使えるカードが増えたので作者はより くるしむ。
開かれた世界で
グラドスとのデュエルを契機にボーマンがなんやかんやしてこの世界に新たなカードが増えた。
そしてマスタールール変更予定のお知らせが出た。
お知らせは出ただけなので、リンクヴレインズでのマスタールール変更にどのぐらい時間がかかるのかは未定。いつ完了するかは晃さんの手腕にかかっている。是非とも頑張って欲しい。大量展開がしたい皆のためにも。
そして追加されたカードは全てが買えるというわけではない。リンクヴレインズ内に出現する菱形のホールを通り自動生成された遺跡を攻略、最奥に到達することでカードを入手可能という仕様で実装されたものがいくつか存在している。
これらのお知らせを遊作君と一緒に読んでいたAiが呟いた「なんだかサイバースの遺跡と似ているな」の言葉が少し気になったがまあ多分大丈夫だろう。ヨシ! 色々終わったんだから私は自由なので!
『ぎゃ、ぎゃう……? そうかなぁ……?』
……自由になれる筈なので!(願望)
買えるカードも無制限に手に入れられる訳ではなく、抽選と購入制限がある。抽選には見事当たったので目当てのカードが含まれているボックスをポチッと3箱購入し、今は開封の儀を執り行っている。
「フィールド魔法を起点に展開、なるほどなー」
今回組もうとしているデッキは【スプリガンズ】。モンスターは殆どが機械族、エクストラデッキにはランク4とランク8のエクシーズモンスターがいる。
だが、モンスターをフィールドに複数並べる効果のあるカードは少ない。
では、どうエクシーズモンスターを展開するのか? その答えになるのがフィールド魔法《大砂海ゴールド・ゴルゴンダ》。
その効果だが、手札のスプリガンズカードをコストにしてエクストラデッキからスプリガンズエクシーズモンスター1体を特殊召喚する…………エクシーズ召喚とはいったい? いやまあ、エクシーズ召喚してないエクシーズテーマに【十二獣】がいるしその辺を気にしても無駄か。
「これはスプリガンズ名称じゃないけど実質的スプリガンズのエース。そしてこっちはスプリガンズじゃないけどスプリガンズで使うだろうレベル8、条件を満たすと攻撃力3000になる。いざという時の打点要員……」
テーブルの上にカードを広げ、呟きながら必要なカード達を手元に積み重ねていく。
「緩い特殊召喚効果持ちのレベル8で機械族! んううもっと早くに欲しかったな……! 後でシングル
スプリガンズに所属するカードではないが、イラスト的にストーリーで関わりがあったのだろうモンスター。機械族をメインにデッキを組む決闘者に損をさせないような妨害効果もある。えらい。
「そしてこれは自分の効果で特殊召喚ができるレベル4チューナー。リクルートできる《アルバスの落胤》……はコレね。超融合な効果持ちか……スプリガンズで融合となるとこの《鉄駆竜スプリンド》かな? 特殊召喚されたモンスター、ならモンスターの処理用にラヴァゴいけるな……取捨選択とかよくわからないし全部入れちゃおっか〜!」
独り言にしては長いし大きめの声。部屋にいるのは今上詩織一人だけであるため、普通なら返事はない。ただ、彼女はこれまでの経歴が普通ではないので本来なら無いはずの返事があった。
ミニサイズでふよふよ浮いているカードの精霊――クラッキング・ドラゴンが真面目なトーンで言葉を発する。
『精霊に丸投げデッキ構築ばっかりなの、よくないよ?』
「エンジョイ用だからヘーキヘーキ」
ふわふわ飛んでいっちゃいそうなぐらい重さのない言葉とともにテーマカードをとりあえずの3枚積み。面倒ごとが終わったから自由になりたい欲がフルオープンだ。こんな調子で大丈夫か?
