なお、デュエル構成の作成・執筆中にリミットレギュレーションが発表されたためOCGと異なるリミットレギュレーションのデュエルとなっています。
あらかじめご了承ください。
【オルフェゴールシャドールティアラメンツ】、わけがわからないよ。
知らない街並みの中、一人のハノイの騎士が立っていた。いや、一般的なハノイの騎士として統一された格好ではなく女性物としてアレンジが加わっている。さらに顔を露わにしているため、ただのハノイの騎士ではなく幹部であることが見て分かる。
……なお、彼女の場合『ハノイの騎士』の前に『元』が付くのだが、裏事情を知らない人間にそこまで理解しろと言っても無理だろう。
「どこだろうここ」
『ぎゃう……精霊界? でもなんか違うような』
ここにいる人間は一人だけ、なのに独り言ではなく会話が成立した。彼女に憑いているクラッキング・ドラゴンの声だ。
彼女のリンクヴレインズでの名前はヴァンガード。遊戯王なのにヴァンガード、というツッコミ待ちをしているが誰にもされることがない転生者である。
『なんかニオイが違う〜?』
周囲に迷惑をかけないミニサイズで空中にふよふよ浮いているクラッキング・ドラゴン。機械族なのに犬のように鼻先を――鼻の穴は無いが匂いがわかっているので多分鼻先という呼び方であっているだろう――ひくひくさせながら、あちらへこちらへと自分達に必要な情報はどこにあるのか探している。
「変なとこでトラブルが増えるのは勘弁してほしいんだけどなあ」
鳩とカエルを外へ連れ出した後キャラの濃いヒャッハー達への伝言を残し、帰還途中に迷子になりましたーなんてスペクターにどやされるのが確定してしまっている。早く帰らないとめっちゃ叱られる。…………ここに来る直前、何かきっかけがあったような気がするが、よく思い出せない。
自分が思い出せないソレが原因でこの状況になっているのは間違いないだろう。うんうん唸りながら必死に記憶を辿ろうとして、クラッキング・ドラゴンの嬉しそうな声が思考を遮る。
『ぎゃう!』
ぴ、と尾が上を向いている。何かを見つけたらしい。
『ご主人、あれ!』
あれ、と示す先には人影。だが、そのシルエットの細部をよくみると人間と同一でないことがわかる。アバターならばどんな姿であろうと問題はないが、ソレを動かしているのは人間ではない、と彼女のリンクセンスは感じ取った。
つまり、カードの精霊。精霊ならデュエルディスクの中に沢山いるしやり取りにも慣れている。非現実的な出来事の解決には非現実の存在、なるほど理にかなっている。
ありがとねと機械竜を撫でたのち、ヴァンガードは第一発見精霊へ声をかける。
「あのうすいませんお聞きしたいことが――」
こちらを向いた精霊がびくり、と体を大きく揺らす。ヴァンガードの格好を上から下まで確認して、口から声を絞り出す。
「…………は」
「は?」
「ハノイの騎士だぁあ――!」
どこに居たのか、きゃあきゃあわあわあと精霊達の騒ぎ声があちこちから聞こえて、それがどんどん遠くなっていく。つまり逃げている。
「………………なぜ?」
『ぎゃうー?』
これまで出会った精霊の中で会話をしようとした瞬間に逃げ出すものはいなかった。どういうことなの? と二人仲良く首を傾げる。
あっという間に人気が無くなる。無人の街で二人ぼっち。
「なんだろう、嫌な予感がする」
あの反応からして自分達は歓迎されていない存在。早く帰り道の手がかりを探さないと、と探索に戻った。
――ラッセさん! ハノイの騎士です! ハノイの騎士がEden Cityに現れました!
――なっ!? 本当なのかマスカレーナ! まさかスペクターが!?
――いえ、クラッキング・ドラゴンの精霊を連れた女性、らしいのですが……。
――女性……? だとすればバイラか? いや、今はもう捕まっているはずだしバイラはクラッキング・ドラゴンを使った描写は確か無かったはず。じゃあ一体何者……いや、こんなことを考えてる場合じゃない! デッキ、セット! into the VRAINS!
