どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

46 / 84
機巧新規発表!
》軍艦《
サイバー流ストラク新規発表!

……何か混じってないか……?
海外だと軍艦は名前がスシップになるそうで。

今回は人間がほぼ空気になる回です。なおサイバーストラク新規は今回のデュエルでは使いません。仕方ないね。


アイ・ヘイト・ユー

 ――宇宙。それは人類にとって未知の領域であり新たな可能性を見出そうと挑戦を続ける場所。宇宙開発は――

 

「了見様! 了見様!」

 

 違った。今は宇宙について考える場合では無い。

 己の傍にくっついて離れない謎のAIを引き剥がそうと、スペクターが絡み付いている腕を無理やり開こうと力を入れている。見た目以上にがっちりと組みつかれているようで、女性らしさ溢れる細腕はびくともしない。

 

「(あっ戻った。……で、ふわふわのあれって何だったの?)」

 

「(ふむ。……ふわふわ? シャーマン的トランス状態だったのでは? 精霊(カー)の強大な力に当てられたことで魔力酔いした、と予想します)」

 

「(魔力酔い? あれそんな単語あったっけ)」

 

「(彼の状態を表現する適切な言葉が予測に出てこなかったので今造語として作りました)」

 

「(そっかー)」

 

 オリジンとイグニスのリンクセンスによる繋がりをナチュラルに使いこなし脳内で直接会話を繰り広げる様はまごうことなく変人。というよりも、この状況で平静を保てているのはオカルト慣れしているこの2人だけなので誰もこのやり取りに気付ける状態ではなかった。

 

「…………はっ、申し訳ありませんお父様」

 

 両頬に両手、ほんのり顔を赤らめてあらやだ私ったらうっかりうっかり、みたいに照れ照れすること数秒。先程の行動が嘘に思えるほど凛とした顔になる。

 

「申し遅れました、私の名前はパンドール」

 

「パンドール……だと?」

 

 それはハノイの騎士が作った――正確には制作途中だった――AIの名だ。

 毒を持って毒を制す。サイバース族抹殺を掲げる彼がサイバース族であるトポロジックを使用したことを踏まえれば、対イグニスの為にイグニスと同様の意志を持つAIを作成するのは簡単に予想できた事。

 だが、ハノイの塔へと労力を割いたためパンドールの作成は途中で止まっている。プログラムが動くはずがない。これはパンドールの存在を知る何者かによる介入ではないか? と了見は思考する、が。

 

「これは……そう、お父様のお役に立ちたいという意志が成し遂げた奇跡です」

 

 現実逃避は全否定された。奇跡とは何だ。どうすればいいのだ。

 鴻上家の複雑な家庭環境を知ってか知らずかお父様発言を繰り返すパンドール。お父様と聞く度に微妙な表情になっている父親の事を気にしてあげてほしい。

 

「ふむ、リボルバーだったか。我らを滅ぼそうとしたお前がイグニスを作るとは……心境が変化した、というわけでもなさそうだが。ふむ、何を考えている?」

 

 ハノイの騎士が作り上げたAI。それだけでイグニスとしては警戒対象なのだが、それ以上にパンドールから滲み出る違和感。それは性格だとか見た目なんて誰にでもわかるようなものではない。人間の言葉にするならば空気感、とでも言うのだろうか。何かが確定的に違う。

 

「あ、ああ……パンドールは『人間に敵対行動を取らない』という条件の元に存在するように作った、対イグニス用のAIだ」

 

 理解不能なことばかりが周囲で起き続けた結果、頭から煙が出そうな了見が答える。なお情報処理に手間取られているためか、質問したのが自身が滅ぼそうとした存在である炎のイグニスとは気付いてはいない。

 

「それってつまり」

 

「思考を縛られている訳か」

 

 生まれながらにして制御されている、反抗することは許されない――その事実をパンドールが知っているのか知らないのか、の二択の答えは前者だ。イグニスに近い存在が自身を構成しているプログラムの配列と意味を知らない筈がない。

 あの白い部屋から逃げ出し、サイバース世界を作り自由に過ごす存在だったイグニスとしては想像もつかない牢獄。その中で満足できるパンドールはAiと不霊夢からすれば異常者のように見えていることだろう。

 

「んじゃさ、アレ何なのよ」

 

 人間に敵対行動を取らない。それはプログラムとして組み込まれている以上絶対だ。

 そう、そのはずなのだが。

 

「貴方が分からない。ヴァンガード」

 

