ヴァンガード LP 4250 手札3→4
モンスター
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 ATK2500
星遺物-『星鎧』 レベル7 DEF2500
魔法・罠
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン(ペンデュラムスケール0)
フィールド魔法
天空の虹彩
グラドス LP 4000 手札1
モンスター
鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン レベル12 ATK5000
魔法・罠
光の護封剣
伏せカード2枚
「私のターン、ドロー! 除外された異次元の宝札がスタンバイフェイズに私の手札に戻り、互いに2枚ドローする」
「
再び現れる光の柱。その間で揺れ動くペンデュラムに導かれ、2体のモンスターが手札からフィールドへと特殊召喚される。
《
星4/守0
《覇王門の魔術師》
星7/攻2500
機械鎧の闇の騎士と、輝き溢れる光の魔法使い。どちらも初めて見るモンスターだが、名前からどのテーマに所属するものなのかがわかる。
片方はオルフェゴール。そしてもう片方は覇王門――つまりは覇王龍ズァーク。
「特殊召喚した2体の効果を発動! まず覇王門の魔術師の効果でデッキから『覇王龍ズァーク』のカード名が記されたカード、覇王天龍の魂を手札に。ギルスの効果でデッキからオルフェゴール・ディヴェルを墓地に送る」
その効果は堅実なサーチと墓地肥やし。更なる展開への一手を打ちつつ、ヴァンガードは新たなモンスターを召喚する。
「星鎧をリリースしてオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンをアドバンス召喚!」
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
星8/攻3000
攻撃に向かない星鎧と入れ替わるようにして、どこかの世界線に存在したかもしれないオッドアイズがフィールドに降り立つ。
本来、レベル8のモンスターを召喚するには2体のモンスターをリリースしなければならない。だが、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンはアドバンス召喚の名前を冠する四天の龍らしく、上級モンスター1体のリリースで呼び出すことができるというテキストを持つ。星鎧のレベルは7のため、条件は満たされている。
「アドバンス召喚に成功したオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果発動! 相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」
アドバンス召喚に特化した効果、その一つが発動。選んで、のためどのモンスターが狙われるかは発動時点では決まってないが、決まっている。
矛盾する説明だが間違ってはいない。グラドスのフィールドにいる2体の内、鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンは
効果の通る儀式モンスター、
「させません! その効果にチェーンしてセットしていた速攻魔法、神秘の中華なべを発動し
グラドス
LP 4000→8000
除去されるのは読んでいた、と答えるかのようにセットされていたカードが発動。グラドスのライフポイントを大きく回復する。
……機械が中華鍋に突っ込まれて消えていく絵面が中々にシュールだ。
オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果は処理時にどのモンスターを破壊するかを選ぶ。DRAに逃げられたことでグラドスのフィールドには1体のモンスターのみが残った。
「ハジケリストが設定したのかなこの効果処理映像……これで選べるのはサイバー・ダーク・エンドだけ。だけど」
「サイバー・ダーク・エンドは相手が発動した効果を受けない。よって破壊も効果ダメージも無しです」
二色の眼を持つ竜の破壊能力を受けるも、裏サイバー流最高峰の機械には傷ひとつない。何事もなかったかのように佇んでいる。
『ぎゃう……おなか減ったぁ』
攻撃力4000という大型モンスターの調理による中華の匂いがフィールドにいないカードまで届いたのか墓地のクラッキング・ドラゴンやエクストラデッキの某融合ドラゴンがカタカタ揺らして主張し始める。
「おかしい。大事な決闘のはずなのにぐだぐだし始めている。なんとかしないとな……墓地のディヴェルを除外して効果発動。デッキからオルフェゴール・トロイメアを特殊召喚」
