戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

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なんか続いてしまった。
このアマッカスは万歳した後です。よって性格等が本編とはちょっと異なっています。「こんなの大尉じゃねえ!」って方、申し訳ありません。

~これまでのあらすじ~

色々あって異世界から来たバカ(多分30歳は超えてる)が色々あって高校生の女の子に見惚れました。


第1話 「始動」

 「失礼。ここの隊長殿と副隊長殿はおられるかな?」

 

私がその人に出会ったのは、忘れもしない、あの決勝戦の直後。表彰式の準備のためにみんなが動き始めたころだったと思う。

 

あの時。頭の中は真っ白で、自分でも何をしているのかすらよくわからなかった。

 

ただ、無線越しに聞こえる仲間の悲鳴が、私を突き動かした。

 

助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ!

 

――だから、陸に上がったとき。自分の乗っていたフラッグ車が破壊されて敗けてしまったことを。チームの十連覇を台無しにしてしまったことを。

 

みんなの期待を裏切ってしまったことを理解してしまって。

 

「あ――」

 

浴びせられる嘲笑、侮蔑、失望、その他さまざまな悪感情の数々。そこから逃げたくて、でもそれは不可能で。

 

「――っ」

 

ふと、みんなに指示を出しているお姉ちゃんの姿が目に入った。ーー私になんの言葉も、目を合わせることさえせず、ただ黙々と務めを果たしているお姉ちゃんの姿が。

 

その時私は、何を言おうとしたのか。

 

それはあきれ返るほど単純で、だけど言えなかった。

 

――私に、味方はいない。

 

そう理解してしまったから。

 

今度こそ、私の頭は真っ白に――否、真っ黒(・・・)になってしまったのだ。

 

それは言葉にするなら混沌。正も負も、ありとあらゆる感情を滅茶苦茶に混ぜ合わせたような、底なしの黒。

 

視界が回る。

 

かけられている言葉が、雑音混じりの不快なものにしか聞こえない。

 

そんな(くろ)の中に、その人は舞い降りた。

 

その人を見たとき、まず感じたのは恐怖。

 

怖い。怖い。怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い――。

 

目の前にいるこの人が、なぜか途轍もなく恐ろしい。

 

理屈ではなく本能が、そんな絶叫を上げた。

 

恐怖に射すくめられた私を尻目に、その人は手近な子に最初の問いを投げーー

 

「――――」

 

カッ、と靴音を鳴らしながら、隅っこのほうで小さくなっていた私の前に立った。

 

そこで初めて、私はその人をよりはっきりと認識した。

 

男性にしては長めの髪。スーツに隠れてはいるが、何かしらの武道か、あるいはスポーツをやっているのか鍛え上げられているのが分かる堂々たる体躯。

 

そして、喜悦一色に染まった表情。

 

「――ああ、少し怖がらせてしまったかな。これは失敬」

 

視線を右往左往させている私を見て、その人は苦笑しながらそう言った。その瞬間、ふっ、と体が楽になった。先ほどまでの覇気は幾分落ち着き、こちらが平気な程度にまで抑えられている。

 

「ここに来るまでの途中に、少々気に入らん者らを見てな。そういう者らを抑えるために少し肩に力が入っていたようだ。本来はその場で咎めるべきなのだろうが、それよりも俺はおまえに一目でも良いから会ってみたかった」

 

「わた、しに――?」

 

一体なぜ?まさか、まさかとは思うがお母さんたちの関係者?ああそういえば、最初に言っていたではないか。

 

――隊長殿(お姉ちゃん)副隊長殿(わたし)はおられるか。

 

ならば、ならばならば私は私はどうすれば嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖逃げたいやめて来ないで助けーー

 

「落ち着け、西住みほ」

 

ぽん、と頭に手を置かれた。大きくて、ごつごつしたその手は、しかし不思議と嫌なものではなかった。

 

「俺はおまえたちの家の関係者ではない。仕事上付き合いはあるが、その程度に過ぎん」

 

こちらの考えを見透かしたかのように、男性は言葉を放つ。そこで、少し小走りでお姉ちゃんがやってきた。どうやら隊の誰かに事のあらましを伝えられ、急いでやってきたのだろう。

 

男性もお姉ちゃんに目をやると、おいていた手を離し、そしてそのまま私にその手を差し出してきた。

 

「甘粕正彦。日本戦車道連盟副理事を務める者だ。此度の貴殿の勇気ある決断と行動に賛辞を贈らせてもらおうと思い立ってな、こうして足を運んだというわけだ」

 

「……」

 

そこから先のことは、よく覚えていない。何かを話していたような、またはお姉ちゃんが何か話しているのを聞いていたような気がするが、それらのほとんどは彼方へと消えていってしまった。

 

ただ、一つ確実なのは。

 

私はこの時、私を認めてくれる人がいることを知ったということだった。

 

 

 

 

 

 「――ああ」

 

全国大会決勝から数日。自らの執務室の椅子に腰かけながら、甘粕は回想する。

 

――みほは私の大切な妹です。

 

――私は、ただみんなを助けたくて。

 

――責任は全て私にあります。……全て、私の責任です。

 

思い返すのはあの日、消えるような小さな声で漏らされた言葉の数々。そのどれもが、恐怖と不安に慄きながら精一杯振り絞った勇気の結晶だ。

 

