イヴリースはボーマンの手により捕獲され、精霊界へと移送。その後儀式で攻撃力4000あるカオスなMAXが貫通倍化攻撃をぶちかます事で牙をへし折った、らしい。
……イヴリースが本当はどうなってるのか詳しくは聞けない。怖いので。イヴリースよりも格が上のモンスターは精霊界に沢山いるし悪巧みはもうできないはず。
また、イヴリース輸送を契機として精霊界にサイバース族がやって来れない問題は解決し、リース包囲網は着々と完成しつつある。
あの直後にオルフェゴールを入れたデッキを回そうとするとなんでか主力となるリンクモンスター達が出しにくい初手になることが多いので、きっと皆あっち側のアレコレに力を入れているのだろう。よって、精霊側から連絡が来るまでこのデッキを使うのは控えておくことにした。
そしてこれは誰も知らない間に起きて解決した出来事になるが……ヌメロン・コードに手を出そうとしていたのはアストラル世界側がめちゃくちゃキレる所業だそうで。ホープ・ゼアルへ
――とにかく目的は達成できた! 完全勝利S!
……なんですけど、ローテーション説教はいつまで続くのですかね皆さん。終わりよければ、ってことで許して……もらえませんかそうですか。危機管理能力はちゃんとあるつもりなんですけど!
グラドスもボーマンも向こう側寄りだから味方がいない! 助けて!
長時間の正座で痺れた足を動かす。
SNSはあの事件について特に騒いではいない。リンクヴレインズで起きたことはボーマンの手によりモキュメンタリーみたいに処理され、皆の記憶はなんか凄いことあった気がする、ぐらいの無害なものへ置き換わった。
世界は今日もいつも通りの日常を過ごせている。……だからだろうか。SOLの新しい偉い人になったはずだったクイーンが失脚した、というニュースがテレビを騒がせていた。
ライトニングが洗脳して操ったせいで会社に有益なことよりイグニス第一主義とプレイメーカー狩りを優先、その辺りを株主に突っつかれて後は坂を転げ落ちるだけ。
列挙すると被害者のような気がするが……鬼塚さんが「同情する必要はない」とか言ってたので多分悪いことしようとしていた大人なんだろうなぁ、で終わらせておく。
数ヶ月で何度も上層部が変更されるという地盤ガタガタなSOL。次のテッペンを取るのは晃さん説が私の中では有力となっている。……いやーあの会社、上層部がよく入れ替わってるけど信頼とか株価とか本当に大丈夫なの?
「まあ
「無駄口を叩くなバイトー。先輩としてしっかりした姿を見せるって言ったのはどこの誰だったか忘れてないよな」
キッチンカーの主人にかちかちとトングで威嚇される。
「はぁーい仕事に戻りまーす!」
エプロンを着た今上詩織の後ろをてちてちとついてくる一つの影。緊張しているのか動きは硬い。
「まずはテーブル掃除からだね」
後ろにいた男子へと語りかける。こくこくと頷く紫髪。
――退院後、髪の毛を切ってさっぱりした草彅仁は社会復帰のために人との関わりを増やそう、とバイトのお手伝いから始めることにした。
……ただ、ロスト事件から回復するまでの年月のせいで同年代の子と精神年齢や常識などが釣り合っていないのはどうにかしたい。
時間の流れが違う精霊界を使って教育を進められたりする? と精霊界に行って聞いてみたらエンシェント・フェアリー・ドラゴンが気合を入れすぎていてパワー・ツール・ドラゴンにめっ、されていた。……うん、教育を精霊任せにすると余計に常識がおかしくなるかもしれないので最終手段にした方がいいかもしれない。
『………………フン』
これが一番驚きの出来事になるのだが――ダンマリを貫く光のイグニス、ライトニングは機能を制限された上で草薙仁のサポートAIとしての活動を許された。
加害者と被害者を一緒にするのは流石に駄目だろう、と全員がストップをかけたがボーマンがうまいこと言いくるめて納得させ押し通した。
サイバース抹殺を掲げるハノイの騎士のスペクターとアースがなんでかいい感じの距離感でいられるように、イグニスとオリジンには言葉で言い表せない繋がりがある。更生に期待するとしよう。駄目だったらまた全員でとっちめるだけだし。
『――ヴァン――ド、聞こえるか――?』
「……ん?」
それは脳内に直接語りかけられるような不思議な感覚から始まった。
