わちゃわちゃ、がしゃがしゃ。
歌う家電に包囲されたまま、グラドスはどこかに案内されている。先頭を行くのは、楽しげな感情を露わにする空色の髪をした少年――ロボッピ。
首は動かさずに後ろを見る。もう、ブルーメイデン達の姿は見えない。どんどん遠くへと引き離されている。
「…………」
無理に引き返そうとすれば危険。相手に乗ってやり、一対一のデュエルで終わらせるのが一番安全――そう結論付け、グラドスはそっと手でデュエルディスクを撫でる。自身を鼓舞するように、デッキの中のカード達を落ち着かせるように。
二人と家電達は裏路地を行く。曲がり角を越えるたび、だんだんと街並みが変になっていく。壁面は真っ直ぐではなく丸くなり、ブラウン管テレビや炊飯器など家電をモチーフにした変な建物が増えていく。
家電達の歌が終わり、デュエルの舞台となるだろう円形の広場へと二人は到着する。開いた視界、遠目に見える巨大な建築物。目の錯覚でなければ、あれは。
「城……?」
「ふっふっふ、気付かれたなら仕方がないですね……。そうです! ここがオイラの国です!」
その言葉を待っていた! とばかりにロボッピがこちらを振り向き宣言する。同時に家電達が一糸乱れぬ拍手。
……不気味だ。
「国。ならば国民と王は誰に?」
「ここは家電の国! 賢くなったオイラが王様になるのは当然のことですよ? あー、馬鹿、にはわからなかったかーっ!」
馬鹿、をことさら強調したロボッピは額に手を置き、やれやれとオーバーなリアクションをする。
「それもこれもぜーんぶ、ライトニング様がくれたモノです。だから! お前を倒して、もっと賢くしてもらうです! お役に立って、そしてもっともっと賢くなって――」
主人をすげ替えられ、望みを書き換えられ、賢くなることに取り憑かれている。
狂っている。そう表現するしかないお掃除AIが、そこにいた。
「もう御託はいい。さっさとデュエルを始めましょう」
いかにしてお役に立つか、賢くしてもらうかの演説を途中で止められたロボッピは不機嫌を隠さないままデュエルディスクを構えた。
正面から見れば、彼の両目の虹彩を縁取るような禍々しい赤がよくわかる。
「……すみません、Ai。ロボッピはもう、荒療治でしか治せそうにありません」
ここにいない一人に対し、グラドスは謝罪した。
先攻になったのは――ロボッピ。
「見せてあげるです、オイラの国を! フィールド魔法、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドを発動! 発動時の効果処理として、デッキからフィールド魔法カード以外の『機塊』カード1枚を手札に加えることができるです。オイラは複写機塊コピーボックルを手札に」
フィールド魔法が発動すると同時に街にも明かりが灯る。カラフルな電飾と音楽、歌う家電達、空には花火が打ち上がる。
ロボッピはここを王国と言っていたが、これじゃあまるで……子供向けのテーマパークだ。
「電幻機塊コンセントロールを通常召喚!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/攻100
現れるのはコンセントとその電源を組み合わせた、ピンク色の可愛らしいモンスター。
「自分フィールドの『機塊』モンスター、コンセントロールを対象として手札の複写機塊コピーボックルの効果を発動! このカードを手札から特殊召喚し、この効果で特殊召喚したこのカードはエンドフェイズまで、コンセントロールと同名カードとして扱うです!」
今度はハンディのバーコードリーダーのような姿のモンスター。フィールドにいるコンセントロールの姿を複写、印刷。それをぺたりと頭部に貼り付ける。
《複写機塊コピーボックル》
星1/守0
「コンセントロールが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドに他の『電幻機塊コンセントロール』が特殊召喚されたことで、デッキから新たなコンセントロールを特殊召喚するです!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/守100
これでフィールドには電幻機塊コンセントロールが2体、コンセントロール扱いの複写機塊コピーボックルが1体。