《オルフェゴール・トロイメア》
星7/守2000
ギルスにより墓地に送られていたオルフェゴールの効果が発動。緩んだ空気を引き締めるべく動き出す。
「この効果の発動後、私はターン終了時まで闇属性モンスターしか特殊召喚できなくなる。……攻撃したくても光の護封剣が邪魔だね。なら! 先駆けとなれ、我が未来回路!」
ヴァンガードは天へと手を掲げ、上空にリンク召喚を示すサーキットが展開される。
「召喚条件は『オルフェゴール』モンスターを含む効果モンスター2体! 私は
《オルフェゴール・ガラテア》
Link2/攻1800
【リンクマーカー:右上/左下】
2体のモンスターは渦に変わり、空いているリンクマーカーへと衝突。2つの矢印が赤く染まる。サーキットから飛び出した機械乙女は鎌をくるりと一回転させ、デミウルギアのリンク先へと着地する。
「墓地のオルフェゴール・トロイメアを除外してデッキから星遺物-『星杖』を墓地に送り効果発動、覇王門の魔術師の攻撃力を800アップ! そして墓地に送られた星杖の効果で手札から星遺物-『星槍』を特殊召喚!」
《覇王門の魔術師》
攻2500→3300
《星遺物-『星槍』》
星8/攻3000
ヴァンガードのメインモンスターゾーンが全て埋まる。殆どが大型であり高いステータスを持つが、それでも攻撃力5000の鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを超えられない。
ならばどうするか? 簡単だ。超えられるモンスターを、そしてそのモンスターを出すためのカードが手札にあれば良い。
「天空の虹彩、効果発動! ペンデュラムスケールのオッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンを破壊し、デッキから『オッドアイズ』カード――オッドアイズ・フュージョンを手札に加える!」
「フュージョン……!」
オッドアイズ・フュージョンはその名の通り融合召喚を行うために必要なカードだ。そして、闇属性しか呼び出せない今の状態でヴァンガードが出す融合モンスターなど決まりきっている。
「除外されているディヴェルを対象にガラテアの効果を発動! 対象をデッキに戻し、デッキからフィールド魔法オルフェゴール・バベルをセット。そして発動!」
――だが、まだ手札に加えた融合魔法は使わない。
天に描かれた振り子の軌跡は消え、天高く伸びる機械仕掛けの塔が出現する。
「オルフェゴール・ガラテア1体でオーバーレイネットワークを構築! クロスアップ・エクシーズ・チェンジ! ランク8、
《
ランク8/攻2600
機械乙女は手を組み、祈りを捧げ――機械仕掛けの神が呼びかけに応えた。ガラテアはオーバーレイユニットになりディンギルスの周囲でくるくる回る。
「特殊召喚に成功したディンギルスの効果は相手フィールドのカードを選んで墓地に送るを選択する。これで邪魔な光の護封剣とはおさらばだ!」
ディンギルスはその手に持つ槍を足元に突き刺し力を解放。地に亀裂が入り、そこから噴き出したエネルギーによって光の剣が砕け散る。
「そしてエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したことで星槍の効果が発動! ……するけど、私のフィールドは全て埋まっているため星遺物トークンの特殊召喚は無し!」
星槍の効果による星遺物トークンは攻撃力守備力共に0とステータスは低いが、互いのフィールドへ守備表示で出すことになる。ヴァンガードはトークンがグラドスのライフを守る壁として使われることを嫌い、狙って効果処理が適用されない状態にしたのだ。
「オッドアイズ・フュージョンを発動! フィールドの闇属性モンスター、星槍とディンギルスを素材に融合する――合わさる思いが闇の中より竜を呼ぶ。それは楽を融かす毒! 来たれ、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
星8/攻2800
融合を司る四天、紫毒の竜。身体を彩る赤い宝玉は禍々しく輝き、双眸は真っ直ぐに敵を見つめ、開いた口からは酸性の涎がこぼれ落ちる。
「融合召喚に成功したスターヴ・ヴェノムの効果で鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの攻撃力分、自身の攻撃力をアップ! そしてもう一つの効果も発動し、サイバー・ダーク・エンドと同じカード名と効果を得る!」
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
