閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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ここを通りたくば私を殺していけ

毒ガス攻撃!


二丁の散弾銃は同時に持てない

宿の中で持ち物を確かめ、ギルド……冒険者ギルド?とかいう謎の組織に歩いていく。

ジェンシーに説明してもらったが覚えていない、ハンターの時と余り変わらなかった気がする。

大きく違うのは自主的に殺っても評価される所か。

まぁ、生態系が大きく狂う……

 

 

まぁまぁ大きい建物についた。

酒臭い匂いが漏れている扉を押し開く。

 

「ヴッ……ヴゥ。」

 

……呻き声が自然と出た。

 

「ちょっ、大丈夫かの?」

「なんだこの肥溜め以下の匂いは……」

「解析。情報レベル選択。悪臭の原因は酒、腐った物、吐瀉物、排泄物、機械用油、香水の匂いと判断されました。」

 

流石にあのバルラガルではないが、それでも酷い匂いなのは絶対だ。

 

鈍った私の代わりに王女に先導してもらい、窓口に向かう。

左右が可動式の板、中央にどっしりと構えた机が3つセットに並んでいる。

 

「よろしく。」

 

王女は素っ気なく封筒を投げ渡す。

日常茶飯事なのか、受付の人間は何の反応も示さず目視で確かめていた。

 

「はい、承りました。では、こちらの待合室へ。」

 

その後、こちらから見えない角度でコンピュータを操作した受付の人間は立ち上がり、木の板を持ち上げて私達を受付の奥へと誘導する。

受付の先にあった木の扉が開かれ、私達は白を基調にした通路を歩いていく。

 

「……先程の悪臭が全く無いな。」

 

気づいた時には眉間に力が入る様な事は全く無くなっていた。

 

「うん?さっき通気口があったの気づかなかったかの?」

「あぁ、そうだったのか。」

 

こやし玉より酷い匂いだが、人間なら多少の耐性があるのだろうか。

 

 

とある扉の前で人間が脇に移動する。

 

「こちらです。隊の皆様は既にご到着されています。」

 

報告をした後、扉を開いた。

木の匂いが漏れてくる。

 

鬼が出るか、蛇が出るか……

 

 

「よぉ、来たな!」

「奏明雹甲、ようこそ!」

 

……あぁ、人間だ。

見渡すと6人の人間が――っ!?

 

「お前、龍だナァァァ!?」

 

一人が突然飛びついてきて私を押し倒す。

振り上げられた腕が変形し……かなり鋭利な大きな爪を持つ、小さい翼の生えた腕となった。だが、見覚えがあり背筋が冷える。

そして、モンスターらしい匂い。

 

「どけ!……飛竜らしい……ティガレックスか!?」

 

ゾクリと背中に痒みが走る。掴んでいない奴の腕だ。

何処かにある炎の揺らめきを反射する爪、それが嫌に、そして冷静に見える。

 

「龍は駆逐しテ、食べル!」

 

腕を掴んで振りほどいて立ち上がるが、今度は爪を振りかぶっている。

……まぁ、この状況で龍と見られているなら。

 

「……時と場所を弁えろ、低脳が。」

「く……あっ!?」

 

この竜の腕より大きいシャガルの翼で掴み、振り回す。

そして床に叩きつける……のは謎の障壁に邪魔された。

翼を離して立ち上がると、周囲からまるで私が先制したかの様な目線を周りの人間から受ける。

 

……まぁ、交渉事は王女が適している。

一歩退いて王女を先頭とした。

 

「すまんのう。わらわが某国の貴族、こちらはシャガルじゃ。」

 

どうやら私はシャガルマガラという事らしい。

 

「話に聞いた通りの……」

「あぁ。」

 

……

 

「自己中だな、アンタ。例え龍であっても、理性に基づいて他人を気づかう事が――」

 

……なんだコイツ?

周りの雰囲気に合わせて批判してくるのか?

私の言動が気に食わなかっただけだろう……何故?

 

「黙れ、臆び――」

 

私が口を開いたその時。

 

「おやおや、心がお主のアレ並に小さいのう?いんや、ここぞとばかりに猫を剥いたのかの?」

 

王女の割り込みがあり皆がそちらを向く。

……王女からの殺気だ。実際はどうだか分からないが、首筋に刃物が当てられている様に感じる。

しかし、目を見開いていたものの口元は笑っていた。

 

「なっ……なんだ?だって実際そうだろう!?不和を生み出す原因――」

 

下手な演技かと思うほど動揺している。

 

「なら、考えて喋れる竜も許されない筈じゃな……それとも、思った事を直接言うお主の喉も、かのう?」

 

ジリジリと王女は人間に近づいていく。

そこに早歩きでジェンシーが近づき、数秒間王女に耳打ちした。

 

更に笑みを濃くした王女は歩みを止めた。

私の方を振り向く。

 

「わらわ達だけで行こうかの?」

 

どうでもよさそうな一言。挑発では無さそうなその言葉に恐らくリーダー格である残りの人間達が反応する。

 

「ちょっと待て!」

「落ち着いて!一緒に行きましょう」

「っ、勝手に行ってろ糞女!」

 

突然の不和。

己を乏しめられた人間は余裕の欠片も無かった。

後先考えない幼稚な罵倒が響く。

 

「ちょっ…女の子に対してその言葉は何!?」

「向こうが先に言ってきたんだ、いいだろ!?」

「お前……!」

「本当に心が小さいのね!いいわ、貴方とは行かない!」

「はぁ!?なんでそうなる――」

 

 