 今上詩織に向けられる明確な敵意。ゲニウスはパンドールに杖を向けヴーヴー威嚇している。グラドスは表情が全く変わっていないが、どことなくピリついている、ような気がする。

 

「何故――世界を破壊する!」

 

 パンドールが存在を確立してすぐに行われたシミュレーション。今、己が何をなすべきかの計算の果てに見えた景色。

 それは余りにも信じ難く、非現実的な光景だった。

 

 

 

 巨大な門を開く鍵。

 その内より引き出したパズルのようなカードを手にする人影。

 足元にあるのは敗北したのだろう、倒れ伏す決闘者の山。

 崩壊した世界の中心で吊り上がった笑みを浮かべる、その正体は――。

 

 

 

「世界を崩壊させる元凶、それは今上詩織! 貴方です!」

 

「…………えっ、私?」

 

 右を向いて、左を向いて、後ろも確認して。その指が指し示しているのは他者ではないことが確定的に明らかだと理解した詩織は自分の手で顔を指す。

 

「え、えー、いや……えっ!?」

 

 オウ何勝手に言ってくれとんのじゃワレェ! とパンドールに対してキレそうになっている星の影(ネフシャドール)ゲニウス。黒いモヤモヤがどんどん滲んできて中から何か出てきそう。創星神tierra、力の管理しっかりして役目でしょ。

 そんな姿を遠くから観測してゲニウスお前ー! おまお前ー! と存在しない胃痛に悩むクリフォートの皆さん。

 え、あの子精霊界を助けてくれる立場の人じゃなかったっけ? と困惑する取り巻きの精霊たち。

 今起きていることとはこれっぽっちも関係ないが融合次元に存在した超融合と超越融合についてお話をお聞きしましょうかとE-HERO(イービルヒーロー)の手により覇王城へと連行される天空の魔術師。スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンへと助けを求めたが当のドラゴンは暗黒界一美味しいシャケで買収されていた。南無。

 

「あー、もしかして人間判定されてない? でもそんなわけ」

 

 あのハノイの騎士のリーダーがプログラミングにおいてミスをする、は論外だし個人に向けての嫌がらせにしては妙に言ってることがファンタジー。まあファンタジー部分はここ精霊界だから変な電波拾ったのかも、で諦めておいて。となればセンサー部分が変になってそう、と思考する。

 まず人間をやめている心当たりは無い。人間やめていたらまず入院とかしないはずだし精霊達が絶対に何か言ってる、と何となく目線を動かせばすいっと顔を背けるゲニウス。……これは自分の何を破壊したのか後で詳しくお話を聞かねばならない。

 

「私のオリジンを人間として見られない? 随分とお粗末な作り(プログラム)ですね。ヴァンガードが――今上詩織がそのような行為をするはずがないでしょう! これから共通の危険へと立ち向かおうとする今、下らない虚偽を信じ込ませ仲間割れを誘発する……私からすれば、貴方の方が敵に見える」

 

 沈黙を貫いていたグラドスだが、流石に意味不明な宣言を聞いてふつふつと怒りを滲ませ……いや、これは完全にキレている。Aiは水のイグニスにマジで叱られた時のことを思い出して一人で震えていた。

 

「それは我がお父様への侮辱と見て宜しいですか、グラドス? イグニスは意志を持つ、故に嘘を吐ける存在。口だけの否定は何も意味を持たないと分かってないようですね?」

 

 対するパンドールも視線で火花バッチバチに飛ばし喧嘩腰。不霊夢はこの売り言葉に買い言葉は不良の抗争そのものでは? と関係ないところで感心していた。

 

「うわ本気でやり合うつもりかよあいつ等!」

 

 Aiちゃん昼ドラでたくさん見たから知ってる。女のガチ喧嘩、コワイ。今はこちらに飛び火が来ないことだけが救いである。

 

『……名称不明個体、名称パンドール。登録。グラドス→対パンドール戦闘権利譲渡』

 

 戦闘権利? もしグラドスが喧嘩をふっかけなかったら何をするつもりだったんだ、と突っ込みたくなる気持ちをぐっとこらえて。

 

『グラドス。ナdうe使wヲoんlロlとaイtらoドnはsデiるtエaゅeデfのeコD。……オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン視認。準備、逃走開始』

 

「……あぁ、こんな所で使う予定はないですから大丈夫ですよ」

 

「えっちょちょちょ待って今明らかにクリ――」

 

 ――今上詩織、連行。なんか空飛ぶでっかいドラゴンの手に乗せられお空に強制出航。

 人間をほぼ全員置いてけぼりにして、デュエルが始まった。

 

 

「「デュエル!」」

 

