――それは、ありえたかもしれないお話。
番外編 ARC-Vの世界にバイトハノイがトリップしたら。
その出会いは唐突だった。
道のど真ん中にいたお前の姿と半透明な機械の竜を見て、思わず声を上げた。だって、機械の竜は大口開けて頭にかぶりついていたから。彼らの姿は俺にしか見えないとはいえ、スキンシップにもほどがあると思う。
こことは違う世界から来た、なんて荒唐無稽な話をしていたっけか。なら、証拠を見せてみろ。そう言ってデュエルを始めて驚いた。
誰も見たことがない召喚方法、リンク召喚。そんなものを見せられたら信じるしかなかった。デュエルが終わって、家も無いし、これからどうしよう、なんて途方に暮れていたっけたな。……これほどのデュエリストが宿無しなのはありえない。
大会の賞金が大分残ってたから、部屋を借りるくらい大丈夫だ。むしろどんどん使ってくれ。余らせるのは勿体無いから。そう言ってもお前はいつか必ず返すから、と安アパートの一室でバイトしながら過ごしていた。
俺にはデュエルモンスターズの精霊が見える。お前には機械の竜の精霊がついている。ついうっかり零した言葉。そんなものいるはずがない。君の妄想だ。みんなそう言って否定した。でも、お前は信じてくれた。そんなこともあるだろうと言って笑ってくれた。俺は泣いた。たった一人だけの俺の理解者。
一緒にデッキ構築で悩んで、試しに回して、あーでもないこーでもないって笑いあって。小さな幸せ。ずっと続いて欲しかった。でもお前には帰るべき場所があって。元いた世界を思い出したのか、時々泣きそうな顔をした。
ーーだったら、今度は俺の方から会いに行くよ。そう言ったらお前はきょとんとして、また会えたらいいね、なんて笑って。
出会った時と同じように、いつの間にかお前はいなくなった。アパートに置かれたままの家具、飲みかけのお茶、俺と組んだデッキ。それらが、お前が確かにここにいたという証拠だ。きっと、元の世界に帰ったのだろう。短かったけど、かけがえのない時間。
あれはいつだっただろうか、尊敬するデュエリストについて尋ねると、お前は笑いながら語っていた。
三千年の時を超えた王との遊戯。正しい闇の力を持ったヒーロー。絆の力で未来を救った英雄。希望を捨てずに挑戦し続けた少年。どれも素晴らしいデュエリスト達だった。俺もデュエルしたいと思った。でももうお前はいない。お前しか知らない話。
痛い、苦しい、なんでこんな事をしないといけないんだ。彼らが泣いている、怒っている。俺にしか聞こえない声。彼らの声を俺が伝えなければならない。
お前が語った物語では、俺のような人間が認められていた。でも、俺の世界だと誰も信じてくれないんだ。
――だったら、その世界を再現したらいいじゃないか。
伝説のデュエリスト達の友人、ライバル、闘いの舞台、理由、何もかも!
きっと驚くだろうな、物語でしか知らない存在が現実になるんだ。やりすぎだよ、なんて言いながら笑ってくれるはずだ。
俺とデュエルしろ、俺とデュエルしろ、俺とデュエルしろ。逃げ惑う人々。お前達が俺に望んだことだろう? なぜ笑わない。
笑っている。みんなが笑っている。もっとやれ、俺たちの痛みを教えてやれ。そう、彼らが笑っている。だからきっとお前も笑ってくれる。
女。あいつじゃない。花鳥風月。喜怒哀楽。引き裂かれる。俺たちが離れて、戻って、その度に力が増幅する。この力なら、お前がいる世界に行けるかもしれない。
新たな召喚方法、ペンデュラム。
凄いだろう、俺が創ったんだ。世界で初めて、俺が! あの時の俺と逆に、俺がお前を驚かせてやる。だから笑ってくれ。
破壊。破壊。破壊。違う、ちがう、違う!! 俺がしたかったのは、したかったのは……。なんだったっけ。怒りが、哀しみが、何もかも塗りつぶしていく。教えてくれ、誰か、誰か……。
ペンデュラムでも届かなかった。ああ、消える。お前といたズァークはここで無くなる。また引き裂かれていく。
――なあ、どこにいるんだよ。
検索してたら覇王門とクラッキング・ドラゴンの組み合わせ考えてる人がいたので書いてみた。暗い、暗すぎる……。クリスマス記念には世代超えギャグを書かねば……。