閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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光が絶対に届かない遺跡の中。
中々換気されない死の匂いに塗れながら生き残る猛者は、呼吸が楽になる表層に集い始める。



闇の進化

王女の悲鳴と共にライトがこちらに向かってくる。

壁がライトの光を反射し、微かにあの爪が見えた。

翼で風を起こし、ウイルスを飛ばす。

 

「ギィィィィッ!!」

 

……希少種よりも大きいティガレックスだ。奴は白い色をした体を持ち上げ、息を吸い込む。

鳴き声は高い音が多くなり、強烈な咆哮の衝撃波がこちらまで届く。

 

「抵抗するな!」

「近接戦闘を開始します。」

 

叫んでから元の姿に戻り、今にも潰されそうな王女に糸を飛ばして引き寄せ、同時に水銀を飛ばし、安全を確保する。

 

火炎放射が放たれるが、意に介さずジェンシーに向かって腕を振り抜く。

ティガレックスはそのまま私達に向かってくる。

 

息を切らしてる王女を背後にして、笛を構える。

 

「ガァァァ!!」

「キィィッ――ッ!?」

 

だが、想定よりもとても大きな腕力により壁に吹き飛ばされた。

王女から私に注意が移ったらしく私に向かって駆けてくる。

 

スウゥゥ……

 

大きく息をすった。

私とティガレックスの間に水銀で壁を作りあげる。

 

 

ギァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァァッッ!!

 

 

壁越しでもキン、と耳鳴りが発生する叫びは、水銀の壁が私に衝突する所まで吹き飛ぶ威力だ。

王女は気絶したのか倒れており、こちらに向かってきていたジェンシーは着地し、体を揺すっている。

 

ティガレックスは首を背後に回し、気絶した王女に気づいたようだ。

 

「ガァァ――ッ!?」

「クルル……ギィィ!!」

 

左前脚に糸をつけてティガレックスを転ばせる。

そのまま地面を引きずり壁に叩きつける。

体勢を立て直す前に水銀で鎚を作り叩きつける。

 

本来なら醜く潰れていてもおかしくない威力だが、平然と立ち上がったティガレックスはこちらに走ってくる。

 

「発射します。」

 

ジェンシーが飛んできて機関銃を構える。

ティガレックスの背中に向けて撃ち出された弾丸は……

 

「報告、機関銃の攻撃による目立った効果無し。」

 

ジェンシーの腕が光り、武器が替わる。

ティガレックスは勢いを殺さずに私に噛みつこうとしてきた。

飛び退きながら同時に横にした笛を差し込む。

 

……いや、まさか笛が噛み砕かれないとは思わなかった。

笛の装飾品は呑まれないようにする為に横にしていれたのだが。

 

「グァァァ!!」

「ギィィァッ!!」

 

笛ごと私を振り回そうとするティガレックスを笛ごと地面に叩きつける。

口を離し転がった所へウイルスを集約させて爆破、笛に水銀の刃を纏わせて振り下ろす。

 

ガギィン!!

 

火花を散らして擦れていく。

全く切れる様子もなく立ち上がる。

 

「ガァァッ!」

 

高く飛び込んできた。

水銀を解き、笛を振り上げる。

鈍い音が響き、ティガレックスはよろめく。

 

……そりゃ中身は生物か。

だとしたら外を潰せないなら折るとしよう。

 

水銀の鎚を再び作り、私に顔を向けてきた所を横方向に振り抜く。

 

「グァァッ!」

 

大きく怯んだ。

よろめいて片足をつき、立ち上がるのに時間がかかりそうだ。

 

「チャージ完了。放ちます。」

 

ジェンシーの構えた武器から巨大な光線が放たれた。

嗅いだことの無い臭いが立ち込める。

 

「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」

「安定化を確認。放出量増加。」

 

段々と周囲の遺跡が溶けてきた。

糸を放って王女に近づき、人間の姿に変わって抱える。

 

「ジェンシー!ウイルス撒くから一段落したら来い!」

「了解しました!」

 

片方の前脚がほぼ焼けてもまだ走り出そうとするティガレックスに体当たりをしながらジェンシーは答えてきた。

 

 

 

……

 

黄金の床が広がる広間に寝かせる。

ウイルスを四方に撒いて安全を確保し、王女を軽く叩く。

 

「……ゔ、うぅ…痛っ、いててて…」

 

ゴロリとうつ伏せになり、体を起こして正座にする。

 

「なんじゃあの爆音……一瞬にして意識が持ってかれたわ。」

「知るか。ティガレックスの一種なのは確かだろうがな。」

 

王女の手足をライトで照らす。

回復薬を飲みながら王女は立ち上がり、荷物を確かめる。

 

「四肢は大丈夫か?」

「意識を吹き飛ばされただけで体にはそこまで深い傷は無かったのじゃ。」

「そうか。」

 

その時、炎を吹き出す様な音が近づいてきた。

ウイルスにはジェンシーの姿が視えている。

 

「一段落終わりました。特異なティガレックスの討伐を完了しました。」

「分かった。」

「よくやったのう!」

「私の主目的は護衛にあります。当然の事をしたまでです。」

 

と、若干声を張り上げながらジェンシーは答えた。

……感情そのものが入ってたりするのでは?