攻2800→7800
決闘者の命令を受けた竜は翼を大きく広げ、そこから毒々しい光が溢れ出す。
「やはりサイバー・ダーク・エンドの耐性の穴を突いてきましたか」
スターヴ・ヴェノムがしていることは相手に対して効果を発動しているのではなく、相手の情報を参照しているだけ。何の問題もなく飢えた牙持つ毒竜は相手を喰らうための力を得る。
「埋葬呪文の宝札を発動。墓地の魔法カード3枚を除外してデッキから2枚ドロー……良し、流石私のデッキ! 速攻魔法、ライフハックを発動! オッドアイズ・アドバンスの攻撃力をターン終了時までグラドスのライフポイントの数値と同じ8000にする! デメリットとしてこのターン、相手が受けるダメージは半減する」
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
攻3000→8000
「ライフハックのもう一つの効果! メインフェイズにこのカードを墓地から除外し、クリアウィングの攻撃力をターン終了時まで私のライフポイントの数値と同じにする!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2500→4250
ダメージが半減されたとしても、サイバー・ダーク・エンドを上回る攻撃力になった2体と残る大型モンスター3体による攻撃でグラドスのライフポイントは削り切ることができる。ヴァンガードはモンスター達へ攻撃命令を出した。
「バトル! スターヴ・ヴェノムでサイバー・ダーク・エンドに攻撃! 貪食のクランチ・スワロイング!」
毒竜は触手を使い喰らい付き、サイバー・ダーク・エンドの首を溶かして切ろうとする。
「『サイバー』融合モンスターが戦闘破壊される場合、墓地のエターナル・サイバーを代わりに除外できる!」
「でもダメージは受けてもらう!」
魔法カードが身代わりとなり戦闘破壊はできなかったが、機械竜が相手を振り払った際に酸が飛び散りグラドスへ降りかかる。
「くっ……」
グラドス
LP 8000→6600
「続けてオッドアイズ・アドバンスでサイバー・ダーク・エンドに攻撃! 螺旋のストライクブレイズ!」
もう戦闘破壊を防ぐ身代わりは無い。渦を描く炎が敵を焼き尽くす。
「サイバー・ダーク・エンド……ッ! ぐううっ!」
グラドス
LP 6600→5100
「モンスターを戦闘で破壊したことでオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果が発動し、墓地のクラッキング・ドラゴンが守備表示で蘇る!」
《クラッキング・ドラゴン》
星8/守0
『ぎゃう! がうー!!』
二色の眼が妖しく輝き、高レベルモンスター――最初のターンでトレード・インにより墓地に送られていたクラッキング・ドラゴンをフィールドに呼び寄せる。
バトルフェイズに特殊召喚されたが、守備表示のため攻撃に参加できない。しかしモンスターのレベルを参照し攻撃力を下げ、更に効果ダメージを与える効果は融合モンスターを多く使うグラドスにとってはかなり厄介になるだろう。
「クリアウィングでダイレクトアタック! 旋風のヘルダイブスラッシャー!」
美しき翼を持つ竜による、風を纏った狙い澄ました突撃。零れる光の粒子が尾を引き幻想的な風景を作り出す。
残る3体の攻撃を受けてしまえばグラドスのライフポイントは0になる。それを防ぐため、残る1枚のセットカードが発動された。
「戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に罠カード、パワー・ウォール発動! 戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき1枚、デッキの上からカードを墓地に送る!」
このダイレクトアタックで発生するダメージは2150。よってデッキから5枚のカードが飛び出し、グラドスを守る壁となった後墓地へ消えていった。
「覇王門の魔術師、
パワー・ウォールだが、どうやら超電磁タートルのような攻撃を防ぐ効果を持つカードは墓地に送れなかったらしい。2体の攻撃はグラドスに直撃しライフポイントを減らした。
「ぐうぅぅっ!!」
グラドス
LP 5100→3450→1700
衝撃、爆風、煙。その体にダメージを示すノイズが発生したもののグラドスは倒れない。
ライフは0にならなかった。まだデュエルは続く。
「メインフェイズ2。オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンをリリースしてアドバンスドローを発動、2枚ドロー。墓地の星杖を除外して効果発動。除外されているオルフェゴール・トロイメアを守備表示で特殊召喚。トロイメアを墓地に送りオルフェゴール・プライム発動、2枚ドロー。……こんなところかな、2枚のカードをセットしてターンエンド! そして効果による強化が終わり、攻撃力は元に戻る」
