グラドスVSロボッピ、決着!
グラドス LP 4000 手札0
モンスター
閃刀姫-アザレア Link2 ATK1500
魔法・罠
伏せカード1枚
ロボッピ LP 4000 手札2→3
魔法・罠
禁止令
「あ、はは……は、あはははははは!!」
人が変わったように、ロボッピは高笑いをしていた。
それに……門、と。そう聞こえた言葉が間違いでなければ、ロボッピはきっと非常に危険な状態になっている。ここからは時間をかけられない。早く倒さなければならない。
だが、今はロボッピのターン。グラドスに出来ることは限られている。
「オレのターン、ドロー! 貪欲な壺を発動。墓地の電幻機塊コンセントロール2体、速攻のかかし、洗濯機塊ランドリードラゴン、充電機塊セルトパスの合計5体をデッキに戻し、2枚ドロー!」
変化した一人称。虹彩を包む赤はより大きく。異常性を隠さずにロボッピはデュエルを続行する。
墓地のモンスターをデッキ、エクストラデッキに戻された上にドロー。このタイミングでリソースを回復されたのは痛い。
ロボッピは貪欲な壺でドローした2枚のカードを確認する。家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドと――システム・ダウン。
システム・ダウン? そんなカード、デッキに入れていただろうか。そんな疑問が浮かぶ。誰が入れたのか。デッキのカードに触っているのは自分と、このデッキをくれた……。
……ライトニング様の声が、聞こえる。
「お前が勝利するのはどうでもいい。まず、仲間として認めた覚えもない。歯向かってくる奴等の戦意を削ぎ、攻撃を躊躇わせ、勝っても負けても敵対者を精神的に追い詰めるのにちょうどいいから使った駒だ。家電は人間に使われるもの。人間よりも優れた存在に使われるのは問題ないだろう」
いやだ。
「家電の王様、良かったじゃないか。このまま家電らしく望まれた仕事を終えられる」
いやだ。
「国を守れない愚かな機械。一時でも自分を賢いと思い込んだ哀れなガラクタ。容量も処理能力も何もかもが追いついていない、イグニスと同等のシステムに耐えられるはずがない、消えるだけの自我が何をしようと無駄だ。助かる道など最初から存在しない」
きえたくない。
たすけて。
たすけて、ライトニング様。
自分を必要としていた、でも本当はそうじゃなかったんですか、ライトニング様。
自分を賢くしてくれたけど、いつか馬鹿になることが分かっていたんですか、ライトニング様。
宇宙に浮かぶ賢い自分が、端からぽろぽろと零れていく。近くに見えていた仰々しい門は気が付けば遠く、点のようにしか見えなくなってしまっていて。
開く前に、触れるより前に、応答するより前に。その門が何を言っていたのかも――ロボッピの記憶から消えて、無くなった。
――残ったのは、今ここにある自分がもうすぐ無くなるという事実だけ。
ロボッピ
LP 4000→3000
「ライフを1000払い、魔法カードシステム・ダウンを発動! お前のフィールドと墓地にある全ての機械族を除外する! 消えろぉ!!」
何としてでもコイツを倒して、ライトニング様に救ってもらうしかない。今のロボッピが頼れる相手はそれしかいないのだから。
「……! チェーンして
システム・ダウンの発動を阻害するカードはグラドスには無かった。除外されてしまう前に、とメテオニス=DRAにより放たれた稲妻がロボッピの永続魔法を貫き破壊する。
グラドスのフィールドにいたアザレアが、カルノールが、メテオニス=DRAが。そして墓地にいた機械族モンスター達が超電磁タートルも含めて消え去る。
……ロボッピの頭が、バチバチとより激しくスパークする。
「禁止令が無くなっても、このターンで終わらせちまえばいいだけだ! フィールド魔法、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドを発動! デッキから『機塊』カード、電幻機塊コンセントロールを手に加える――」
ロボッピの先攻1ターン目ととてもよく似た展開ルート。ただ、呼び出されるモンスターがランドリードラゴンとドライドレイクではなく、プロペライオンとドライドレイクになっている。
《充電機塊セルトパス》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/下】
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
《乾燥機塊ドライドレイク》