「あいつですラッセさん!」
『ぎゃう、サイバース?』
突然現れた二人、向けられる敵意。
「っクラッキング・ドラゴン!」
男の影から無数の影の糸が伸び、襲いかかる。クラッキング・ドラゴンが体の大きさを元に戻し、その巨体で盾になるも一本を逃してしまった。
『――!?』
ヴァンガードの左腕に絡みついた影の糸だが、すぐに離れる。
「ミドラーシュ!?」
ミドラーシュ、と呼ばれた影……いや、男の影に潜む精霊エルシャドール・ミドラーシュは何かに驚いていた。彼女が秘める何かを感じ取ったのだろう。下手に刺激してはならないと直接手を出すのを止めた。
『グルルルル……』
主人に突然の攻撃をされた精霊は歯を剥き出しに、怒りを露わにして唸る。やり返そうとはしない。
敵意を持つとはいえ、二人はヴァンガードから見れば大切な情報源だ。それに、電脳世界において高い破壊力を誇るクラッキング・ドラゴンの攻撃は手加減が難しい。下手したらこの謎の場所を破壊するほどの衝撃を与えてしまう。自分たちの行動がきっかけで帰り道が潰れました――それは避けたかった。
「……んーと、何故私を攻撃してきたのかな?」
「今更しらばっくれる気か? サイバースを抹殺するためにここに来たんじゃないのか、ハノイの騎士」
会話には応じてくれそうだが長くは続きそうにない。落ち着いて二人を観察する。
エルシャドール・ミドラーシュが潜む影を持つ男性アバターと、サイバース族だろう女性型モンスター。ハノイの騎士の目的がサイバースの抹殺というのは知っている。ならもう少し情報を探ってみるか、とヴァンガードは口を開く。
「ハノイの騎士を知ってるなら私の名前もわかるんじゃない? ラッセ君、だっけ。出来ることなら組織名じゃなくて個人名で呼んでほしいんですけど」
『何言ってるんですか! これまで姿を見せなかった幹部の名前なんて知れるはずないじゃないですか!』
「うん? まさかヴァンガードの名前もハノイの塔の件もご存知でない?」
「ハノイの塔? あれはもう終わっ………………ヴァンガード?」
時間軸としてはハノイの塔が崩れてから。なのに私の事を知らない。
つまり、もしかしてもしかすると、ここは別の世界?
「ラッセ君、ちょっと確認したいことが――」
『まったくもううっさいわねアンタ達! なんで私が責められなきゃいけないのよ! 今回は原因じゃないわよ!』
デュエルディスクのスピーカーを通して聞こえるその声は、互いに知る存在から発せられた声。
「その声はリース!? まさかお前はリースの手先か!」
「いや私がデッキに入れてるのリースじゃなくてイドリースなんだけど。あと「今回『は』」ってどういう意味なのか後で聞かせてねイドリース」
「くっ、まだガラテアを狙ってるのか……ならば全力でお兄ちゃんを遂行する!」
『お兄ちゃん……だと……? お前はお兄ちゃんではない! 俺が!! お兄ちゃんだ!!!!』
「誤解が解けないどころか悪化してる。てか急にどしたのロンギルス」
『イヴの兄は俺シリーズだけなんだが?』
「ディンギルスもおかしくなっちゃった……」
『退! 俺兄上也!』
「何でデミウルギアが乗っかってるの?」
それもこれも多分リースのせい。
「デミウルギアまで持っているだと!」
「アッしまったあのだから話を、んああもうやるしかないのか!」
こちらが何かアクションを起こすたびにヒートアップするラッセに対し、もはや話し合いで解決することは不可能。デュエルディスクを構える。
「俺の先攻! 終末の騎士を召喚し、効果でデッキから闇属性のオルフェゴール・ディヴェルを墓地へ送る。墓地のディヴェルを除外し効果発動、デッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚」
《終末の騎士》
星4/攻1400
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/守2000
「なるほど、オルフェゴールデッキか」
彼女は相手の初動を見て何のデッキを使用しているか即座に理解した。オルフェゴールはヴァンガード自身も使用しているカード達であるため、どう動くのかは知っている。
自分がこれからどう展開するのかをヴァンガードに見透かされたようで、ラッセは顔を嫌悪で歪めつつもデュエルを続行する。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! 俺は終末の騎士とオルフェゴール・トロイメアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、オルフェゴール・ガラテア!」