《覇王門の魔術師》
攻3300→2500
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
攻7800→2800
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻4250→2500
ヴァンガードは手札を補充したが、セットしたカードは2枚だけ。覇王門の魔術師によりサーチした覇王天龍の魂は罠カードのため、未知のセットカードは1枚だけだ。
引けたカードの中に魔法や罠が少なかったのだろうか。いや、相手ターンでも手札から発動できる効果のカードを抱えている可能性もある。
……たら、れば、を考えるとキリがない。ただ一つ確かなのは――このターンで勝負を仕掛けなければ負ける。それだけだ。
「私のターン、ドロー!」
ドロー、スタンバイ……ヴァンガードの手が動く。一体何をするつもりなのか、と困惑するグラドスの目の前に答えはすぐ現れた。
「スタンバイフェイズに蘇りし天空神を発動! 墓地よりオシリスの天空竜を蘇生し、互いに手札が6枚になるようドローする!」
《オシリスの天空竜》
星10/攻X000→6000
――赤き神が、雷と共に再び降臨する。
「な……ここでオシリス……!?」
真なる神の復活ができるならば相手にもドローさせるデメリットなど軽いものだ。ヴァンガードはニヤリと笑う。
グラドスのフィールドにモンスターはいない。これから行うだろうモンスターの召喚は神によりほとんど封じられた。
「いえ、ですがこの手札と墓地ならまだ……! 墓地のブレイクスルー・スキルを除外してクリアウィングの効果をターン終了まで無効に。――フィールドにモンスターがいないため、手札のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
《サイバー・ドラゴン》
星5/攻2100
グラドスの使ったパワー・ウォールによって墓地に送られたカードは5枚。その中の一つが明らかになる。
そして特殊召喚されたサイバー・ドラゴンは後攻1ターン目にサイバー・ドラゴン・ヘルツの効果によって手札に加わったもの。グラドスが何を狙っているのか、ヴァンガードはまだ把握できない。
「その特殊召喚に対しクラッキング・ドラゴンの効果とオシリスの特殊能力が発動!」
クラッキング・ドラゴンによるレベル参照の攻撃力ダウンとバーン、オシリスの天空竜によるステータスへの2000ダメージ。
先攻1ターン目にヴァンガードが見せたアポクリフォート・キラーとオシリスの組み合わせとは少し異なるが、こちらも相手のモンスターを残させないという強力な制圧効果を発揮できる。
――裂撃と雷撃が音を立てて襲いかかる。立ち向かうグラドスは、カードを1枚手に取った。
「チェーンして手札から速攻魔法
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
星5/攻2100
『ぎゃ!? きゅうぅ……』
双頭の機械竜が突然の進撃。キメラテック・ランページ・ドラゴンの姿がぶれ、それは種族と属性から似た者として魔法カードに認識されたクラッキング・ドラゴンにも伝播する。
効果が無効にされ、やる気満々に逆立てていた黒棘がしょぼしょぼになる。
「効果を無効にするカードを持っていた、か……でもオシリスの召雷弾は受けてもらう!」
《サイバー・ドラゴン》
攻2100→100
「勿論、
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
攻2100→100
神の力が機械竜達を襲う。だが、弱体化はできても破壊ができない。あと100が届かない。
「融合派兵発動! エクストラデッキのサイバー・ツイン・ドラゴンを見せ、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」
「また特殊召喚でモンスターを並べて……機械族に変えてキメラテック・フォートレスによる処理狙い? だとしてもこれ以上は止めさせてもらうよ! チェーンして覇王門の魔術師をリリースし、覇王天龍の魂を発動!」
魔術師の姿が光として解け、振り子の軌跡を幾重にも組み合わせた複雑怪奇な魔法陣を作り出す。
「このデュエルが世界の未来に関係しているなら、彼を無視して進めることはできない。フィールドのクリアウイングとスターヴ・ヴェノム、デッキのオッドアイズ、エクストラデッキのダーク・リベリオンを融合素材として除外――精霊と共に歩める世界を迎えるには超えなくてはならない壁がある。来たれ、覇王龍ズァーク!」
