ガンについて触れた番外編投稿後の禁止制限改定発表でガンが帰ってくるというミラクルが起きて「!?」ってなった作者です。そんなことある?
リボルバー――鴻上了見から突然の着信。何事かと問い正せばブラッドシェパードにヴァンガードの正体を明かした、とのこと。傍で話を聞いていた遊作も流石に硬直してしまった。
「えっ?」
『……すまない』
「えぇ……流石にそんなことされたら出るとこ出ますよ?」
「……犯罪者同士の裁判ってどうなるんだろうな」
そんなこんな重大事件の発生が明らかになったキッチンカーカフェ・ナギ、現在スターダストロード前に出店中。関係者以外いない貸切状態の席で穂村尊はぽつりと呟く。
「はいそこうるさい。明かすにもタイミングとかいろいろあるから考えてたのにぃ……」
葵ちゃんの件でこれからは正体バレに注意しよう! と思っていた矢先にこれはあんまりにもあんまりではなかろうか。
「ところで誰が提案したの? 他人の正体を明かす、って一人で決心できるはずがないと思うんですけども」
『私が推奨しました』
申し訳なさそうな了見と正反対に堂々とした態度で会話に参加するパンドール。ハノイの騎士幹部達にもちゃんと受け入れてもらえているらしく、肩身が狭そうな感じは一欠片も見えない。
「聞きましたか今の発言を! これこそ邪悪なAIですよ!」
Ai達と同じようにデュエルディスクから出てきた小さめサイズのグラドスがぶんぶん手を振って興奮をアピールしつつ、パンドールをサゲていく。
『大衆の未来のことを考えた上での判断をしたのに個人の感情で邪悪、と呼称するとは。やはり回路に不具合のあるポンコツなんですねエセイグニスは』
「ふふふ」
『うふふ』
……わ、笑い声が怖い。このままだと喧嘩をおっ始めそうな予感がひしひしする。
「それはそうと! それ知ったブラッドシェパードは今どうしてるんですかね!」
グラドスの頭を手で押しデュエルディスクに沈め無理やりの話題転換。助かった、という感情を滲ませながら了見は言った。
『そちらに向かっている』
「はい?」
今どうしているのかに対しての答えがそちらに向かって? 草薙さんと顔を見合わせた後、即座に通話を切断する。イグニス達も慌てて隠れだす。
バラされたのは私の正体だけであるため、オリジン2人はキッチンカーの中へ乗り込み制服の上着を急いで脱ぎエプロンを着用。ヴァンガードのことなど何も知らない一般男子高校生バイトに変身した。……相変わらず遊作君の顔が硬いのは気にしてはいけない。
「つか最後のこっちに来てるってのお茶目な冗談だったりしなぁーい?」
「組織のトップだった人がそんなタチの悪い冗談はやらないでしょうよ」
「黙ってろAi」
「そうだぞ、黙るのだAi」
「遊作ちゃんはいつものなんだけど不霊夢には言われたくねえ〜! ……へーいAiちゃん大人しくしまーす」
ぶうぶう文句を言いながらも身の危険が迫っているのは事実なのでAiは素直に従った。
――地に響くバイクの排気音。静かな、悪く言えば繁盛していないカフェ・ナギからはとても目立つ音。人の往来の邪魔にならない所に停車し、男はこちらへと歩いてきた。
サングラスにマフラー、徹底して自身の個人情報を隠そうとしているどこからどうみても怪しい風貌の長身の男性。皆は男のことを知らないが、私は知っている。
「……け、ケンさん?」
詩織が彼の決めた偽名で呼びかけたが彼は返事をせず、まずは周囲を確認する。
「あ、あのう?」
「ヤツはいないのか。謝罪は直接顔を合わせてするべきだと思うのだがなリボルバー……まあいい」
男は額に手を当てはあ、とため息をつく。
このまま店の前で何も頼まず会話を続けるのは不自然だろうと思ったのか、コーヒーを注文して男は席に座る。その様子をブラッドシェパードによりトラウマを抉り返された穂村君はじっと見ていた。
店員が客のことをずっと見るのは不快感を与えてしまうからやめるよう視線で訴えかける。が、穂村君はケンさんが何かしでかさないかと警戒しているためこっちには気が付いていないようだ。
「…………」
穂村君からの視線を自分がいかにも怪しい風体だから目でずっと追っていると判断したのか、顔の下半分を隠していたマフラーをずらす。……口元が見えるようになるもサングラスのせいでまだ不審者感は消えていない。
サングラスの奥にある目が私を見ている。
「えー……何と言いますか……騙していてすみませんでした!」
「隠している事をどこの誰とも知れない人間に対して素直に言えるはずがないだろう。その点について謝る必要はどこにもない」
