閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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劇的ビフォーアフター



自己中心

……

 

雷が私の前に屯する。

白い色の顔の、真っ赤な口を開く。

 

「いいわよ。」

「そうか。」

 

私の求めた答えが返ってくる。

だが、私が思う事を彼女は予測してるだろう。

 

「ただし、30分だけ。」

「分かった。」

 

 

ネセトの巨大化に成功した私は、更なるネセトの発達を求める思想に染まってしまった。

だが、その状態が心地よい。これは自分の思いだけでは絶対に変えることは出来ない。

だから挫折するか、更なる発展のどちらかしか私は求めていない。

 

今回はその自己のみの理由から私の気遣い、そして私の邪魔になる可能性を考えて王女とジェンシーを呼んでいない。

 

ネセトに乗り、各部の動作を確認する。

 

「いいかしらー?」

「キィ。」

「おっけおっけー。」

 

……が、ウイルスに視える。

さも当然の様に王女はジェンシーに抱えてもらって飛んで来て、ネセトに乗っかった。

互いに分かっている。その事を理解しているだろうが王女は身を隠した。

勿論私からしてみれば隠せてないが。

 

「……いいのかしら?」

「……キィィ(知らん)」

 

小声でミラルーツが話しかけてくる。

私はいつも通りの回答を突き返す。

 

私が起因ではない行動は、少なくとも私が取らなくてはならない責任ではない。当たり前の事だろう。

 

それに元々の予定は走り回りながら少しずつ瓦礫を集める予定だった。

これなら一つ一つの建物を隅から隅まで持って行けるだろう。

 

ォォォォ…… 私がネセトの首と体を持ち上げる。

 

ガッガッ! 糸で連動して動くようにした肩部分の音。

ギィィィ…… 体の回転を許容出来る円盤と支柱。

ガコン! 足が体から離れないよう留める鉄とぶつかる音。

 

ネセトを動かすだけでここまで重く、充実するとは……

 

「はい、行ってらっしゃい!」

 

そしてミラルーツの一声により、白い光に視界が潰されていく。

 

 

 

 

目眩を感じる事数秒。

私の視界よりウイルスの感知の方が情報が早かった。

 

飛行生物が群れをなし、こちらに飛んでくる。

 

ネセトの体を持ち上げ、二本足で立つようにしてからシャガルマガラの能力を全力で発揮する。

爆発的な古龍の威圧と、ネセトの見た目から飛行生物は怖気づいて逃げ帰って行った。

 

 

周囲は鉄とプラスチックの構造物が見える建物群。

……そして、去っていく飛行艦隊が遠くに見える。

建物から悲鳴が聞こえ始め、キラリと光る物が飛行艦隊から飛び出す。

 

早速立ち向かってくる人間共を地面を覆う物、壁と纏めて潰し、吹き飛ばしていると、王女が揺れるネセトを器用に走ってきた。

 

 

「強奪だヒャッハー!!奪え!殺せ!暴虐の限りを尽くすのじゃ!!」

「了解しました。殲滅重視かつ、利用価値が高い物を収集します。」

「うぉぉぉぉ!」

「……うおー。」

 

……二人は飛び降り、走って道を曲がった。

王女は躊躇無く自警団らしき人間の首を切り取り、ジェンシーの放つ爆炎がビル群を彩る。

 

私は向こうに見える明らかに工場らしい場所に突撃しよう。

ネセトの足に水銀でスパイクを作り、走り始める。

その間に飛んできたミサイルはジェンシーの炎の方向に吸い込まれていった。

 

 

 

 

「キィィァァッ!」

オォォォォン!!

 

工場の扉、壁を突進で吹き飛ばす。

ブレーキの為に踏ん張れば様々な機械や人間がすり潰されていく。

そのまま数秒動き続けた。

 

停止した所で崩落していく建物を振り返る。

瓦礫の回収方法を考えようとした束の間、銃弾がネセトに弾かれる音がする。

 

「くそっ硬い!普通の鉄じゃない!?」

「あれもしかして軍用じゃないですか!?」

 

ウイルスを集中させて爆破。逃れきれず転倒した所に地下から水銀を突き刺す。

そのまま血を飛ばし、水銀を口の中の撃龍槍に纏わせる。

ギャリギャリと戦車が向こうの扉を押し倒して出てきた……こんな至近距離で。照準が合う前に撃龍槍を発射し、沈黙させる。

撃龍槍につけた糸は切れていない。

 

次だ。

 

変な空気を纏いながら一人の人間が突っ込んでくる。

撃龍槍を回収していた頭に刀を振り下ろしてくる。

ああ、変わった魔法みたいな物だろう。

 

「カァァァッ!?」

ヴゥゥゥン!