「現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター2体! オイラはコンセントロールとコピーボックルをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、充電機塊セルトパス!」
《充電機塊セルトパス》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左下/下】
リンク召喚されたのは二本の足がプラグのようになっている紫色のタコ型機械。だが、リンク先にプラグを繋ぐことができるモンスターはおらず、手持ち無沙汰にウネウネさせている。
「1ターンに1度、自分が『機塊』リンクモンスターのリンク召喚に成功したことで家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドの更なる効果を発動! 墓地のコンセントロールを手札に! そしてフィールドに『機塊』モンスターがいるため、さっき手札に加えたコンセントロールを効果で特殊召喚するです!」
《電幻機塊コンセントロール》
星1/守100
「リンクモンスター以外の自分のモンスターがリンクモンスターとリンク状態になっているため魔法カード、クロス・リンケージ・ハックを発動。オイラはデッキから2枚ドローするです」
コンセントロールが特殊召喚した場所はセルトパスのリンク先。だが、セルトパスはそのプラグを繋ごうとする様子は見られない。となると、真に繋がるモンスターとは。
「もう一度現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター1体! オイラはコンセントロールをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、洗濯機塊ランドリードラゴン!」
《洗濯機塊ランドリードラゴン》
Link1/攻1500
【リンクマーカー:上】
「二度あることは三度ある! 現れろ! オイラを導くサーキット! 召喚条件は『機塊』モンスター1体! オイラはもう1体のコンセントロールをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク1、乾燥機塊ドライドレイク!」
《乾燥機塊ドライドレイク》
Link1/攻0→1000
【リンクマーカー:右上】
洗濯機とドライヤー。リンク1の機塊達はどれもセルトパスと相互リンク状態となるようにリンク召喚された。
「ドライドレイクはリンク状態の時、攻撃力が1000アップするです。……それじゃあ、ゴミ掃除第一歩スタート! 永続魔法、禁止令を発動!」
「っ!?」
発動したのは予想外すぎる永続魔法。宣言されたカードの発動・使用などを封じるという、対戦相手の情報が揃ってからこそ十全に使える効果。
だが、グラドスのデッキに採用されているカードの一部――サイバー流のことは既に広く知られている。
「オイラの国にいらないゴミは――キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」
宣言されたのはサイバー・ドラゴンを素材に指定された融合モンスター。絶妙に特徴を捉えられていない、子供の描いたようなイラストのビラがエレクトリリカル・ワールド中に貼られまわる。
――キメラテック・フォートレス・ドラゴンを指定しての禁止令。かのモンスターは自分・相手フィールドにいるサイバー・ドラゴンと機械族モンスター1体以上を墓地に送ってエクストラデッキから特殊召喚できる、特殊なモンスターだ。
ここまで露骨に使用を嫌がられるとなれば間違いない。『機塊』モンスター達は機械族!
「カードを1枚セットして、ターンエンド、です!」
ロボッピが使用していないエクストラモンスターゾーンの列にカードがセットされる。
……『機塊』は恐らくライトニングにより用意されたカードのはず。ライトニングにより量産されたビットとブートでさえサイバース族を使用していたのに、ライトニングが直接攫って洗脳したロボッピがサイバース族使いではないのは少々気になる。
「私のターン、ドロー。通常魔法、エマージェンシー・サイバーを発動。デッキから『サイバー・ドラゴン』モンスター、サイバー・ドラゴン・コアを手札に」
気にはなるが、それで手を誤ってはならない。堅実にカードを揃える。