――あの戦いから一ヶ月後、ボーマンから突然やってきた依頼。
それはヴァンガードとグラドスにリンクヴレインズ内でデュエルをして欲しい、という不思議なものだった。
「イントゥザヴレイーンズ、っと」
指定された座標へのログインに成功、着地する。
「グラドスは先に来てるのかな……?」
そこはネットワークの世界ではなく古代にタイムスリップした、と言われた方が納得できる場所だった。
石の壁に石の床、灯りは火がゆらめく蝋燭数本だけ。光源は少ないが照度が弄られているのか、はっきりと周囲を確認できる。
壁に刻まれている文字は
初めて見るが、知識として知っているこの場所は。
「これは闘いの儀……ま、まさか冥界に行かされ……!?」
「違いますよ」
ヴァンガードの懸念を否定するグラドス。知人がいることにホッとしたのか、ヴァンガードの顔が少し緩む。
「新たな世界の門出となるのに相応しい舞台を、と用意した結果この形になっただけだ。気にする必要はない」
遅れてボーマンも姿を現す。その手には不思議な物体が握られていた。彼が手を広げるとそれは浮遊し、こちらに近寄ってくる。
「何コレ……石碑のかけら?」
「この場所にそぐう形に変化しただけであり本質は違う。ここにあるのは未来の可能性。新たなマスタールール。それをデュエルという儀式により世界へ定着させるための楔になるものだ」
超重要アイテムだと分かった瞬間、好奇心から突っつこうとしていた指を即座に引っ込める。なお、このオリジンに危機管理能力はやはり無いのでは? な目をしているグラドスからは目を逸らしている。
「…………もしやここって世界の根幹に近い場所だったりします?」
「そうだが」
「神様見習いがリンクヴレインズからアクセスできるように勝手に改築していいの……?」
「権限を持つのはごく限られた決闘者だけにしてある。問題はない。本来存在し得ない者達の手で存在証明を刻む――それが可能なのはここ以上にないと判断し、万が一が起きた場合の対応はシミュレート済みだ。そしてこれが今回のデュエルと未来で適応されるマスタールールだ。確認しておけ」
ボーマンの力により目の前に半透明のウィンドウが開く。これは触ってもいいやつだよね、と今度は確認してから画面を操作し……きゅっと眉間に皺が寄る。
「ペンデュラムまだ許されないの?」
「そこにあるのがルールの全てだ」
「そっかー……」
目に見えてしょんぼりしているヴァンガード。魔法・罠ゾーンを圧迫しなかったりエクストラデッキからぽんぽこ出てきたあの頃にはもう戻れないのか……と嘆きつつもその目から光は失われていない。
「いやでもこのルールなら……あれとこれと入れ替えてスペシャル仕様なデッキが回せる……か?」
その呟きを聞いた時点でまともな思考では作らないし回らない混沌としたデッキが出来るんだろうな、と二人のAIは回答を出す。
その場に座り込みカードを取り出してデッキ弄りを始めたヴァンガードを放っておき、グラドスはボーマンへと問いかける。
「ところでハルはどうしているのですか? 神となった貴方の縁者ならばこの場にいてもおかしくないと思うのですが」
「呼んだのだが断られた。間違いなく素晴らしいデュエルになるのだがな……」
「そうですか」
とても残念、というオーラを背負う神様見習いへ対してデュエル観戦のワクワクよりも日頃何かとあれば弟を守ろうとついて来る鬱陶しさの方が勝ったんじゃないですか、とは言わない空気の読めるグラドスであった。
「よし、出来た!」
満足げに笑う。
「ヴァンガード、カードを入れ替えただけですよね? 仮回し、とかは」
「精霊がいるし問題ないって。それにこのデッキは初見の方が絶対にびっくりする上に楽しくなれるの間違いなし!」
楽しむ――その言葉を聞きボーマンは口角を上げる。
「二人に行ってもらうデュエルだが勝敗は関係ない。何故ならこれは闇のゲームでも、別れを告げるための儀式でもない。新たに作られたモノ全ての生誕を歓迎するためのデュエルだからな」
勝ち負けが絶対ではない、楽しむことを最優先にして良いデュエル。世界の命運を賭けた戦いから一番遠いそれが、今、始まろうとしている。
「私の先攻! まずカードを2枚セット。レベル8のクラッキング・ドラゴンを捨ててトレード・インを発動し2枚ドロー。デッキの上から10枚を裏側除外し強欲で貪欲な壺を発動、2枚ドロー!」