「さぁ、行くとしようかの。」

 

小声でそう言うと王女は私の腕を引っ張り、扉から出る。

口喧嘩を始めた人間達が私達を止めることは無かった。

 

 

 

 

 

……全く見覚えの無い、また、それほどまでに開拓、建築された道を歩く。

 

だが、前方に見えた暗いソレは懐かしい。

黄色と黒のテープをくぐり、そこに立つ。

 

「飛び降りる……しかないか。」

「いえ、王女は安全を期すために私にお乗り下さい。」

「なら、私は滑空する。」

 

先程のティガレックスからしてモンスターは人に利用されるペットとしてしか生き残れない、逆に言えばペットとしてなら生き残れるという事だろう。

王女のペットのフリをすれば多少元の姿に戻っても大丈夫ではないだろうか。

ならば、と周りを気にする事無くシャガルの翼を広げる。

 

王女はギルドや街をまわって大きなリュックに沢山の物を入れ、背負っている。

ジェンシーはずっと機関銃を見せている。

 

「食料よし、水よし。砥石やキャンプ用品も万全じゃ!」

「さっきからそればっかりだな。」

「わらわは人じゃからな。か弱き少女じゃよ……」

「嘘をつくな……」

「いいえ、王女様。貴女様の素の能力は総合して男性ハンターに匹敵するものです。」

「そりゃそうじゃ、単純な力比べには勝てんよ……よし、頼んだのじゃ。」

 

私達は飛び降りた。

 

 

 

翼を使うこと無くそのまま着地する。

ふわり、と横にジェンシーが降り立つ。

ジェンシーにおぶられていた王女は地に足をつけ、特に感想を漏らす事無く懐から紙を取り出した。

 

「どうした?」

 

王女は私の問いに答えず、その紙を口に含んで取り出す。

 

「ちょっと待っての。」

 

私が居た時には気づかなかった遺跡は大口を開けている。

横に人間五人分。戦車の通った痕もある。

そこから冷たい風が外に吹き出ていた。

 

「……よしよし、待機中の毒は無し、と。」

「サンプルの検出終了。未知の細菌を感知……全五種。分類、日和見菌が五種。免疫低下時に危険。」

「すまんのう、シャガル。準備は出来たぞ。」

「……あぁ、そうだな。」

 

私は王女、と呼んでいるがあちらはシャガル、と呼んでくるか……まぁ、今更変える必要もあるまい。

 

 

 

列は自然と決まった。

松明を持ち、目から赤い光を放つジェンシーが最前線を歩き、王女が興味深そうに周囲を確認し続ける。

私は笛を構え、ウイルスで背後からの強襲を防ぐ役割だ。

 

 

 

王女はいつの間にかギィギを持って遊んでいる。

ここで生き延びていたのか、と私は単純に驚いた。

 

ジェンシーの超音波による地形把握の元、遺跡を臆すること無くドンドン進んでいく。

……多機能すぎないか?

 

息をするかのように、幾つもの罠を避けていく。

時折遠くでモンスターの声が聞こえていたが、一度も相対すること無くドンドン歩き、時に降りていく。

 

 

 

すると土臭く、廃れた遺跡の様子とは大きく違う様子の所に差し掛かった。

王女が右腕でライトを取り出し、地面を照らす。

 

「うっ、眩しいのぅ!」

 

派手に金色に光る床。

まるで超雑な雑巾がけの様に何本かの筋で、そしてプツプツと切れながら広がっていた。

 

「うん……?これは金の卵の殻か?」

「金の卵のサンプルデータ不足です。調査不可能。」

 

王女がしゃがみ、ナイフを突き立てる。

 

「……いや、違うのう。内部まで金じゃ。しかもかなり純金。そんなモンスター居たかのう……それともこの遺跡で生き残った者かの?」

 

そうして王女は立ち上がる。

その時、ジェンシーが口を開いた。

 

「提案。この場所の部屋は要研究対象となっています。ご覧になっては如何でしょうか?」

 

その瞬間、王女はギィギを撫でながら何処かに走っていった。

……ギィギをどうするつもりだ?

 

追いかけようか迷っているとすぐさま王女はかけ戻ってきた。

ギィギの口には見た事の無い生物が噛まれ、鳴いている。

 

「……残念ながらこれは異世界の生物じゃろうなぁ。虫じゃないし。」

「あぁ、蠢く足が十本あるのに家畜の様な顔をしているのは非現実的だ。」

 

ギィギが喜びながら獲物を振り回し、全身で脈動している所を触りながら王女は「あの部屋を見てくる」とさっさと行ってしまった。

 

私は周囲を見渡し、そしてとある物に気づく。

 

「……ほう。」

 

ジェンシーが私の視線の先を見て理解する。

 

「警告。未知の危険物質の可能性があります。」

「気にするな。王女は遠ざけとけ。」

「了解しました。」

 

私は手を伸ばす。

半分ミイラ化し、半分黄金になった人だ。

その黄金に触るとパキッと折れ、そこから大量のドロドロの液体が漏れてくる。

今までに嗅いだことの無い匂いだ。

放置されていた物なのに極限まで清潔そうだ。

 

……どういうこどだ?

 

そうして深い思慮に入ろうとしたその時――――

 

 

 

 

「ぬばぁぁぁぁ!?」

奇妙な王女の声と、

 

 

 

 

「キィグロロロロロロ!!!」

……背筋がむず痒くなる咆哮が聞こえた。




やっぱりティガレックス助かります
咆哮で雪が吹っ飛ぶの見たいです

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