「手札のサイバー・ドラゴンを捨て手札のサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果発動、自身を特殊召喚! そしてネクステアの効果により、墓地に送ったサイバー・ドラゴンは蘇る。この効果の発動後、私は機械族のモンスターしか特殊召喚できない」
《サイバー・ドラゴン・ネクステア》
星1/守200
《サイバー・ドラゴン》
星5/攻2100
フィールドに並ぶ2体のサイバー・ドラゴン。グラドスは天に手をかかげる。
「出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は『サイバー・ドラゴン』を含む機械族モンスター2体! 私はサイバー・ドラゴン・ネクステアとサイバー・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》
Link2/攻2100
【リンクマーカー:左/下】
リンク特有の青い光を放つサイバー・ドラゴンがエクストラモンスターゾーンに召喚された。リンクマーカーはメインモンスターゾーンを向いているため、あと1体エクストラデッキからの特殊召喚を可能とする。
「サイバー・ドラゴン・コアを通常召喚。召喚に成功したので効果でデッキから罠カード、サイバネティック・オーバーフローを手札に」
《サイバー・ドラゴン・コア》
星2/攻400
「通常召喚されたモンスター、サイバー・ドラゴン・コアをリリースして手札から
《
星5/攻2050
サイバー・ドラゴンではないが機械族でレベル5のモンスター。機械製の巨鳥は一鳴きし、効果を発動する。
「
《サイバー・ドラゴン・ドライ》
星4/攻1800
「サイバー・ドラゴン・ドライが召喚に成功した時、自分フィールドの全ての『サイバー・ドラゴン』のレベルを5にする。――レベル5の
《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》
ランク5/攻2100
ズィーガーのリンク先に呼び出されるはエクシーズの黒があしらわれた装甲と機械翼を持つサイバー・ドラゴン。
「オーバーレイユニットを1つ使用し、墓地のサイバー・ドラゴンを対象にノヴァの効果を発動! 対象のモンスターを特殊召喚する!」
「そうはさせないです! カウンター罠、
ロボッピが伏せていたカードからバチバチと電撃が照射され、サイバー・ドラゴン・ノヴァの回路に負荷を与え……機械竜は耐えきれず爆発する。
「インフィニティを警戒して、ですか……相手の効果で墓地に送られたことでノヴァの効果が発動。エクストラデッキから機械族の融合モンスターを特殊召喚する! 来なさい、重装機甲 パンツァードラゴン!」
《重装機甲 パンツァードラゴン》
星5/守2600
爆発の中から姿を見せるのは新たな機械の竜。キャタピラを回し、砲塔でもある竜の首をぐるりと回し威嚇する。
「さて、どうしましょうか」
ロボッピのフィールドには効果不明のリンク2とリンク1のモンスター達。狙うべきはリンク1か、リンク2か。パンツァードラゴンを壁として用意できた今、ダメージを与えるのを急ぐ必要はない。ならば。
「バトルフェイズに移行! ズィーガーの効果を自身を対象に発動し、攻撃力を2100アップする。この効果の発動後、ターン終了時までこのカードの戦闘によるお互いの戦闘ダメージは0になる」
《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》
攻2100→4200
それは相手が攻撃力を上げる効果を持っている場合に対しての万が一の備え。ダメージよりも確実に戦闘破壊することを優先し、ズィーガーの攻撃力を上昇させる。
「ズィーガーでセルトパスに、」
「馬鹿ですね、セルトパスはリンク状態の時、攻撃対象にも相手の効果の対象にもならないんでーす!」
「……ならば、ドライドレイクに攻撃する! エヴォリューション・アゲインスト・バースト!」
リンク状態のため攻撃力1000になっているが、ドライドレイクの元々の攻撃力は0。リンク状態が絡んだ他の厄介な効果を持っている可能性は高いため、今のグラドス内で、という前置きは必要になるが処理の優先順位はランドリードラゴンよりもドライドレイクの方が上となった。
ズィーガーは鎌首をもたげ、口腔を敵に向けて開く。普段よりも強まった光が、光線の形で発射される。
