閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

101 / 107

「閑話含めて100話ですってアトラルさん!」
「そうか……そ、そうですわね……」
「これは何か記念になる事をしないと。」
「いや、わざわざめんどう……な事をしなくていいわよ。」
「さぁ、なんかやりましょう!!」
「ちょっ、まっ、やめてくださいまし……やめろ、引っ張るな!」



変革の糸・歓喜の稲光・ある兵士の日常・葛藤と欲求の狭間に・少年は羨望を抱く・反果の絶旗・機械武装でモンハンを制す

空を灼き、海を煮て、マグマを流しながら一匹の龍が現れる。

雷を轟かし、空を劈き、プラズマを漂わせながら一匹の龍は降り立つ。

 

「やぁ、おはようございます。白番。」

「おはよう、黒焉。睡眠中に襲われなかったかしら?」

「いやいや。マグマを泳いでまで来る神選者はいなかったぞ。」

「そうよね、私もそう思ってたわ。」

 

当然の様に龍の姿で人の言葉を操る。

だが、その言葉は余りにも古く、既に解読出来ないどころか存在を知る人間はいない古代の言葉だった。

 

黒が若干体を縮こませる。

そして欠伸。目に見える範囲の火山は活発化し、海底火山が噴火して新たな陸が煙をたてて現われる。

地割れが発生し、大きな断層が出現した事による津波が海を揺らす。

 

「うーん……だはぁっ。体の節々が痛むなぁ……ちょっと体操する。」

「大丈夫よ、そこまで急いでないわ。」

「……ふん、ふん、ふふん、ふんふ、ふふふん。」

 

黒が鼻歌混じりに体を捻ると岩が割れるような音が鳴り響く。

白は電気を使い、スマホを浮かせてゲームを始めた。

 

「おっけー、なんの用?」

「……よっと、今日はこの世界の話よ。」

「鉄槌を下すのか?」

「いえ、まだ出る杭を叩き、出る杭にする施工者を殺し回ってる所だわ。」

「穏便だなぁ……」

 

黒はマグマを手から垂らし、即座に固めて歪な大剣を作る。

白はそれを振り回すのをただ見ていた。

 

「奴らが例の機械を他の惑星で作ってたわ……気づけなくてごめんなさい。」

「いやいや。でもこっから辛くなるのか……」

「彼女の力もあるしある程度放置でいいのではないかしら?」

「だがなぁ。常に調整と抑制、統制と生産を補佐しないと激動すぎて崩れそうだし……」

「少しは彼女を信用してあげて。それに私は感情だけで物事は行わない、きちんとどれくらいか分かってるわ。」

「へいへい。やりますよ。」

 

 

 

ヴーッ!ヴーッ!

 

赤い光が回転し、警告音が鳴り続ける。

 

シュレイド王国内に存在する巨大中央制御室。

機械による圧倒的状況分析と予測、人間による修正と追記、神選者の能力の未来予知によってこの世界を統治している。

 

『龍が二匹、海辺で会っている』

 

たったそれだけ。

それだけなのに地殻変動を予測し、津波の被害を予想、世界に散らばる国民に避難勧告を出さなければならない。

 

「うわっ!」

「うおっ。大丈夫か。」

「すいません大佐殿……」

「あはは、今までにない緊急事態だから焦るのも分かる。私だってそうよ。」

 

廊下にて小走りだった青年が転び、書類が広がった。

多少齢のいった女性が簡易操作腕装着型パネルをタップする。

 

3秒で専用通路から掃除用ロボットが滑る様にやってきて紙を吸い始める。

綺麗に整頓され、順番を揃えられた紙束がプラスチック容器に出される。

 

カシャン

 

「ありがとうね。はい、どうぞ。」

「あ、ありがとうございます!お手を煩わせて申し訳ありません!」

「ランク3からの特権はランク3以上なら使いこなして当たり前だから大丈夫よ。」

 

女性が紙を拾い、男性に渡す。

そしてまた小走りでとある一室に向かう。

 

 

 

「ああ、遅い遅い!何をしているんだ?」

 

男性はタバコを老人が吸い、その煙が充満する部屋に入る。

 

「申し訳ありません!」

「俺が若い時はもっとやる気があったぞ!全く、これだから最近の若いもんは……」

「……こちらがその書類です。」

「あぁ、はいはい。仕事が遅いんだよ全く……」

「申し訳ありません。」

「分かったから、下がった下がった!」

 