『そんな雑にデッキ作っちゃっていいのかな〜? 後から調整しっかりしておけば、なんて後悔しても知らないよ〜』
「デッキ調整は部員とのデュエルでするからいーの」
精霊からの脅しのような忠告のような、どっちでもある言葉は右から左へ受け流されていく。だめだこりゃー、とクラッキング・ドラゴンはデュエルディスクの中へと戻る。
その後は特に妨害もなくエンジョイなデッキは完成し、デュエル部に行くの楽しみだなあと就寝。
翌日、授業を終え、るんるん気分で部室のドアを開け――。
「いえーい皆新しくデッキ組――」
「こうしちゃいられないリンクヴレインズに行くぞ!! 藤木、今上!!」
「えっあっうん?」
「ま、待て! 承諾はしてな――」
鼻息荒く両手で詩織と遊作両名の腕を掴み、島直樹はズカズカ突き進む。目指すはカードショップ――の横で営業している、リンクヴレインズへのログイン環境が整ったデュエルカラオケルーム。
本来したかったことができなくなった賠償として取り敢えず二人分のドリンクを奢らせ、被告人島直樹の供述を聞く。
「新しいテーマが増えただろ? その中に【
「知ってる知ってる」
【スプリガンズ】と同じく新しく増えたテーマの一つであり、同じボックスから手に入れられるカードのため知らないはずがない。効果はまだしっかりと確認していないが、カードイラストに武装した獣人達が描かれているのは見た。
「そのテーマにはな――リンク5がいる、ってウワサがあるんだよ」
――藤木遊作は
本来到達することはできない領域。そこへ到達したのはこの世界ではまだ2体のみ――今は神となりつつあるAIとのデュエルで誕生した2体しかいない。その筈だ。
ウワサ。だが、放置してはおけない。もし本当にリンク5が存在するのならそのカードも強大な力を秘めているに違いない。
どんな決闘者が持つことになるのかわからない以上、先に確保するべきだろう、と考え気を引き締めて……。
「【
……そうはならないんじゃないかなあ。
……弟子を取った覚えはない。
調子に乗っている言葉で緊張感がちょん切られる。二人は目を見合わせた後、心の中で返事を済ませておいた。声に出したら面倒なことになるので。
ノリノリな島直樹に対してストップを掛ける理由は特にない。話の流れでリンクヴレインズへ三人ともログインすることになった。
「ブレイヴ・マックス、リングヴレインズに華麗に参上!」
リアルの面影をどこか残しつつイケメンに作ったブレイヴ・マックス。リアルとは異なる性別と身長に作られた、ピエロと車掌を合わせたような見目のサブウェイマスター。
上記の二つは島直樹と今上詩織のアバターだ。では、残る一人はどうなっているのか?
「えー、設定した名前は
「本名と被せた名前にするのはよくあることでは?」
「……知らない名前で呼ばれるのが、慣れない、からな」
目を合わせないようにしての返事。ぴるぴる、と藤木遊作のアバターの
……普通の人間とは全く違う位置に耳がある。差異はそれだけではない。全身が毛に覆われている。鼻と口がケモノのように飛び出ている。
「違和感はありませんか?」
「問題は……今のところ無いな」
【空牙団】使いに見えるよう、とてもケモケモしているアバター。全身ケモケモだ。ケモ度が高いものじゃないとケモとは呼ばないタイプの人もニッコリ。
彼のヘキを誤解されないためにも明言するが、アバターを作ったのは今上詩織である。デュエル部に所属しているのでリンクヴレインズからは逃れられない。アバターをどうしようか、と
「ヨシ、それじゃ行くぞ!」
「当てはあるのか?」
「………………俺の決闘者としての本能があちらだと叫んでいる!」
「無いんですね」
格好良く明後日の方向へ指をさすも、容赦なく責められ幸先の悪いスタート。
誰も実物を知らないリンク5。あるとするならば人気の無いところだろうと裏路地の奥へ奥へと進んでいく。ブレイヴ・マックスは足取りが遅くなるたびに自分を奮い立てるための言葉を発するも、
……こういう時に限って動画配信してるカエルと鳩は彼の元にはやって来ず、根拠のない自信で満ちていたはずの背中はだんだんと小さくなっていく。
「思い立ったが吉日! やればできる!」
「勢いだけでなんとかなるはずがないだろう」
「んぐぐぐ……っお前なぁ! ズバズバ言い過ぎなんだよぉ!」
鼓舞に対する残酷な現実の突きつけ。ブレイヴ・マックスはついに我慢できなくなり、歩きながら首を回して後ろにいる
「あの、前! ちゃんと前を見て!」
「え、前ってイッテェ!!」
サブウェイマスターが忠告するも時既に遅し。正面を向いた瞬間、眼前に迫っていた壁に頭をぶつけてしまった。かなり痛かったのか額に手を当ててうずくまる。
「……つらいし痛いし、俺もうダメかもしれない……」
精神的なダメージと肉体的なダメージのダブルパンチを受け、流石のブレイヴ・マックスも半泣きになり弱音を吐く。
『漸くか』
「!」
何者かの声。衝撃を受けて壁に残っていた小さなノイズが突然広がり――赤黒い菱形の入り口が現れた。
「お、おお? ……おおお!!?」
一般人な一人は突然の変化に喜ぶも、様々な事件を乗り越えてきた二人は身構える。