 

そんな疑問は放っておき、王女が給水している間に周囲の警戒をしていく。

先程の戦闘を振り返る……ちっ、首を折る以外に殺す方法が見つからないな。

 

とはいえ、防衛さえ出来ない程の力ではない事が分かった。

勿論私が極限化?したからだろうが。

 

「すまんかったのう。どうする?先程の場所に戻るかの?」

「いや、壁画は危険な遠回りだ。その危険を犯す意味は今は無い。」

「ホログラムとして壁画を投影します。」

 

……さも当然の様にジェンシーは水色を基礎にした立体的な写真を浮かばせる。

王女は満足気に頷いているが、私は言ってもないことを行ったジェンシーに忌諱感が発生した。

だから確かめる。

 

「私は壁画撮影をしろと言ったか?」

「はい、『一段落』を終わらせました。」

 

「……ティガレックスは流れの中でどういう扱いだ?」

「意図が汲みかねますが、調査の中で起きたハプニングです。」

「あぁ、なるほど。」

 

そうか、ティガレックスはただのハプニングか。

クエストはサブクエストを達成した所で本質的な達成ではない、それと同じという事だろう。

 

「そのまま要所要所で保存していって欲しいのじゃ!」

「了解しました。」

 

 

 

とりあえず歩みを進める。

目的のヤツが何処かは知らないが、まぁ今までやってきた人間共に征服されてないと考えれば奥だろう。

 

ギィギを抱えた王女は先程より警戒を強め、きょろきょろと見渡している。

……今更だが、帰りはどうしようか。まぁ王女が考えているだろう。

 

「ギィィ!ギィィ!」

「っ!?」

「なんじゃ……なんじゃ?」

 

ギィギが突然叫び始めた。

触発される様に私も嫌な雰囲気を感じ取る。

 

遺跡のあちこちに開いている空洞に身を滑り込ませ、恐らく龍であろうソイツが通り過ぎるのを待つ。

火を消した為に、ジェンシーの目以外は完全な暗闇だ。

少しだけウイルスを撒いている。

 

「グルル……」

 

かなり大きな龍が地を踏みしめて近づいてくる。

そして元々私達が居た場所に立つと匂いを嗅ぎ始める。

 

こちらを睨んでから私達がここまで来た道を辿って歩いていった。

ガラガラと奇妙な音を奏でるしっぽを引きずりながら。

 

その音さえ微かになる。

 

「……行ったな。」

「では先を急ぎましょう。」

「よっ、と。」

 

私達は穴から這い出る。

そして―――

 

「ガァァッ、ァァッ、ヒィンァァァァ!!!」

 

ドシン、ドシンと全速力で駆け戻ってくる音が聞こえる。

遺跡内の瓦礫を壊し、吹き飛ばす音と共に迫ってくる。

 

「ジェンシー!王女を連れて行け。」

「了解しました。」

「お主は!?」

「食い止める……いや、殺す。行け。」

 

三人で逃げた所で三人とも余裕が無くなる。

いざとなれば勝手に逃げれば良いだけだ。

王女が何かを言う前にジェンシーは飛び去る。

 

元の姿に戻り、笛を構え、翼を振りかざす。

 

耳を塞ぎたくなる程に騒がしい音をたてて、大きな龍が駆けてくるのが視える。

そして私、アトラル三匹分の間隔を空けて睨み合う。

 

その龍の姿は、まるでイナガミの様だった。

尻尾の先についた音の鳴るソレを振り続け、ずっとガランガラン言わせている。

 

「キィ……」

「グググルゥ……」

 

単純に脅威だ。

ティガレックスとは違い、厄介ではなく危険だ。

互いの足に力がこもる。

 

「ガァァッ!!!」

「クルァァァァ!!」

 

 

 

 

闇。

 

一切の光がない闇。

息の詰まる様な空気、そこまで広くない遺跡の通路。

 

本坪鈴の様な轟音が地を揺るがし、壁に亀裂を走らせる。

液体が集まり、龍の力によって金剛石より硬い物質となった鎚が振り下ろされる。

互いに遺跡に傷をつける。

 

スゥゥ――

「ィッ!」

バシュッ!!

 

赤黒いレーザーが遺跡を照らし、敵対する虫を照らし出す。

虫は笛で弾き、糸を使って瓦礫を投げつける。

龍は尻尾で打ち砕き、噛みつこうと駆け寄る。

 

ダンッ!

 

青白い狂竜ウイルスの爆発が、黒い龍の姿を晒し出す。

一切動じる事もなく、牙を突き立てようとする。

しかし、ガッシリと虫から生えているシャガルマガラの翼で抑え込まれる。

 

水銀の火花が散り、チェーンソーの刃となって飛んできた水銀を尻尾で打ち砕き、翼を振りほどいてと距離を取った。

 

青紫色の眼が光り、その光を橙の目が反射する。

 

再び尻尾を振り、轟音を鳴り響かせる。




ティガレックス蠱毒種

極限下で生き残り続ける竜。
ティガレックスに成りかけていた先祖から別れており、希少種以上の体躯に原種には無い高音域の音が咆哮に混じっている。
この遺跡の中にいるティガレックス蠱毒種は他よりも龍脈に近い事により、外皮や鱗が変質し異常な硬さを誇る。
陽の光を浴びることが無い為、真っ白になった。

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