素晴らしい。なんと美しいことだろうか。

 

出来ることならば、その輝きを永遠に見守り、愛していたい。

 

「だが」

 

そう――だが(・・)

 

そんなものは不要(・・・・・・・・)。そう示された」

 

かつての俺ーー審判の魔王であるならば、その輝きに忘我しただろう。逆境を、苦難を、試練を。人はその中においてこそ輝くのだと。

 

それは正しい。何故なら俺の掲げた祈りもまた、人類の性であることに偽りはないのだから。

 

その考えに歪みはない。今もなお甘粕正彦は魔王であり、審判を統べる者である。

 

だが、その果てに待っていたものは敗北だった。

 

仁義八行、真の勇気の化身たるもう一人の人類の代表者。

 

彼の言葉を、放たれた一撃を、その時の感激を、俺は決して忘れない。

 

「――ならばこそ、それ(・・)を見てみたい」

 

甘粕は席を立つ。

 

尻を蹴り上げて立たせるのではなく。

 

格好良い様を見て、その背中に奮い立つ。

 

そんな勇気をこそ、見てみたいのだと。

 

子供らの成長を見守り、導き慈しむことこそ大人の本懐。

 

ならば試練など不要。そう分かってはいるのだが――

 

「ああ、これはなんとももどかしい」

 

――それでも思うのだ。人とはやはり驚くほど腐敗しやすいものなのだと。

 

なぜおまえたちはそうなのだ?己の行いを恥ずかしいとは思わんのか?

 

甘粕正彦は目の当たりにした。西住みほ、甘粕自身が勇気あるものとして見惚れた少女。そんな彼女に浴びせられる無責任かつ容赦ない悪感情。

 

安全圏から一方的に放たれるそれらは、しかし結局のところそれを言うことが目的なのではない(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

それは手段(・・)だ。溜まった鬱憤、不平不満、嫉妬に嫌悪。それらを晴らすのにちょうど良い生贄(スケープゴート)として、勇気ある少女は選ばれてしまった。

 

学園関係者、OG、西住流の関係者、果てはどこの誰とも分からぬ評論家、教師、学生から――罵倒され、嘲笑され、踏みにじられる。

 

なるほど確かに、それは彼女にとって乗り越えなければならない試練だろう。その果てに、彼女はどうなる?

 

勇気を見せるか?はたまた潰れてしまうか?

 

それは確かに気になるし、その行く末も見てみたくはあるが――

 

「そのような試練は相応しくない」

 

なぜならその試練からは腐臭がする。

 

おまえたちは恥ずかしいとは思わんのか。無抵抗の少女一人に全ての責任を擦り付け、安全圏から何の覚悟もなしに攻撃を行い、嘲笑する。

 

それまでその少女に頼りながら甘い蜜を啜っていた輩が、その少女を知ろうともせず持ち上げていた輩が、どの口で少女を扱き下ろすのか。

 

いいだろう、ならば結構。これより俺がおまえたちに試練を与えよう。例外は許さん。誰も彼もが当事者となり、覚悟と責任を抱くのだ。

 

名目上は視察と講演。しかしその本質は、魔王が齎す試練である。

 

己の思いを曝け出せ。高らかに理想(ユメ)を謳うがいい。その果てに勇気(ヒカリ)を見せてくれ。その輝きに、どうか見惚れてみたいのだ。

 

審判の魔王は動き出す。

 

甘粕を乗せたヘリコプターが黒森峰女学園学園艦にやってくるのは、その数時間後のことである。

 

 

 

――よってここに、歯車はずれ始める。

 

人々の勇気を、理想を、もっともっと見てみたい。しかしそんな願いとは裏腹に、人々はあえなく堕落してゆく。それが堪らなく口惜しい。

 

見守るという答えは変えぬ。不安も逡巡もありはしない。

 

ただし少々趣向を変える。見守ることは確かに大切だが、それはすなわち放任するという意味ではないはずだ。

 

「俺は俺流のやり方で、おまえの言う勇気を見てみたい。ゆえに少々、羽目を外すぞ柊四四八(イェホーシュア)。なに、おまえの言葉は変わらず胸に刻んでいるとも」

 

大義を成すのは現実の意志。ああ、忘れもしない。ならばこそ――

 

「――邯鄲(ユメ)は使わん。そんなものに頼らずとも、人は勇気を示せるのだからな」

 

思い返すのは一人の少女。その示した勇気。

 

現実を生きる人間として振り絞った、精一杯の勇気。

 

ならば俺も、この現実で為すべきことを為すだけだろう。

 

超常の力など不要なり。もとより俺は本来彼女らとは違う世界の人間だ。

 

ジャンル違いが彼女らの世界をかき乱すなど言語道断。

 

序幕の舞台は黒森峰女学園。

 

主演はあの決勝戦の舞台にいた、二十台の戦車の乗組員たち全員。

 

そしてのみならず、この学園全ての人間。

 

「では始めようか」

 

誰も逃れることなど出来はしない。

 

――魔王からは逃げられないのだ。

 

 

 

 




カッス「我慢は知っている。知っているが……しかしつい興が乗ってしまうのだ」

この世界でもカッスは夢を使えます。使えますが、カッスはよっしーの言葉に感激しているので、夢を使うつもりはありません。


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