あれ、なんかやっぱり私に甘いな? というか、あっさりと正体バレについてのアレソレが終わってしまった。
これはこれで困る。どうしよう。取り敢えずは今知らないといけないことを尋ねていくとしよう。
「私のアレソレ聞いた後に仲間にならないかって誘われなかったんです?」
「情報の管理がなってない組織の下に付くなど御免だな。俺は俺のやりたいように動かせてもらう」
……リンクセンスでグラドスがひっそりとパンドールを煽っているような気配を察知。
「イグニスを捕獲してSOLに持って行こうとか考えてるなら私は貴方の敵になりますが」
「AIへの嫌悪は無くなった訳ではないが、一銭にもならない無駄な戦いなどする価値もない。……奴等、イグニスを捕獲、解体しその技術を得た後にSOLに従順である新たなイグニスを作ろうとしていたんだぞ」
リンクセンスでイグニス達がざわついたのを察知。SOLがバウンティハンターを解雇していなければ、鬼塚とのデュエルで敗北した地のイグニス、アースはきっと死んでいた――。
「そんな特大の機密情報、財前さんから教えてもらったんです?」
「いやSOLのデータバンクにハッキングした」
「何やってるんですか」
「それはお互い様だ。お前、俺にエマをけしかけるように財前に提案しただろう」
「な、気付いてたんですか!?」
男はフッ、と笑う。
「…………カマをかけただけなんだが」
「おう」
完全なる墓穴。両手で顔を隠す。
「…………鬼塚さんには後でちゃんと時間作って自分から明かそうと思います……いろいろと」
「それがいいだろう」
男はコーヒーを飲む。少しの間だけ、会話は途切れる。
「
「名前だけですね。結局なんなんですかアレ」
「SOLが現在開発している世界初の人型アンドロイドのことだ。人間を必要とする業務ほぼ全ての代替を目標としているため、一見して
強調したその言葉からは、どこか不穏なものを感じた。
「イグニスはネットワークでは無双できる存在だが現実への直接的な対抗手段は限られている。それを解決するために現実で行動可能な体を作らせた……というところだろう」
陰謀論にも聞こえる仮説に対し反論する。
「SOLはこれまでも家庭用を中心にアンドロイドを発売しているじゃないですか。そのノウハウを活かしてさらに高性能のアンドロイドを作っている、だけかもしれませんよ? イグニスが絡んでいると断言できる理由は?」
「その疑問も最もだ。俺が先程伝えたのは他企業への営業資料を見ればすぐわかる事のみだ。――更に踏み込んだ社外秘の資料についてをハッキングしようとしたが、データバンクよりも防衛が手厚かった。更に言えばイグニスアルゴリズムが使用されていた。故にイグニスが絡んでいる事案だと俺は判断した」
何やろうとしてるんですか、というツッコミは出来なかった。本当にイグニスが絡んでいるとすれば、
「気を付けておけ、奴らは現実でも事を起こせる手筈を整え始めた」
「なんでEMP兵器が必要になる可能性が出てくるんですかぁ……」
「文句はイグニスに言え。最後に、『自動車の自動運転システムをハッキングし、高校生に重傷を負わせる事故を起こしたとして17才の少年が逮捕された』……覚えているだろう?」
「忘れる方がおかしいでしょう」
その事故の被害者は私。ハノイの騎士に入るきっかけとなった事故だ。
「あの後、少々きな臭くなってきた」
「どういうことですか」
身を乗り出す。テーブルが揺れる。
「当初は自供し捜査に協力的だった犯人が突然否認し始めた。文字通り人が変わったようにな。その翌日に犯人の意識が無くなった。原因は不明。回復の兆しはない。まるでアナザー事件のようだろう」
「っそんなこと!」
強い感情を叩きつけるように叫ぶ詩織に落ち着け、と男は冷静に対処する。
「ハノイの騎士、それもヴァンガードが今更そんな行動をするはずがないのは分かっている。俺が気にしているのは否認してすぐに意識を失った、という点だ。――余計な事を言う前に口を封じた、としか見えない」
最後に告げたその言葉は、今上詩織に対してのみ効果を発する、特大の威力を持っていた。
「今上詩織、お前が巻き込まれた事故はまだ解決していない」
まあ、記憶の欠落したアレに用は無い。
私が資格を、鍵を、力を手に入れるために
最適な体はすでに目を付けている。
邪魔者もいるが、それは少し待てば消える。
すべては、私の野望のために。
今回の次回予告にはwhite river様作の文字化け風フォントを使わせていただきました。ご安心ください、ちゃんと読める文章です。