閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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今更ですけど人間を切り開くって描写はグロいですね
血抜きの行為ですが、煮込み料理等にした方がいいのかもしれません



今日は雷雨、そして晴れです

昼は曇りだったが、今は雨だ。

ネセトの周辺を燃やし、糸が乾いた状態を保つ様にしている。

腐った瓦礫、外敵の死骸からミラルーツが抽出した油。

燃料は一週間持つと考えられる。

 

ウイルスが全く役にたたないとはいえ、ジェンシーが周囲の警戒をしてくれている。

ネセトを磨き、撃龍槍を磨き、炎の様子を見るだけで一日は経つだろう。

 

「暇じゃぁ……」

 

王女の独り言に反応する為に人間の姿に変わる。

 

「……人間は直ぐそう言うな。縄張りという概念が薄いからだろうか?」

「そうじゃな、家を一日歩き回って『充実した一日だった』とはならんじゃろ……いや、ならんのじゃよ。」

 

あったとしても人間の家の中は変化が無いか。

そう思いながら元の姿に戻る。

 

ネセトの足を先程纏めて出した体液多めの糸で擦る。

移動に一番大切な部位だ、少しの錆も許されない。

 

装飾品の操核で水銀を操作し、ネセトの内側や骨組みを掃除する。

 

ジェンシーが飛んできた。

 

「侵入者を排除しました。」

 

振り向くと、死骸が積まれていた。

どの死体も良い武装をしている。

 

袖をまくってから脚で潰して押さえ、中身を抜いて防具と服を並べる。

それから王女に広げて見せる。

 

「……汗臭い。ちょっと無理じゃ……」

 

ジェンシーが顔を上げた。私はジェンシーを見て大きく頷く。

水銀でタライを作ってジェンシーに近づける。

 

「了解しました。天気が悪い為、洗濯を開始します。」

 

ジェンシーはそれを持ち、そして服を持って外に飛んでいった。

 

見届けた後、ジェンシーの仕留めた人間の下腹部を切り開いて内蔵を抜き、肉を開いて炎から離して干す。

 

血の臭いは雨の匂いに掻き消され、そこまで広がらなかった。

 

ふと思いついた事があり、骨を削り出し、瓦礫の中からざらついた鉄を取り出す。

 

骨を撃龍槍に押し付けて折り、鉄に擦り付ける。

思ったよりは削れ方が安定している。

 

「何をしているのじゃ?」

「キッ、キッ、キィ。」

 

鎌を振りながら挑発する様に押し留める。

王女は私の行動を理解して炎の壁を越えてこなかった。

 

 

炎に照らされた骨がよく光る。

 

水銀で細いドリルを作って穴を開ける。

唐突に思いついた故に足りない物がある為、翼を開いてモンスターの居る階層に飛行する。

 

ジェンシーは雨の溜まったタライで服をごしごし洗っていた。

 

 

 

リオレウスの牙とリオレイアの牙を拾ってくる。

モンスターはかなり再生能力が高く、定期的に牙が生え変わる種類も多い。

そのリオの牙にも穴を開ける。

 

ヒュジキキを襲って抜いてきた毛を束ねる。

穴に束を通す。

 

そして私の脚を切り、肉を取り除いて乾かした後に包む。

笛を振ってから吹いて自己治癒力を高める。

 

王女に放り投げる。

そして人間の姿に変わる。

 

「……お守りかの?」

「あぁ。鍛冶師からすればリオの素材は活気が出てくるらしいからな。」

「なるほどのぅ……」

 

元の姿に戻る。

再びネセトを掃除する。

 

 

 

 

外でミラルーツとは関係ない雷が落ちる。

轟音……身が震える。ネセトに逃げ込みたくなる。

 

 

 

 

「アトラル様。お掃除が終わりました。」

 

王女を鎌で指し示し、服の袖を切る動作をする。

 

「分かりました。王女様の寸法に合わせます。」

 

ジェンシーはすぐさま王女の元に近づく。

後は王女に任せよう。

 

 

雨が強くなる。

外が一望できる位置に歩いて近づいた。

 

煌々と光る空中戦艦の灯りが、海に落ちる雨の量を示す。

警戒すべき敵が何をしているのか、双眼鏡を覗いて見ようとしてみる。

 

 

ヒュッ

ガッ!

 

 

そして刃が私の尾に食い止められた。

馬鹿な事を、どうやったかは知らないが私も察知出来なかったのに尾に攻撃とは……

 

ゆっくりと振り向く。

 

息の荒い人間がそこに立っていた。

二刀流……か。片方は長く、片方は短い。

 

翼で薙ぎ払うと刀で回転する様に避けられた為、着地する前に水銀で刺し殺した。

 

数秒間は弾いていたが糸や撃龍槍が追加されれば対応しきれないか。

 

 

……向こうから滑るように走ってくる奴がいる。

 

「しねぇぇぇ!!」

 

気配ダダ漏れで飛びかかってきた人間を撃龍槍でぶっ飛ばす。

なるほど、コイツより早く襲う方が隠密性が高いな。

 

いつかの『馬鹿』の様に硬さは一丁前の様だ。

ジェンシーが飛んできて、機関銃を放ちながらレーザーを溜める。

 

「主様!大丈夫ですか?」

 

この人間を追う声だ。その方を見ると姿が見える。

……人型の……なんだこいつは?

