鍛冶ロールで生きていこうと思う。   作:どおん!

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こんばんは、よろしくお願いします


パーティーを組むのはRPGにおいて定石

 落ち着いて深く息を吸い込み、そして吐き出す、狭い路地裏には誰もおらず、スゥー、ハァー、と自分の規則的な呼吸の音が響く、少し落ち着いたので顔を上げ、先程の奇行のことを思い出して再び顔を膝の間に埋める。なぜあんな奇行に走ってしまったのだろうか。さっきの僕を殴り殺したい…、現在僕は路地裏で三角座りをして自分がつい先ほど作ってしまった黒歴史と真正面から向き合い、途轍も無い羞恥に駆られていた。もう外に出れない…そう思いながら右手の人差し指と中指を空中で上から下に振り下ろす、するとメニュー―目の前の空中に現れた六つのアイコン―が出てくる、さっきからメニューを出しては直すという行為をひたすらしていた。この世界のメニューの開き方、すごく格好が良く、ワタクシはとても気に入っております…、などと現実逃避をしていても始まらない、視界の左上の方にある時計の時刻を見てみると14:52と表示されていた。つまりゲームが開始されてから1時間と40分くらいを無駄にしているのである。流石にそろそろ行動を起こさなければ何のためにテストを頑張ったのかわからなくなってくる。大きく息を吸い込み、静かに路地裏の隅から立ち上がった。とりあえず遅れを少しでも取り戻そうと思い、現在取得可能なスキルをみながら武器屋を目指すことにした。

 

「んーと、片手直剣、細剣、曲剣、短剣、片手棍、両手剣、投剣、両手斧、槍、武器スキルだけでもこれだけあるのか…、武器選びも結構悩むなぁ…えっと、他にはどんな…うわっ!」

 

 ブツブツ独り言を言いながら歩いてると柔らかい何かにぶつかり、後ろに倒れて思い切り尻もちをついてしまった。イタタタ…、いや、仮想世界だから痛くはないけど…、うん、やはり歩きスキル確認は危険だったか、歩きスマホと大して変わんないしね…、二宮金次郎はなぜ許されたんだろうか、あの人確か歩き読書の人だよね?なぜ彼は許されて僕らは許されないのか!…いや、単純に時代のせいだろうけど。まあそんなくだらないことはさておき、多分人にぶつかったんだろうしとりあえず謝んないと…怖い人じゃなけりゃいいなぁ。

 

「その、すいません、ちょっとスキル見ながら歩いてたもんで…」

 

そういいながら顔を上げるとそこには黒いセミロングの髪の女の人が立っていた。何というか、大して可愛いわけでもなく、不細工でもなく、どこにでもいそうな純日本人の女の人の顔だった、悪くいってしまえば無個性な顔、THE モブ、みたいな感じの顔だった、顔の造詣が比較的自由に行えるこのゲームでこんな顔のアバターを使っているってことはあまり目立たないようにアバターを作っているんだろうか?などととても失礼なことを考えたり推理をしたりしていると、目の前の女の人は快活にニカッと笑いながら口を開いた。

 

「こっちこそぶつかっちゃってごめんね、けど何か見ながら歩くのは危険だからやめといたほうがいいよ?」

 

そういって女の人はこちらに手を差し伸べてくれた。

 

「あ、はい、すいません。次から気を付けます」

 

そう返しながら僕は手を取って立ち上がった。並んでみてわかったのだがこのお姉さん、結構身長が高い、僕よりも僕の頭2・5個分くらい、ちなみに僕の身長は148cmでクラスでの背の順はやや前の方である。

 

「それにしても、スキル見ながら歩くなんて熱心だね~、あなたニュービーなの?」

 

「え、えっと、にゅー、びー?なんですかそれ?」

 

軽く首を傾げながら、目の前のお姉さんが言った謎の言葉について考えてみる。にゅーび、にゅーびー、いやにゅーびーって何、また日本は意味の分からない和製英語を作ったのか?まったく、着いていけないぜ…

 

「本当に初心者なんだね、よかったらあたしがいろいろ教えてあげようか?」

 

ふふふ、と笑った後、お姉さんはこちらに手を伸ばしてきた。…今この目の前のお姉さんはド素人の僕にレクチャーをしてくれる、的な意味のことを言ってなかっただろうか?言ってましたね、間違いない。(確信)

 

「え、い、いいんですか?」

 

唐突すぎて少し噛んでしまった、な、なんかわかんないが気付いたらパーティーメンバー獲得のチャンス!?というかパーティーに入れてもらえるチャンス?やったぜ!あんな奇行をした後だからもうしばらくソロでしかプレイできないって諦めかけてたけど、神様は僕のことを見放してはいなかった!やはり、このスーに運命は味方しているッ!!