 

ネセトの頭が撃龍槍に殴られた様に吹き飛ぶ。

斬られてはないが、傷はついただろう。

ウイルスで感知し、すぐさまその人間の四肢を見張る。

 

「……斬れぬか。」

 

刀を振り払い、立ち上がる。

撃龍槍を吹き飛ばす威力となると私が勝てるかどうかだが……それなら尚更ネセトでは対応出来ないだろう。

 

バックステップで距離をとってから繭を破り、地に飛び降りて笛を構える。翼は出さない。

 

「……参る。」

 

人間は一つの踏み込みで目の前に飛び込んでくる。

笛で弾き返し、糸を放つ。

 

糸を逸らしながら再び振ってくるのを笛で受け止めた直後、水銀の針を飛ばすが下がって弾かれ、再び斬りかかってくる。

 

「……っ、あぁっ!」

「キィィ!」

 

後ろ足に回りこんだ所へ翼を生やして振り下ろす。

翼を押し退けて滑り込んだ所へ水銀の刃を薙ぐと、それ受け止め遠くへ飛び退った。

 

私は撃龍槍を引き寄せながら睨みつける。

 

どうやら短時間では私を紙切れの様に吹き飛ばす事は出来ない様だ。

だが、短時間で決着がつかないなら瓦礫収集が出来ない。

さて、どうしたものか……

 

「おーい、ゴウバー!」

「……儂の主である。」

 

六人の影が走り込んでくる。

これは不味い、場合によってはネセトを持ち帰れないぞ。

 

「どうし……あぁ、有名なアトラル・カだ!」

「……まさか!?」

「主、お気をつけなされ。この者、予想以上に闘えるゆえ。」

「そうか……ならば、僕が相手になろう。ゴウバは休んでて。」

「はっ。」

 

下らない会話をいつウイルスで爆発させようかと思っていたが、一対一ならチャンスが生まれるかもしれない。

主と呼ばれていた人間が背中の太刀を抜き、こちらを睨む。

 

その時、ウイルスに新たな反応があった。

 

「『影斜剣』!」

 

人間が太刀を振り下ろすと太刀の影が伸び、私の目の前で刀が顕著した。

糸と片方の鎌で笛を固定して受け止め、飛び込んでくる人間を鎌で切りつける。

回避し、翼を切りつけようとした所をウイルスを集めて爆破。

それでも無理やり太刀を振り下ろすのを水銀の壁で空中に向かって突き返す。

 

次の瞬間、人間は赤い物体の塊となった。

 

驚いた奴らの中の四人は同じ結末となり、一人は背後からの刺突。

翁と呼ばれた奴だけが少し耐えたが、数発が足を吹き飛ばした所で次々に弾丸が撃ち込まれた。

 

「状況判断。アトラル様の治癒必要負傷無し。索敵開始。」

「危なかったのうアトラル。」

 

王女とジェンシーが私の隣によってくる。

王女はナイフを拭いて、ジェンシーは機関銃に青い光を纏わせている。

 

「やはりジェンシーが居て良かったのう。直ぐカバーしてくれるのじゃよ。」

「……確かにな。感謝する。」

「当機器の存在目的である為、当然の事です。近くに敵影無し、観測感知に反応無し。」

 

表情と声色が少し変わったが、すぐ戻ったことからこれもプログラムの一種だろうか。アンドロイドとは無駄に凝っているのだな。

 

 

 

ネセトの体内にある水銀を全て抜き、生じたスペースにネセトの上側を開いて糸で引き寄せて突っ込む。

柱を逆円錐に並べ、余ったスペースに更に大量の瓦礫を集める方法をジェンシーに聞くとレーザーを放って外の建物を崩した。

 

だが、出てくる存在はいない。よく見ると向こう側から煙が上がっていた。

 

「既にあの建物の敵性分子の排除は完了しております。」

 

淡々と告げられる虐殺報告。私が手こずっている間に……と思いながら私は王女の方を見た。

 

「あぁ、驚いてるのかのう?ジェンシーが強いんじゃよ。」

 

……あぁ、そうか。

ジェンシーは起点から一瞬で勝負が決まるが、私は追い詰めなくてはならない。時間がかかるのは当たり前か。

 

「誘導ミサイル感知。迎撃に向かいます。」

 

ジェンシーは一度膝を曲げ、崩落した方から飛んで出ていった。

私は王女を糸で投げてネセトに乗せる。

撃龍槍をネセトの口の中に入れ、私もネセトに乗り込んで移動する。

 

散らした水銀を使い、ジェンシーの崩した瓦礫を載せた。

大小様々な瓦礫でとても助かる。

 

何故か足元が爆発する。

ウイルスを広げると人間が爆弾を投げてきていた。

 

「くたばれっ!くた……ばれ!化け物!」

ヴゥーーン……

 

逃げなかった人間に水銀を刺して殺す。

こちらを睨みながら死んだ。

 

「いいぞー!アトラル、行くのじゃー!」

 

王女が叫んでいる。

水銀で瓦礫を零さない様にして街に突撃する。

 

 

 

 

【とある男性のスマホのメモ】

 

地下以外の逃げ場が無い、だから俺はここで思った事を書く。

なるほど、杞憂と馬鹿にしていた専門家共が正しいとは思わなかった。

 

侵入してきたのは謎の機械竜。

だが、一匹だぞ!?突然現れたからってここまで一方的にやられるのか!?