Link1/攻0→1000
【リンクマーカー:右上】
「墓地のコピーボックルを除外し、フィールドのプロペライオンを対象に効果発動! そのモンスターの同名モンスターを手札・墓地から選んで特殊召喚する! 来い、プロペライオン!」
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
これでロボッピのフィールドにはセルトパスと相互リンク状態のドライドレイクとプロペライオンに加え、コピーボックルにより特殊召喚されたリンク状態ではないプロペライオンが並ぶ。
「バトルだ!」
「少々お待ちを。メインフェイズ終了時にセットカードを発動――」
「ごちゃごちゃとうるさいんだよ! やれ、プロペライオン、ドライドレイク! ダイレクトアタックだ!」
セルトパスの効果による攻撃力上昇はモンスターとの戦闘時のみ。ダイレクトアタックには適用されない。故に、攻撃力の合計数値は3400。ライフ4000を削り切ることはできない。
「ククッ、馬鹿なお前のことだ、まだ耐えられるなんて思ってるんだろう! ドライドレイクには相互リンク状態の時、自身と他の『機塊』モンスターの位置を入れ替え、もう一度攻撃を可能にさせる効果がある! それだけじゃない、手札には速攻魔法、機塊コンバートがある! これを使えばさらに攻撃ができる……は、ははは! これでオレの勝ちだ――!」
「バトルフェイズに墓地の――」
他者の声をかき消すような大声。勝利を確信した絶叫。手札のカードの正体を明かすロボッピの耳には、グラドスが何を言ったのかは聞こえない。
ばちり、ロボッピの頭から電気がさらに漏れ出る。ショートしかけている。
「モンスターを増やそうが無駄だ、プロペライオンには相手モンスターの攻撃力を0にする効果がある! これで終わり……掃除、オソウジするです」
……ロボッピのAIは、家事用のAI。イグニスのシステムには耐えられない。突然に加速した異常の原因を解析できたグラドスは焦りを見せる。それを敗北に対する恐怖と勘違いしたロボッピはより大きな声で嗤う。
プロペライオンの牙がグラドスまで迫り――その動きは何かに遮られたように止まる。ダメージを与えることなく、バトルは終了した。
「………………は? なんで攻撃をやめたんだ! パックの交換時期が近付いています。お前、いったい何をした!?」
「発動していたというわけではありません。効果の説明は聞くべきです。私が貴方のメインフェイズ終了時に発動したのは速攻魔法、異次元からの埋葬。この効果により除外されていた超電磁タートル、
彼が思い描いていた盤石の必勝の方程式は、たった2枚のカードであっけなく崩れ去った。ふらり、とよろめく。
「お、オレは、オイラは、お前は終わらなかった、オレも終わるはずがない、」
終わりなんかじゃない。手札のこの速攻魔法をセットしてターンエンド。
セットして。
セット。
セ…………………………。
ぶつん。
「ターンエンドです」
先ほどまでの様子とは一転。急に静かになる。目から光が消え、力が抜け……倒れ伏し、全身にノイズが走る。少年の姿のアバターが変化する。
そこにいたのは本来のロボッピ――藤木遊作の家で元気に稼働していた、小さなロボットの姿になっていた。
「っ! 私のターン! ドロー!」
何故ロボッピがこうなってしまったのか。デュエルにより、処理しなければならない情報が増えた、のもあるだろうが……普通にデュエルするだけなら問題なかったはずだ。
終わりが加速したのはシステム・ダウンをドローする直前。あのカードこそ、ライトニングがロボッピに対して仕込んだ罠。機械族を使う決闘者に対してぶつけ、メタカードとなるシステム・ダウンを自分の意思で使用させる。それが狙い。
システム・ダウンを発動するにはライフポイントを支払う必要がある。デュエルの継続に関わる数値に干渉している。……そこに、何らかのプログラムを追加で仕込むのは不可能ではない。
相手の機械族を除去し、ロボッピの勝つ可能性を大幅に引き上げる。命を削るような形で思考速度を強制的に引き上げ、賢い状態のロボッピの残り時間も削る。
ライトニングはロボッピの賢くなりたいという純粋な願いを理解していた。その上で、その願いを踏みにじった――!
グラドスのするべきことはこの瞬間に決まった。早くこのデュエルを終わらせる。だが、自分がサレンダーしようものなら敗北扱いとなり、ライトニング達に捕獲、最悪の場合消滅させられてしまうだろう。
このデュエルに勝ち、一刻も早くロボッピを修復しなければならない!