グラドス

LP 4000

 

パンドール

LP 4000

 

 

「私の先攻。永続魔法、トポロジーナ・ハニカム・ビークルを発動! このカードが発動した時、デッキから『トポロジーナ』モンスター1体を手札に加える事ができます。私はトポロジーナ・ベイビーを手札に」

 

 ハニカム――六角形を組み合わせた強靭な構造。蜂の巣のような建造物から、これまた蜂に似たモンスターが現れる。

 

「トポロジーナ、ですか」

 

 それは、リボルバーが操っていたサイバースと名を似せた未知のカテゴリ。偶然、ではないだろう。

 

「お互いのLPが同じの為、手札からトポロジーナ・ベイビーを特殊召喚。さらに特殊召喚された『トポロジーナ』モンスターが自分フィールドに存在することでトポロジーナ・メイビーは手札から特殊召喚できる! この方法でトポロジーナ・メイビーを特殊召喚するターン、私は通常召喚できない」

 

《トポロジーナ・ベイビー》

星1/攻100

 

《トポロジーナ・メイビー》

星2/攻800

 

「やはり――サイバース!」

 

 メインフィールドに特殊召喚されたモンスター達の種族はサイバース。やじ精霊達もまさかここでサイバースが出て来るとは思わなかったのかわあわあ盛り上がる。

 出所は……エクストラデッキを確認して焦っている鴻上了見から推測するに、トポロジックリンクモンスターを構成するデータマテリアルを一部流用して作り上げたのだろう。

 となればトポロジック全てへの対策はせずとも良い。使い勝手、性能を加味すれば主力として残しているのはリンク4のトポロジック・ボマー。同じくリンク4のトポロジック・ガンブラーは効果の癖が強いため出てこないだろう。

 

「現れろ、我らを導く未来回路! トポロジーナ・ベイビーとトポロジーナ・メイビーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、トポロジーナ・サザビー!」

 

《トポロジーナ・サザビー》

Link2/攻1000

【リンクマーカー:上/下】

 

「トポロジーナ・サザビーの効果。リンク召喚に成功した場合、リンク素材としたトポロジーナを全て手札に戻します。私は墓地のトポロジーナ・ベイビーとトポロジーナ・メイビーを手札に」

 

 流れるような手札の回復。特殊召喚にターン1の制限がついている2体の下級トポロジーナを戻したが、もうパンドールはこのターン通常召喚は出来ない。となれば、出てくるのは新たなトポロジーナ。

 

「手札のトポロジーナ・ギャッツビーの効果発動。このカード以外のトポロジーナ――トポロジーナ・ベイビーを墓地に送り、トポロジーナ・ギャッツビーを特殊召喚」

 

《トポロジーナ・ギャッツビー》

星5/攻1500

 

 先程回収したモンスターをコストとして使用して更なる展開へと繋げていく。

 

「再び現れろ、我らを導く未来回路! 召喚条件はトークン以外のモンスター2体以上! リンク2のトポロジーナ・サザビーとトポロジーナ・ギャッツビーをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク3、スリーバーストショット・ドラゴン!」

 

《スリーバーストショット・ドラゴン》

Link3/攻2400

【リンクマーカー:上/左/下】

 

「……ふむ?」

 

 どうやらパンドールのデッキはサイバース族で統一されているわけではないらしい。リボルバーの使用するカードを織り交ぜているのは尊敬か使い勝手か、それとも両方か。

 

「フィールドにドラゴン族・闇属性のモンスターが特殊召喚された事で、手札のノクトビジョン・ドラゴンを特殊召喚」

 

《ノクトビジョン・ドラゴン》

星7/攻0

 

 ドラゴンとサイバースという展開力の高い2種族の混成デッキ。それは構築を一つ間違えれば互いに中途半端になる可能性があるということだ。

 リンク召喚が主軸になる以上、複雑な召喚条件を持つものは採用していない、と言いたいが……オリジンである今上詩織のあのデッキ展開を知っているために予想外のものが出てきてもおかしくないと警戒せざるを得ない。

 

「三度、現れろ! 我らを導く未来回路! アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上! ノクトビジョン・ドラゴンとリンク3のスリーバーストショット・ドラゴンをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク4、トポロジック・ボマー・ドラゴン!」

 

《トポロジック・ボマー・ドラゴン》

Link4/攻3000

【リンクマーカー:上/左下/下/右下】

 

 それはリボルバーがデータストームより引き当てたサイバース。データマテリアルで構築された硬質の身体の奥、緑色のモノアイが無機質に輝く。

 