 

「キィ……?」

「エルフを発見。」

 

ジェンシーが首を傾げた私の代わりに説明してくれた。

ほぼ人間の形だが違和感を感じる造形。別種族ならばそれはそうか。人間の姿に変わる。

 

「ジェンシー、この二人に対応出来るか?」

「現状から考えられる勝率は100%です。」

「ならばいい。後は頼んだ。」

 

元の姿で二刀流の人間の死体を持ち、齧りながら上層へ向かう。

やはり新鮮な肉が飛びこんでくれるのは嬉しいものだ。

各々が憎悪や復讐に関する物だが、丁度いい撒き餌になっている。

 

 

 

……さて、暇、か。

万が一の死から逃げた私の脳裏に王女の言葉が引っかかる。

責任ではなく、自分を見つめる点にだ。

 

私は……そうだな。また砂原に戻りたい。その願望は残ったままだ……

ならばそうするか?やってみるか?

 

……私は頭を振る。

 

私のみでそれを達成するのは不可能だ。

確率はゼロじゃない?ほざくのは簡単だが、私が家庭的で誰かの為に料理を作り観賞用の花を育てる毎日を過ごす様になる、それぐらい非現実的な事だ。

 

ルーツに頼むか?

……砂原から焼け野原に変わる事を許容出来るなら、か。

それに砂原がどうなっているか分からない。

 

……こちらが単騎で行っても勝てる訳が無い。

ミラルーツに送ってもらう方法も考えたがそう考えたら無謀だ。

 

 

「話は聞かさせてもらったわ!」

 

スコーン!と小気味良い音と共にミラルーツが地から飛び出てくる。

同時に出てきた黒い影に雷の刀を刺し、胴を切り離した後に頭を貫き爆散する。

 

「あっ、にぃんさつ!」

カカン!!

 

謎の音とミラルーツの取るポーズを人間に置き換えたら東国の舞踊か……それは置いておこう。

 

人間の姿になり、ミラルーツ近づく。

するとミラルーツも頭を中心に人間の姿になり、私の前に降り立つ。

そして左手を顔に右手で指をさしてきた。

 

「どういう事だ?」

「くっ、くっ、くっ……私は因果に関われるのさ……街の一つや二つ、無法地帯に出来るのだよ!」

 

人間の子供のように自慢をする様に話してきた。

とはいえ、ミラルーツはこの様に喋るのが普通だ、『私の作り出した状況に乗ってけ』が言いたいことだろう。

 

「それで?どうやって砂原を取り戻すんだ?」

 

私が望んでいるのは砂原を砂原の価値を残したまま取り戻す。

ミラルーツはここを理解出来ているか心配だ。

 

「チッ、チッ、チッ。目撃者を尽く殺してるから噂にならないのだけど、砂原でも頑張ってるのよ。」

 

ミラルーツが舌を鳴らし、指を振る。

安い挑発だからだろうか、呆れてしまった。

とはいえ、砂原を守っている。その情報に私は安堵した。

 

「だから、私がサポートするから人間を撹乱する様にアトラルも頑張って。ね?」

 

ミラルーツが詰め寄ってくる。顔は悲観的だが、目は……何も写してない。

……それを前にして私は一度思考に耽る。集中する為に骨をしゃぶる。

 

恐らく私レベルでも大丈夫だから言っているのだろう。

王女を連れていけば確実だ。

 

「お前が天廊を管理するのか?」

「貴女が来る以前の通りになるだけよ。」

 

……なら安心か?

この縄張りに執着するのもいいが、やはり私は砂漠のカラカラな空気が恋しい。

さて、一番重要な問題だ。

 

「私のネセトはどうする?」

「さぁ、どうするのかしら?」

 

ミラルーツは問い返してきた。

私が決めろと。だったら答えは一つだ。

 

「私が好きな時に呼び出せて、しまえる様に天廊に魔法的な力で置いてくれ。」

「あそーれ、りょっ、うっ、かいっ!」

パァンッ!

 

私が少し無茶だと思った要望を直ぐに受け止めた後、破裂音と共にミラルーツは消えた。

しばらく天廊には戻れないな……

 

私は肉のついたままの骨を放り投げる。

ランポスが走ってくる音がした。

 

 

 

不味い……

 

私はネセトの周りの炎で、侵入者を焼いて食べていた。

 

エルフは美味しくないな。口の中に虫が駆けずり回る感覚がある。

視線を移すと、王女はちびちびと食べていた。人型だと豪快に食べるのは気が引けるらしい。

 

開きにした人間の背骨をとる。

さて、これを食べたら直ぐに移動準備だ。

人間の姿になり脳内で復唱する。

 

笛は持った。服もまともで、金も死体の小物から集めた。

撃龍槍……そうだ撃龍槍!?

そのまま持っていく事は出来ない。

ここに忘れる事は無いが、だとしても馬鹿丸出しだ。

 

「撃龍槍、どうしたらいい?」

 

ミラルーツに呼びかける。

しかし、答えたのはジェンシーだった。

 

「アトラル様、超巨大、もしくは複雑でなければ三つまで格納して運べます。」

 

……王女に視線を向ける。

余りの都合の良さに驚いた私はどんな顔をしているのだろう。

 

「いや、その様な事が出来るのが沢山おるのが現実じゃ。」

 

そして王女はくたびれた様子で答える。

……確かに、便利という意味では望まれる機能か。

 

 

 

 

 

そして。

 

私の人間の振りをした生活がまた少し始まるのだった。

 

砂漠の袂『サンドアス』という街で。




「……」
「……」
「この様に構えて下さい。」

「私には鎌があるのに二刀流を覚える必要があるか?」
「わらわはあると思うぞ。何せ鎌をぶった切られる前に刀を斬らせた方が生還率上がるじゃろう。」
「この構えからこの様にするのが二天一流です。」

「……私は刃にした水銀でいいだろうが。」
「……」
「……」

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