 

「いいよ、なにせこのゲーム可愛い女の子一人だと男どもが寄ってたかってナンパしに来るから大変だし。それも初心者なら余計に付け入ろうとするから面倒なんだよね…、あたしもβの頃は追い払うのにどんだけ苦労したことか…」

 

と、かなりげんなりした顔で話しているお姉さん、先程と比べると目がかなり濁ってしまっている、まるで魚の目だ…。しかし、なるほど、アバターを地味なものにしている理由がわかったまあ男に言い寄られるのはだるいってうちのねーちゃんもいってたしなー。それより、今お姉さんが言っていたβの頃、というのはおそらくβテストの時、という意味で間違いないはずだ、ということはこのお姉さんはベータテスターと呼ばれる存在に間違いないだろう。ベータテスターとはSAOのβテスト、つまりは発売前に行われたテストプレイのテストプレイヤーに選ばれ、実際にプレイしていたプレイヤーのことだ(wiki調べ)その数はわずか1000人と大変貴重な存在…らしい。

そんな人とパーティーを組めるなんてなんて幸運なんだろう!これはもう一切の躊躇もなくパーティー申請をするしかないッ!

 

「じゃあ、よろしくお願いします!僕の名前はsuuです!」

 

そう言って勢いよく手を前に出した。礼儀作法はあまりわからないが、パーティーを組む時とかはこうやって握手するといい気がする。

お姉さんは少しキョトンとしていたが、意図が分かったのかニカッと笑いながらがっちりと僕の手を握ってくれた。その手はとても力強った。

 

「あたしはKurogane、これからよろしくね」

 

SAOが始まって約2時間、僕に初めてのパーティーメンバーができた。よ、よかったぁ…、結局パーティーメンバー出来なかったや、へへ、もうこれからずっとソロかぁ…、へへ、ってならなくてよかったほんと…。

 

「じゃ、武器屋にでも行こっか!あたし装備まだ買えてないんだー。いやーしかしこんな路地裏に女の子がいると思わなかったよ、スーはここで何してたの?」

 

どうしよう、さっきまでの

 

「あ、その、ちょっと色々ありまして…、そ、それよりクロガネさん、女の子なんてどこにいるんですか?」

 

あたりを見まわすが女の子なんて一人もいない、もしかして知り合っていきなりドッキリを仕掛けてきているのだろうか?そういうホラー系は苦手なのでかなりやめてほしいんだけど…。

 

「いや、あんたのことだけど」

 

クロガネさんは真顔で僕を指差した。

 

「え?」

 

後ろを振り返って見てみるが誰もいない、つまり僕のことを言っているようだ。ここでも言われるのか…、まあアバターの顔ほとんどいじってないし仕方ないか、てかよく考えりゃ今まで誰とも話してなかったから言われなかっただけじゃん…、いろいろ一人で勘違いしてただけじゃねーか…

 

「いや、あんた女の子でしょう?それともアレ、ネカマなの?」

 

「いや、僕男ですから,このアバターはちゃんと男のアバターですから!」

 

疑ってくるクロガネさんに本気で身振り手振りを加えて説明するもクロガネさんは信じてはくれず、またまた~とかそれで?とか言って全然まともに取り合ってもらえい状況が続く、クソッ、どうすれば伝わるんだ、と説明(もはや説得)をしながら必死に解決策を考えていると、パッと、この状況を打開できる作戦を思いついた。

 

「そうだ、クロガネさん、これ見てください!」

 

そう言って僕はステータス画面をクロガネさんに見せた。このゲームのステータス画面には能力値や取得しているスキルだけでなく性別も表示されるのだ!論より証拠、流石にこれで信用してもらえるはず。勝ったッ!第三部完!

 

「ふーん、どれどれ~、って、マジなのね…」

 

「だから言ったじゃないですか!って、あれ、クロガネさん、なんでちょっとずつ離れてるんですか?べっ、別に可愛い男の子アバターでそういったロールをする気とかそういうのはないですよ!?このアバターだってリアル基準でほとんどいじってな、ちょ、走ってどこいくんですか!?置いてかないでくださいよ!本当ですから!ほんとにいじってないんですよ!クロガネさーーーーーーん!」

 

引き気味に離れていったあと猛ダッシュで逃げるクロガネさんとそれを追いかける僕。この後10分ほど鬼ごっこをする羽目になった。なんでさ!…ほんとなんでなの?




お読みいただきありがとうございました。
感想、ご意見などなど貰えるとうれしいです。
では、

追記 流石に色々とひどいなと思ったので少し手直しをしました。放射性物質が家庭の生ごみくらいにはなったと思います。


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