《オルフェゴール・ガラテア》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
リンク召喚されたのは鎌を携えた愛らしい機械人形。オルフェゴールの要となるモンスターであり、星遺物の物語において重要な役割を背負った存在。
ラッセが使うガラテアのカードからも精霊の気配を感じる。が……残り香、残滓、そんなレベルだ。
「墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外しガラテアを対象に効果発動、デッキの星遺物-『星杖』を墓地に送り、ガラテアの攻撃力を星杖のレベル×100アップする。墓地の『星杖』を除外して効果発動、除外されているオルフェゴール・ディヴェルを特殊召喚!」
《オルフェゴール・ガラテア》
攻1800→2600
《オルフェゴール・ディヴェル》
星4/攻1700
「除外されている『星杖』を対象にガラテアの効果発動、『星杖』をデッキに戻してデッキからオルフェゴール魔法をセットする。俺はデッキからフィールド魔法オルフェゴール・バベルをセットし――そして発動!」
発動されたフィールド魔法が電脳世界に反映される。オルフェゴールが生まれた地。天を貫く機械仕掛けの塔。
「オルフェゴール・ガラテア1体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! ランク8、
《
ランク8/攻2600
四つ脚で大地を踏み締め、機械の騎士がフィールドに立つ。その槍の穂先はヴァンガードへと向けられ、お兄ちゃんとして敵を滅ぼす責務を果たそうとしているように見えなくもない。
「特殊召喚に成功したディンギルスは二つのうち一つの効果を選択して発動できる。俺は除外されている機械族モンスターをエクシーズ素材にする効果を選択!」
もう一つの効果は対象をとらない墓地送りと優秀な効果だが、今はまだ先攻1ターン目。その効果を使う機会はない。ディンギルスは除外されていたオルフェゴール・トロイメアを回収する。
「再び現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はリンクモンスター以外のモンスター2体! 俺はディンギルスとディヴェルをリンクマーカーにセット! サイバース世界を自由気ままに駆け巡る、彼女が運ぶはこの世の全て! リンク召喚! リンク2、I:Pマスカレーナ!」
《I:Pマスカレーナ》
Link2/攻800
【リンクマーカー:左下/右下】
「…………うん?」
2体のオルフェゴールが消え、現れたのはラッセと共にいたサイバース。
『もうハノイの騎士に好き放題させませんよー! やっちゃって下さい! ラッセさん!』
しゅしゅしゅ、とシャドーボクシングの真似もしてやる気満々マスカレーナ。
「俺はこれでターンエンドだ」
セットカード無し。つまりオルフェゴール・クリマスクを警戒する必要がなくなって良かった、のだろうか。でもどこか罠くさい。
オルフェゴールのエースモンスターであるディンギルスをリンク素材に召喚されたI:Pマスカレーナだが、ヴァンガードはその効果を知らない。彼女がサイバース族の中で効果を知っているのはプレイメーカーらが使用しているものと前世でOCG知識として知っているもの、あとは星遺物世界に関わりがあるものだけ。
「私のターン、ドロー」
どうしようかなー、とりあえずドローしてからなんとかするか、と思考しながらドローする。
「スタンバイフェイズ、墓地のオルフェゴール・ディヴェルを除外して効果発動。デッキからオルフェゴール・スケルツォンを特殊召喚!」
《オルフェゴール・スケルツォン》
星3/守1500
オルフェゴール・バベルによってオルフェゴールモンスターの効果は相手ターンでも発動できる効果に変わる。ラッセはこのことについて説明しなかったが、相手がオルフェゴールを分かっている反応をしたから説明を省いたのだろう。
これでラッセのフィールドにはI:Pマスカレーナとオルフェゴール・スケルツォン、2体のモンスター。
「――なるほど、そういう感じか。じゃあ魔法カード冥王結界波発動。相手フィールドの全ての表側表示モンスターの効果を無効にするかわり、こちらは相手にダメージを与えられなくなる。そしてこの発動に対して相手はモンスター効果をチェーンすることはできない」
