喜びの32×32ドット絵クラッキング・ドラゴン。……ちょっと荒い。
信じられるはずがない。信じたくない。迷いを振り切ろうとDボードの速度を上げる。だが、迷いとはスピードで切り離せるものではない。
……ハノイの騎士から与えられた情報は正確であり改変された痕跡も無かった。考えても無駄だと分かっていながら、それでも、もしも、と考えてしまう。
それにしても、元だとはいえハノイの騎士を仲間にした、など何故闇のイグニスは許せたのか。しかもその人物はハノイの騎士へ助力を求め、リーダーであるリボルバーはそれに応えた。未だにハノイの騎士と強い繋がりがある以上、行動を共にするなど出来るはずがない。
不器用な彼が折衷案など思いつくはずもなく、アースは一人で何とかしようと誰の助けも借りずアクアを探すことにした。
探知されても構わないという捨て身の連続スキャンにより檻に囚われていた水のイグニスを発見、解放することに成功。アクアを連れてアースはリンクヴレインズの空を行く。
目的地は無い。ただ人に見つからない場所へ、それだけを胸にDボードを走らせる。
「……無理を、していませんか。ひどく悩んでいるように見えます」
アクアが心配するのも無理はないだろう。アースはプレイメーカーらより知らされた真実を全てアクアへ教えるべきか否かを悩んでいた。
ライトニングは人間へと宣戦布告した。アクアの性格からすれば、ライトニングの下には行かず人間を守るため戦おうとするだろう。……そうすれば、今以上の危険に晒されることになる。
「……いいや、アクア。これは君が気にすることではない」
彼女が余計な心配をしないでもいいように、自分が何としてでも守らねばならない。
そう気を引き締めた時、声をかけられた。
「――お前がイグニス、か」
そこには一人の戦士がいた。
カリスマデュエリストとして活動していた頃の体格のまま、道を違えそうになっても踏み外すことなく、自分のあるべき姿を保った戦士――Go鬼塚。
「ッ!」
最善の行動を計算するよりも先に手が動いた。優秀なAIらしからぬ、心を持つが故の人間らしい行動。
「アクア、君だけでも!」
「アース!?」
急に突き飛ばされたアクアは反射的に手を伸ばしたがアースには届かず、リンクヴレインズ内に働く重力へ従い下へ下へと落ちていく。
行き着く場所がどうか安全であるように。その願いが届いたのか確認する暇はない。
「悪いがお前を捕獲させてもらうぞ」
「私の名前はお前ではない。地のイグニス、アース、どちらの名で呼んでもらっても構わない」
「……そうかい、アース」
ここで逃げることは可能だ。だが、自分が逃げれば無防備なアクアが追われてしまうだろう。時間稼ぎをする必要がある。
「覚悟はできてるんだろうな?」
「言われるまでもない」
「……俺の先攻か」
4枚の手札を見る。ダイナレスラーは先攻での展開に向いている、とは言い難い。だが、守備表示のモンスターを出すだけでターンを終えるのはやめておけ、と頭の片隅で警鐘が鳴る。かつてハノイの騎士が滅ぼそうとした力を持つ相手に出し惜しみをする方が危険だ。
己の直感を信じ、鬼塚はカードの効果を使用する。
「手札の恐竜族モンスター幻想のミセラサウルスを墓地に送り、手札からダイナレスラー・イグアノドラッカを特殊召喚!」
《ダイナレスラー・イグアノドラッカ》
星6/攻2000
「さらにフィールドに
《ダイナレスラー・エスクリマメンチ》
星6/攻2200
「墓地の幻想のミセラサウルスを除外して効果発動! 除外した枚数と同じレベルを持つ恐竜族モンスター――レベル1のダイナレスラー・マーシャルアンペロをデッキから特殊召喚する!」
《ダイナレスラー・マーシャルアンペロ》
星1/攻600
モンスターゾーンに並ぶ3体の恐竜。遥か古代の戦士達は敵対する小さな決闘者を威嚇する。
「現れろ、不屈のサーキット! 召喚条件は『ダイナレスラー』モンスター2体! 俺はイグアノドラッカとマーシャルアンペロをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、ダイナレスラー・テラ・パルクリオ!」
《ダイナレスラー・テラ・パルクリオ》
Link2/攻1000
【リンクマーカー:上/左】
現れたのは装飾をほとんど身に付けておらず、攻撃力も1000と心許ない恐竜。だが、彼に求められているのは戦闘能力ではなく次へと繋ぐ力。早く場を整えろ、と唸りを上げる。