これでヴァンガードの手札は4枚。まだまだ手札が必要だ、とばかりにセットした通常魔法カード達を使う。
「さっきセットしたマジカル・ペンデュラム・ボックス発動! デッキから2枚ドロー……ドローしたのは
墓地に魔法カードを貯めつつドロー加速。これにより閃刀姫を出す準備は整った。
「閃刀機-ホーネットビットを発動! 自分フィールドに閃刀姫トークンを守備表示で特殊召喚し――先駆けとなれ、我が未来回路! 召喚条件は炎属性以外の『閃刀姫』モンスター1体! 私は閃刀姫トークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、閃刀姫-カガリ!」
《閃刀姫-カガリ》
Link1/攻1500→2000
【リンクマーカー:左上】
リンク召喚によりトークンのホログラム映像ではなく、真っ赤な機械鎧を見に纏った
「カガリの効果で墓地の閃刀起動-エンゲージを回収。そしてまたエンゲージを発動! デッキからフィールド魔法の閃刀空域-エリアゼロを手札に加え、追加の1枚ドロー!」
「これで手札は9枚……ぶっつけ本番でしっかり回ってますね」
「お褒めに預かりどうも。それじゃ閃刀姫-カガリをリンク素材に、閃刀姫-シズクをリンク召喚! そして『閃刀姫』モンスターが特殊召喚されたことにより手札から閃刀姫-ロゼを自身の効果で特殊召喚する」
《閃刀姫-シズク》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:右上】
《閃刀姫-ロゼ》
星4/守1500
今度は青い鎧の閃刀姫へと換装。また、閃刀姫の出現に合わせて黒の軍服を着た
メインモンスターゾーンにモンスターがいる場合、閃刀魔法は殆どが使用できなくなる。閃刀姫の展開は終わった、と示すように手札から1枚のカードを見せる。
「レベル4の閃刀姫-ロゼに
手札から飛び出してきたのは黄色い機械竜を模した可愛らしいシンクロン。三本の光の輪に変化し、その中へロゼが飛び込む。
「手札からシンクロ素材に!?」
驚くのも無理はない。手札からリンク素材になれる効果を持つモンスターは何体か確認されているが、手札からシンクロ素材になれるものはこれまでいなかった。
「手札から素材にする場合はシンクロ先に条件は付くけど、色々使える便利チューナーだよ――永久に続くは守護の光、竜の星から参られよ! シンクロ召喚! 来たれ、エンシェント・フェアリー・ドラゴン!」
《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》
星7/守3000
シグナーの竜が一体、エンシェント・フェアリー・ドラゴン。精霊界を救ってくれてありがとう、のお礼と共にヴァンガードが受け取ったカードだ。精霊本人は宿っていないため、動きはどこか単調に見える。
「ありがとう新ルール……リンクマーカーの向きをそこまで気にしなくて良くなるのはとても助かる」
シンクロ召喚ができたことに感動するヴァンガード。シズクのリンクマーカーはこちらを向いていないため、これまでのルールではエクストラデッキからシンクロモンスターを出すことはできなかった。
――だが、新たなマスタールールではリンク先にしか出せない制限は殆どのモンスターから取り払われた。全盛期時代のデッキ回しが可能となるカテゴリが増える、というのはワクワクが止まらない。ヴァンガードはこのデュエルが終わったら今持っているデッキの見直しに入る気満々だ。
「新ルールはこれまで以上に展開の高速化が進みそうですね。シンクロデッキは特に加速するのではないでしょうか」
「多分インフェルニティな満足の人は気絶するんじゃないかなあ? エンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果で手札からレベル4以下のモンスター、聖鳥クレインを特殊召喚。聖鳥クレインの効果で1枚ドロー」
《聖鳥クレイン》
星4/守400
フィールドにモンスターを増やしながら手札の損失を抑える。
「フィールド魔法、閃刀空域-エリアゼロを発動。そしてエンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果! フィールドゾーンのカードを破壊し、ライフポイントを1000回復。また、デッキからフィールド魔法