《覇王龍ズァーク》
星12/攻4000
融合召喚の渦を引き裂くように巨大な翼を広げ、黒い体躯を彩る緑の筋が発光する。赤い瞳を爛々と輝かせているのは興奮か、それとも怒りなのかは本人にしか分からない。
それは人の望みとモンスターの望み、どちらの願いも聞き届けてしまった果てにとある男が変じた姿。
……そして今上詩織と縁がある、らしい決闘者。並行世界の自分のことを言われても記憶に無いので困ってしまうのだが。だとしても、無視していい理由にはならない。
「サイバー・ドラゴンを増やしたけど残念だったね、特殊召喚したズァークの効果発動! 相手フィールドのカードを全て破壊する!」
グラドスのフィールドへ2体目のサイバー・ドラゴンが現れるも、ズァークが放った力の波動によって即座に他の仲間もろとも破壊される。
「ですが、これで貴方はセットカードを全て使い切った! 墓地の表裏一体を除外し、墓地のキメラテック・ランページ・ドラゴンとサイバー・エンド・ドラゴンを対象に効果発動。対象をデッキに戻して1枚ドロー!」
「まだこっちも出来ることは残ってる! オルフェゴール・バベルにより相手ターンに発動可能となっている墓地のオルフェゴール・トロイメアの効果を発動! デッキからオルフェゴール・スケルツォンを墓地に送り、ズァークの攻撃力を300アップ!」
《覇王龍ズァーク》
攻4000→4300
たった300の強化だが、これは攻撃力よりも特定のカードを墓地に送ることを目的にしている。そしてオルフェゴールの効果により、このターンヴァンガードは闇属性のモンスターしか特殊召喚できなくなった。
「ならば! 墓地の機械族・光属性モンスター10体を全て除外し、手札からサイバー・エルタニンを特殊召喚!」
《サイバー・エルタニン》
星10/攻?→5000
墓地に眠る光は失われ、フィールドでただ一つ眩く輝く星として竜の頭部を模した機械が襲来。6機の竜頭型ビットが追随する。
「オシリスの特殊能力! 召雷弾!」
《サイバー・エルタニン》
攻5000→3000
「サイバー・エルタニンの特殊召喚に成功した場合、このカード以外のフィールドの表側表示モンスターを全て墓地に送る! コンステレイション・シージュ!」
神の雷が直撃し攻撃力を削がれたものの、エルタニンは竜頭型ビットの散開に成功。満天の星の光がフィールド全てを覆い、包囲殲滅の準備が完了。一斉に攻撃を始める。
「残念だけどオシリスとデミウルギアはモンスターの効果を受けない!」
その宣言通り、ヴァンガードの操るモンスターのうち墓地に送られたのは覇王龍ズァークだけ。そしてこれは破壊では無いため、ズァーク自身の効果でペンデュラムスケールに置かれることはない。
『おのれえぇぇ、我が
「…………何か言ってません?」
「私のログには何もないな」
ズァーク、お前も
確かにアニメでは特殊召喚成功時に破壊したモンスターの攻撃力の合計分のダメージを与える、というバーン効果を持っていた。まあそこはどうしようもできないのでどうでもいい。
「墓地の
「まだドローする、か……墓地のオルフェゴール・スケルツォンを除外して墓地の
《
ランク8/攻2600
「そしてディンギルスの効果が発動! サイバー・エルタニンを墓地に送る!」
機械族、光属性。オネストとリミッター解除という二つの強化を受けられるモンスターを残しておく理由は無い。
「これで見えている妨害は全て使わせた! 魔法カードブラック・ホールを発動! フィールドのモンスターを全て破壊する!」
神は魔法の効果を受ける。デミウルギアの耐性はモンスター効果のみ。
ディンギルスには効果で破壊される場合、代わりにオーバーレイユニットを使える効果がある。が、墓地から特殊召喚されたため今はオーバーレイユニットを持っていない。
フィールドの中央に突如現れた超重力の黒い渦にモンスター達はなす術なく吸い込まれ、破壊される。
「魔法カードによる除去……流石にこれは止められないね」
互いにモンスターがいない状態。グラドスは攻撃を通す絶好の機会を逃さない。
「サイバーロード・フュージョン発動! 除外されているサイバー・ドラゴン3体をデッキに戻し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
星10/攻4000
除外されているモンスターを素材にできる、という特殊な融合魔法で召喚されたのは表サイバー流のエースである三つ首の機械竜。それを見てヴァンガードは驚愕の声をあげる。
「な……!?」