「スキル、ダイナレッスル・レボリューションによりデッキからフィールド魔法ワールド・ダイナ・レスリングを直接発動する! さらにワールド・ダイナ・レスリングが発動したことでテラ・パルクリオの効果が発動! 墓地のダイナレスラー・マーシャルアンペロを手札に加える」
ダイナレスラーの戦う舞台の出現に呼応し、
次の出番に向けて
「再び現れろ、不屈のサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は『ダイナレスラー』モンスター2体以上! 俺はリンク2のテラ・パルクリオとエスクリマメンチをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、ダイナレスラー・キング・Tレッスル!」
《ダイナレスラー・キング・Tレッスル》
Link3/攻3000
【リンクマーカー:左下/下/右下】
リンク素材となったテラ・パルクリオの、墓地にいるダイナレスラー1体を効果無効にし守備表示で特殊召喚する効果は――使わない。
「カードを1枚セットしてターンエンドだ」
ダイナレスラーにその戦闘での破壊耐性とダメージを半減するマーシャルアンペロが手札に。また、ワールド・ダイナ・レスリングがある限り、相手はモンスター1体のみでしか攻撃できない。
攻撃力3000、この壁をどう突破するのか。鬼塚は相手の様子を見る。
「私のターン。ドロー」
デュエルディスクを装着した木製のヒトガタがアースの動きをなぞるように動く。
「手札のGゴーレム・ペプルドッグを捨て、手札のGゴーレム・ロックハンマーの効果発動。ロックハンマーのレベルを6から4に変更する。また、手札から墓地へ送られたペプルドッグの効果でデッキより
奇しくも鬼塚と同じく上級モンスターを使用した展開から始まる。
「レベルの下がったロックハンマーを通常召喚!」
《Gゴーレム・ロックハンマー》
星6→4/攻1800
「ロックハンマーをリリースし効果発動。フィールドにGゴーレムトークン3体を守備表示で特殊召喚!」
《Gゴーレムトークン》
星1/守0
「流石サイバース、もうリンク3を出せる準備を整えやがったか」
瞬く間にフィールドにモンスターが増える。鬼塚がこぼした言葉には苛立ちなどのマイナス感情は含まれていない。彼の中にはプレイメーカーへの一方的な敵対心も妬みももう無いのだ、と上がった口角が示している。
「現れよ、大地に轟くサーキット! 召喚条件は地属性モンスター2体! 私はGゴーレムトークン2体をリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、Gゴーレム・スタバン・メンヒル!」
《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》
Link2/攻1500
【リンクマーカー:上/下】
現れたのは幾何学模様が刻まれた巨石。リンク召喚しただけではまだ効果を十全に発揮できないリンクモンスターだが、秘めた力は更なる展開を可能にするほど大きい。
「再び現れよ、大地に轟くサーキット! 召喚条件はサイバース族モンスター2体! 私はスタバン・メンヒルとGゴーレムトークンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、Gゴーレム・クリスタルハート!」
《Gゴーレム・クリスタルハート》
Link2/攻0
【リンクマーカー:左/下】
アースが召喚したのは先ほどまで操っていた岩石塊風のサイバースとは全く異なる、水晶を思わせる美しい輝きのモンスター。
「……何? リンクモンスターを召喚して即リンク素材にしただと?」
リンク3を出せる状況であったのにリンク2の特殊召喚。普通ならアドバンテージを失う行為だ。だが、ここまで澱みなく展開してきた決闘者がここ一番という時に手を誤るはずがない。鬼塚の疑問に対する解答はすぐに目の前で披露される。
「クリスタルハートの効果で墓地の地属性リンクモンスター、スタバン・メンヒルを自身のリンク先に特殊召喚し、クリスタルハートにGGカウンターをひとつ追加する」
《Gゴーレム・クリスタルハート》
GGカウンター 0→1
墓地から蘇るスタバン・メンヒル。それと同時にクリスタルハートの中央部にひとつ光が灯る。
「クリスタルハートと相互リンクするモンスターの攻撃力はGGカウンターの数×600上昇し、相手の守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が上回った分だけ戦闘ダメージを与えることができる。さらにバトルフェイズに2回攻撃が可能となる」