変化したフィールドがすぐにシグナーの竜の力により元へ戻される。羽から放たれる輝く光がヴァンガードへ活力を与える。
ヴァンガード
LP 4000→5000
「効果でフィールドゾーンから墓地に送られた閃刀空域-エリアゼロの効果。デッキから閃刀姫-レイを特殊召喚!」
《閃刀姫-レイ》
星4/守1500
フィールド魔法の異常を感知した閃刀姫が戦場へと緊急出撃。閃刀を構える。
「フィールドにレベル7以上のシンクロモンスターがいるため墓地のレボリューション・シンクロンの効果発動。デッキトップを墓地に送り自身を特殊召喚。この効果で特殊召喚した場合、レベルは1になる」
《レボリューション・シンクロン》
星3→1/守1400
「レベル4のクレインにレベル1になったレボリューション・シンクロンをチューニング! 生の転輪、正の再臨。かの命は定めの地へ降臨する! シンクロ召喚! 来たれ、星杯の神子イヴ!」
《星杯の神子イヴ》
星5/守2100
背中の金と青の翼を広げてふわりと微笑む少女。これも本人から頂いたカードその2である。
「シンクロ召喚に成功したイヴの効果でデッキから『星遺物』カード、星遺物の守護竜を手札に。まだまだ行くよ! レベル4の閃刀姫-レイにレベル5、星杯の神子イヴをチューニング! シンクロ召喚! 来たれ、飢鰐竜アーケティス!」
《飢鰐竜アーケティス》
星9/攻1000→4500
「墓地に送られた星杯の神子イヴの効果でデッキから『星遺物』モンスター、星遺物-『星杯』を特殊召喚。シンクロ召喚したアーケティスの効果で1枚ドロー」
《星遺物-『星杯』》
星5/守0
「アーケティスを対象にして星遺物の胎導を発動。デッキから元々の種族・属性が異なるレベル9モンスターを2体特殊召喚」
《星遺物の守護竜メロダーク》
星9/守3000
《
星9/守2100
これによりヴァンガードのメインモンスターゾーンが全て埋まる。大型モンスターだらけの中、彼女が次に出すモンスターは――。
「永続魔法、冥界の宝札を発動。シズク、エンシェント・フェアリー、星杯の3体のモンスターを生贄に捧げる! 時を超え、次元を超えなお語り継がれる神よ! 我は失われし王の名の威光を以て幻神をこの地に招く――今こそ招来せよ! オシリスの天空竜!」
雷鳴を轟かせながら長い体を上手に折りたたみ、天井付近に陣取る赤き神。
世界の命運は関係ないデュエルのため、神としての威厳は控えめに、現実への影響も通り雨が来るかも? レベルの雲が薄っすら出てくるぐらいに。……そのせいだろうか、どことなく窮屈そうに見える。
《オシリスの天空竜》
星10/攻X000→6000
「冥界の宝札の効果で2枚ドロー」
冥界の宝札によるドローだが、OCGのオシリスは召喚成功時にカードの効果を発動不可という効果を持つため本来はできない。が、原作オシリスはその効果を持たない。よって問題なくドローが可能。
「先駆けとなれ、我が未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件はレベル5以上のモンスター3体! 私はアーケティス、イドリース、メロダークをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、
《
Link3/攻3500
【リンクマーカー:左/右/下】
エクストラモンスターゾーンにいたシズクを生贄として使ったため空いた場所へ収まる。
光球の周囲に浮かぶ弓のようなパーツたちをいつもよりコンパクトにまとめて……巨大なモンスターが増えてヴァンガード側の空間はどんどん狭くなっている。
「
ヴァンガードの手札から特殊召喚されたのは1体のモンスター。両腕に大きな鉤爪を装着した闇属性の戦士。
《処刑人-マキュラ》
星4/守1200
「ま、マキュラ……!?」
それはモンスターゾーンから墓地に送られた場合、1度だけ手札から罠を発動できるようになるという碌でもない効果を持つモンスター。
「オシリスで通常召喚権は使用済みですがサーチしたフィールド魔法は……まさか……」
とてつもなく嫌な予感がする。