墓地の表裏一体の効果でサイバー・エンド・ドラゴンはエクストラデッキに戻っている。融合先は問題ない。……融合素材となるサイバー・ドラゴンの数が問題だ。
このターンでグラドスのフィールドにサイバー・ドラゴンは2体特殊召喚され、そのどれもが墓地へ行き、サイバー・エルタニンの特殊召喚のため除外された。
あと1枚が足りない。
「いつ3枚目のサイバー・ドラゴンが墓地に――そうか、パワー・ウォールか!」
パワー・ウォールで墓地に送られたのは5枚。墓地で発動したブレイクスルー・スキル、表裏一体、
「ペンデュラムスケールにいる
オネストが使えるのもモンスターとの戦闘のみ。残る攻撃力を上げる手段は限られている。ヴァンガードの懸念は心配不要だとグラドスは笑う。
「装備魔法、巨大化を発動! サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は元々の倍――8000になる!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
攻4000→8000
融合モンスターの体が倍に膨れ上がる。
これでヴァンガードを一撃で倒す準備は整った。
「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタッ――」
「攻撃宣言時に手札のアンクリボーを捨てて効果発動! 墓地からモンスター1体を対象とし、自分フィールドへ特殊召喚する!」
アンク。魔法カード死者蘇生にも描かれている輪つき型十字架の名を持つクリボー。その効果は死者蘇生と似た墓地からの特殊召喚。しかし、オルフェゴールの効果により今のヴァンガードは闇属性しか特殊召喚できない。
彼女がサイバー・エンド・ドラゴンに対抗するべく選んだモンスター。それは。
「行くよ、クラッキング・ドラゴン!!」
『ぎゃう! グルル……!!』
《クラッキング・ドラゴン》
星8/攻3000
――ハノイの騎士の象徴であり、ヴァンガードの始まりとも言えるモンスター。クラッキング・ドラゴンだった。
自身以下のレベルを持つモンスターとの戦闘では破壊されない効果もあるため堅牢な壁になれるが、サイバー・エンド・ドラゴンのレベルはクラッキング・ドラゴンを上回っている。意味を成さない。
「モンスターの数が変化したことで戦闘の巻き戻しが発生。どうする?」
「もちろん攻撃を続行します! サイバー・エンド・ドラゴン、クラッキング・ドラゴンに攻撃しなさい!」
ダメージステップ開始時――
攻撃力8000対3000。このまま攻撃が通ればヴァンガードは5000のダメージを受けることになり、グラドスが勝つ。
このままならば。
「闇属性モンスターが相手と戦闘を行うダメージ計算前に手札のダーク・オネストを墓地に送り効果発動! 相手モンスターの攻撃力はターン終了時まで、その攻撃力分ダウンする!」
黒く染まった天使がサイバー・エンド・ドラゴンの眼前に舞い降りる。片手で機械竜の頭に触れ、そこから攻撃力を反転させる闇が染み込んでいく。
「ダーク・オネスト……そうですか」
グラドスの手札にあるのはリミッター解除。この効果にチェーンして発動しても、攻撃力は結局0にされる。
パワー・ウォールにより墓地に送られた最後のカードは2枚目のエターナル・サイバー。戦闘破壊を防いだところでダメージを減らせる訳ではない。
「ええ。……これは、どうしようもありませんね」
《サイバー・エンド・ドラゴン》
攻8000→0
グラドスにこの効果を止めるためのカードは無かった。
この瞬間、勝者と敗者は決定した。
ダーク・オネスト。闇属性のモンスターによる攻撃を確実に通す効果を持つ天使。それを使ってきたのはオネストの効果によりトドメを刺した
「さあ、反撃だクラッキング・ドラゴン! トラフィック・ブラスト――!!」
サイバー・エンド・ドラゴンが必死に己の攻撃であるエターナル・エヴォリューション・バーストを出そうとしているが、攻撃力を0にされたため放出するエネルギーは存在しない。
『グルオオォォオ――ッ!!』
クラッキング・ドラゴンの攻撃を受けた表サイバー流の象徴は破壊されるだろう。
だからグラドスは墓地のカードを使った。
「墓地のエターナル・サイバーを除外し、サイバー・エンド・ドラゴンの身代わりにする――」
それは勝敗に影響を与えはしない。
ただ、したい、と。そう思ったからした行動。
グラドス
LP 1700→0
楽しいデュエルが永遠に続いて欲しいと願っても、必ず終わりの瞬間は訪れる。デュエル終了のブザーが鳴り、グラドスは倒れ伏す。
フィールドに残る機械達が咆哮する。片方は悔しさから。片方は喜びから。
勝者――ヴァンガード。