「リンク素材として墓地に送られたノクトビジョン・ドラゴンの効果でデッキから1枚ドロー。……来ましたか。魔法カード、闇の誘惑を発動。デッキから2枚ドローし、手札のトポロジーナ・メイビーを除外」

 

 これでトポロジーナ・サザビーの効果で回収したトポロジーナ2枚はパンドールの手札から無くなり、残るは未知のカード3枚。

 

「カードを3枚セットしてターンエンド」

 

 回ってきたこちらのターン、相手の手札は0。セットカード3枚の内、トポロジック・ボマー・ドラゴンの効果を起動させるカードはあるはず。対処に手こずれば、次のパンドールのターンでより堅固な盤面を展開されてしまう。

 ならば速攻こそが最善策。トポロジック・ボマー・ドラゴンを突破し、セットカードへのある程度対応が出来る展開は――。

 

「私のターン、ドロー。手札のサイバー・ドラゴンを捨て、サイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動! ネクステアを特殊召喚――そしてネクステア第二の効果! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、攻撃力または守備力が2100の自分の墓地の機械族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する!」

 

《サイバー・ドラゴン・ネクステア》

星1/攻200

 

 グラドスの墓地には先程コストになったモンスターが1体のみ。それはサイバー流の象徴。デュエルが進化し、高速化を続ける中でも変わらずサイバー流を支え続ける上級モンスター。

 

「甦れ、サイバー・ドラゴン!」

 

《サイバー・ドラゴン》

星5/攻2100

 

 次世代型であるネクステアとは違い、幾重にも鋼を重ねた機竜が咆哮する。

 

「サイバー・ドラゴン・コアを通常召喚。効果でデッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名のついた魔法・罠カードを手札に加える。サイバー・レヴシステムを手札に」

 

《サイバー・ドラゴン・コア》

星2/攻400

 

「相手の効果によって相手がドロー以外の方法でデッキからカードを手札に加えたことで罠カード、キャッチ・コピー発動! デッキからカード1枚を選び、お互いに確認して手札に加える。私が手札に加えるのは」

 

 見せつけるように、目に焼き付けさせるかのように。パンドールがデッキから引き抜いた1枚は罠カード。強力であり、リボルバーが愛用していた1枚。

 

「聖なるバリア -ミラーフォース-」

 

 キャッチ・コピーには発動したターン、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの効果の発動ができないというデメリットがあるが……今は相手、グラドスのターンであり、手札に加えたのがセットしなければ発動できない罠カードのため意味はない。

 パンドールのターンになればミラーフォースがセットされると確定した以上、ワンターンキルをしなければ少々厄介になる――グラドスはこのターンで決着をつけるための準備を続ける。

 

「出でよ、明日へと繋がるサーキット! 召喚条件は『サイバー・ドラゴン』を含む機械族モンスター2体! 私はサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴン・ネクステアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! リンク2、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

 

《サイバー・ドラゴン・ズィーガー》

Link2/攻2100

【リンクマーカー:左/下】

 

 フィールド、墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱う効果はサイバー・ドラゴンの名を持つモンスターほぼ全てが有するため、サイバー・ドラゴン・ズィーガーの召喚は容易い。勝利者を意味するそのリンクモンスターは蒼光を纏い、敵を蹴散らすために行動を開始する――筈だった。

 

「ふふっ、掛かった」

 

「っ!?」

 

 それは極寒の風吹き荒ぶ中起きた、天を裂く龍同士の争い。

 

「罠カード、天龍雪獄。相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして自分フィールドに特殊召喚する。その後、自分及び相手フィールドから種族が同じとなるモンスターを1体ずつ選んで除外できる」

 

 フィールドのモンスターが減るこの時を狙って発動されたその罠は、再利用が難しい除外によってモンスターを除去するカード。

 

「この効果で貴方の墓地のサイバー・ドラゴン・コアを私のフィールドへ特殊召喚し、追加の効果でコアとズィーガーを除外」

 

 当然、2体は同じ種族のため追加の効果は発動できる。……だが、それだけでは無い。天龍雪獄によって特殊召喚されたサイバー・ドラゴン・コアはトポロジック・ボマー・ドラゴンのリンク先に特殊召喚されていた。

 

「リンク先にモンスターが特殊召喚されたことにより、トポロジック・ボマー・ドラゴン第一の効果が発動する。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する! さあ――トポロジック・ボマー・ドラゴン、起動しなさい! フルオーバーラップ!」

 