「セルトパスの相互リンク先の『機塊』モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、セルトパスの効果が発動するです! ダメージ計算時のみ、ドライドレイクの攻撃力はセルトパスと相互リンクモンスターの数×1000アップ。相互リンクしているモンスターは2体いるため2000アップして合計の攻撃力は3000になるです! タコチャージ!」
《乾燥機塊ドライドレイク》
攻1000→3000
セルトパスのプラグ足がドライドレイクのしっぽコンセントに繋がり、エネルギーが供給される。攻撃を返り討ちにするべく駆動音は大きくなる。翼から放出される熱風はその熱さを増す。
だが、攻撃力は足りない。戦闘破壊されてしまう。
「『機塊』モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札の遮断機塊ブレイカーバンクルを捨てて効果発動! その戦闘では破壊されないです!」
手札のモンスターの効果で戦闘破壊を防ぐ。ズィーガーの効果で戦闘ダメージは互いに無し。
「……ふむ、『機塊』はモンスターとの戦闘を意識した効果が多いのでしょうか? メインフェイズ2、カードを2枚セットしてターンエンド」
先のターンのロボッピと同様に伏せられる2枚のカード。
グラドスの手札はこれで0枚。対するロボッピも、先ほど手札からモンスター効果を使用したため0枚。
「オイラのターン! ドローです!」
「罠カード、サイバネティック・オーバーフロー発動! 墓地のネクステア、ドライ、コアの3枚を除外。その後、除外した数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する!」
ドローしたカードが何なのかは分からない。だからこそ、今相手のフィールドにある厄介なカードを破壊するべきだとグラドスは動いた。
サイバネティック・オーバーフローによる指定は相手フィールドのカードを選んで、のため、リンク状態で効果の対象にならないセルトパスでも問題なく指定はできる。
「私が選ぶのは充電機塊セルトパス、乾燥機塊ドライドレイク、家電機塊世界エレクトリリカル・ワールドの3枚」
「ぐうっ……! 『機塊』モンスターが効果で破壊される場合、墓地のブレイカーバンクルを代わりに除外できるです!」
その身に秘めた力を限界まで稼働させるサイバー・ドラゴン達。墓地から除外へ。発せられる青い稲妻が広場の中心に落ち、四方へと広がる。機塊モンスター達は薄いバリアのようなものに覆われているため無事だった。
だが、ブレイカーバンクルが身代わりになれるのはモンスターだけ。フィールド魔法を守ることはできない。
「あ……ああ……オイラの国が……!」
ひび割れていく。壊れていく。目が揺れる。キラキラした光は消え、残るのはそこにあった、という記憶だけ。
「除外されたサイバー・ドラゴン・ドライの効果をサイバー・ドラゴン・ズィーガーを対象に発動。このターン、ズィーガーは戦闘・効果で破壊されなくなります」
相手のカードを破壊しつつ自分のモンスターの場持ちも良くする一石二鳥。
冷静にデュエルを進めるグラドスと対照的に、ロボッピには怒りが満ちていく。
「よくも……よくも! よくもぉ!! バトルだ! ランドリードラゴンでサイバー・ドラゴン・ズィーガーに攻撃! セルトパスと相互リンクしているため、ランドリードラゴンの攻撃力は3500に上昇する!」
「ズィーガーの効果を自身を対象に発動! 攻撃力は4200に!」
「うるさい、うるさいぃっ!! 手札から速攻魔法ハーフ・シャット発動! ランドリードラゴンの攻撃力をターン終了時まで半分にし、戦闘破壊耐性を得る!」
《洗濯機塊ランドリードラゴン》
攻1500→3500→1750
ランドリードラゴンの方が攻撃力は下だが、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの効果を使ったことで互いに戦闘ダメージは受けない。
それよりロボッピにとって重要なのは、バトルを行なった事実。
「相互リンク状態のランドリードラゴンの効果! 相手モンスターと戦闘を行ったダメージ計算後、その相手モンスターを除外する! 消えろ、ズィーガー!」
サイバー・ドラゴン・ドライの効果で得た耐性では除外からは守れない。ランドリードラゴンの洗濯槽から発射された水がズィーガーをフィールドから押し流す。
ふう、ふう、と肩で息をする。
「残るのはパンツァードラゴン……でも」