男性はすごすごと部屋から出ていき、聞こえない所で悪態をつく。

老人はタバコを灰皿で叩き、灰を落とす。

判子と朱肉を手前に引き寄せ、紙の必要事項やサインした人間をサッと確かめ判を押す。

 

『龍殺竜機兵増産による予算増加の願い』【許可】

『耐龍力結界研究への予算増加の要請』【許可】

『空軍配備強化、新機体生産ライン配備』【許可】

『神選者解剖研究機構設立要請』【許可】

『電磁的概念物質実体化anomaly製作許可』【許可】

 

『機密電話要請』

「……ん。はぁぁ。」

 

偽装用の白紙の束を捲り、この紙を見てから老人は電話に手を伸ばして9回番号を押して耳に当てる。

数回のコール音の後に繋がる。

相手はまだ成長期の女性だ。

 

「ジャミー中将!いつもお世話になっておりますー、本日はなんの御用で?」

「バディリアス主計中佐。本日の書類の中に『ヌル・タイムクリーチャー研究』の要請がある筈だ。」

「はっ、少しお待ちを!」

 

老人は肩と頬で電話を挟み、書類を捲る。

 

「ありました!」

「ならばそれを却下してくれ。」

「了解しました!」

「以上だ。」

 

電話が切れたことを確認してから老人は判子を持ち替え、朱肉につけてから振り下ろす。

 

『ヌル・タイムクリーチャー研究予算供出の願い』【却下】

 

その判を見ながら老人は激昂する。

 

「なんであんなアマに従わなきゃなんねぇんだ!あんな小娘に中将なんて、無能上司共がぁ……あんなやつ毒殺や拉致されて死んでしまえばいい……」

 

 

 

 

書類を機械に入れて読み取らせ、情報の差異を正す。

新たに出された答えは更なる発展を示す。

 

特殊演算経過翻訳装置によりマザーコンピューターの思想を記録し、監視する。

 

「新たな異世界、ドラえもんと繋がりました。」

「了解、ドラえもん。」

「推定、時の操作、惑星破壊、恒星破壊、現実操作、大規模超長距離惑星間転移、粒子操作・創造。」

「終了。音声認識に差異無し。」

「推定必要戦力算出開始。植民地計画・並行・殲滅計画模索開始。」

 

 

書類を入れた男性は、淡々と紡がれるえげつない計画に恐怖する。

技術的な価値、人間的な価値があるかないかで、征服するか、虐殺かを決めてしまう様子は嫌悪感を抱いてしまう。

 

 

十数分後

 

 

「『異世界・ドラえもん 虐殺計画立案書』。作戦本部のリーティリア少将に持ってって。」

「……了解しました。」

 

男性は当然の様に『虐殺』と書かれた計画書につい引いてしまった。

しかし、命令には従わなければならない。

書類を持って廊下に出ると、先程の女性が話しかけてきた。

 

「本部勤務はどう?」

「うわっ!?え、えっと充実しております!」

「はいどーも……やっぱりその計画書、怖い?」

 

ゆっくりと、男性の顔を覗きながら女性は笑みを浮かべて話しかける。

 

「は、はい……我々、シュレイド国民が唯一無二の最上級人間である事は重々承知していますが……当然の様に異世界の人を……はっ、申し訳ございません!」

「いいのよ。私もそれはずっと疑問だわ……でも人だって縄張りを広げるの。異族は殺してもいいの……なんてね。」

「……っ。」

「『必要』か。『邪魔』か。それを決めるのは――」

 

 

 

「「我々。」」

 

 

 

「そう、我々はずっと隠れていた!」

 

森の一角、元はアイルーだけが居た場所だ。

ここには昔、アトラル・カと共に居た歴史があるらしい。

 

破れ、ボロボロになった赤い服を纏った男性が叫ぶ。

かなり歳をとっているが、旅団長である彼の腕はまだ衰えていない。

 

「今、ここに武器も食料も揃った。同時に奴らの力もここを侵食し始めた!ここでただ座して死を待つか、反抗し憎き奴らを押し返すか!これは我々の尊厳をかけた戦いになるだろう!」

 

神選者が求めるは自己顕示の場。

シュレイド王国が求めるのはモンスターの殲滅と繁栄。

 

人間の殲滅は主な目的には無いため、奇跡的に助かった者達がいる。

その者達は今、武器を手に取った。

 

