閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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活気あるファンタジー的な街だろうか……
残念、神々の植民地でした〜ww

上位種が幅をきかせている限り、下位種は発展がとても遅い。
猿は、自分とは?猿とは?ほとんどがそれを決める事が出来ないのだ。



二回目のお使い

夜間。

星々が空を彩る。

 

私達はそれぞれ道具や得物を持ち、ミラルーツの前に立っていた。

準備が完全だとミラルーツに伝えると頷いた。

 

「はんにゃぁはぁらぁみぃたぁ――」

 

そしてミラルーツが変な踊りをし、私達を雷が覆い囲む。

 

 

暗い。

臭いや遠くから聞こえる喧騒からここが路地裏だという事が分かる。

とりあえず人の少ない路地へ歩き出した。

 

私達が送られた砂原、そこに建った街はとても騒がしかった。

……しかも大半が木や石。基礎的なネセトしか出来ない。

まぁ、この暑い地域に鉄の建物は人間の場合ただただ拷問となるだろうが。

冷房も限界があるだろうし。

 

とはいえ、今は夜。

涼しく、そして乾いた風が私の頬を撫でていく。

 

「ほうほう、ここがアトラルの故郷かぁ。」

「逆探知警戒。サーバーにハッキング開始……ゲストとして登録。検索開始。現在地はサンドアスです。」

 

王女は興味のままに周囲を見渡す。

ジェンシーは騒ぎを起こさない様な方法で情報を集め始めた。

 

笑い歩く若い男性達。

化粧が崩れている女性。

ぶっ倒れている老人。

 

点々と通り過ぎる人々を照らす街頭は、同時にシャッターで閉まった路地の商店を映らせていた。

立ち止まる必要は無い、周囲の状況を確かめようと兎にも角にも歩き出す。

 

数分歩いてこの街がどういう物なのか、それを理解する。

 

 

……必要性に従わず、更に整合性の無い街だ。

 

 

とある場所は似たり寄ったりな店が連立し、とある場所では風俗店が大々的に宣伝。

光る棒……王女がネオンと呼んだそれが妖しく路地を照らしてるかと思えば、外にまで響き渡る騒々しい機械の合唱。

 

昔に砂原に居た時、安全面を考えて私が砂漠が広がる地域に行かなかった様に、人間も行動する環境に傾向がある筈だ。

この様に乱雑に置かれては、本来ある筈の需要も消えているだろう……

 

「アトラ――」

「待て、ここでは……アルアと呼べ。」

「アルア?咄嗟にしては良い名じゃのう。」

「口を閉じろ。」

「アルア様。付けて来る人間がいます。」

 

王女は顔を顰める。

だが、狂った人間は何処にでもいる。手を出してくるまで……

 

「放置でいいだろう。」

「了解しました。」

 

寂れた道路を抜け、静かな大通りに出る。

さて、どうしようか。

 

「ここからどうする?」

「うーん……どう――」

「近辺に夜間対応宿泊施設として3件該当しました。」

「そうじゃな。夜間に人の活気は少ないじゃろうし、機を、というより昼を待つとしようかの。」

「そうするか。ジェンシー、一週間が所持金の5%以内で好条件の宿に誘導しろ。」

「了解しました。」

 

ウイルスに人間の影が視える。

壁に隠れ、気配を消しているな。

 

先立って歩き始めたジェンシーについていく。

ストーカーは静かにつけてきている、だが音はしないがウイルスとは関係なく気配がだだ漏れになっている。

あぁ、恐らくは『スキル』とかそういう類のものだろう。

 

その後、何もなく私達は宿についた。

段々近づいてきていた人間は踵を返して離れていく。

 

「『トゥ・カヴィミータ』です。意味は『水の様に』です。」

「わらわが率先しましょう。ついてきなさい。」

 

わらわは残したままで口調を変えた王女が扉を開けて入っていく。

ついて入ればオレンジ色の光と、赤紫の絨毯が敷かれた大きな玄関が私を囲む。

 

王女はつかつかと受付の人間に歩く。

 

「すみません、こちらのホテルは夜間も営業しているのですよね?」

「はい、そうです。」

「今日泊まり、明日から七日間泊まりたいのですが……」

「はい、こちらのプランをご覧下さい。」

 

王女の横にジェンシーが歩いていく。

 