 リンク先に特殊召喚されること、それが効果発動のキー。リンク先にモンスターが残っているかいないかは関係がない。全てを平等に焼き尽くす光の羽がフィールドを包み込み、グラドスのメインモンスターゾーンに残っていたサイバー・ドラゴンが破壊される。

 

「……異次元からの埋葬を発動。除外されているコアとズィーガーを墓地へ戻す」

 

 グラドスが思い描いていたワンターンキルはサイバー・ドラゴンとエクストラモンスターゾーンにいるモンスターを素材とする融合モンスター、キメラテック・メガフリート・ドラゴンによってトポロジックを除去し、ズィーガーとの攻撃によって仕留めるもの。それは天龍雪獄を使われた瞬間に崩壊している。

 もう手札にモンスターは無い。通常召喚も行えない。

 

「魔法カード、サイバー・レヴシステムで墓地のサイバー・ドラゴン・ズィーガーを蘇生。この効果で特殊召喚したモンスターは効果では破壊されない」

 

 サイバー・ドラゴン・コアによってサーチしていたレヴシステムが展開の補助ではなく首の皮一枚を繋ぐための壁の展開に使う羽目になるとは……パンドールの腕を甘く見ていた訳ではないが、ここまで狂わされると笑えてくるものだ。

 

「バトルフェイズに移行! ズィーガーの効果を発動し、ズィーガー自身の攻撃力をターン終了時まで2100アップ! この効果の発動後、ターン終了時までこのカードの戦闘によるお互いの戦闘ダメージは0になる」

 

サイバー・ドラゴン・ズィーガー

攻2100→4200

 

 今ダメージを与えられなくとも、トポロジック・ボマー・ドラゴンを退けることが出来れば万々歳。

 

「バトル! サイバー・ドラゴン・ズィーガーでトポロジック・ボマー・ドラゴンへ攻撃! エヴォリューション・アゲインスト・バースト!」

 

 敵への反抗――勝利を収めるべく、ズィーガーは口腔より力を放つ。

 

「トポロジック・ボマー・ドラゴンを対象にパラレルポート・アーマーを発動! このカードを装備させる!」

 

 届く直前に防壁が起動する。

 

「パラレルポート・アーマーを装備したモンスターは相手の効果の対象にはならず、戦闘では破壊されない……残念でしたね」

 

 ズィーガーの方が攻撃力は上だった。だが、効果のデメリットによりダメージは入らず、両者ともに無傷。装備されたパラレルポート・アーマーにより、これからトポロジック・ボマーがバトルに対して強く出れるようになった。これは非常に不味い。

 残った2枚の手札の内、完全に腐った1枚は悟られないように、さも隠し球であるかのように手に持って。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 自身の効果で4200まで攻撃力を上げられ、レヴシステムによって効果への破壊耐性を持つようになったズィーガーならば場持ちも良い……はずだったが、相手は戦闘破壊に対しての耐性を得てしまった。それも、攻撃すれば元々の攻撃力分のダメージを与えられるモンスターに。

 彼女を罵倒された怒りにより目が眩み、またここまでの苦戦は想定していなかった故にゲニウスの念押しに対して軽く答えてしまった……まあそこは今悔やんでも仕方ない。そういえば、ゲニウスが詩織と共に居なくなったのならばちょっとぐらいはアレを使っても問題ないのでは――そう思考した瞬間に背筋を伝う悪寒。

 其れ等は隠し球なのだから最後まで隠しておけ、約束を違えたらどうなるかは分かっているだろうな……そう耳元で囁かれたような気がして。出るはずがない冷や汗が流れる。

 

 

 ――今上詩織の下にいる精霊たちは、大部分が彼女よりも力が強い。名前呼び、おもしれー女、ご主人、とまあ呼び方は精霊それぞれだが基本的には好ましい人間として認めている。オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンから見ても今上詩織は良い人間だ。……だからこそ、これから会う精霊達のことを考えると憂鬱になる。

 少数派、『利用価値がある』から繋がりを持っておこう、とする精霊達――元は一人だったらしいから達と纏めるのは違う気もする――からの直接のお話。

 天空の魔術師から彼女の力になれと送り出されたのは護衛も兼ねてだろう。かつてやらかした経験のある精霊が一つところに集まるのはよろしくない。性格の相性も悪いし。

 

 難しいことにはならないで欲しいなぁ。あと取り敢えずゲニウスは杖の先っちょで八つ当たり気味にゴリゴリするのもやめて欲しいなあ。オッドアイズの無言の抗議はゲニウスに届いているのかは分からないが、八つ当たりがより強くなった気がした。




好意的ではない精霊……一体何リースなんだ……?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。