だが、蛮勇と笑い、影に隠れて悪口を言う人もいる。

 

 

 

「「馬鹿だなぁ。」」

 

 

 

「お前本当に馬鹿だなぁwwwこの俺に勝てると思ってたの?子供でちゅね〜www」

「うぅぅ……」

 

大人の神選者は子供の神選者を蹴飛ばす。

子供は転がり、呻く。大人はそれを踏みつける。

実力主義の世界で自分を越える可能性は万に一つだろうと潰さなくてはならない。

 

その名目で虐待をする大人が急増している。

 

「弱肉強食って知ってるぅ?上も下も分からないお子ちゃまは長いものに巻かれてりゃいいんだ……よっ!」

「いぃっ!!……う、うぁぁぁぁっ!!」

「ふん!」

 

再び転がされた子供は大人に刃を向ける。

その決意は簡単に蹴飛ばされた。

 

「じゃぁ……死のうかwww」

「ぐぅぅ……!」

 

子供の持つ刃を取り上げ、笑いながら振り下ろす。

 

 

「やめなさい。」

 

神選者が割り込み、刃を奪い取る。

 

「っ!?……これはこれは、どうもどうも。どうです今から一杯――」

 

男性は名のある神選者の女性にゴマをすり始めた。

女性は反吐を見るような目で睨みつける。

 

「図々しい。あっち行きなさい。」

「……っるせぇな。お前みたいな正義を押しつける輩なんぞこの世界にはいらなねぇんだよ。」

「……」

「へいへい……」

 

言いたい事を言って男性は去っていく。

女性は少年に回復薬を渡し、手を持って立ち上がらせる。

 

「大丈夫?」

「は、はい……ありがとうございます!」

「そう、私はこれで。」

「……っ、お名前は!?」

「……私の名前?私は――」

 

神選者の派閥抗争が始まったと、その時は誰も知らなかった。

それ以前に神の派閥抗争が激化していたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天廊10階

 

 

砲撃の無い穏やかな昼。

 

私は壁の外に風車を作っていた。

木と鉄で出来た簡素な風車。

 

「キィ?」

「おっけーじゃ!電気が通ったのじゃよ!」

「キィアァ……作るのも大変だという事を本当に忘れてたな。」

 

私が風車を作ろうと思った次の日、外から資材が見える所に運んだ所で私は集中的にミサイルを受けた。

アンドロイドが飛来し、隙あらばミサイルが床ごと破壊しようとしてくる。

私が何をしてくるか分からないのだから当然の反応だ。

 

そんな誤算はあったが、三日後に遂に完成したという訳だ。

5つの風車が回転する事で発生する電気により、パッと照明がつき薄暗い天廊を明るく照らす。

 

「成功じゃな!」

「あぁ、そうだな……見回りに行ってくる。」

「行ってらっしゃいなのじゃ。」

 

王女は先程までラジオの電池だった物を充電し、時計から抜いた電池を差し込んでラジオを動かす。

私は今日見に行く階層を決めてモンスターの様子を見に行くために外壁に出る。

 

あぁ、私の縄張りの様なものなのにモンスターを何故殺さないのか、と?

古龍はわざわざモンスターを殺して縄張りを主張するか?そういう事だ。

 

元の姿に戻り、笛を持ち、撃龍槍を担いで外の壁を糸を使って跳ね上がっていく。

 

雲はさっさと突き抜ける。

 

そして空飛ぶ戦艦の機械音が鳴り響く高さまで登る。

低く唸る様な音は何処か安心する。

 

黒い球体に緑の光が走る。中にはそんなものが複数浮いていた。

それに私の興味を引くものが何個かあるな……

 

 

 

更に上に登る。

若干呼吸が辛いが、砂漠に潜行出来る体、そして古龍の生命力。

造作もない事だ。

 

この星の縁が青いオーラの様に包まれ、天は暗く、光る星が見える。

それ以前にとても寒いが、シャガルマガラの古龍の力のお陰で動きは余り鈍らない。

 

さて、ちゃんと罠は作動しているか……

 

 

ヴゥゥン……!!