「永続魔法、星遺物の守護竜を発動。効果で墓地のドラゴン族レベル3チューナー、デルタフライを特殊召喚。レベル4のマキュラにレベル3のデルタフライをチューニング! ――連なる思いが風の中より竜を呼ぶ。それは怒を貫く翼! シンクロ召喚! 来たれ、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
星7/攻2500
レベルの合計は7。空を舞うのは透明に輝く翼を持つ、シンクロを司る四天の竜。
「デルタフライ……それがレボリューション・シンクロンを自己蘇生する時に墓地に送られたカードですか」
「墓地の5体のモンスターを対象に貪欲な壺を発動。対象のモンスターをデッキに戻して2枚ドロー。フィールド魔法
《
星4/守1000
エンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果で手札に加えていたフィールド魔法、
「
《アポクリフォート・キラー》
星10/攻3000
大地を踏み締めるは四つ足の最上級機械。……上部が天井に擦りそう。
「アポクリフォート・キラーの永続効果により、特殊召喚されたモンスターのステータスは全て500ダウンする」
デミウルギアは他のモンスターの効果を受けないという耐性を持つため、弱体化するのはクリアウィング・シンクロ・ドラゴンのみとなる。
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2500→2000
「キラーの効果を発動! 相手は手札・フィールドからモンスターを墓地に送らねばならない!」
効果発動の宣言を受け、グラドスは手札から1枚を取り出す。
「手札のモンスター、
「ドライトロンかぁ……新たにフィールド魔法、天空の虹彩を発動。星遺物の守護竜を破壊してデッキからオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンを手札に。カードを1枚セット。よし、私はこれでターンエンド!」
最終的に残った手札は1枚。よって神の攻撃力は――。
《オシリスの天空竜》
攻撃力X000→1000
ヴァンガードのフィールドにはオシリスの天空竜、
――先攻1ターン目にして、特殊召喚されたモンスターのステータスが2500以下ならば即座に破壊される状態。加えてクリアウィングの効果による高レベルモンスターへの手出しがしにくい盤面を作り上げた。
「びっくりして楽しい、って……どこがですか! これ制圧盤面ですよね!?」
「いやほら……バロネスとかアポロウーサは使ってないから制圧ってほどではないんじゃないかな。楽しい部分はほら、見栄え?」
大型モンスターが並ぶヴァンガードのフィールドは確かに壮観だ。……キュークツそうなモンスター達と、神を維持しようとして顔色がだんだん悪くなってきているのを無視できれば、だが。
「それなら私にだって考えがありますからね……! 私のターン、ドロー! 永続魔法、光の護封剣を発動! これにより相手は攻撃宣言ができない――オシリスの特殊能力は攻撃として扱われる。故にこれで封じさせてもらいますよ」
ヴァンガードの方へ邪魔をするように突き刺さる無数の光の剣。フィールドがより狭くなってぎゅうぎゅう身を寄せ合うモンスター達。
「手札のサイバー・ダーク・クローを捨てて効果発動。デッキからサイバネティック・ホライゾンを手札に。そして手札からサイバー・ダーク・キメラ、デッキからサイバー・ドラゴン・ヘルツを墓地に送り――サイバネティック・ホライゾンを発動!」
広がる地平線。光と闇の境界線から生まれる力が、グラドスの操るカードに更なる可能性を与える。
「サイバネティック・ホライゾンの効果で手札にサイバー・ダーク・カノンを加え、エクストラデッキからサイバー・エンド・ドラゴンを墓地に。墓地に送られたキメラの効果でサイバー・ダーク・エッジを墓地に。また、ヘルツの効果でサイバー・ドラゴンを手札に」
手札と墓地にカードを増やし、表と裏のサイバー流どちらでも動けるように準備を整える。
「手札のカノンを捨てて効果発動。デッキからサイバー・ダーク・キメラを手札に加え、そのまま通常召喚。オーバーロード・フュージョン発動! フィールド、墓地より5体のサイバー・ダークを除外し融合召喚を行う――世界の裏に在る果てなき闇を喰らい顕現せよ! 鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン!」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
