小説内でちょこちょこ出たあのヒャッハノイのお話しです。
「ネフィリム返ってきたぞヤッフゥゥゥウゥッ!」
ぱん、とパーティー用クラッカーを鳴らし、火薬の匂いが部屋に漂う。低めのテーブルの上には『祝 ネフィリム制限復帰』とメッセージが書かれたホールケーキ。壁にはシャドール・ネフィリム、エルシャドール・ネフィリム、エルシャドール・シェキナーガ、エルシャドール・アノマリリスが一同に集ったポスター。
筋金入りのシャドール使いが歓喜の舞を踊っている中、冷静な友人から一言。
「おめ、でミドラーシュは?」
「制限だよチクショウ! 運営ァアアッッ!」
変なテンションでぐるぐる回る男性と、それを見るだけで止めようとしない男性。
――読者諸君は覚えているだろうか。ネフィリム返してヒャッハノイと満足民のことを。
実はこの二人、リアルでも知り合いだった。ついでに言うとネフィリム返しておじさんではなくお兄さん、満足民はネットと現実でテンションが真逆になるタイプである。
「……で、ネフィリム入りシャドールの勝率は?」
「上がった」
「……真面目に?」
「おう」
前は召喚獣シャドール、現在は純シャドール。初めて会った時からシャドールを使い続けているこの男、ネフィリム禁止の時は泣きながら酒を煽って夜通し愚痴り続けるほどの愛を見せつけてくれた。
「ここぞ! って時に締めてくれるいいカードだよネフィリムは。特殊召喚しないデッキとか今全然見ないし」
シャドールに生き、シャドールに死ぬ。貴方もお人形にしてあげましょう、と言われたらハイヨロコンデー! とか言い出しそうな気配すらする友人。
――デッキ、あいつの想い(主にネフィリム)にこたえまくってね?
「それに今回の制限復帰でネフィリムの値段爆上げ、ネトオク見たら亜シクが50万スタート。お高い女よ、ネフィリムは……」
「はいはいわかったわかった。……で、まだ続けるのか? ハノイの騎士」
今まで明かされなかった、このシャドール使いがハノイの騎士に入った理由、それは――。
『ネフィリムを返してもらうため』
制限改定に対しての署名とかネフィリム返しての会の活動にも参加していた。だが一向に成果はでない。これはもう直接攻撃を加えるしかない、と思い至ったわけである。
……こらそこ、馬鹿じゃね? とか言わない。ついでに満足民の方の理由は『インフェルニティガン増やしてもらうため』なのでどっこいどっこいである。(ガンは無理だろ! いい加減にしろ! by友人)
「……聞くまでもないだろ、そんなこと」
「だった、な」
ふう、と腕を組みながら相槌をうつ。
「デュエルと眼福、どちらも満たせる場所から誰が離れるってんだ。趣味と実益の一石二鳥ってやつ?」
「わー、ヴァンガード様のシェキナーガごっこ中写真をこっそりカードスリーブに印刷している奴がなんか言ってる。てか趣味と実益のうち趣味が殆どだろお前」
「なんで知ってんだお前!? ……ま、デュエルは勝っていれば文句出ないし。負けないんだから、使って楽しいデッキでデュエルするのが一番よ」
「楽しいが一番ならシンクロキャンセルトリシューラはセーフか? 俺あれ凄く楽しいんだけど」
「……やっぱえぐいよなお前」
「そうか?」
腐っても満足民。トリシューラは満足の一角を担う満足竜、活躍の場は何度でも作り出す。故のシンクロキャンセル。
「まー、最終的にはあれだよな」
「「可愛いは正義」」
ハイタッチ。この二人、表面上は違うようでやはり根は一緒である。
酒も入り、彼らの話は違う方へ流れていく。
「幹部達のリアルのデッキってどうなってんだろうな」
「あー、ファウストは電子光虫とか? ゲノムの野郎は……ワームでいいか」
ファウストとゲノムはあまり関わったことがないのでこれだ、というデッキが思いつかない。エーリアンには細胞増殖とか名前の付いたカードもあるからいいや、と二人ともどうでも良さげである。
それに、ゲノムがアバター新調した直後のヴァンガード様を追いかけた事がきっかけの、ハノイの騎士のアジトを騒がせた鬼ごっこ大会のことを忘れたわけでは無い。ロリを全力で追うおじさん。おまわりさんこの人です。
……まあ、追いかけっこはキレたヴァンガード様がDNA改造手術とサイバー・ドラゴン、キメラテック・フォートレス・ドラゴン片手に「君たち……メカだよ」と暗に「お前の地獄螺旋鬼モンスター全部機械族にして吸ってやる」と脅したことで終了したのだが。
「バイラはモンスター入れ替えたウイルスデッキでいいだろ。スペクターは……ギガプラ過労死?」
「黒庭使ってくるんじゃね?」
「いいや、意外にアロマとかありそうじゃ……」
「やめろ」
確かに聖天樹もアロマもライフ回復するけど、あれと一緒にされたらキレる。スペクターが。
「で、一番困るのは」
「ヴァンガード様だよなぁ……」
ヴァンガードはハノイの騎士として活動している時、複数の機械族デッキを使用している。スピードデュエルではレベル8闇属性機械族。本気になるとクリフォート。
「あの調子だと、機械族ならなんでもいけるよなあの人。あの時はサイバー・ダークだっけ? 俺あの時見れなかったんだよなー」
彼が言うあの時、とはディアボロス陛下が直接ハノイの騎士のデッキ構築用データベースに対する破壊工作を行なった時のことである。
ヴァンガード様曰く、『色々濃いファンを纏め上げるディアボロスも裏で苦労してそうな気がする』との事である。……ハノイの騎士の敵に同情する必要はないのでは?
「確かリアルのデッキは機械族メインだって言ってたもんな……。閃刀姫は間違いなく組んでるだろ? ……もしかして、列車シャドールもワンチャン」
シャドール、と聞いて目の色が変わる友人。
「は、大会で機械族使っている女性の記録片っ端から」
「やめろ(無言の腹パン)」
「ぐふっ」
シャドール使いが何をしようとしていたか理解した満足民からの腹パン。意識は刈り取れず、呻き声を上げながら腹を抑えて転がる友人を見て一言。
「それは流石に犯罪だ」
「お前もハノイの騎士だろ、今更何言ってんだ……ぐおお、痛え……」
現実でもハノイの騎士は平和です。
ヒャッハノイが言っているあの時とはキレキレテP様作の『遊戯王VRAINS 悪魔のカリスマデュエリストR 「コラボ編 アナザー事件の裏で」』参照です。
ゲノム「アバター変えたばかりなら上手く操作出来ないはず!今の内にDNAを採取しなければ!」(綺麗なフォームで疾走)
ヴァンガード「うわあああああ!」(全力疾走)
※作者注
DNAの解析には普通血液を使用します。なのでそこまで犯罪臭はありません。ですが、採取に同意がなければ犯罪になります。
ゲノムやっぱ犯罪者だった!