ドライドレイクで攻撃すれば破壊することはできる。
が、破壊した場合パンツァードラゴンの効果が発動、こちらのカードが破壊される。そうなれば今度こそ禁止令が狙われるだろう。
キメラテック・フォートレス・ドラゴン――フィールドのサイバー・ドラゴンと機械族を墓地に送り現れる融合モンスター。自分だけでなく相手の機械族も利用することができる、機械族の天敵。
「……バトルフェイズを終わってメイン2、ドライドレイクをリンク素材にして、リンク1の扇風機塊プロペライオンをリンク召喚する」
数秒の思案。ロボッピは攻撃しないことを選んだ。
《扇風機塊プロペライオン》
Link1/攻1200
【リンクマーカー:上】
リンク召喚されたのはタテガミが扇風機のプロペラになっているライオン。セルトパスとは非相互リンク状態。セルトパスによる攻撃力の強化よりも優先する効果を持っている、ということだろう。
「……カードを1枚セットしてターンエンドです。ハーフ・シャットの効果は終了し、ランドリードラゴンの攻撃力は元に戻る……」
互いに一度ずつバトルフェイズを行ったが、どちらもライフは残り4000のまま。
「私のターン、ドロー。重装機甲 パンツァードラゴンをリリースしセットしていた表裏一体を発動。そのモンスターと元々の種族・レベルが同じで、元々の属性が異なる光・闇属性モンスター1体を手札・エクストラデッキから特殊召喚する。――光は反転し闇を呼ぶ! エクストラデッキよりキメラテック・ランページ・ドラゴンを特殊召喚!」
《キメラテック・ランページ・ドラゴン》
星5/攻2100
残り1枚の伏せていたカードを発動させ、グラドスは守勢から攻勢に転じる。
「キメラテック・ランページ・ドラゴンの効果を発動。デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送る。私は
荒ぶる双頭がデッキから墓地へと二つの光を引きずり落とす。
墓地に
「手札の
《
星1/守0
眩い閃光と共にかけ参じたのは、六本脚と緩くカーブを描く双角、獣のようなシルエットの機械。
「フィールドのルタ
「セットしていた速攻魔法、相乗りを発動! お前がドロー以外の効果で手札にカードを加える度にオイラは1枚ドローする!」
《
星1/守0
ルタ
デッキから儀式モンスターのサーチを行い、儀式召喚に必要となる一つを揃えるグラドス。残るはリリースするモンスターの用意と儀式魔法だが――。
「手札の儀式モンスター、
《
星1/守0
「儀式モンスターをリリースした……? 相乗りの効果でドロー」
せっかくの儀式モンスターをリリース――墓地に送るという普通の儀式召喚をするならば起こり得ない展開。
現在のグラドスの手札はサーチした儀式魔法1枚のみ。カードが被ってしまったのでコストに使った、というわけではない。なら墓地から回収できるカードが……? ロボッピは困惑しつつも注意深くグラドスの展開を見る。
「フィールドのアル
《
星1/守0
これでグラドスの手札は2枚。フィールドにはキメラテック・ランページ・ドラゴンと2体の
「儀式魔法、
「なっ……攻撃力を参照する上に墓地からの儀式召喚だと!?」
「私は攻撃力2000のバン
《
星12/攻4000
二体の
十二の光柱が立ち昇り、大きな一つへと纏まり――ドライトロンのエースが現れる。
双翼を広げ、双腕のブレードを振るい、双盾を備え、双脚は地に着けず。宇宙を舞う竜機は、ここに降り立った。
「超電磁タートルを通常召喚――出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は光・闇属性モンスター2体! 私はキメラテック・ランページ・ドラゴンと超電磁タートルをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、閃刀姫-アザレア!」
《閃刀姫-アザレア》
Link2/攻1500
【リンクマーカー:左上/右下】
リンク召喚されたのは閃刀姫リンクモンスターでありながら装甲ではなく、黒の戦闘用スーツに身を包んだ閃刀姫。グラドスへ向ける視線にはどこか嫌悪の色が見えるが、その理由を知るものはここにはいない。
「アザレアが特殊召喚した場合、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。私はランドリードラゴンを対象にし、破壊する!」
