての生物につきまとう楽園

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