 

 

……ほう?艦隊の音が強くなった。

機械共が塔に近づいてくる。

 

「援護するヨ!」

「オヒサシブリデス!」

 

――ゼノ・ジーヴァとゼスクリオが外から降りてくる。

異常の察知と共に私の位置を捉え、やって来たようだ。

 

そうこうしている内に戦艦から大量の飛来物体が来る。

息を整え、ウイルスを広げる。

 

 

 

 

「封龍吸力砲、スタートアップ終了!照準、ブレ補正完了!」

「発射まで、3、2、1!」

 

 

 

 

いや、物体は空中で止まった。

何をしてくる気だ?……私が思った。

その時だ。

 

天廊の中層に向かって、宇宙から緑の光が落ちて障壁が輝く。

障壁の輝きと緑の光が強くなってくる。

 

「……キィ?」

「あっ、こレは……!」

「ドウシタノ、ゼノ?」

 

ガラスが割れるような音と共に、緑の光が貫通してきた。

 

貫通した光は天廊に当たり……特に何も起こらなかった。

だが、二匹の龍が地に伏せる。

 

「痛たた……なに、コれ?」

「リュウノ、チカラヲイドウサセタ?」

 

龍の力を……そう思いながら笛を見ると、水銀が笛から漏れていた。

私の力を使わず、笛の中に押し留める様に地に走る力を使っていたが、それが一時的に消えていた様だ。

 

再び緑の光が降り、私達の正面で衝突する。

再び二匹の古龍は倒れ、水銀は形をとらない。

どうしたものか……

 

「キィィ……」

「うぅゥ……」

「スゥー、フゥー……ヨシ。ネツ、ホウシュツスルヨ!」

 

ゼスクリオから暖かい空気が流れてくる。

光が貫通し、障壁が歪んで口が開く。

 

滞空していた大量のアンドロイドと数十隻の戦艦からミサイルが発射される。

ゼノの体が青白く光り、レーザーを放ってミサイルやアンドロイドの群れを薙ぎ払う。

 

次にゼスクリオがゼノと交代で位置をとり、体内の光の一部を口に移動させる。

ゼノより強力な一撃が、襲来する物を落とし、戦艦を一隻爆発させる。

 

それでもまだ飛来する物は多い。

撃龍槍を構える。

 

「クォォォォン!!」

 

ゼノが叫び、レーザーを放つ。

かなり距離を詰めた奴らは前兆を察知し、数機しか当たらない。

 

水銀を変形させ、私の鎌を重くし、補強する。

 

ウゥゥゥン……!

「キィィィィ!!」

 

私に真っ先に突撃してきたアンドロイドを叩き壊す。

振り下ろした鎌の水銀を解き、その鎌を支えにしてもう一機に叩きつける。

アンドロイドが守りの為に構えた刃を折り、そのまま大きく頭を歪ませる。

 

鎌の水銀を解き、鎚の形に変える。

 

続いて私達を纏めて爆散しようとするミサイルに振り下ろす。

打ち漏らしを考え、ウイルスで隙間をカバーする様に凝縮する。

 

「ふんっ!」

「クルッ!キィィ!?」

 

フシュー!

 

それでも切り抜けてきた一機を笛で受け止める。

その僅かな硬直、爆発によるウイルスの感知出来ない場所という条件を満たした所からもう一機が私を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

くそっ、完全に不意をついたのに!

 

パワードスーツを着た私の一撃を受けたアトラル・カは50mを、撃龍槍ごと転がっていく。

そんな威力の攻撃を受けたのに……

 

「……」

 

モンスターにしては静かすぎる反応を。

煙の中の影が、青紫色の光を放つ。

影の中で大きな翼が出現し、開かれる。

ただ振り回されていた様にしか見えなかった水銀が彼女の元に集まる。

 

アンドロイドが数機突撃し、水銀に潰され、千切られた。

 

「キィィ……」

 

アトラル・カが再び突撃してきたアンドロイドの方を向く。

気が逸れた今しかない……一度退却!

 

 

 

 

 

笛で機械を叩き、吹き飛ばす。っと、銃が私の前に落ちた……

体勢を戻そうとする所をシャガルの翼で掴み、壁に押し付けて壊す。

 

「キィィ!!」

 

銃か、試してみるとしよう。

 

水銀を小さく尖らせ、走って逃げ始めた神選者の背中に今までで最高の速度で貫かせる。大量の弾丸はどんな影響を与えるのか……

 

奴を貫く事は出来なかったが転んだ。水銀を変形させて鎚として振り下ろす。

 

「ヴゥゥゥン!!」

 

鎚を受け止め、抵抗していた。どうやらこいつは特別強いらしい。

走りよりながら撃龍槍を振りかぶる。

 

水銀を溶かし、視界を潰す。そして足を抑える。

 

 

 

 

周りが見えない……っ!光だ――

 

 

 

 

おや、赤い液体が飛び散りいつもの匂いがする。

中に人間が居たようだ。

大体こういう奴は碌でもない、念入りに潰しておこう。

 

「キィィ……」

ギィィィッ!!