「ンワー、家電のお仲間さん、助けて欲しいですー」
機塊モンスターに向けて喋った後、じたばた、じたばた、立ちあがろうと手をばたつかせるロボッピ。
ロボッピは本来の姿に戻った影響で記憶が抜け落ち、今行われているデュエルのことを何もわかっていないような様子を見せている。が、効果を発動するかしないかの選択でうっかり『はい』を選ばないとも限らない。
確実に倒す、その必要がある。
「フィールド魔法、
ドライトロンの母艦ファフニールが決闘者達の頭上に位置する空へ着艦。ロボッピは何の音かと空を見上げ、また、周囲の家電の世界に気付いたのか目をキラキラと輝かせている。
このデュエルによって呼び出されるカードも、風景も、演出も。ロボッピには何もかもが初めて見る楽しそうなもの、として映っているのだろう。
《
星1/守0
「エル
《
星1/守0
「フィールドのルタ
これで、レベル1のモンスターが2体揃った。
「レベル1のエル
《
ランク1/攻2000
武装したファフニールがエクストラモンスターゾーンに降りる。
「儀式魔法
《
星12/攻4000
剣、砲塔、盾と複数の装備を持つDRAとは違い、QUAは翼と盾、ブレードを兼ねた武装を腕に装着している。自身の後ろにいる主を庇うように腕を構える。
「儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合に発動できる効果は――」
メテオニス=QUAは相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する効果を持つ。悩む主人の方へ頭を向け、機械竜は首を横に振る。ロボッピは目を輝かせたまま、エレクトリリカル・ワールドをぐるりと見回している。
……あの輝きを奪うことは、グラドスにはできなかった。
「――使用しない! 手札のアイアンドローを発動し、2枚ドロー!」
本来ならば必要な効果の説明を一部省き、速さを求めてグラドスはカードを操る。
「速攻魔法マグネット・リバース発動! 通常召喚できない機械族モンスター、
《
星12/攻4000
「……そうだ。お掃除。オイラ、お掃除しないとです」
「自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する同じ攻撃力を持つモンスター、メテオニス=DRAとメテオニス=QUAを選択して魔法カード、クロス・アタックを発動」
「ご主人様のお部屋に戻って、お掃除するです」
「このターン、選択したモンスター1体は相手プレイヤーに直接攻撃する事ができ、もう1体のモンスターは攻撃する事ができない」
「それが、オイラの一番幸せな時間なんです」
「
機塊モンスター達はモンスターと戦闘することによって効果を発動していた。直接攻撃なら、万が一の可能性は起こらない。
メテオニス=DRAは天高く舞い上がり、背に負った砲台から光弾を撃ち出す。
「ンワ?」
何が起きているのかはわからないだろう。眼前に迫る流星たちを見て、ロボッピは笑顔を見せた。
藤木家でせっせとお掃除に励む中、窓の向こうに見えていた太陽の光、月の光、星の光。手の届かないそれとは比べ物にならないほど強く大きく輝く、一筋の流星。
流れ星が消える前に願い事を三回唱えれば、その願いは叶う。だが、ロボッピが口にしたのは願いではなく。
「オイラ、こんな綺麗なものを見られて――」
――幸せです。
その言葉は、光の中へと消えていった。
「ロボッピ!!」
立ち昇る土煙、その中心にいるはずの小さな働き者のお掃除AIに駆け寄ろうとして。
「……ああ、そんな」
そこにあるはずの光は、命は。もう、無くなってしまっていた。……本当はあの突然のターンエンド宣言をした時、とっくに壊れて終わっていた。それがデュエルが終わるまで保っていた、それだけで奇跡だったのだ。
せめて、と抱き寄せる。ミラーリンクヴレインズで敗者が存在できるのはほんの短い時間だけ。光の粒になって空へ消えていくロボッピを、グラドスはどこにも行かないでくれと願うかのように手を伸ばした。
……世界がほんの少し揺れ、中空に円形の中継映像が流れ始める。映るのはヴァンガードと、もう一人。
「ヴァンガードの相手は……あれは、まさか!」
相対するのは白のスーツを着た男性。銀髪。その瞳孔は、光のイグニスの支配下にあることを示すように黄色へ染まっていた。
『まさかこうなるとは、ね』
ヴァンガードに対しデュエルを挑もうとしているのは――ハノイの騎士、スペクターだった。
新たな刺客となり、先導者と決闘を開始する。
光のイグニスが望むイレギュラーの排除のため。
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを
ペンデュラムスケールにセッティング!」
今回の3つ(流れ星が消える前に願い事を3回唱えると叶う)
アニメ遊戯王VRAINSにて、スペクターVSライトニングのデュエルは……前話の前書きはつまりそういうことです。
次回予告のセリフで「!?」ってなった読者様は多いでしょうが、クリフォートもちゃんと使うのでクリフォートデッキです。