「Androidは宿泊可能でしょうか?」

「はい、このページにある通り、身長関係なく成人一人の料金でこちらの部屋にある充電、整備機構をご利用頂けます。ですが緊急時以外の武装はお断りしています。」

「では青年二人、成人一人でお願いします。」

「分かりました。今からお部屋を用意しますのでしばらくお待ち下さい。」

 

……

 

「では217号室を、そちらのエレベーターから3階に上がり左に向かうと右側にあります。」

「ありがとうございます。」

「アルア様、終わりました。」

「……そうか。」

 

 

その後、風呂に入り、ナンパを王女が退けたりして私達は一日を過ごした。

兎にも角にも明日から情報収集しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の早朝。

 

目が覚めた私はベランダの柵に腰かける。

ジェンシーは夜間の間は警戒を続けていたようで、私が起きた後で横になって目を閉じた。

確かに、王女だけ実感が無いから気にしてないが、ストーカーが居ると視えたなら普通は警戒するか。

 

自動販売機という物の使い方が横に貼ってあり、私一人で飲み物を買えた。

プラスチックに入ったトウモロコシスープを飲みながら日が昇るのを見ている。

 

……あぁ。

 

風が私を撫でる。

夜間より強いそれと、微かに混じる懐かしい砂塵の香り。

遠くに見える、砂漠の陽炎の中から現れる太陽。

 

……そうだ、ここは砂原だ。

環境が全て壊されているが、まだ懐かしいと感じる所が残っている。

その事で幾らか安堵した。

 

太陽の位置が高くなるにつれ、街の灯りが消えていく。

 

 

 

王女が起きる音がする。

飲み干したプラスチックの容器をゴミ箱に入れ、簡単なストレッチを始めた王女に歩み寄った。

 

 

 

「さて、畳むか。」

「おっと、布団は洗わなきゃいけないから出しっぱなしの方がいいんじゃぞ。」

「……そうなのか。」

 

布団の上を転がって王女が近づいてくる。

すっかり目の覚めた王女は身だしなみを整えた上でそれが崩れる様な行為をするが……知らん。

 

私が笛を磨いている間に、受付近くから王女が地図を持ってきて、机に広げる。

笛を片づけた私が近づくまで王女は唸っていた。

 

「アルア、どうする?」

「分からん。王女が決めろ。」

「……いやぁ、分からん。身バレしたら即座に天廊に戻るしかなかろう?」

「まぁ、そうだが。やはり難しいか?」

「じゃなぁ……」

 

その時、ジェンシーが少し身をよじる。

 

「起床します。3、2、1、アルア様、おはようございます。」

 

そしてジェンシーは起き上がった。

しかし動きが鈍い様に見えるが……

 

「現在、被ハッキング対処しております。本日はどう致しますか?」

 

……どういう状況なのか一切理解出来ないのだが。

そう思って思考が止まっている所、王女がジェンシーに口を開く。

 

「ふむ、無理のない範囲でこの街の情報を検索出来るかのう?」

「了解しました。」

「わらわは旅人として情報収集じゃな。」

 

王女は再び部屋から出ていった。

ジェンシーも黙りこみ、私は笛を磨き始める。

 

外から馬の嘶きが微かに聞こえる。

だが、アプトノスやアプケロスの声は一切聞こえない。

 

というより、モンスターの匂いがほぼしない。

 

天廊には私が知っている限りのほぼ全ての種類が居たが、まさか広い世界の中でたった一箇所に集結しているのか……?

 

「アルア様。彼女が居ない間にお伝えしたい事があります。」

 

 

突然ずい、とジェンシーが顔を寄せてくる。

普段の無表情、それとは何処か雰囲気が違っていた。

 

 

 

「あと数ヶ月、アルア様のお傍に居ると彼女は狂竜化を発症します。」

 

 

 

「だろうな。」

 

そりゃそうだろう。

幾ら私が抑え、操作した所でゼロになる訳がない。

ウイルスは生きているのだから。

 

「……以上です。」

 

ジェンシーは少し眉をひそめ、また無表情に戻った。

怒りの感情もプログラムされているのか……必要なのか?