何者かが潜んでいる。これはホールとは違う。危険だ……そうリンクセンスが訴えかけてくる。
「待て、安全を確認してから――」
だから止めようとした。
が。
「リンク5が俺を呼んでるぜ!!」
「あっ」
これまでのマイナスがプラスに反転したような幸運を目の前に、意気揚々とブレイヴ・マックスは一人で行ってしまった。
「…………どうします?」
「こうなったら俺達も行くしかないだろう」
『Aiちゃんとしてはユーサクちゃんに危険なことしてほしくないんだけどナー』
突然デュエルディスク内部から声を出し、闇のイグニスことAiは二人の意見に反対する。
「あ、いたんだAi」
『あーんヴァガ上ちゃんってばヒドイ! それにアバターと声が男だから慣れない!』
「このアバターにかすりもしないその名前を今後も使うようなら
『えースーパー頼れるAi様の見立てとしてはSOLの自動生成ダンジョンとは全く違うものだと思われマス……また面倒ごとじゃねーのコレ?』
ストレートな脅しに即屈したものの、高性能なAIらしく即座に分析結果を提示する。
「なら、これからのためにも情報が必要になってくる」
『まーそう言うだろうなーとは思ってましたー。草薙には座標とメッセージ飛ばしといたから、万が一の時はちゃんと大人を頼るんだぞー』
Aiはそれを言って黙る。
「Aiってちゃんと黙ることできたんですね……」
「褒めるな。調子に乗る」
オカルト方面に強い
潜り抜けた先は荒廃した大地と、目の前に建つ和風な城。空は何故かプラネタリウムのように満天の星空だ。
「うーむ、和風スペースオペラ?」
和風の城ではあるが、材質が木や土ではなく金属。さらにはエネルギーラインのような青い光が時々走っている。
「見覚えは?」
となると、この場所に潜むのは未知の存在。
「たのもーう!」
一番危機感を持って欲しい人物は城の中に入る門を開け、足を一歩進めようとし――。
「んだコレ? なんも見えおわぁ!?」
ガダン、がしゃん、ドスン!
「!?」
硬質な何かが動いたような音。さらには落ちた音。
「ブレイヴ・マックス!?」
音源へ近寄ろうと駆け、門を越え――真っ暗な視界の中で世界が歪むような、乗り物酔いになりかけているような気味の悪い空気が侵入者を包み込む。
「こ、れは……!」
明かりがつく。奥行きのある、広い部屋だ。
サブウェイマスターは一人、部屋の中央に立っていた。後ろを振り向くもすぐ近くにいたはずの
「た、助けてくれ〜っ!」
二人は見知らぬ赤い鎧武者達に武器を向けられ、壁際に追い詰められていた。今すぐに彼らを助けなければならないが、その障害となるように何者かが現れた。
「――やっと来たか、
正面に立つのは男。黒に赤の混じった髪と、同じカラーリングの具足。不思議なことに左腕は宇宙を宿すかのように輝いている。
苛立っているのかその目は険しく、声も低い。
「性別を何故、いや」
SOLテクノロジーには利用者のリアルでの情報を漏らすようなAIは存在しない。
となると、目の前の男の正体は。
「カードの精霊か」
「余計な奴が付いてきているためそちらの名乗りはいらん。俺の名はライズハート」
赤い太刀を手にし、切先を真っ直ぐサブウェイマスターへ向ける。
「貴様が俺の世壊を奪った首魁かどうか、見極めさせてもらう」
「…………世界? なんのことを」
「その態度が惚けているのか真実かはこの戦で見極めるとしよう。……逃げることは許さん。戦を拒めばこいつらの首を切る」
赤い全身鎧の鬼がその刃を二人の首へ近付ける。リアルの情報が知れるほどにリンクヴレインズへ介入できるなら、ダメージのフィードバックを弄れる可能性もある。
命の危機に対して平静を保てず、島直樹が丹精込めて作ったブレイヴ・マックスのアバターは本格的に泣き顔になってしまった。
「助けてくれよ今上ー!」
「インターネットリテラシー!! んんっ――"にげる"ことは出来ない、ということですか」
性別を知っている相手に対しさらに名字もばらされる。咳払いをし、声を整えてなりきり演技続行。デュエルディスクを………………。
「あ」
このデュエルディスクにはデュエル部でエンジョイするために作った【スプリガンズ】デッキをセットしたままだ。
慌ててデッキデータの変更操作をしようと――顔の横を何かが通っていった。後ろを振り向けばびいいいん、と遠くの壁に突き刺さった衝撃で鉄串が揺れている。
「そのままだ。変な動きをするな。今のお前に許されているのは
「………………」
ちょっと、いやかなりマズイ。このデッキはエンジョイするためだから、で殆どテーマカードと相性が良さそうと判断したカードで埋めている。
汎用な捲り札としては一応アーゼウスを入れているが、エクシーズモンスターに重ねて出す場合はエクシーズモンスターの戦闘を要求される。相手のデッキが攻撃を許してくれるものかわからないため、上手く使えるかは不明。
だから雑なデッキ作りやめようって言ったのに、とクラッキング・ドラゴンの声が聞こえたような気がした。
待ち構えていたのは謎多き精霊、ライズハート。
クシャトリラの空間を征する能力を前に負けるのか?
――否!行け!スプリガンズ達!
オタカラをその手に掴むのだ!
貴様のエクストラデッキにいる
《
アーゼウス「えっ」