「何っ!?」
『きゃあー!?』
フィールドを力の波動が襲う。自身の一番の強みである効果を封じられたからか、マスカレーナはどこかしょぼんとしている。
「マスカレーナの効果は知られていないはず、なのにどうして……!」
何故、と問いたくなるのも当然だ。ラッセは自身以外の人間が観戦できるような場所でマスカレーナを使用したことがない。
「墓地にディンギルスがいる状態。なのにオルフェゴール・トロイメアの効果で墓地に直接スケルツォンを送らず、ディヴェルの効果でフィールドに特殊召喚。しかもあのタイミングで用意したのは何故か、って考えたらマスカレーナは任意のタイミングで墓地に送れる……多分リンク召喚ができる効果じゃあないかって考えない?」
ヴァンガードが導き出した答えは大正解。ラッセは歯噛みする。
「エクストラモンスターゾーンにモンスターがいるので手札の
《
星9/攻2750
《星遺物の守護竜メロダーク》
星9/守3000
《
星9/守2100
「――!」
ラッセは知っている。星遺物の胎導で特殊召喚されたモンスター、その成り立ちを。
ヴァンガードのフィールドにはレベル9のモンスターが3体。うち2体は星遺物の胎導で特殊召喚したことで攻撃できず、エンドフェイズに破壊される運命だが――。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私は
――リンク素材にしてしまえば、何の問題もない。
「リンク召喚! リンク3――
《
Link3/攻3500
【リンクマーカー:左/右/下】
大いなる闇、その体現者。リースが手に入れようとした神の力。
それが今、ハノイの騎士によって呼び出された。
「種族と属性が異なるモンスター3体を素材としてデミウルギアがリンク召喚されている場合、自分メインフェイズにデミウルギア以外のフィールドのカードを全て破壊する効果を発動できる! 全てを破壊しろ、デミウルギア!」
デミウルギアの本質はプログラム、それ以上でもそれ以下でもない。故に指示された通りその力を使う。破壊の力が放出されようとしている。
このままではフィールドの全てが失われてしまう。手札から発動できる効果を使用し、少しでも自分に有利なカードを引き込めるように、とラッセは動いた。
「相手がフィールドのモンスターの効果を発動した時、手札のティアラメンツ・ハゥフニスの効果発動! ハゥフニスを特殊召喚し、デッキの上からカードを3枚墓地へ送る!」
《ティアラメンツ・ハゥフニス》
星3/守1000
フィールドに現れたのは人魚のような可憐な衣服を纏った少女。二本の短剣を目の前で交差し、防御の体勢をとる。
デッキからの墓地送り、ギャンブル性を孕んだ一手。
墓地へ送られたのは――
死者蘇生が墓地に送られたのは少々痛いが、シャドールモンスターを墓地に用意できたのは上々。ラッセの口の端が思わず緩む。
「ん、シャドール? 混合デッキなのそれ?」
「デュエル中にわざわざ教える必要はないだろ」
緩んだ口元はそう時間を経たず不機嫌なものへ変わった。
「それはまあ確かに」
ぶっきらぼうではあるがどこもおかしくない発言なので納得するヴァンガード。
墓地に送られたエリアルの効果で互いの墓地のカードを3枚ずつ除外できる。が、ヴァンガードの墓地から除外したいカードは少ないし、自分の墓地からカードを減らしたくない。
今無理にエリアルの効果を使う必要はない、と判断しラッセは効果発動を見送る。
「墓地を肥やしたところで特殊召喚したそのモンスターに効果破壊耐性が無ければ一緒に破壊されるだけ。それじゃあ改めて――デミウルギア、その力を解放しろ! テウルギア・ゴエーテイア!」
デミウルギアの中心に位置する光球が鋭く光る。瞬間、世界が揺れたかと見まごうほどの衝撃がラッセ達を襲った。
オルフェゴール・バベルとオルフェゴール・スケルツォンが崩壊する音に混じり聞こえるマスカレーナとハゥフニスの悲鳴。精霊の声が聞こえるはずのヴァンガードはその光景に対し、特に何も思ってないような視線を投げかけていた。
……すまない、と心の中で詫びる。だが、これでハゥフニスは
「効果で墓地に送られたティアラメンツ・ハゥフニスの効果発動! 融合モンスターカードによって決められた、墓地のこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド・墓地から好きな順番で持ち主のデッキの下に戻し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する!」