 

潰していたが、ウイルスの反応でレーザーを回避する。

掠めたレーザーは壁を壊す。

再び飛んできたミサイルを回避、私から距離をとろうとした機械に近づき、掴む。

他のアンドロイドがチェーンソーを振り回しながらやってきたので機械を投げつける。

 

突然床が揺れだした。

 

「クォォォォン!!」

「アッ!アトラルサン、コチラへ!」

 

ゼノの体が紅く染まり、両手で地面を貫く。

若干気持ち悪くなるのを感じながらゼスクリオの呼びかけで走り込む。

 

「ビッグ……っ!」

「チョットタエテクダサイ!」

 

橙色の光が私とゼスクリオを包む。

地面が揺れ始め、亀裂が走り、その亀裂から水色の光が漏れ出す。

両手を刺した所からの水色の光が激しく、ゼノの姿は見えなかった。

 

「バァンッッ!!!」

 

しかしアンドロイド達は動かないゼノに好機と襲いかかった。

 

「クォォォァァァ!!!!」

 

ゼノが叫ぶ。

視界が白く染まる。

 

 

 

き、気持ち悪い……逆にシャガルや体内のウイルスはこれまでに無いほどに元気になっている。

本体の私は中身の肉まで強く撫でられた様な感覚のせいでしばらく動く気が起きない。

 

そうして床を見ると私は浮いていた。

大爆発で床が破壊され、何階層か下まで見える。

壁も吹き飛んでいたが、それでも点々と数十本の柱が残り即座に建物が直ってきている。

 

「キィ?」

「ラッカエネルギースイトッテルカラ、ウイテルノデス」

 

よく分からないが、ゼスクリオのお陰だそうだ。

蒼い炎の様な物を纏っている。どうやらしばらく動けないようだ。

 

外を見ると蒼い輪がまだ彼方で輝いていた。

その光を妨害するであろう船は一隻も見当たらない。

 

人間の姿になり、ゼスクリオに話しかける。

 

「一体何が起こったんだ?」

「ゼノハ、リュウノチカラソノモノヲ、ツカウノデス。」

「その力で爆発を?」

「マヨコニムカッテ。イリョクガスゴイデスネ、シカシ、タエルハシラモ……」

「そうか……」

 

もはや何が起こったのか分からない。

とりあえず元の姿に戻る。

ウイルスが物凄い量漏れているので翼は出さず、とりあえず地に降ろしてもらった。

 

 

 

その時、私に理解出来ない事が発生した。

そして、奇妙な事が続く。

 

 

 

「再起動……マスター登録時暗証番号情報欠如。代替として生体反応を示す物質の提示をお願いします。」

「……!?」

 

アンドロイドが転がっていた。

ただし、口しか動かさず傷が一つもない。

騙し討ちなのだろうか?いや、それ以前に防御力が高すぎる。

破壊すべきだろうが……

 

「警告、当機体が汚染されている可能性を考慮し、30秒以内に自己チェックシステムを再開出来ない場合ブラックボックス以外の媒体を破壊します。カウントダウン、29、28――」

 

私達を見ても襲ってこない。

それどころか何が敵で何が味方か分かってないのだろうか?

……つまり、利用出来る?

 

「26、25、24――」

 

だが、制御出来るか?……いや、いざという時は殺せばいいか。

……違う。まずは自己保身の為にはあの存在を一番優先すべきだ。

 

「22、21、20――」

「キィィ、キャルルァァッ!!(ミラルーツっ!!)」

 

呼びかけに応じるか……?いや、勿論理解はするだろう。

……

 

「18、17――」

 

早くしろ……時間は有限だ。

例え長命だろうとカウントダウンの早さは同じだ。

悠長に構えてられない。

 

「15――」

「こんにちは〜!」

 

雷を放ちながら白い龍の頭が現れる。

 

「13、12――」

「クルァル(使う)」

「勿論、いいわよ〜。」

 

その確認をとれた瞬間、私はアンドロイドに駆け寄る。

……っ!何処に生体反応を提示すればいい!?