《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》
攻1500→2100
顔には出さないが、最初のターンに様子見としてモンスターをセットしただけで終わらせなくて正解だったな、と鬼塚は安堵する。
ダイナレスラー達の守備力は全て0。貫通効果を得たモンスターの攻撃を受けることはダイレクトアタックと同等のダメージを受けてしまうことになる。
「なるほどな、クリスタルハートの力で1体のモンスターをとことん強化してくるタイプのデッキってワケか!」
――強化の条件となる相互リンクの恩恵を得られるのはクリスタルハートのリンクマーカーより1体のみ。ワールド・ダイナ・レスリングによる攻撃可能なモンスター数の制限は効果が無いとみていいだろう。
「墓地から蘇ったスタバン・メンヒルの効果により墓地のロックハンマーを特殊召喚し――三度現れよ、大地に轟くサーキット! アローヘッド確認! 召喚条件は地属性モンスター2体以上! 私はロックハンマーとリンク2のスタバン・メンヒルをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン!」
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
Link3/攻2800
【リンクマーカー:上/左/右】
「クリスタルハートの効果により、インヴァリッド・ドルメンの攻撃力は600上昇する!」
《Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメン》
攻2800→3400
インヴァリッド・ドルメンが胸部に空いた穴へクリスタルハートを納める。何者であろうと彼女へ手出しをさせない、という主人の思いの現れだろうか。
「永続魔法、ゼロゼロックを発動。このカードがある限り、私のフィールドにいる攻撃力0のモンスターへ攻撃は不可能となる」
それは二重の守り。もし、万が一、インヴァリッド・ドルメンが消え去ったとしてもクリスタルハートには指一本触れさせはしないとアースは強く主張する。
「バトル! インヴァリッド・ドルメンで――」
「そのバトル待ってもらおうか! バトルフェイズ開始時にキング・Tレッスルの効果をクリスタルハートに対して発動する! このバトルフェイズで攻撃するのはそいつじゃなくてクリスタルハートだ!」
「無駄だ! インヴァリッド・ドルメンの効果により、自分フィールドの相互リンクモンスターはフィールドで発動したモンスターの効果を受けない!」
王者による指名もものともせず、愛する者のため動くゴーレムは拳を振り上げ――。
「ならこいつを使う! 罠カード、
《ダイナレスラー・キメラ・Tレッスル》
星8/攻3500
墓地の同胞を糧として呼び出されたのは巨大な頭骨をあしらった衣装が目を引くキング・T・レッスルとよく似たモンスター。
「いくらスタートステップでモンスターの数を増やしたところで、私がインヴァリッド・ドルメンで攻撃する対象はキング・Tレッスルから変更はしな……これは!?」
キング、キメラ・Tレッスル共にインヴァリッド・ドルメンを挑発する仕草を見せている。インヴァリッド・ドルメンはどちらを攻撃するべきなのか、振り上げた拳を下ろす先を見失っている。
――攻撃対象を選べない。
「Tレッスルらは共に
にい、と不敵に笑う鬼塚。……小さい頃、カテゴリ関係なく戦士族モンスターを集めたデッキを使っていた頃を思い出す。これは『切り込みロック』と呼ばれた戦術とほぼ同じことをTレッスルらで再現したもの。
「攻撃対象を縛るモンスターを並べることによる攻撃ロック。単純だが効果的な手だな」
盤面を確認したアースは少し悩むそぶりを見せる。
「……ふむ。このターン、私が出来ることはもう無い。ターンエンドだ」
そうは言うものの、アースの手札は3枚とまだまだ余裕がある。対する鬼塚の手札は1枚。それもダイナレスラー・マーシャルアンペロのみと判明してしまっている。
Gゴーレム・インヴァリッド・ドルメンは戦闘破壊しようと、アースのターンになればクリスタルハートの効果で蘇り攻撃力が増していく。
――だとしても。
「(攻めていくしかねえ)」
Tレッスルを並べたこの状態を維持し続ければ相手は攻撃できない。攻撃こそ最大の防御、と貫き通すしかない。
守るものを持つ男二人。その戦いは互いに一歩も引かぬまま続く。