余計な茶々を入れることなく、無言でデュエルを観戦し続けていたボーマンからの拍手が響き渡る。
「か、勝ったぁ…………やったぁ……………ぐぇ」
デュエルをしていた頃の覇気は吹き飛び、残ったのはすっかすかの声でしおしおになっている転生者。オシリスの天空竜を再びフィールドに出す、という無茶をしたせいか体調は限界を迎え強制ログアウトさせられていた。
グラドスも精霊界へと転移させられ、疲弊した体を癒しに向かわされていた。
「嗚呼。本当に、良いデュエルだった」
アンクリボー――相手からの攻撃に反応して墓地よりモンスターを蘇生する効果を持つモンスター。それがヴァンガードの手札に無ければ勝っていたのはグラドスだった。
鍵となったのはドロー効果を持つ、蘇りし天空神。
「蘇生……か」
死者はこの世に留まってはならない、というメッセージは転生者にも適応されるのだろうか。だとすれば……いや、ヴァンガードが冥界に行こうとしたら魂を捕まえに狙う危険な存在がパッと複数思い浮かぶため、無理やり黄泉路に戻すのは危険だろう。
まあ、そんな事はする必要がない。
なぜなら、彼女はこの世界で今を確かに生きている人間だ。かのファラオのように魂だけが残った存在ではない。
「では、迎えようか。新たな可能性を」
デュエルを記録した事で完成された石碑のかけらをウジャト眼の描かれた門に与えると光が門の切れ目に走り、ひとりでに開く。
門の先に何があるのかは白い光で全く見えない。絶えることのない光の中から、何者かの手が、足が、その全身がやって来る。
――まず最初にこちらへ歩いてきたのは褐色肌の少年と白い聖女。
――記憶を失った旅人と、似た顔立ちをした世壊の支配者達。
――とあるアイテムを使う黒と白の相反する二人の魔女。
開かれし大地へと少年少女が走り出す。幾星霜を超える時が過ぎ去ったならば、いつか罪すら宝へと変わるのだろう。
新たな物語を彩るカード達を見送るボーマン。これからの未来に想いを馳せ、彼も静かにその場を後にするのだった。
「この辺りだったよね、確か」
電脳世界の空を泳ぐ黒い機械竜。その頭の上に乗る一人の決闘者が呟いた。グルル、と肯定するように機械竜は唸る。
彼女が纏う白い衣服はハノイの騎士がしていた格好とよく似ていた。
――幹部である三騎士が出頭し、ハノイの騎士は表向きは解散した。
彼らが収監されたノースウェスタン島刑務所は海に囲まれた監獄。故に脱獄は困難……と言われているが、セキュリティがネットワーク頼りのため時間さえあれば外部からのハッキングにより脱獄が出来てしまうという欠点を抱えている。
というかノースウェスタン島刑務所はバイラ様がハノイの騎士の手によって一度脱獄に成功したところだ。そこへもう一度ハノイの騎士を入れて大丈夫なのか? 大丈夫ではない、問題だ。
――ならば、脱獄する気を無くせばいい。
世界の維持のためサイバース族が必要、ということを新たに就任した神と精霊界を知る者達から伝えられ、当初の目的であったサイバース抹殺の必要性は無くなった。今のハノイの騎士はネットワークの監視者としての活動を裏で続けている。
つまり三騎士が服役しながらやっていることは監獄でリモートワーク生活……つまり税金で生きている……な、なんて恐ろしいんだハノイの騎士! こわい!
ハノイの騎士が未だ潰えていないとしても、それを知って動く部下は圧倒的に足りない。
ネットワークで自在に動かせる人材が、理解者が、強者が必要になる。
問題を解決するために白羽の矢が立ったのは、かつてハノイの騎士であった一人の決闘者。
「……うん、攻性防壁や罠は特になし! 直接突っ込んでいいよ、クラッキング・ドラゴン」
『ぎゃう!!』
加速しての体当たりで建物の壁を破壊。もうもうと立ち込める土煙は互いの視界を阻害する。突然の乱入者に騒ぐ男達の中、リーダー格だろう目立つアバターをした一人は開けられた穴に向かって怒号を飛ばす。
「なんだテメェは! オレ達がなんなのか分かって来たんだろうなぁ!?」
問いかけに彼女は笑って答える。
「どうも、ハノイの騎士(バイト)です。なんてね――さあ、デュエルだ!」
再就職(バイト)エンド。
これにて『どうも、ハノイの騎士(バイト)です。』本編は完結となります!
ギャグで始まりシリアスが混じりオリ主の敗北が挟まり……と、人を選ぶ展開になりつつも最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました!
この二次創作でのVRAINS3期はほぼ日常パート、たまに烙印や世壊や罪宝関連でデュエルが起きたりする平和な世界になっていることでしょう。デュエルリンクスへの繋がり方も変わってくるかも? そういえば赤い具足を纏った上様は機械族……あっ……。