 

「10、9、8――」

 

だが、ルーツは教えないだろう。

憎き人間の創造物だ、私の行動に興味が出たから許可をしたに過ぎないだろうから。

とりあえず体液を多めの糸を出し、纏める。

 

「6、5、4――」

 

半分を口に突っ込み、残りを全身にかける。

 

「2……警告――」

パシッ

「おっと危なかったわね〜」

 

いつの間にか近づいてきていたミラルーツが警告を無視し、浮かんだパネルを押す。

アンドロイドが起き上がる。

 

「マスター登録完了。名前を入力後、読み上げてください。」

「ほら、アトラル。自己紹介しなさいな。」

「キィ……分かった。やろう。」

 

人の姿に変わる。

浮かんだパネルにアトラルと打ち込むが、その手が止まる。

 

 

私はアトラル・カだ。だが、それは私達の種族の名である。

 

 

私は……私はそれでいいのか?

これまでも、これからも私はアトラルだ。アトラルであるのは間違いない。

だが、自分の名前ぐらい自分で決めていいのでは?

今までアトラル・カと呼ばれる事に違和感は無いし、これからもない。

とはいえ、種族名や二つ名では面白くはない。

 

 

……私はネセトの魂には留まらない。

私はネセトではない。私にとってはネセトは愛する城であり、愛する『道具』にすぎない。愛しているが。

 

「アトラル……」

「ん?どうしたのかしら?」

 

「……アミラ。なんかどうだ?」

 

「……あははwwwあの娘といるから若干イメージが変わっちゃったのかしらwww」

「私は『姫』だ。人間からしても姫と呼ばれ、冷徹に振る舞いたいという願望。周囲の物はなんでも使い、絶望に落ちようと信念を曲げない。孤独で孤高で、楽しそうじゃないか?」

「それは姫なのか……?……くくっ、戦乙女も良く『戦姫』とか『導姫』と呼ばれるわね……」

 

……ミラルーツの話はよく分からないが、まぁいい。

私は城の主であり、下等な存在に怯える必要がない。

私も新たな姫だ、とここに宣言……した所で何も意味が無いが、自己満足を満たす事はいい事だ。

 

「アトラル・アミラ。」

「アトラル・アミラ様。了解しました。呼称はどういたしますか?」

「アトラル。」

「アトラル様。了解しました。」

 

アンドロイドが一度止まる。

その後、また話しかけてくる。

 

「私に何を求めますか?」

 

求める?……いや、迷う事は無い。

 

「私への忠義と、考え、予測する意思。」

「……困難だと推測、最終目標として設定します。」

「ふん、私も意識がなんなのかは知らないが、プログラムも意識の一種なのかもしれないぞ。」

「……理解不能。論理学習用言語として処理します。」

 

一通りの事が終わり、ミラルーツへ振り返る。

ミラルーツはニコニコと私を見ていた。

 

「なんだ?」

「可愛い……微笑ましいわ。」

「脅威レベル想定外。お逃げ下さいアトラル様。」

 

アンドロイドが私の前に出てくる。

確かに警戒すべき相手だが、学習機能でこの状況を理解出来るのだろうか。

 

「やめろ……あー、お前。その龍は敵じゃない、やめろ。」

「了解しました。」

 

アンドロイドの呼び名を考えるか……

さて、王女の所に戻るとしよう。

 

「お前は飛べるか?」

「携帯原子炉と龍脈機構のどちらかが機能する際、永続的な飛行が可能です。」

「で、どちらが機能している。」

「龍脈エネルギーが制限可能許容量を越えている為に原子炉のみ機能しています。」

「そうか。ついてこい……ミラルーツ、ありがとう。」

「え〜?私、何もしてないわよ?ただ、己は己に弱い事を覚えておきなさい。」

 

謎の言葉を残してミラルーツは消えた。

まぁ、機械は機械に弱いという事なのだろう。

 

一部始終を眺めていたゼスクリオが降りてくる。

よく見るとゼノの蒼い光を吸い取っているようだ。

 

「脅威レベル天井。お逃げ下さいアトラル様。」

「やめろ。」

「オクリマショウカ?」

「いや、いらん。」

 

ゼスクリオの善意を断る。

というより、今確かめなきゃいけないことがある。

 

「お前、今から私の姿が変わる。認知出来るのか?」

「勿論です。その時の情報からマスターであるアトラル様の事は大体理解しております。」

 

アンドロイドの言う通り、元の姿に戻る。

特に変わった反応を示す事は無かった。

 

「キィィ、ァァァ。(私だ)」

「はい、アトラル様です。」

 

……その技術はあるのか。

さて、さっさと降りなければ。

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバッ……!!