星10/攻2000→1500
渦から出現したのは5種類のサイバー・ダークの融合体。素材の数に比べて攻撃力は低めだが、それは己の効果でカバーが可能だ。
「特殊召喚に成功したことで墓地のサイバー・エンド・ドラゴンを装備。攻撃力は4000アップする」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
攻1500→5500
複数のコードを用いて墓地から表サイバー流のエースを引き上げ、強化ユニットとして自身の下部に装着。その力を余すことなく発揮する。
「相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚したためデミウルギアの効果発動。デッキから星遺物-『星鎧』を特殊召喚。さらに星鎧の効果で星遺物-『星槍』を手札に」
《星遺物-『星鎧』》
星7/守2500
それは壁となるモンスターと、リンクモンスターを含むバトルへの対抗策。また、手札が増えたことでオシリスの攻撃力が2000に上がる。
「サイバー・エンド・ドラゴンを装備した鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンをリリース! ――地獄を経て皇帝は完成せり。表裏を呑み込み勝利への渇望を満たせ! 降臨せよ、鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン!」
《鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン》
星12/攻5000→4500
サイバー・ダークネス・ドラゴンは己を構築していた一部のパーツを切り離し、その姿を変える。
装備したモンスターに依存せずとも高い攻撃力を発揮できるように。相手が発動した効果を受けない強固な耐性を獲得するために。
サイバー・ダークとサイバー・エンドは、今ここに真に一つのモンスターとなった。
「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果発動! ヴァンガードの墓地のモンスター、閃刀姫-ロゼを装備する!」
ヴァンガードの墓地からモンスターを奪う。胴体にコードをぐるぐる巻きで宙ぶらりん、とどこか雑に見える形で装備されたロゼはお腹が苦しいのか両手でコードをぽこぽこ叩いている。
「手札のルタ
《
星1/守0
「フィールドのアル
《
星1/守0
「フィールドのルタ
《
ランク1/攻2000→1500
りゅう座より来た機械は幾度も入れ替わり、武装した母艦の出撃の準備を整えた。
「エクシーズ召喚に成功したファフ
《
星12/攻4000→3500
くるくると回る2つのオーバーレイユニットは相手の妨害ではなく、更なる仲間を呼ぶために。ファフ
「QUAの効果発動! 儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」
「クリアウィングの効果でその効果発動を無効にし破壊する! ダイクロイックミラー!」
2体のモンスターが放つ光はフィールド中央で激突。軍配はシンクロの竜に上がり、QUAは爆風とともに破壊された。
「そしてクリアウィングの攻撃力はターン終了時まで破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする!」
《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》
攻2000→6000
「儀式召喚したQUAが破壊された場合、墓地から『ドライトロン』モンスターを2体特殊召喚できる! 蘇りなさい、アル
《
星1/守0
《
星1/守0
片方は輝きを増し、片方は輝きの欠片を残す。
「アル
他者の介入を許さぬドロー効果の連打。サイバー・ウロボロスにより墓地に送られたのは青いカード――儀式モンスターだった。そして、
「来るか、もう1体の儀式モンスター!」