何をやってんだ軍は、テロが起きる前に十分な兵力を溜めてるだろ!?

 

……まぁ、機械竜の周りを飛ぶ一機のアンドロイドがヤバすぎる。

連携して動く軍用のアンドロイドより性能がいいんじゃないか?

ミサイルを誘導して被害を大きくするわ、遠距離狙撃しようとした者がいる山を魔法で爆破するわ、こっそり近づいたり光学的なステルスだったりする奴らさえも看破するわ、とにかく万能過ぎる。

 

ほら、今でさえ一歩一歩、機械竜が歩いてくる音が聞こえる……

 

だが、本当になんなんだありゃあ。液体を飛ばしてたしよぉ、あれもアレでハイテクなのでは?

どうしてくれるんだよ、この家潰されんじゃねぇの?

 

うわ!

家の真上

 

 

 

 

そろそろ30分か?

 

ネセトの糸を再び張り直す。

軋み始めた音が私に充実感を与える。

 

「キィィ……キャァ。」

 

つい声が盛れる。

歓喜は理解できるものではないから、だろう。

 

 

戦車の隊列は避けたが、飛ぶ人間によって瓦礫が全て吹き飛ばされたら困る。

よって対応に時間を取られた……が、瓦礫に身を隠す奴らの4分の1を王女が暗殺した。

いつの間にか数が減っていく恐怖を感じ、動きが鈍った奴らをジェンシーが。

動けないなら私が瓦礫ごと。

 

 

水銀で王女を掬い、私の入っている繭に乗せる。

 

「キィァァッ!」

「了解。撤退支援戦闘を開始します。」

 

ジェンシーが換装し、何かを撃ち出す。

三つの爆発が向こうのビルを爆破する。

ここからでも分かるほど割れたガラスの反射光が見える。

更に何発も爆発が起こり――

 

「アトラル!太陽の方!」

 

王女の声に従って確認すると、何発ものミサイルが飛んできていた。

水銀を小さい円柱にして破壊する。

 

その時、影が私に飛びかかる。

 

「はぁっ――」

「神選者排除完了。」

 

血の塊となったそれを王女が受け止め、さっさと捌く。

 

ネセトの首を振り下ろし、飛んできた風の塊?を破壊する。

その神選者も地に降りる前に四肢を動かす脳は無くなっていた。

 

雷が私を、ネセトを取り巻く。

 

ジェンシーが飛び込んできた瞬間真っ白な光に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

光に照らされた天廊。

まぁまぁな明るさの中でネセトの改造を行う。

 

「どうじゃー?」

 

人間の姿の私を水銀の板で浮かばせながら細かい作業をする。

 

「黙れ。作業途中だと分からないのか?」

「通電テストを行います。離れて下さい。3、2、1。」

 

バツッ!

 

「通電を確認。過剰抵抗無し。」

 

ネセトの胴を通る沢山の配線。

一本一本を守る鉄の箱を加工し、繋ぎ、固定する。

固定と言っても新たに作ったレールの上だが。

 

人間の姿の有用性。

それは……加工だろう。そして細かい作業だろう。

ジェンシーがレーザー加工して、私が少しずつずらす。

王女が炎で溶かす。私の元の姿なら溶ける鉄も耐えれる。

 

その様にして夜になってもかなりの長い時間作業を続けている。

 

「後の作業は?」

「推奨、蓄電器の改良。優先すべき点は耐久と考えます。」

 

ジェンシーはその時、その時の判断しかしない。

いや、予定は建てているのだろうがこちらには伝えていない。

最終決定がまだなのだろう。

 

「お……」

 

王女。そう言おうとしたが……

 

「……」

 

立ったまま……寝ている。

そうか、王女が耐えられない程の活動と時刻か。

 

「ジェンシー、大丈夫か?」

「……?当機体の損耗率は1%未満です。」

「そうか、ならまだ作業を続けよう。ただし王女は寝た。そっとしてやれ。」

「サイレントモード開始します。」

 

一度元の姿に戻り、王女を鎌で膝カックンし、シャガルの翼で受け止める。

そのまま歩き、王女の部屋に入る。

 

「ゔ、ぅ……いや……」

 

……寝言が無性にイラつく。

ただし、王女に対して……ではなさそうだ。

…………

 

そっと布団に寝かせ、布をかけ、私が「つけておけ」と言ったのについていない床暖房のスイッチを入れる。

10階とはいえ、火山の熱気はほとんど無い。

どうやら火山の活動が抑えられている……様だ。

 

 

 

そして私はジェンシーと共にネセトの改造を再開した。




…………なんだこれは……
「…………」
「……これはサボテンダーのアーティファクトです。」

「…………」
「まじ卍……じゃ。」
「…………」

「この踊りに意味は?」
「無いじゃろうて。」
「踊りに効果は確認されません。」

「……お守りか?」
「まぁそれでいいじゃろう。」
「若干の流転能力を保持していると思われます。」

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