「うわその発動条件で除外して融合じゃないのか強い」
「俺は墓地のティアラメンツ・ハゥフニスと墓地の
ハゥフニスはエリアルの手を引き、深く、深く……底へと潜る。海に発生する大渦のような融合召喚のエフェクト。
――ラッセの影がデュエルフィールドまで伸び、その中からモンスターは姿を現した。
《エルシャドール・ミドラーシュ》
星5/攻2200
彼の影の中にいた精霊、エルシャドール・ミドラーシュは特殊召喚を制限する効果を持つ。1ターンに1度だけ……つまり、1度なら特殊召喚は許される。
「相手がエクストデッキからモンスターを特殊召喚したことでデミウルギアの効果発動! デッキから『星遺物』モンスター1体を特殊召喚する。私はデッキから星遺物-『星櫃』を特殊召喚!」
《星遺物-『星櫃』》
星7/守500
「ここで『星櫃』!? まさか!」
大型モンスターを展開してきたことで忘れそうになっていたが、まだヴァンガードは通常召喚をしていない。
「モンスターをアドバンス召喚する場合、『星櫃』は2体分のリリースにできる。『星櫃』をリリースし――クラッキング・ドラゴンをアドバンス召喚!」
《クラッキング・ドラゴン》
星8/攻3000
『グルオォオオオォーーーーッ!』
電脳世界の空を一部破壊し咆哮、と派手な登場を見せつけるのはサイバースを消し去るためにハノイの騎士が扱う漆黒の機械竜。マスカレーナがきゅっと体を縮こませる。
「それじゃどうしよう、か、な……」
墓地に送られたカードの中に
仕方がないか、と妥協してヴァンガードは宣言する。
「バトルだ! クラッキング・ドラゴンでエルシャドール・ミドラーシュに攻撃! トラフィック・ブラスト!」
機械竜の口腔から放たれた攻撃がミドラーシュを破壊する。攻撃力はクラッキング・ドラゴンの方が上だが、このターンの最初に使用した冥王結界波によりラッセへダメージを与えることはできない。
「すまない、ミドラーシュ……破壊されたミドラーシュの効果で墓地の
エクストラデッキから召喚したモンスターがヴァンガードのフィールドにいるため、
融合召喚主体の戦法へ切り替えようとする相手に圧を掛ける盤面を作り上げた後、ヴァンガードは残る2枚の手札のうち1枚を手に取る。
「カードを1枚セットしてターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
「フィールド魔法、
「墓地のバベルを回収しないで違うフィールド魔法を使う、か。……にしてもティアラメンツ?」
こてり、と首を傾げる。先ほども使用されたティアラメンツはヴァンガードが知らないカード。
蒼い空に複数の円盤状の海。機械文明を象徴するオルフェゴールとは真逆の自然溢れる世
「ティアラメンツ・メイルゥを通常召喚! 召喚に成功したメイルゥの効果を発動、デッキの上からカードを3枚墓地へ送る!」
《ティアラメンツ・メイルゥ》
星2/攻800→1300
ペルレイノの効果を受けたティアラメンツと融合モンスターは攻撃力が500上がる。ささやかではあるが心強い強化だ。
「相手がモンスター1体のみを召喚した時クラッキング・ドラゴンの効果発動。そのモンスターの攻撃力をターン終了時までレベル×200ダウンし、ダウンした数値分のダメージを相手に与える。クラックフォール!」
通常召喚されたレベルを持つモンスターである以上、クラッキング・ドラゴンの効果から逃れることはできない。メイルゥのレベルは2。よって400の弱体化とダメージが発生する。
《ティアラメンツ・メイルゥ》
攻1300→900
ラッセ
LP 4000→3600
同時に発動した効果が処理され、メイルゥの効果でカードが墓地に送られていく。――シャドール・ファルコン、
「効果で墓地に送られたシャドール・ファルコンの効果発動、自身を裏側守備表示で特殊召喚。さらに
《シャドール・ファルコン》
星2/守1400
《シャドール・ヘッジホッグ》
星3/守200
『ぎゃう!?』
効果による墓地送り、という予想外のところから効果を止められる。効果を存分に使って融合召喚の邪魔をしてやろうと張り切っていたクラッキング・ドラゴンはしょぼくれていた。そして墓地から観戦するマスカレーナがいいぞいいぞやっちゃえーとラッセを応援。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体! 俺はシャドール・ファルコンとティアラメンツ・メイルゥをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、クロシープ!」