 

 

 

バァン!と扉を開けて王女が滑り込んでくる。

膝で滑り両手を上げ、その手には紙が握られていた。

 

「いやっほぉぉぉ!!」

 

……何のテンションだ。

王女が私に何かを押しつける、受け止めきれずばたりと私は倒れた。

 

「代行じゃ!神選者の代行じゃよ!」

 

側転からのガッツポーズ。王女は何故ここまで派手に喜んでいるんだ……

私は紙に目を落とす。

 

紙には……何処か、何処か見た感じで……

 

 

―――――――――――――――

 

遺跡、探求

 

本日、例の『遺跡』の第12探索隊が出発する。

何やら、あの遺跡には大きな蛇が居るらしい。

我々は今回三人で参加する予定だったが……

 

『やる気が無くなったわ〜私の〜他のことをしよ〜』

 

と、主力の奴がダレて……

本当に馬鹿だ。俺はそう思った。

やってらんない。

大体、色々な事の大元の星で学芸会があるんだが……

そうそう、最近時を扱う神選者が多いから巻き込まれた時はティンダロスの猟犬には気をつけろよ。

この紙と同時に渡した紙が、俺達が使う予定だった対象ではない奴らの記憶と事実をねじ曲げる力が入った奴だ。対象は変えたしきちんと使ってくれ。

 

……あぁ、そうだ。

 

頑張ってくれよ、二位の堅実なプレイヤーさん。

 

――――――――――――――――

 

「それにしても、奇妙な文章じゃのう。」

 

あぁ、王女は紅いアイツとは会ってない―――

 

「いえ、魔術的な力によって文章が隠されているのかと。」

 

……?マナー的な必要な余白しか残ってないが。

 

「『大きな蛇が居るらしい。元々三人で参加する予定だったが、急用が出来たが減点されたくない以上、代行を頼む。』なんて、そして大量の空白。それに多少会話した後、これをわらわに渡して消えてしもうた。

怪しい……焼いてみるかの?」

 

その文言は見当たらない……

手から火を出した王女を留める。

 

「ちょっと待て、王女達にはこの文章が見えてないのか?」

 

 

 

その後、互いの認識がズレている事を理解した。

そんな器用な事が出来るとは……魔法とはなんなんだ。

 

……さて、蛇とは?

その事を聞こうとしてジェンシーに目線を移す。

 

「蛇、遺跡を条件に検索、それぞれ開きます、傾向を纏めます、終了しました。」

「……何も言ってないが。」

「アルア様の行動パターンから予測しました。」

 

……便利だな。

 

「それで?どうなんだ。」

「生存帰還者174人中81、ドローンによる探索は少し行った所に屯っているモンスター、怪物に尽く破壊されています。

11隊中7隊は損害無し、3隊は大半が行方不明、1隊は全員が消息不明です。」

 

なるほど、デタラメな力を持つ奴らでも危険なのか。

さて、私達はそこに行く必要があるのだろうか?

……いや、あの私を助けてくれた紅い奴を通して来たんだ。確かな目的であり、無理難題ではないだろう。

 

「あっと、アトラル。情報収集中に過去読んだ本と結びついて思い出したのじゃが。」

 

王女が私の肩に手を置き、顔を近づけてくる。

 

「……なんだ?」

「この遺跡から出土されたオーパーツらはとても硬く、強いぞ!」

 

……なるほど。

ネセトの更なる武装になると。

 

「それは確かか?」

「モチのロン……とは実物を見てないから言えないのが実際じゃが、まさか普通の巨大遺跡で神選者が大量に死ぬ訳があるまい?」

「いや、リスクが高いのは分かる、それに見合う利益があるのか?」

 

私は既に行く気になっていた。

だが、考えるより早く石橋を叩いてしまう。

 

「……そうじゃな、未知の技術が見つかるかもしれんぞ?」

 

「話を戻させていただきます。壊滅した隊の生き残りは口を揃えて『動けない、見られる、死ぬ!蛇で死ぬ!』と口を揃えて言うそうです。」

 

……よく分からないな。

 

「……万全の準備を整えようか。」

 

 

 

王女と相談して持っていく物を決め、ジェンシーに安い所を教えてもらう。

そんな日だった。

 




調査隊

各地に存在する遺跡を探索する部隊の総称。
一番の懸念とされていたココット村近くの遺跡は無事終了。
しかし、その後各地で発見、発掘された遺跡の調査は遅々として進まず。
砂原は比較的力を込められているが、環境のせいで普通の機器が壊れやすく難航している。

「ココット村の伝説……」と呟き、発狂する者も居たが詳細は不明。

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