「フィールドのファフ
《
星12/攻4000→3500
守勢から攻勢へ。QUAと比べて数多の武装を備えた
こちらは儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、特殊召喚されたモンスター全てに攻撃が可能。ヴァンガードの操るモンスターを複数体バトルで処理することができる。
「自分フィールドに機械族効果モンスターが2体のみのため、アイアンドローを発動し2枚ドロー……良し! 速攻魔法エターナル・サイバー発動! 墓地の鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンを特殊召喚!」
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
星10/攻2000→1500
鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンは特殊召喚時に墓地のドラゴン族か機械族のモンスターを装備する効果が使える。サイバー・エンド・ドラゴンを装備すれば攻撃力は5500。攻撃に加わることができる。
「特殊召喚した場合の効果で――」
「その効果にチェーンして冥界の宝札とオシリスの天空竜を墓地に送り、セットカード禁じられた一滴を発動! 墓地に送ったカードの枚数だけ相手の効果モンスター選ぶ。ターン終了時までそのモンスターの攻撃力は半分になり、効果は無効化される。私はDRAとサイバー・ダークネスの2体を選ぶ!」
《
攻3500→1750
《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》
攻1500→750
カードを複数コストにし、装備効果の無効化だけでなく弱体化も起こしグラドスの攻撃の手を妨げる。……そのコストにしたカードが問題なのだが。
「な……神を墓地に!?」
「攻撃力2000だと戦闘破壊されてしまう危険がある。それに光の護封剣で特殊能力が防がれてしまうならオシリスを残す必要はない」
「本音は?」
「ふふ……神の維持、めっちゃキツかった……」
キメ顔で締まらないことを言うヴァンガード。神がフィールドから離れたことで魂の消耗が無くなり、顔色が回復しつつある。
「そんなことだろうとは思いましたよ……バトル! サイバー・ダーク・エンドでアポクリフォート・キラーに攻撃! オーバー・デスティネーション・バースト!」
オシリスがいない今、特殊召喚されたモンスターを弱体化させるアポクリフォート・キラーを先に倒すべきだと判断したグラドスは攻撃を命じる。
「
サイバー・ダーク、サイバー・エンド全ての首から攻撃が照射される。ペンデュラムスケールから飛び出した真っ黒なシルエットによりヴァンガードへのダメージは軽減したものの、制圧盤面を形成する一角は守りきれなかった。
ヴァンガード
LP 5000→4250
グラドスの残る攻撃可能なモンスターはどれも攻撃力は相手モンスターより下。バトルフェイズ終了を選択する。
「メイン2、
「ターン終了時に禁じられた一滴の効果は終了し、効果と変動していた攻撃力が元に戻る」
グラドスのモンスター達は元々のステータスを取り戻す。
次のヴァンガードのターン、除外された異次元の宝札は帰還し互いに2枚ドローを行える。取れる手段が増えるのは相手も同じ。……スピードデュエルでよく使っていたオルフェゴールをまだ見ていない。きっと次のターンで繰り出してくるだろう。
超大型モンスターの大量展開。相手をしていて大変なはずなのに……どうしてだろうか。
――二人とも、このデュエルがまだ終わらないでほしい、と願っていた。
世界へ果てしなく広がっていった。
踏み出した先が正解でなかったとしても、
前に進むこと、そのものが良かったのだと信じて。
「今」を超えて、機械と違う君と一緒に。
――それはきっと、未来の光へ繋げるための物語。
超えなくてはならない壁がある。
来たれ、覇王龍ズァーク!」
次回、本編最終話。
…………なお前編だけで投稿後にミスが3つ発覚しています(修正対応済み)。これから発覚するミスは実はOCGではなくアニメに出てきた時の効果なのでセーフって事にならないだろうか。ルールミスの場合は無理か……。