《クロシープ》
Link2/攻700
【リンクマーカー:左下/右下】
「相手がエクストデッキからモンスターを特殊召喚したことでデミウルギアの効果発動。デッキから星遺物-『星鎧』を特殊召喚する。特殊召喚に成功した『星鎧』の効果でデッキから『星遺物』カード、星遺物-『星槍』を手札に加える」
《星遺物-『星鎧』》
星7/守2500
「『星槍』か……」
ヴァンガードが手札に加えた星遺物-『星槍』にはリンクモンスターを含むモンスター同士が戦闘する時、手札の星遺物-『星槍』を捨てることで相手モンスターの攻撃力を3000下げるという効果がある。
ラッセがデミウルギアを突破するには戦闘破壊を狙うだろう、と見越した上での『星槍』。嫌らしいにも程がある。
「
《エルシャドール・ネフィリム》
星8/攻2800→3300
シャドールのエースカードである天使の降臨。それはシャドールデッキの展開のさらなる加速を意味する。
墓地へ送られるシャドール。クロシープのリンクマーカーの先へと融合召喚されたネフィリム。それぞれの効果が同時に発動する。
「ネフィリムの効果でデッキからシャドール・ドラゴンを墓地に送る。融合素材として墓地に送られたケイウスの効果発動。手札のシャドール・ビーストを墓地に送り、このターン自分フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500上昇する。そしてクロシープの効果で墓地からレベル4以下のモンスター、ティアラメンツ・メイルゥを特殊召喚!」
《エルシャドール・ネフィリム》
攻3300→3800
《クロシープ》
攻700→1200
《ティアラメンツ・メイルゥ》
星2/攻800→1800
「超電磁タートルとケイウスか。戦闘に挑むのか一時凌ぎをしたいのかどっちか分からないね?」
「勝手に言ってろ。墓地に送られたシャドール・ビーストの効果で1枚ドロー。そしてシャドール・ドラゴンの効果でお前のセットカードを破壊する!」
ヴァンガードの煽りをスルーし、ラッセが展開をする最中に発動の気配が微塵も見えなかった不気味なセットカードを狙う。シャドールを構成する闇がセットカードを覆い尽くし……破壊した。
「よし、これで!」
「それはどうかな?」
破壊には成功した。セットカードという不確定要素の排除はできた、の、だが――キラキラと、ヴァンガードのフィールドで大きなものがきらめいている。
「破壊されたやぶ蛇の効果発動! エクストラデッキからクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを特殊召喚!」
《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》
星8/攻3000
輝きの正体はシンクロモンスター。それも、かなり強力な効果を持つもの。
「なっ……やぶ蛇……!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃないんだなーこれが」
一旦、ヴァンガードのフィールドにいるモンスターについて整理しよう。
クラッキング・ドラゴン――攻撃力3000。レベル8以下のモンスターとの戦闘では破壊されない。
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン――攻撃力3000。モンスターが発動した効果を無効にして破壊できる、破壊した場合はその攻撃力分攻撃力をアップできる。また、レベル5以上のモンスターとの戦闘の時にも攻撃力が上がる。
星遺物-『星鎧』――守備力2500。
様々な手段で大型モンスターを取り揃えた盤面。ペルレイノとケイウスで攻撃力を上げようと、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンは突破できない。クラッキング・ドラゴンを戦闘破壊できない。
何か手はないか考える。……そういえば、やぶ蛇に気を取られすぎてシャドール・ビーストの効果でドローしたカードを確認していなかった。視線を移動させ……瞬間、ラッセの目には突破のルートが見えた。それは活路を開く光、強力な力を持つ速攻魔法。残る手札と墓地を見る。相手のフィールドを見る。
――これなら、いける!