身代わり効果を持つブレイカーバンクルはもう墓地にいない。アザレアは一気にランドリードラゴンまで距離を詰め、一刀両断する。
「その後、自分の墓地の魔法カードが3枚以下の場合、このカードを墓地へ送る。ですが、私の墓地に魔法カードは4枚あるため、アザレアは破壊されない」
グラドスの墓地にある魔法カードはエマージェンシー・サイバー、表裏一体、
「墓地の表裏一体を除外し、墓地の光・闇属性モンスター、パンツァードラゴンとキメラテック・ランページドラゴンを対象として発動。そのモンスター2体をデッキに戻してシャッフル。その後、デッキから1枚ドローする。自分フィールドのモンスターが機械族の効果モンスター2体のみのためアイアンドローを発動。デッキから2枚ドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで私は1回しかモンスターを特殊召喚できない。手札のレベル10モンスターを墓地に送り、
息をつかせぬ連続ドロー。目当てのカードを引き当て、グラドスは思わず声を上げる。
「メテオニス=DRAとプロペライオンを対象に、速攻魔法
《
攻4000→3000
攻撃力の一部を圧縮し、胸部から照射。ビームに貫かれたプロペライオンは破壊される。ロボッピに残るのはセルトパスのみ。
「ぐっ……! 相互リンクではないプロペライオンが破壊されたので、セルトパスの効果で1枚ドロー!」
無力になったセルトパスを睨むアザレアと見下ろすDRA。グラドスはさらにモンスターを増やすべく、墓地からフィールドへとカードを出す。
「デュエル中に相手が手札か墓地のモンスターの効果を使用していた場合、このモンスターは墓地から特殊召喚が可能。来い、
《
星10/攻3000
先にフィールドにいる2体と比較するとどこか造りに古さを感じる機械の竜。だが、大きさはメテオニス=DRAに匹敵するほど。熱により何度も稼働するピストンとシリンダーの音を響かせ、大地へ足を踏み進める。
「
ロボッピはデュエルの最初のターン、手札にいたモンスターの効果を使用している。特殊召喚に問題は無い。
アイアンドローの制約によりグラドスは特殊召喚をこのターンもう行えないが、ロボッピを倒すには十分な火力が揃った。
「アザレアでセルトパスに攻撃! ダメージステップ開始時に墓地の魔法カード、エマージェンシー・サイバーを除外してアザレアの効果発動! そのモンスターを破壊する!」
ロボッピは効果を説明する時に確かに言っていた。
ブレイカーバンクルを手札から捨て、効果を発動できるのは戦闘を行う
もしブレイカーバンクルを相乗りでドローしていたとしても、まだ効果を使うことはできず、そのため墓地に用意することもできない。つまり効果による破壊から守ることはできない。この破壊は――通る!
アザレアは魔法カードを糧とした斬撃を飛ばし、セルトパスを切り裂く。
「
「ぐっ……直接攻撃宣言時に手札の速攻のかかしを捨てて効果発動! その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」
「む、そう来ましたか。バトルフェイズ終了……ですが1ターンに1度、相手がモンスターの効果を発動した場合にカルノールの効果は発動が可能。このカードの攻撃力は1000アップします」
《
攻3000→4000
「カードを1枚セットしてターンエンド」
ふう、と息を吐く。高い攻撃力のモンスターを複数と墓地に超電磁タートルが用意できたことの安心感は大きい。機塊は戦闘を中心にした戦術をしているため、バトルフェイズを終わらせることのできる超電磁タートルはよく効くはずだ。
ロボッピは相乗りによるドローとセルトパスの効果によるドロー、そして速攻のかかしを使用したことで手札は2枚。次のターンのドローで3枚になる手札から動くことは十分可能だろう。油断はできない。
「…………?」
グラドスは確かに相手へ聞こえるようにターンエンド宣言をしたが、ロボッピはドローをまだしていない。頭を押さえ、何かに苦しんでいる。
「まさかっ、ロボッピ!!」
「オイラ……オイ……オ、レの……世界の大掃除、ゴミ……ご主人様は! 違う、違わない、ああ、門が、すぐそこに……!」
ロボッピの頭からばちり、と一際大きなスパークが起きた。
知る者はライトニングただ一人。
ロボッピが真に望んでいたものは、
本当はすぐ側にあったはずだった。
相対するグラドスは、デュエルの終わりだけを望む。