 

白き龍が次元を切り裂き、ゆっくりと歩いて出てくる。

黒き龍の背中は噴火し、高高度で爆散し飛び散るマグマはその熱で飛行機を変形させ、撃墜する。しかし、当の本体は呼吸の様に特に意識する必要もないようだ。

 

「どうだった?」

「流石ね、圧倒的だったわ。」

「だろうな、ここまでビリビリきたぞ。」

 

黒い龍と白い龍は見つめあった。

ある事において互いに繋がっている事を確認する。

 

「やっと……」

「そうだな。やっとだ。」

「昔の彼女の様な事を遂にやり遂げたのよ。」

「……マジか。そこまで来たか。」

 

その時、龍の力が飛び散り、次元ポータルが現れる。

究極に愚かな神が二兎を捕らえようとしたのだ。

 

「はぁ……」

「嬉しさが抜けてないな。」

「そりゃそうでしょ。」

 

大きな爪が次元ポータルの端を掴み顔を出してくる。

 

「ようこそ。モンスターハンターの行き着く未来の世界へ。」

「我々は汝を歓迎しない。ここで引き返すならば見なかった事にしよう。」

 

二匹の龍は少しだけ威圧する。

狙い通り、見くびった怪物が叫びながら暗黒を撒き始めた。

 

「あらら。」

「はいはい。」

 

二匹は自己中かつ、自信過剰、謎の確信を持つ神達の行動にほとほと呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

王女にこの機械を下僕に置いた経緯を話し終わる。

 

「名前……名前かぁ……どうしようかのう。」

「『機械』では不備が出るからな。自分で名前を考えられるか?」

「……当機には番号がありません。よって個体識別が困難である為に名前を――」

 

アンドロイドの報告を王女が遮る。

 

「そうじゃな、アトラルは格上に異常なほど弱いのじゃろうし『ジェンシー』でいいんじゃないかのう?」

「ジェンシー?」

「……きっとアトラルを助けてくれる。おすすめじゃよ。」

 

その後私は少しの間考えてみたが、特に思いつく事は無かった。

アンドロイドに名前を設定すると伝える。

 

「了解しました。入力後―――」

「ジェンシー。」

「了解しました。ジェンシー、低俗な名前出ないことに心からの感謝を致します。細部の言語設定はどう致しますか?」

「どうだっていい。」

「了解しました。現行の設定を基準とし、倫理学習と並立します。」

 

アンドロイド……ではなく、ジェンシーは歩き出す。

その歩みは突如止まり、私に振り向いた。

 

「……」

「どうした?」

「ご命令を。」

 

そうか……機械は外からの働きかけがなければ動かない。

そして自我の発生もゆっくりと待つしかないだろう。

 

だから私は命令する。

 

「ジェンシー、ついてこい。」

「了解しました、アトラル様に随行します。」

 

 

アンドロイドは立ち上がる。

 

 

青みがかった白髪。

赤く光りだした目。

黒いゴスロリを来て白黒のタイツ。

 

「警戒モードに移行します。」

 

背中とふくらはぎが開いてエンジンが露出する。

腕が変形し、箱のような形の銃が装着された。

 

「そこまで警戒するのか?」

「勿論です。マスターであるアトラル様に何かがあってからでは――」

「……自惚れるな。私をなめるなよ。」

「はっ、失礼しました。」

 

いや、私が間違っているのは分かる。そういうプログラムだろうから。

だが、私は私の感情がある。

 

「私は人間ではない。モンスターだ。それを理解しておけ。」

「了解しました。」

「それでは王女、行ってくる。」

「行ってらっしゃいなのじゃ!」

 

……まさか私がアンドロイド、その物を従えるとは思っていなかった。




…………

「そう、これは私達の行き着く未来。モンスターはいずれ駆逐される。」
「とか言っときながら都合悪いと……」
「言わなくていいわ。過度な発達を促す神と信者を殺すだけ。」
「ただし残念ながら人間vs生き物。滅ぼされかけた人間にはヒーローが必要……願う。」
「だから神様が影響しやすいのは分かる……だからって私達の世界を壊す事は許さない!!」
「まぁ、やるだけやってみるさ。まだまだやる気はあるぜ。」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。