「墓地のスケルツォンを除外し墓地のディンギルスを対象に効果発動、特殊召喚する!」
「ここでディンギルスか」
ヴァンガードは考える。クリスタルウィングの無効効果をディンギルスの特殊召喚成功時の効果に使ったら、除去はされない。だがバトルする時になればネフィリムの効果で破壊されてしまう。
使わなければ? 無抵抗なクリスタルウィングはそのままディンギルスの効果で除去される。
つまり、この時点でクリスタルウィングが処理されるのが確定した。ならここで無効にしておくか、とヴァンガードは動く。
「チェーンしてクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの効果を使用。スケルツォンの効果の発動を無効にする」
水晶の翼が煌めき、主人に対し邪悪たるモンスターの力を清め、無効化する。
「手札を1枚捨て速攻魔法、超融合を発動! お前のフィールドの
「超融ご……っ!? なんでそのカードを使っ――いや、今気にするのはそこじゃない!」
《エルシャドール・ミドラーシュ》
星5/攻2200→3200
デミウルギアは魔法カードに対して耐性はない。融合素材として墓地に送られていく。ヴァンガードの操るモンスターが消えていく。
「効果で墓地に送られたシャドール・ヘッジホッグの効果でデッキからシャドール・ドラゴンを手札に加える」
ラッセの手札は2枚。ミドラーシュがいるため可能な特殊召喚はあと1回。
「現れろ、想いを繋げるサーキット! 召喚条件はカード名が異なるモンスター2体以上! 俺はリンクマーカーにリンク2のクロシープとティアラメンツ・メイルゥをセット! リンク召喚! リンク3、トロイメア・ユニコーン!」
《トロイメア・ユニコーン》
Link3/攻2200→2700
【リンクマーカー:左/右/下】
「トロイメア・ユニコーン……!」
そうか、ラッセが最初のターンでリンク3を出せるようにしていた時点で気付いておくべきだったか、とヴァンガードが反省しても遅い。
「リンク召喚に成功したトロイメア・ユニコーンの効果! 手札を1枚捨て、フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す! 消えろ、クラッキング・ドラゴン!」
『ぎゃうー!?』
デッキへと戻されるクラッキング・ドラゴン。墓地から観戦するマスカレーナ、ザマーミロこの世に悪は栄えないんですよーとアッカンベー。
「これでお前のフィールドから厄介なモンスターは消えた! バトルだ! エルシャドール・ネフィリムでクリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンに攻撃! ダメージステップ開始時にネフィリムの効果を発動、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンを破壊する!」
すでに無効効果を使用しているため、ネフィリムの破壊効果に対し抵抗できない。影の糸に絡め取られ、なす術なくクリスタルウィングは破壊される。
「エルシャドール・ミドラーシュで『星鎧』に攻撃!」
ミドラーシュの攻撃力は3200、対する『星鎧』の守備力は2500。影の糸が機械を捻り切る。
「トロイメア・ユニコーンでダイレクトアタック!」
ヴァンガードへ迫る攻撃。妨害は何も無い。
「ぐうううっ……!」
ヴァンガード
LP 4000→1300
ユニコーンはその前足でヴァンガードを蹴り飛ばす。避けられない衝撃。彼女の身体にジジジ、とノイズが走る。
「これでターンエンドだ」
ターンが終わり、ケイウスの効果による強化は終了するが、ペルレイノにより融合モンスターたちへの強化は継続している。
《エルシャドール・ネフィリム》
攻3800→3300
《エルシャドール・ミドラーシュ》
攻3200→2700
《トロイメア・ユニコーン》
攻2700→2200
ラッセの手札は1枚。セットカードは無し。だがフィールドにいるモンスターはどれも厄介なものばかり。
対するヴァンガードの手札は2枚。うち1枚は星遺物-『星槍』だと知られている。次のターンでドローして手札は3枚になる。なる、が……。
「うん。これはちょっと、ピンチかな……?」
ヴァンガードを――自分のことを知らない精霊持ちの決闘者、ラッセ。ここがもし自分が存在しない世界だとする仮説が合っていたのならば、ここまでガッツリ戦わなくても良かったんじゃないか。
……本当にどうしてこうなってるんだろうか。取り敢えずややこしくした原因の一つであるイドリースは精霊達に裁いてもらおうと心に決めたヴァンガードであった。